第3話 共闘

「何もなかった」


 肩を落として落ち込むセシリア。施設から出るとバレットは当たり前だと言わんばかりに満足気な表情を浮かべている。


 既に陽は沈みかけ、あれほど暑かった昼間も、今となっては寒いと感じるほど気温は低下。セシリアとバレットは外套がいとうで体を覆う。


 馬にまたがり、いざ町に向って出発と思った瞬間だった。数メートル先の砂漠の中から、砂塵を巻き上げて現れ出たのは鋼鉄のサソリ。しかも――。


「えっと――ひい、ふう、みい」


「呑気に数えている場合じゃないわ!」


「五頭か。まあ大丈夫だろう」


「これは楽しめそうだ」


 セシリア以外は至って通常通り。むしろワクワクしているようにも見える。


「調子狂うわね。さっさと片付けましょ」


 セシリアはバッグから赤色の弾を取り出し、レミントンにそれを六発込める。そして、馬を発進させて鋼鉄サソリの群れに近付く。


 バレットはブレードがギザギザになっている少し変わったナイフを取り出し、グリップ部分にある赤色のボタンを押し続けると、ブレードが高速で振動する。虫が飛んでいるような音に少し似ているかもしれない。


「この音はいつ聞いても不快だ。極力使いたくないが仕方ない」


 サソリを相手に近距離戦闘は少し無謀な気もするが、これが彼の戦闘方法。一方ウォーカーは相変わらず使う武器は同じだ。


「オメメをぶち抜いてあげるよサソリちゃん」


 躊躇ない早撃ち。構えたときには、すでに一発放っていた。他の鋼鉄のサソリも同じ要領で放ち、一頭に二発、計六発が全て目に直撃。


「やるな」


 目に直撃した一頭の鋼鉄サソリを横切るバレットは、鋼鉄サソリの脚にナイフを刺して馬を走らせる。一本ずつ脚を切断して自由を奪う。胴だけになったところを、下に潜り込んで、下腹部にナイフを刺し、馬を走らせて火花を散らしながら体を裂く。


「温すぎる」


 バレットはそう吐き捨てたとき、他の鋼鉄のサソリが、高く上げた鋏を振りかざそうとしていた。振り向いて、開いている口を狙って発砲。四発を二度の音だけで済ます神業は流石だが、ウォーカーほどの命中率では無い。口の中に入っていたのは一発だけ。他は付近に直撃している。だが、それだけでも十分効果的だ。


 鋼鉄のサソリは甲高い声を上げて叫ぶ。バレットに尾の先端が向いていたが、数秒経つとゆっくり閉じてしまった。その隙に下腹部を切り裂く。残り三頭。


 セシリアは赤色の弾丸で鋼鉄サソリの胴体に鉛玉をぶち込む。それを合計五発。残り一発を撃てばいいのだが。


 サソリの尾が開き、セシリアをロックオンしていた。


「なっ――」


「仕方ないね」


 得意気な笑みを見せて、開いている尾の部分に見える赤いコアを破壊するウォーカー。同時に、サソリは全身に青い電気を帯びて痺れている。


 唖然としていたセシリアだったが、直ぐに切り替えてサソリの胴体に残りの一発を撃つ。


 すると、鋼鉄サソリの胴体がみるみる膨らんで光が差し込む。


「5、4、3、2、1、0」


 三人とも地面から少しの震動が体に伝わる。鋼鉄のサソリの体はレンガのように崩れていく。


「政府はおっかない武器を持っているね。あとは僕に任せなよ」


 ウォーカーは二頭の攻撃を、華麗な馬術を披露しながら避けていた。その上にセシリアの援護もこなしていたのだ。


 このサソリの破壊できる部分は口、目、脚の爪の数ミリ、尾にあるコア。これらが、普通の銃でも破壊できる部分になっている。

 

 一頭は目とコア、もう一頭は、目とコアと爪の数ミリの部分を合計六カ所破壊。通常なら目を破壊すれば、もがいて口を開くのだが――。


「なかなか我慢強いね」


 仕方なく、ウォーカーは他の爪を狙い、サソリにダメージを与えて歩く自由を奪う。一頭は動くことはできるが遅い。そしてレーザーの恐れもない。弾を撃ち終え、余裕を持ってリロード。コレを繰り返し、二十二発を使って口以外の部位破壊は完了した。


「さて、このまま放っておくのもアリだけど施設が心配だね」


「任せろ」


 そう言って横切ったバレットは先程のナイフで、残っている鋼鉄サソリを、一頭ずつ胴体を裂いた。


「全部持っていかれた」


「モタモタしているからだ。いつも殺していないのか?」


「全部部位破壊して動きを封じる。あとは動くことができない上に口を潰しているから、完全な餓死だよね」


 と言って笑うウォーカー。ある意味一番残酷な殺し方で、思わず顔を引きつってしまうバレット。


「そうか」


 そこにセシリアも戻ってきて、三人とも無傷で戦闘を終える形となった。そのまま馬で街に帰還。

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