尽くしてくれる学校一の美少女が積極的な件

しゆの

第1話

「私を……一ノ瀬悠いちのせゆうくんのセフレとしてでいいから側に置いてくれませんか?」


 春風が気持ちいい四月、放課後の他に誰もいない校舎の屋上に呼び出された悠は、同じクラスの学校一の美少女と言われる岸田有栖きしだありすに告白をされた。

 好きなので付き合ってくださいと言われるのならまだ分かるが、まさかセフレとして側に置いてくださいと告白されたので驚かずにいられない。


 学校一の美少女……高校に入学するまではラノベやアニメの二次元だけの言葉かと思っていたが、有栖と出会って現実にもいるんだなと思い知らされた。

 きちんと手入れされているであろう綺麗な長い銀髪、一切の汚れを知らなそうな乳白色の肌、長いまつ毛に美しい大きな瞳、制服の短い白を基調にしたチェックのスカートから出ている白くて細長い足、服の上からでも分かるくらいに良いスタイルなど、どこか別の次元から飛び出してきたんじゃないかと思わせるほどだ。


 ただ、有栖は沢山告白されたからか、基本的には男子に近寄ろうとしない。

 話しかけられても何か適当な理由を付けて逃げるし、どんなイケメンでも相手にしないことで有名だ。

 そんな美少女にセフレとしてでいいから側に置いてほしいと言われて、悠は先ほどから空いた口が塞がらない。

 何を思ってセフレになりたいと思ったか不思議でならないからだ。

 ビッチであればセフレが欲しいと思うのは理解出来るが、男子を毛嫌いしている様子の有栖が言うから本気で驚いた。

 もちろん悠もほとんど有栖と話したことはないので、呼び出された時には少し固まってしまったほどだ。


「何でセフレ? 彼氏彼女の関係じゃなくて?」


 悠の質問は最もなことだろう。

 恐らく有栖は未経験なのだし、経験がないのに普通はセフレを欲しいと思わない。


「だって一ノ瀬くんには彼女がいますよね? 二年生になってから毎日可愛い女の子と一緒に登校してるじゃないですか。なら私はセフレとしてでも側に置いてもらうしかないです」

「可愛い……女の子?」

「はい。リボンを見る限りは一年生の女の子でした」


 そう寂しそうな碧い瞳を向けて言われ、その女の子が誰だか分かった。

 今年から同じ高校に通うことになった妹なので、付き合っているわけではない。

 通学路が同じだから一緒に登校するのは普通だ。

 この高校はリボンやネクタイの色によって学年が判別でき、今年は二年が青で、一年が赤なので、有栖は色で判断したのだろう。

 放課後は予定などを考えて一緒に帰ることはないが。


「妹と一緒に登校してるだけだぞ」


 嘘をついても仕方ないため、悠はきちんと妹だと説明をする。


「本当ですか? 年頃の兄妹にしてはやけに仲良さそうでしたよ」


 どうやら妹だと信じてくれないようで、有栖は疑いの目をこちらに向けた。

 確かに一緒に遊びに行くほど仲がいいかもしれないが、本当に兄妹なので妹と説明するしかない。


「そもそも岸田は俺のことが好きなのか?」


 好意を抱いているのであれば、セフレでも側にいたいという気持ちは理解出来る。

 妹じゃなくて彼女と勘違いしてしまったのだし、仲良くなるためにはセフレのような深い関係になるしかない、と思ったのだろう。


「……はい」


 これ以上ないくらいに頬を赤くした有栖は、消え入りそうな声で頷く。


 何で好意を持たれているのか一瞬だけ不思議に思ったが、一つだけ思い当たる節がある。

 今から二週間ほど前の春休みに、悠は有栖をしつこいナンパから助けたことがあった。

 いつもだったらナンパされている女の子を無視するが、何故かあの時は有栖の肩を抱いて「俺の女に何か用?」と言って助けたのだ。

 好きな漫画を本屋に買いに行って読むのが楽しみでテンションが上がっていたのに、しつこいナンパを見てイラついたから助けたのかもしれない。

 助けた時に肩を抱いたので、その時にキュンキュンしてしまったのだろう。

 こういった場合は男慣れしている人より、慣れていない人の方が胸が高なってしまうのだろう。


「それで……一緒に登校してい女の子は、彼女じゃないんですか?」

「本当に違うよ。ただの妹」


 血の繋がりがないからただの、と言うのは若干違うかもしれないが、妹ということには変わりない。

 だけど、寂しそうだった碧い瞳の色は、若干の喜びが混じったような色に変わった。

 彼女じゃなくて妹だと分かれば、セフレに拘る必要はないだろう。

 これから本気の告白をされるんじゃないかと思い、悠は息を飲んだ。


「それでその……私を一ノ瀬くんの側に置いてくれますか?」

「セフレとしてか?」


 とてつもなく美少女だと思っていても、特に好意があるわけではない。

 だから彼女として側に置いてほしいのであれば、断るつもりでいる。


「一ノ瀬くんの好きなようにしていいです。でも、断られたとしても、私は諦めることが出来ないかもしれません」


 ──だってこんなにも好きになってしまったのですから……。


 そんなことを思っていそうなくらいに真剣な表情だった。

 セフレでもいいから側にいたい……恐らく有栖は一緒にいるためなら何でもしてくれるだろう。


「分かった。セフレならなる」


 流石に好意がないのに付き合うわけにはいかないが、セフレとしてならいいかもしれない。

 好きな時にエッチなことが出来るし、何より有栖の初めてを貰うことが出来るので、セフレなら断る必要はない。

 そもそも断っても本人が諦める気がないと言っていたので、セフレとして一緒にいてあげるのがいいだろう。

 それに彼女の性格上、美人局などはありえないため、本気で惚れられていると実感するしかない。


「本当ですか?」

「ああ」


 喜びの表情をしている有栖を引き寄せて頷いた。

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