第2話 「道案内ゲット」

  「『死神』が知られていない?そんなわけが……」



 昔、【下界】の物語や英雄伝などに興味を持ち、読み漁ったことがあった。



 どの物語にも『死神』は、[死]の[象徴]として登場していた。



 [死]をもたらす『邪神』という感じではあったが。



 登場するということは、存在が認知されているということ。知られていないはずがない。



 この人族が『死神』を知らなかっただけ?



 そんな考えは、一瞬で消える。



 ーコイツは【全能教会】を知っている。神を騙るのは大罪というルールを口にした。コイツが勉強不足って訳じゃなさそうだ。なら何で?



 新たに疑問が浮ぶ。



 レピドは、平原に俺を堕とした。なぜ平原だった?【全能教会】は、【天上庭園】でも有名だ。俺がそこから帰還を考えつくことも、アイツなら予想出来たんじゃないのか?俺がレピドなら、【世界の端】にでも堕とす。



 【世界の端】



 文字通りの場所。平たい世界においての、地がない場所であり、底が存在するのかも分からない、永遠の奈落。



 ふと、一つの考えが、頭に浮かぶ。



 まさか!と思うが、その考えを否定できない。考えすぎであることを信じて、問う。



 「人族!今は何年だ?《世界創造》238年で合ってるよな?」



 「何言ってるんですか?今は《世界創造》2238年です。一桁抜けてます。それよりも、お礼を言っていませんでした。ありg



 人族の言葉は、もう、俺には入ってこない。



 2000年。なぜだ、なぜそんなに時間が立っている?



 ーアイツか!



 あの時、追放されそうになった時、『時空神』がいた。やつも、俺を目障りに思っているとレピドが言っていた。つまり、



 ー時間操作を私的に利用しやがったな。



 【天上庭園】から【下界】までの転移時間を伸ばしたのだろう。時間停止に対抗するために、[死]の力を全力で発生させていなければ、2000年で済まなかった可能性まであった。



 転移までの長い時間に、【世界の端】は大地で覆われたのだろう。運が良いのか悪いのか。



 考えが正しければ、レピドは【下界】にすら、俺を堕としたくなかったようだ。俺の存在を消したのは、他の[秩序]の神だろう。



 世界はすでに手遅れなのか?



 2000年も経てば、[秩序]が崩れている可能性が高い。さっきの魔物の蘇りは、[死]が弱まったことが原因だろう。



 が、



 「生き返りなんてできない」



 人族の言葉を思い返す。



 ーまだ[秩序]は崩れきっていない?まだ蘇りが認知されていないということは、[蘇生]が新たな[秩序]として定着していないってことだ!まだ間に合う!



 一筋の希望が見えた。



 「礼はいい。しつこいようで悪いんだが、【全能教会】まで案内してほしい。世界の存続に関わることだ。なるべく早い方がいい。お前は俺の力の一端を見た。俺が神ってことを信じるに値するんじゃないか?」



 「たしかに……貴方が得体の知れない力を持っていることは分かりましたが、神というのはまだ信じられません。ですが、命の恩人の願いです。【全能教会】まで案内します。ただ、かなり遠いですし、着いたところで入れないかと。」



 「頼むのは案内だけだ。着いたら自分でなんとかする。」



 「入れないからって暴れたりしないでくださいよ……。【全能教会】は【聖地】なんですから。あと、人族って呼ばないでください。呼び方が独特すぎます。僕の名前はクエルって言います。長旅になるのでクエルと呼んでください。」



 「クエルか。わかった。じゃあ俺はハザクと呼んでくれ。様付けでもいいぞ。」



 「様付けなんてしませんよ。」





 冒険は始まろうとしていた。






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 時は遡る。



 2000年前の【天上庭園】



 ハザクが先ほどまでいた場所には、すでに何もない。魔法陣も消えている。



 「ようやくです。どれほどこの時を待ったことか。『死神』が消えたことにより、【下界】の子たちの世界は、より平和になるでしょう。」



 レピドはそう言う。彼女には珍しく、硬い表情を崩し、微笑んでいた。



 「でもいいのかい?その、子たちのいる【下界】に堕としても。ハザクって怒りっぽいし、【下界】滅びちゃうかもよ。」



 そう答えるのは、『時空神』ビッフェ。彼は、クスクスと笑いながら、レピドに聞く。



 「まさか。本当に【下界】に堕とすとお思いですか?[死]の力はあまりにも危険です。【世界の端】に転移させました。今頃は、無限に続く闇の中でしょう。」



 そう答えると、ビッフェの方を向き、



 「用は済みました。では、さようなら。」



 そう言うと、彼女は、〈小世界〉からビッフェを追い出した。



 「全く、もっと愛想良くしてくれたっていいじゃん。」



 しかし、そう言うビッフェは、高揚感から顔をニヤつかせる。



 「『死神』はもういないんだ。最後の嫌がらせだよ。ハザク。転移にかかる時間を7000年くらい伸ばしておいた。それだけ伸ばせば、あとは簡単。『死神』の存在は、しっかり消しておいてあげるね。『記録神』に頼めば簡単だし。僕の積み上げた歴史を[死]によって崩した罰さ。永劫の闇の中で、全てから忘れられ、苦しむといいよ。」



 そう言うと、ビッフェは姿を消した。


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 ビッフェは大きな過ちを犯したことに気づいていない。



 なぜ【世界の端】に送られたはずのハザクは、平原に転移したのか。



 答えは簡単。ハザクの予想通り、転移までの2000年の間に、強まった[生誕]の力により、【世界の端】の多くは、生まれた大地により覆われていた。



 これは、[死]の力が弱まったことが原因である。



 結果、ビッフェとレピドは、惜しくも、自らの行いによって、ハザクを消し去ることが出来なかったのであった。





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