第4話 「冒険は始まる 〜神々の謎を添えて〜」

 「クエル。連れて行くなら、アイツがいい。神官服を着たやつだ。」



 「えーっと、神官服を着ているのは……げっ。やめましょうハザクさん。ルーナはやめときましょう。後悔します。」



 「何が後悔するですか!聞こえてます!!」



 ルーナは大声をあげる。



 「ほら、見た通りなんですよ。ルーナは酒癖が悪い。何かとうるさいんです。というかですよ、ルーナ。この前、神父さんに怒られて、飲酒はやめたんじゃなかったんですか?」



 「うるさい!クエル。アンタは人のことに首を突っ込み過ぎなんですよ……ん?そこの黒い人は?パーティでも組んだの?」



 「黒い人?あぁハザクさんですね。パーティを組むことになりました。【マジュロ】までの道のりまでですが。」



 「【マジュロ】⁈バカですか?あんなところに行きたいのは死にたがりだけです!田舎だし、知らないのは無理ないけど……あの町は……」



 少しためたあと、ルーナは言った。



 「魔物の巣窟になってます。」」



 クエルは驚愕した。魔物は邪悪な生き物。神の国とも言われる【マジュロ】には、近づくことさえできないと聞く。



 「別に問題ねーだろ。魔物がいるからって、殺されるわけじゃあるまいし。」



 「殺されますよ!魔物を見たことないんですか?頭おかしですよ!アイツらは、魔族以外の全てを殺す、『魔王』の手先なんですから。」



 ルーナの言っていることはおかしい。なぜなら、



 「魔物は、《世界創造》の日からいる。『創造神』様が創られたからな。奴らの奥底にあるのは、神への畏怖だ。たかが2000年の間に生まれたような【魔王】なんかに服従するわけがねぇ。」



 そう。魔物も神を崇める。【マジュロ】に集まっているところで、問題はないと思う。



 「見かけによらず、熱心な信者なんですね。けど間違ってます。」



 そう言うと、



 「『創造神』なんていません。《世界創造》を行ったのは、『生誕神』、『時空神』、『空間神』の三大神。ほかに神様は存在しませんし。これは一般常識ですよ。」



 は?



 おかしい。俺の存在を消すのと、『創造神』様を消すとでは、わけが違う。『死神』が消えたところで、微弱ながらも[死]の[秩序]は廻る。しかし、『創造神』様を消すと、『創造神』様によって生み出された、俺だけでない、全てが消える。大地、大海、生物。それに神も例外ではない。消える。生み出されなかったことになるからだ。



 俺と言う存在が、『創造神』様の存在を示す、確固たる証拠に他ならない。が、



 「イレギュラーってわけか。』



 存在しないものの記憶を改竄することは、神にもできない。存在が消されたことで、俺は、『創造神』様の記憶を保持できたのかもしれない。



 「確かめてみるか。」



 ハザクはそう呟くと、ギルドを飛び出し外へ。そして、夜空に向かい、飛ぶ。



 「[死]を体現する鎌よ。その姿を表せ。」



 月の光によって伸ばされた、ハザクの影から、一本の大鎌が現れる。



 ハザクは、大鎌の柄を掴むと、夜空を切り裂いた。



 生じた切り込みの中に、身を押し込む。



 中にあるのは、金色に輝く球体。球体に触れると、この町の昔の姿、それだけではない、この地が生まれる以前の姿が見える。

















 神がいる。見知った顔だ。『生誕神』レピド、『時空神』ビッフェ、『空間神』エアルだ。エアルが、この世界の枠組みを創った後のようだ。レピドが手を伸ばすと、大地が生まれた。ビッフェが手を伸ばせば、時間が動き出す。



 世界が出来上がった。出来上がった世界には、多くの生き物がいる。



 今俺が触れている球体は、この世界の魂。魂に干渉できる『神器』を使い、魂を露出させ、記憶を探る。この世界の創造が、本当に三大神と呼ばれる神が創ったのか、確認するためだ。



 今の光景を見たところ、世界を創ったのは三大神という話は間違いないようだ。が、



 「それだと[秩序]が足りない。明らかにおかしい。」



 この光景が事実の場合、全ての生物は死なないことになる。[死]の[秩序]が存在していないため、[不死]となるのだ。そうなれば、世界は崩壊する。生き物を食べる、服を着ると言った行為には、[死]が必ずつきまとう。生き物を殺して、食べるのだ。殺し、剥いだものを着るのだ。ほかにも、建物を造る行為も、元ある木と言う生き物を[死]により、別のものへと変化させることで、可能としている。



 [死]の[秩序]がない、又は、最低限しかないと、種族の違いなどない、全ての生き物がジェル状になり、木はどこまでも伸び続けるという、今いる世界とは、全く異なる世界になるはずなのだ。



 今思えば、俺がいなくなると、これに近い状態になってしまうことを、レピドはわかっていたのだろうか?



 そんなことはどうでもいいと、頭から消し去る。



 この地の記憶、そして俺の仮説により、黒幕が見えて来た。



 「『記録神』と『乱雑神』の仕業だな。」



 生物、世界の記憶、神。これらを欺く、特に世界の記憶を改竄するには、並大抵の力では無理だ。それこそ神の力を使わないと。



 『記録神』サベ



 《世界創造》からの、あらゆる記録を管理する神。[記録]の[秩序]を持つサベなら、過去の記憶を改竄することもできるはずだ。ただし、神を欺くには、[秩序]としての力が足りていない。あくまで[記録]であって、[改竄]ではないからだ。



ならば、協力者がいると考えるのが自然。



 『乱雑神』ステイン



 別名『改竄神』。あらゆる事象を捻じ曲げることができる神。【下界】や【天上庭園】で問題が起こった時、事実を捻じ曲げることで、事態の収拾にあたる。「乱雑」の秩序は強力だ。矛盾に気づかせず、神すらも欺ける。



 この二柱の神が関与しているのは間違いないだろう。


 どんな目的で、『創造神』様の存在を隠したのかはわからないが、やることがまた増えたと頭が痛い。



 切り口から出ると、すでに日は上がっていた。かなりの時間を過ごしてしまったようだ。



 ーだいじょうぶですか〜



 そんな声が下から聞こえる。地面に降りると、クエルとルーナがいた。二人とも皮袋を背負っている。



 「ハザクさん。突然どうしたんですか?いきなり飛び出したと思ったら、変な空間に入っていったし。」



 「仕方ないから、私とクエルで交代で待ってたんですよ。クエルと話して決めました。私も行きます!腐っても私は神官です。神かもしれない人についていけるなら、死地でも本望です!」



 「腐ってもって自分から言っちゃうんだ……。たしかに理由は不浄だけど、乙女チックでいいと思うよ。物語のヒロインみたいになr



 「わーーーーー!黙ってよクエル!私は!神官として!行くの!」



 「うるさいなぁ。叫ばないでよ。」



 二人がそんなふうにワイワイと話しているのを見て、ハザクは少し懐かしかった。



 ーあの時もこんな風にガヤガヤしてたっけな



 ボスッ



 肩に重みがかかる。見ると、皮袋が肩にかかっていた。



 「出発しますよ。急いで向かわないといけないなら早い方がいいですし。道具は揃えておきました。ルーナがいるならほかに仲間もいりません。神官としての腕は一流です。」



 俺は、二人に声をかける。



 「ありがとな、色々。じゃあ行くか!」








  物語は始まる。これは、人族〔クエル〕〔ルーナ〕と、『死神』〔ハザク〕の、世界の均衡を戻すための冒険記である。

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