第4話 違和感
陽は沈み辺りは暗くなっていた。砂漠ほどではないが町も昼間とは違い冷えている。
セシリアは町で情報収集を、バレットは町の巡回に回っていて、三人共別行動をしているのだった。
足の状態が大分よくなったウォーカーは、バレットに教えてもらった地図を頼りに、メタリックハートを持って鍛冶屋に足を運んだ。
「ここか」
木の看板に『ガウス屋』と彫られていて、その文字を黒塗りしている。中の蛍光灯のオレンジ色の光が道を照らす。
「ガウス屋か。確かに名前だけじゃ判断できないね」
中に入ると、左右の壁に、拳銃や、ライフルや機関銃などの銃が吊るされていた。その銃の下に、木で作られたプレートに値段が彫られている。入口の看板同様にその文字を黒塗りに。その下に設置されている物置には、ケースに入れられた様々なナイフがあり、こちらも商品となっている。
そして奥には、スキンヘッドに黒髭を生やしている男性が座っている。
「いらっしゃい」
「確か、素材があれば何でも造ってくれるんだよね?」
「おうとも。この店はワシが建てたからの」
店主のガウスはガハハハハと豪快に笑っているが、ウォーカーは意外な返答に驚くばかり。
「という事じゃ、何を造ってほしいんじゃ?」
「い、イメージは出来ているんだ。コレを造ってほしい」
ウォーカーはズボンのポケットから、棒の先端に、黒い線が二本。そんなイラスト付きの紙を、ガウスの座っているデスクに置く。勿論、その棒の長さや、どういったものにしてほしいかなどの詳細も書かれているのだが。
「絵下手じゃの。棒の先端は何じゃ。
ウォーカーはハットを押さえながら照れているが、ガウスは紙を近付けたり、遠ざけたりしている。
「とりあえず、一日もらえんかの? それでいいのなら造ろう」
「これで耐久力に優れたものをさ。あとの材料はそちらに任せるよ。お金はいくらでもあるから」
巾着の中いっぱいに詰められているドルの札束。それを見たガウスは成る程と頷く。
「任せとけ、明日の昼くらいにまた来てくれ。代金はその時でいい」
「ありがとう。楽しみにしておくよ」
ガウス屋を後にして酒場に向うウォーカー。町の中心部の処刑台がある砂地の広場を通らなければならない。縄の付いている処刑台を何気なく通ろうとしたとき、足場に違和感が。
「んっ?」
他の足場より砂が少し浅いせいか固い。しかしコンクリートとは少し違った感触。ウォーカーは屈んで砂を手で払う。
「成る程、まあボクには関係ないことだね」
そう言い残すと、この場を後にして真っ直ぐ酒場に向う。街灯は無いので灯りと言えば店の灯りか、空に浮かぶ星の輝き。暗闇の中を、鼻歌を歌いながらゆっくりとした足取りで進む。
民家の密集地帯に一軒、ドアが閉まっているにも関わらず、男たちの声が聞こえる場所があった。そこがウォーカーの目的地である酒場。
ドアノブを捻り、中に入ると客数は当然の如くほぼ満員の状態。五人前後の一つの組で男が樽椅子に座っている。バーボンやビールなどの酒類の他、豚肉の塩漬けやマッシュポテト、オートミール、ベーコン、干しリンゴのシチューなどが並んでいる円卓を囲む。
それが十ほどあり、残るは左にあるカウンター席のみ。三人ほどいるウエイトレスや、同じ数ほどのバーテンダーも忙しそうなのは他の町と同じだ。
そしてカウンター席のどの席に座ろうかと迷っているところ、セシリアに手招きされたので、その隣に座るウォーカー。水、豚肉の塩漬け、マッシュポテトを注文。
「やあセシリア。調子はどうだい?」
「全然駄目」
バーボンを飲んで肩をガクリと落すセシリア。これを見るのは本日二度目だ。
「凄い落ち込みようだね。まあ鋼鉄生物を開発しているのは彼じゃないってことだ」
「一日で諦める気はないわ」
「そうだ諦めろ」
ウォーカーとセシリアは肩に置かれた手に、心臓が跳ねるほど驚く。だが、そこにいたのは今日一日案内してくれたバレットだった。
「不意すぎて吃驚したよ少年」
「小さいからって少年と言うな、殺すぞ」
バレットはそう言ってウォーカーのこめかみにコルトライトニングを当てる。思わず両手を上げるウォーカー。
「冗談冗談」
コルトライトニングを下ろし、ウォーカーの隣の席につくバレット。すると、二人は後ろから突き刺さる客の視線が気になる。
「
「何かものすごく見られているんだけど」
そう言いつつゆっくり振り向くウォーカー。客と目が合うと元のバレットの方に視線を移す。
「気にすることはない。奴等は俺とお前たちの関係が気になっているだけだ」
「ボク達よそ者だもんね」
「そういうことだ――て、なんだ」
バレットを先程からずっと見ていたセシリアが気になったらしい。
「保安官補佐って暇なんだと思って」
「今日がたまたま大した仕事がなかっただけだ。それに今日の来客が、無害な二人だったからだ」
「へえ、そんなものなのね」
そう言ってバーボンを飲むセシリア。ペースが遅く、顔が赤いので酔っているのがまる分かり。
「飲み過ぎたんじゃないの?」
「そんなことな、い――」
ガンと頭を勢いよくカウンターに叩きつたセシリア。ウォーカーは、これは駄目だと首を少し傾けながら両手を上げて笑みを浮かべる。バレットは溜め息をついて呆れている様子だ。
「お待ちどうさまです。豚肉の塩漬けとマッシュポテトでございます」
ウォーカーの目の前に、豚肉の塩漬けとマッシュポテトが置かれた。それを手に取りフォークで肉を突き刺して、一口サイズにして口の中に運ぶ。頬張りながら笑みを零す。
「最高だね、バレットくんも何か注文したらどうだい?」
「俺は酒だけでいい」
彼はいつの間にか注文していたテキーラを一気に流し込む。そしてまたもう一本。すると、次第に彼の周りに人が集まる。客兼町民である彼等は、カーリーが徴収する多額の税についての問題や、個人の悩みの相談などを持ちかけられている。
「カーリーと違って人気者なんだね」
それを見ているウォーカーは、微笑ましい表情を見せながら、食べ物を口にして堪能していると、一人の男が店から飛び出して無銭飲食を行った。ウォーカーとバレットがすぐに飛び出し、それに気付いたセシリアも思わず追いかけるも、銃声がこの民家の密集地帯に響き、頭が吹き飛んで崩れゆく。
そこにいたのは、発砲したカーリーと、その部下三人だった。
「残念だったなクズ」
前に倒れる無銭飲食をした男に吐き捨てる。セシリアはあまりにもショッキングな光景に、酔いが完全に抜けていた。残っているのは、カーリーの非情さに対する怒り。ウォーカーは手でハット押さえて深く被る。そして、あ~あと一言。
「何で撃ったの!?」
そう言ってセシリアは涙を浮かべながらカーリーに迫る。彼女の肩を掴んで、首を左右に振りながら止めるウォーカー。
「恐らく先程の男は銃を向けたんだろう。無銭飲食で逃げていたのはカーリーも知らないと思うしね。仕方のない事だよ」
「保安官だからって何でもやってもいいの!?」
「いいんだよ。ボク達はそういう世界で生きているんだ。仕方のないことさ」
「もういいわ!」
セシリアは眉間に皺を寄せたまま、店の中へと入っていく。
拍手をしながら笑うカーリーは、ウォーカーの理論に満足しているようだ。会ったときの固い表情とは違う。
「旅人さんはよく分かっているみたいで」
「あくまで当たり前の話したまでだよ。だけど、ボクもできるだけ彼女のようなぬるさの方が好きな
そう言い放った後、カーリーに背中を向けて店の中に入っていくウォーカーだった。
店に戻るとセシリアがちょうど席を離れるところだった。二人は何も言葉を交わすこともなく黙ったまますれ違う。
席につき、再び夕食にとりかかる。バーボンを頼んで飲むも、あまりいい気分にはなれず、美味しい酒を堪能することができない。ヤケになったのか、ウォーカーはバーボンを片手に席を立つ。
「ボクと飲み比べする奴はいないか? この中で一番強い奴かかってこい!」
いつになく挑発的なウォーカー。その言葉に店は盛り上がり、手を挙げる輩がわんさかいる。だが、ワンテンポ遅れてある男が手を挙げると、乗り気になっていた者は全員納得した表情を浮かべて手を下げた。
「潰れても知らないよ?」
「そっちこそ」
そして開始された飲み比べ。酒の種類はもちろんバーボン。二人はカウンター席で隣同士に座る。お互い睨み合いながら、手を止めることはせず、延々と飲んでいた。
四時間が経つと、相手の口からギブアップという声が。ウォーカーはちょうど百。相手は八十手前という結果になった。どちらにせよ、これだけ飲める二人は超人に違いない。
「流石にヘロヘロだよ」
そんな言葉を吐くウォーカーは拍手で称えられる。対戦相手の男はこの町で一番酒が強いらしい。それ故、みんな驚いているのだろう。かかったお金は五十ドルと高額だが、ウォーカーにとっては何の支障もない。
店を出て宿を探す。そのあとを追う一人が呟く。
「やはり奴だったか」
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