第2話
「あの……これからは名前で呼び合いませんか?」
屋上で抱き締めていると、頬を赤くした有栖がこちらを見つめながら言ってきた。
今はセフレに甘んじているだけだろうし、名前で呼び合って仲良くしたいと思うのは普通のことだ。
「いいよ」
「ありがとうございます」
嬉しさのあまりか、他の人には絶対に見せないであろう笑みを有栖は浮かべた。
その笑みに思わずドキっと心臓の高鳴りを感じ、恥ずかしいのを見せないように有栖を自分の胸に埋めさせる。
心臓が激しく動いているから恥ずかしがっているのはバレバレかもしれないが、赤くなっている顔を見られるよりかはマシだろう。
何せ妹以外の異性をこうやって抱き締めるのはほとんどないので、セフレにしても上手く出来るのかも分からないのだから。
きちんと抱き締めることが出来たから大丈夫だと思うが。
「有栖は俺のことをクズだと思うか? 彼女じゃなくてセフレにしたんだぞ」
「思いませんよ。セフレについては私から言いましたし」
彼女じゃなくてセフレにしたことについてはクズだと思っていないらしく、これから積極的に仲良く出来るから問題ないと考えているようだ。
最終的には付き合うのを目標にしているだろうが。
「そうか。じゃあ有栖のことを教えてよ。俺はあまり知らないし」
「はい」
今までほとんど話したことがないので、悠は有栖のことを知らない。
だからエッチなことをする前に色々と知っておきたいと考えたのだ。
ほとんど相手のことを知らないでセフレにしてしまうにはどうかと思うが、中には知り合ったその日にヤってしまう人だっている。
その人たちに比べれば、クラスメイトをセフレにするくらいはマシだろう。
「じゃあどこか座ろうか」
春でポカポカな陽気、他に誰もいない放課後の屋上は二人きりで話すのはもってこいの場所だ。
それにもう部活動をしている生徒以外はほとんど帰っただろうし、屋上に誰か来る心配はないだろう。
ポケットからハンカチを取り出して床に敷いた悠は、有栖に座るように促す。
「悠くんは紳士なのですね」
男子でハンカチを持っているのは珍しいと思ったのかもしれない。
手を洗った後に自然乾燥させるのが嫌だという理由で、二枚のハンカチを持ち歩いているだけだ。
今日までは午前中で学校が終わって使っていないハンカチがあったため、悠はそれを床に敷いたので汚れているわけでもない。
有栖はスカートの裾を手で抑えてハンカチの上に膝を立てて座った。
悠は隣に、簡単に触れ合えるくらいの距離に座ると、有栖が肩に自分の頭を乗せた。
セフレとしてでも側にいさせてほしいと言うくらいだし、どうやら好きな人相手には恥ずかしくても積極的にイチャイチャしようとする性格らしい。
可愛い女の子にくっつかれるのは嫌な気はしないので、好きにさせても問題ないだろう。
「セフレいっても私は他の人に抱かれる気はないので」
「だろうな。他の人としてたらビッチだろうし」
「ビ、ビッチじゃありません。だって……私はまだ経験がないですから」
経験があるかないのか言うのは恥ずかしいようで、再び有栖の頬が赤くなった。
思っていた通り未経験だが、もうすぐ失われることになる。
でも、好きな人に初めてを貰ってほしいと思ったからこそ、有栖は悠にセフレとしてでも側にいたいと考えたのだろう。
そうでなければ告白なんてしない。
初体験は結婚まで取っておく、そういった人もいるかもしれないが、大抵の思春期カップルはエッチをするだろう。
それに悠たちはセフレの関係のため、逆にしない方がどうかしている。
「好きな人と一緒にいるというのは幸せなことなのですね」
瞼を閉じながら有栖は呟く。
その言葉を聞く限り、今までは好きな人がいなかったのかもしれない。
何もしなくても容姿が良いせいで男の方から寄ってきて嫌悪感があったようだし、好きな人がいなくても不思議ではないだろう。
ただ、好きな人が出来て、穢れた関係でもいいから一緒にいたいと思った有栖の覚悟は相当なものだと言える。
気持ち良さを知っている経験済みな人ならともかく、普通は未経験でセフレを欲しいと思う女の子は少ないのだから。
「俺は彼女いないし、いっぱい一緒にいてあげるから」
付き合いたいくらいに好意を抱いているわけではないが、美少女と一緒にいれるのは悪い気がしない。
優しく有栖の腰に手を置き、もっと密着するかのように距離を縮める。
恥ずかしい気持ちはあるが、一度女性特有の甘い匂いと柔らかい感触を体験してしまっては、男の本能が勝手に求めてしまう。
積極的にくっついてくれて嬉しいのか、有栖は嬉しそうに「えへへ」と笑みを浮かべる。
その笑顔はまるで天使のようで、改めてとてつもない美少女だと実感せざるを得ない。
学校一の美少女である有栖をこれから抱くことが出来るのは、男の悠からしたらかなり幸運だろう。
思春期男子だから女の子とエッチなことをしたいと思ったりするし、美少女とくっついたいという衝動が起きるのは普通だ。
「エッチなことはここでしないけど、一つしたいことがあるんだ」
有栖の頬に手を当ててこちらに碧い瞳を向けさせ、悠はゆっくりと彼女の顔に自分の顔を近づけていく。
何をされるのか分かったようで、有栖は「はい」と頷いて瞼を閉じる。
「んん……」
生まれて初めてした唇同士が触れ合うキスはとても熱くて気持ち良く、ずっとしていたいと思うほどだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。