第1話 「道案内を探そう〜」

 「はぁ、レピドの野郎、絶対後悔するぞ。」



 【下界】に堕とされてから、しばらくは怒り狂っていたのだが、少し落ち着いた。



 「たしかあいつ、150年?くらい前も同じこと言ってたな。その時は『創造神』様がいた手前、追放なんてことは言ってなかったが、『死神』はいらないとは言ってた。」



 そのあと『創造神』様に怒られたらしいが。それが余計に火をつけたのかもしれない。



 「とりあえずはどうやって【天上庭園】に戻るかだ。戻りたくはないが……、戻らないと[秩序]が崩れる。『創造神』様にもこのことを伝えたいし。」



 周囲を見渡して見るが、平原。草と、まばらな木しかない。



 ー堕とすんなら、もう少しましな場所に堕として欲しかったわ。帰るのが面倒じゃねーか!



 とりあえず持ち物確認。死神セットは普段から持ち歩いていたので、揃っている。



 「目指すなら【全能教会】だな。たしかあそこは、【下界】で最も【天上庭園】に近い場所なはず。」



 【全能教会】



 全ての神々が祀られている場所。



 「違う[秩序]の奴らにに散々、自分は民に祈られているって自慢されたからな。あそこのことは覚えてる。ただ場所が分からん。道案内が欲しいんだが……。おっ!」



 少し遠くで、人族らしい青年と、魔物が戦っている。



 「ちょうどいい!どっちかに道案内を頼むか!」



 ハザクは意気揚々と、戦いの場に走っていくのだった。





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 「はぁ、はぁ……なんなんだコイツ!強すぎるだろ!なんで死なないんだよ……。」



 青年の名はクエル。全長3メートルを超えるであろう大蛇〔ムスルル〕と現在戦闘中である。



 ムスルルの頭部に剣を刺し、勝ちを確信したものの、高い生命力からか、倒れることなく、接近され、尾による一撃を食らってしまった。



 「ギャャャャャャャャャャャャャャャャ」



 人の叫び声に似た鳴き声をムスルルはあげる。勝ちを確信したのだろう。



 クエルの唯一の武器は、ムスルルの頭部に刺さっている為、丸腰の状態。



 ー死ぬのか?



 死を悟る。せめて一撃で終わらせて欲しいと願う。



 目を瞑ろうとした時、声が聞こえた。



 「なぁ、忙しそうだから、手短に済ませる。【全能教会】の場所まで、どっちか案内してくれない?」



 その言葉は、戦いの中で、あまりにも空気が読めていなかった。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 「どっちかでいいんだ。【全能教会】まで案内して欲しい。もちろん礼はするぞ!」



 「ギャャャャャャャャャャャャャャャャ」



 「ん?」



 魔物の方が、いきなり俺に飛びかかってくる。



 「逃げて!」



 後ろからそんな声が聞こえる。たしかにそうだ。



 向かってきた魔物を蹴り飛ばす。



 「逃げて、って警告もらっただろ。神に敵うわけないんだから。お前ら殺し合いしてるように見えたのに、案外仲良いの?友人関係?」



 ふと見ると、魔物は、体半分が消し飛んでいた。後ろの人族は、顔が真っ青だ。



 自分が何をしたか、殺してから気づく。



 「ごめん。お前の友人殺しちゃった。この償いはする。必ず生き返らせるから!」



 うっかりしていた。殺意を向けられ、思わず蹴り飛ばしていた。



 「い……いえ……いき……かえらせないで……大丈夫で……す。」



 人族がそんなことを言う。



 「大丈夫だって。絶対なんとかするから!」



 「生き返らせないでください!何見てたんですか!殺し合ってたんですよ!ていうか、死んだものは生き返りません。貴方が神じゃあるまいし。」



 「神だよ。生き返らせなくていいんだな。『創造神』様に頼まなくていいのは助かるけど……。友人は大事にしろよ。」



 「友人じゃありません!魔物が友人ってなんですか?おかしいですよ!」



 意外だった。レピドは、俺のせいで世界が荒れていると言っていた。弱肉強食はあると思っていたが、種族間での争いは予想外だった。



 ー元々世界荒れてるじゃねーか



 そんなことを思いつつ、自分の目的を思い出す。



 「忘れてた。【全能教会】まで案内してくれ。急いでるんだ。無理なら他を当たる。」



 そういうと、人族は、



 「神を名乗ることは大罪ですよ!それに、【全能教会】は王族や、教皇方などしか入れない神聖な場所です。貴方のような方では入れません。」



 「入れるって。神だし。」



 「だから!神を名乗るのは大罪d………



 ドーン



 突如地面が揺れる。



 振り向くと、そこには、さっき殺してしまった魔物がいた。



 殺したにもかかわらず、消し飛んだはずの頭部などは再生している。感じる圧は、先ほどとはまるで違う。



 「なんだ?コイツ?完全に死んでたはずだが?」



 生き返ることは[秩序]に反する為、許されていない。[死]に争うことは、許されてはならない。神の意により生き返りが許されることもあるが、それは例外だ。



 「ひっ、なんだよ。なんなんだよ!」



 人族が、引き攣った顔で声を上げる。が、魔物の興味は、そちらには向かなかった。



 殺意を帯びた眼光は、俺に向いていた。



 「さっき殺したのは悪いとは思っている。が、勝手に生き返ることはルール違反だ。神の気配も感じないしな。どうやったかは知らねーが……」



 俺は、自らの影に手を伸ばす。伸ばした腕は、地面を無視するかのように、沈んでいく。影から抜いた手は、一本の大鎌サイズを掴んでいた。



 「もう一度、死んでもらうぞ。」



 鎌を、『神器』を振るう。



 スパッ



 横に凪いだ大鎌サイズは、何かを切り離したかのような音を立て、消える。



 鎌は、魔物に傷一つつけていない。しかし、魔物は倒れる。



 「えっ……一体何を……」



 「魂を切り離した。今頃、やつの魂は【ブルデラ】に送り返されている筈だ。」



 人族の方を向き、答える。



 【ブルデラ】



 全ての魂がたどり着く終着駅



 「あ………貴方は、一体?」



 「神だよ。何回も言ってるだろ。[死]を司る神。数多の神の1柱、『死神』ハザクだ。【下界】では、バザークの名で知られているはずだ。」



 人族は、少しして、口を開いた。















 「『死神』とは……一体何ですか?[死]を司る神は存在していません。それに、邪悪な[秩序]である[死]を司るのは『魔王』のはずですし……」






 その言葉には、嘘は感じられなかった。





 


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