26 災厄獣

 明らかに被害の出ているカイザーパレスのために、空港の医療センターからドクターヘリが飛び立った。一度落ち着きかけた空港だったが、また騒がしくなってきた。

「リンダ、先に逃げて。私、ちょっと行ってくる」

 空港に招待客たちをひなんさせていたエリュテリオンのメリッサ達だったが、3回目の地震でカイザーパレスにも被害が出ているのが見え、すっかり心配になってきたのだ。

「ネビル、平気?そっちの様子はどうなの」

 連絡しても、なぜかネビルにはつながらない。リンダがメリッサに声をかけた。

「まさかメリッサ、カイザーパレスに行く気なの?空港にも被害が出ているからすぐにはエリュテリオンの戦艦ライジンは離陸しないと思うけど、あんまりゆっくりしていると乗り遅れるわよ」

「たぶん平気よ、ほら」

 メリッサの指さす方には、あのグレイシス将軍がこっそり抜け出してシャトルバスに乗ろうとする姿があった。

ずっと避難誘導やガレキの撤去を手伝って疲れ切った部下たちには内緒で、カイザーパレスを救おうと行動に出たのだ。

なるほど、グレイシス将軍がいなければまず離陸はしないだろう。

「将軍、抜け駆けはいけませんな!」

ふと見るとモリヤ・モンドがさっと近付いてきた。それだけではない、アリオンやサンダーボルトジェニーたち大幹部も、疲れ切った部下たちを残してやってきていた。

メリッサとリンダのそばにはセレニアス老師も姿を見せた。

「グレイシス将軍はあのマリガンを投げ飛ばして追い返したり、コロニーのテロリストたちを撃退して平和な暮らしを取り戻した強さと戦略を兼ね備えた英傑だ。だが彼の本当の強さはここにあるのだ」

考えてみれば、総指揮をとるだけでなく、部下たちに混じって同じ仕事に黙々と取り組み、もしかしたら1番疲れていたのは将軍かもしれなかった。でも、何事もなかったような涼しい顔をして、一人で被災した人々のために動きだそうとしているのだ。

強さとはなんだろう。少なくとも英雄の砦の豪傑たちは、そんな将軍にどこまでもついて行く気なのだ。

その時、惑星軌道上にすでに出ていたあのスノーホワイトからもベガクロスが小型機に乗り、カイザーパレスを目指して飛んでいたのだ。兄クオンテクスがハカイオウに襲われたと言う連絡がゼノン大佐からあり、やはり兄のことが気になり、帰ってくるようだ。

その頃、宇宙空港の医療センターで歯、あの事件で唯一意識を取り戻したガロア博士が、病室の窓から外を見ていた。緊急用のドクターヘリがカイザーパレスから飛んできて、医療センターのすぐ横のヘリポートに着陸した。3回目の地震で崩落した壁や石像の下敷きになった人がいて、緊急に搬送してきたらしい。ところがけが人が運ばれていったあと、ヘリコプターの底の部分から、何かワインボトルほどの大きさの物が転がり落ちた。

「なんだ、あれは…?」

ガロア博士は窓を開け、目をこらした。

ところがそのボトルは突然自分で立ち上がった。

「えっ!」

そしてそのボトルはヒュンと飛び上がり、ジャンプしてガロア博士のいる窓のすぐ下まであっという間にやってきたではないか。

「ま、まさか?!」

ワインボトルの先には牙の生えた唇がついていた。空中庭園からリップパイパーの最後の生き残りが、目的を遂げるためにやってきたのだった。

あわてて窓を閉めようとする博士。だがリップパイパーのルビーのような複眼は、確かに窓の閉まる前に博士の姿を捉え、大きくジャンプしたのだった。

メリッサは宇宙空港からのシャトルバスを1番に降りると、走り出した。シャトルバスからはグレイシス将軍を始め、エリュテリオンの仲間たちが大勢降りてきた

目の前にはあの巨大なグランポリスの丘がそびえている。グランポリスの奥には一部壁の崩落したカイザーパレスがそびえ、その上空には見たこともないまばゆいばかりの虹色の雲が妖しく輝いていた。

「ネビル、今私が行くから!」

だがメリッサは知るはずもなかった、これからさらに恐ろしい天変地異が起こる事を。

時の椅子に腰かけ、遠い山脈から古代の遺跡、大河の流れ、そして宇宙空港までも見下ろすクオンテクスは、ハカイオウが近づいても動こうとしなかった。

「何を見ている…クオンテクスよ」

クオンテクスのすぐ後ろには、あの巨大な太陽神の顔がそびえていた。

「わが領土を…、美しく豊かなわが世界を見ているのだ」

2人の間を風が吹き抜けてゆく。

「すべてがすべてを支え合うから豊かな世界が生まれた。だが、お前の見ている世界は、お前だけがいて、他のすべての豊かさを奪い取る世界だ」

皇帝は言っている意味がわからないという風で、何も答えなかった。

「クオンテクスよ、お前は自分にとって都合のよいものばかりを集め、そうでないものは滅ぼしてきた。富と権力を集め、自分の支配がいつまでも続くように宇宙の流れをゆがめてきた。あの日、お前は自分の利益を優先し、大自然のあらゆる命を死滅させ、村人を、家族の命を奪った。お前は宇宙に会ってはならないものだ、だからお前を破壊しに来た」

するとクオンテクスは初めてハカイオウの方を見た。

「破壊だと?!笑わせるな、できるものならやってみるがいい」

立ち上がったクオンテクスの体は、金属のような光沢を帯び、底知れぬ力を宿しているようだった。疾風のように迫り、ハカイオウは怒りの鉄拳をクオンテクスの顔面に打ちこんだ。

「ウヌ?、いったいなんだ」

鉄拳が当たった瞬間、鋼の武具をまとった巨大な金色の巨像のようなイメージがハカイオウの脳裏に浮かんだ…そう、それは巨大に成長した闇蟲の蛹に他ならなかった。わずかにのけぞるクオンテクス、さらに胸に腹に超ド級のパンチが入る。どのパンチも肉体を斬り裂き、骨を粉々に砕く恐ろしい威力だったが、金属の光沢を帯びたクオンテクスは、それらをすべて跳ね返し、さらに戦闘サイボーグのパワーで反撃に映ってきた。

「フハハハハ、これがハカイオウか?」

皇帝クオンテクスのパンチが初めてハカイオウの顔面を捉えた。

「ヌン!」

ハカイオウは今度はローキック、ハイキック、そして回し蹴りと強力な蹴りを放った。だが笑いながらクオンテクスはすべてを受け止め、さらに前に進み出た。

「これがハカイオウか、今の私なら勝てる、負けそうな気がしない、フハハハハハ!」

そして皇帝クオンテクスは超合金の義手でハカイオウをぶっ飛ばすと、そのまま高く持ち上げて放り投げた。

ズゴオオオン!

ハカイオウはテラスの巨石にぶち当たり、岩が砕け、黒いボディがめり込んだ。

「今、とどめを刺してやる」

ハカイオウはさっと立ちあがるとそのまま右腕をまっすぐに前方に伸ばして叫んだ。

「ソードアーム極星突き!」

ズバズギューン!!

この時のためにとっておいた隠し技がさく裂した。北辰流の突き技の応用、指先まですらりと伸びたハカイオウの黒い腕がそのまま黒い刃のようになり、北辰流の必殺技の呼吸そのままに、ものすごいスピードで打ち出されて、皇帝の喉元に突き刺さった。

「グォ!」

強い衝撃に動揺した皇帝だったがすぐに突き刺さった腕を引き抜き、投げ捨てた。腕はすぐにハカイオウにもどり、傷口はまたすぐに修復されていく。そして不死身の人造人間は、ゆらりとこちらを振り返るとまた、ハカイオウに向かって歩き出したのだった。

「俺は不死身の力を手に入れた。俺はいつも勝ち続け、たとえ負けても2度目は必ず勝手きた。もう、お前は二度と俺には勝てない。俺を倒すことは不可能だ」

この世の物とも思えぬクオンテクスの言葉に、しかし、ハカイオウは立ち上がった。

「お前は森の命を奪った。生きとし生けるものをすべて滅ぼした。お前は幸せを奪い去り、お前は宇宙の流れをとめてしまう。だから戦う。お前が不死身でも、何度よみがえろうとも、何度でも何度でも挑み続ける」

そしてハカイオウは渾身の力をこめて、クオンテクスにパンチを放った。

だがそのパンチは、完全に受け止められ、クオンテクスの胸で止まった。

「ウググ?!」

だがその瞬間ハカイオウの脳裏に伝わった映像は、今までと全く違うものだった。

ハカイオウは跳びのいた、そして振り返り、空中庭園全体に、大声で叫んだ。

「ものが倒れてこない広い空間に出ろ、頭を守れ、目をつぶれ、命を守れ!」

北側の神殿にいる女王は平気だろうか?ダビデが女王に呼びかけた。

「女王様、平気ですか?、いかがいたしましょう」

「思ったより早かった。ここにいれば平気よ。でもハカイオウが言ったことは真実です。ダビデも決して目を開けないでね。その代わりクリスタルフォルスがすべてを記録してくれるから」

空中庭園の反対側、パレヌスの螺旋塔では、ヴぁるぬ教授とフリードがそれを見ていた。

「マスター、我々は平気なのですか」

「案ずるな、すべて計算済み、ここまでは被害は及ばぬ。しかもここからなら肉眼でその瞬間を見ることができる。歴史的な奇跡を…!」

なぜハカイオウが、人々を救うようなことを言うのかなぜかは全く分からなかったが、クリフとネビルは石像の陰から走り出し、空中庭園のヘリポート側に向かった。ここは空中庭園では一番平らな広い空間で、もちろん倒れた石像などもほとんどなかった。

「いったい、なにがどうなったんだ?、何が起こると言うのだ?!」

その時皇帝は突然苦しみ出し、時の椅子に再び腰掛けた。

「ウォウォオオオアアアア!」

皇帝が大きく叫ぶと胸のあたりから凄い勢いで黒い煙が噴き出して行った。その黒い雲は、あっという間に巨大な積乱雲のようにうねり、盛り上がり、うねり、上昇し、広がって行った。すると今度は暗黒物質の中で新しい星が生まれるように、クオンテクスのすぐ上のあたりで黒い雲の中が青白く光り出し、一度輝きが強くなると、やがて光は弱まりながら、物質化して行ったのだ。

「おお、あれは!、あれこそ古代では竜とか災厄獣と言われていた霊獣だ」

ヴァルマ教授が指差した。女王がダビデに連絡した。

「目をつぶって!目をつぶるのよ!」

黒雲の中からただならぬ振動が聞こえ、クリフとネビルは地面に顔を伏せ、頭を守った。

最初に黒雲の中に金色の蛹が見え隠れし、その脱皮しはじめた大きな裂け目の中から複眼と触角がのぞき、竜の首ほどもある前足が伸び、そして次の瞬間だった。

バリバリバリと音を立てながら、蛹が割れ、砕け、あたりに金色のかけらが飛び散った。

ズバシュシュシュズオオオーン!

そしてついに、蛹が完全に砕け散り、半物質化した霊獣がその巨大な翼を広げたのだ。

その羽ばたきの瞬間、とんでもない衝撃波があたりを襲った。

あの巨大な太陽神アノスの顔が、壁ごと衝撃波の直撃を喰って崩れていく。古代クオンテクス皇帝の石像が倒れ、木造船ケペル号の中で何か爆発が起こった。中に逃れていた親衛隊員や医師たちがあわてて飛び出してくる。ケペル号は太陽神のガレキの直撃を受け、崩れ、さらに燃え上がる。椅子に座ったままの皇帝がガレキの中に埋まって行く。

女王を襲おうと毒針を用意していた昆虫メカのキラークィーンも働き蜂も、衝撃波で、一瞬で、1匹残らず、形も残さず、完全に空中分解して行った。

「ウオオオ、目が、目が!真っ暗だ、完全に真っ暗だ!」

その空間波動の衝撃波は、言う事を無視して見上げていたバルガスの両目をゆがめ、光を奪ったのだった。

そして災厄獣は、黒雲を巻きあげながら、カイザーパレスを震わせながら、その飛行船のような巨大な体を浮かび上がらせた。

「ダビデ、もう目を開けてもよさそうよ」

女王の言葉にダビデは顔を上げた。

「おお、なにか魔天楼のようなものが黒雲から突きだして…!」

それは角と頭、そして体節だった。黒雲の中から徐々に全体が見えてくる。災厄獣には6本の竜のような足、6枚の鱗粉をきらめかす巨大な翼、6段の建造物のような体節があり、重厚な鎧のような外骨格やトゲ、古代の文様のような不思議な飾りもついていた。その長い触角は大きな蛾のよう、きらめく翼は蝶のよう、しなやかな蜂のような体と甲虫のようなツノや突起もあった。

「誰か、皇帝が、クオンテクスっ陛下が、ガレキの下敷きに!急がないと、炎が燃え移ってしまう!」

ゼノン将軍が悲痛な声をあげ、火の粉を振り払いながら、がれきを掘り返していた。

「行ってまいります」

ダビデが女王に頭を下げ、助けるために走りだした。

憎い皇帝なれど、見て見ぬふりはできなかった、さらにくずれた木造船の中に逃げ遅れた者もいる様子だ。

そしてその姿を現した災厄獣は、空を見上げ、翼をもう1度大きく伸ばすと地響きを上げながら浮かび上がった。最後の地震が起きた。

大地が唸り、鋭い縦揺れが再び空中庭園を襲う。

「きゃあああ!」

大きくよろめいた女王の悲鳴が上がった。まさかの神殿の柱の一つが大きく傾いた。さらにもう1本の柱が倒れかかる。だが足をくじいたのか、女王はよけられない…?!

ダビデはちょうど今離れてしまった。魔に会わない。その時だった

さきほど大ホールから女王を追いかけていたもう一人の人影が飛び出した。

「危ない!」

女王はさっと抱きあげられ、体がふわりと浮いた。すぐ横を倒れた柱がかすめた。女王は大きなたくましい腕に守られ、危機を脱した。

地震はおさまり、災厄獣は、ゆっくりゆっくり黒雲から上に上がり、上空の虹色の雲をかすめて、青い空へと飛んで行った…。

一体誰が助けてくれたのか…。

「よかった、命がけで走ったんだ。魔に会ったよ」

「なんで、どうして助けてくれたの?!」

女王は、たくましいその胸を叩いた。

「そんな気がしたのさ。ほら、遺跡で宝探しをした時もそうだった。勇敢な女王様は、命を顧みず、いつも突き進んでいってただろう。だからおいかけた。ほら、やっぱり思った通りさ」

そうだった。命がけの探検をして、何度も危険な目にも会ったけれど、いつもギラードが助けてくれていた…。

女王は突然涙を流しながらその胸をもう1度たたいた。

「なんでそんなことがわかるの?もう、なぜ…?」

海賊船長は、女王の肩をそっと抱きながら答えた。

「女王様に何かあったら大変だろ?!」

フラッシュギラードは、いつもの無邪気な笑顔でそう言った。あの頃と何も変わっていなかった。

うれしいのか、こわかったのかもうわからなかった。女王はギラードの胸に顔をうずめ、

ただ、ただ泣いた。

その時、ダビデは成すすべなく立ちすくんでいた。崩れた太陽神と木造船の瓦礫に埋まるテラス、そして逃げ遅れた者がいる木造船は炎上していた。さすがのダビデも打つ手がなかった。無理に波動の剣でガレキを吹き飛ばせば、被害が増すばかりだと思われた。そこにクリフとネビルも駆け付ける。若いネビルが飛び込もうとするがクリフが引き留める。

「ええ、お、お前たちは?」

その時、遠くから駆け付け、炎の中に飛び込んで行く者たちがいた。サーカス団のロボットたちだった。

あのクリオねロボのキューピーが上からみんなに指示を出していた。だがいくらロボットたちだって炎の中に入れるわけはない。あの美少女のアリストアリエスのかわいらしい服が燃え上がっていた、あの8本足のタコの怪物ボブオクトの着ぐるみも燃え、パナマ帽が燃え落ちた。海賊ピエロのガレオンも火だるまになりかけたが、船の中にはいったところで急にべるとからホースを引っ張り出し、周囲に白い煙のようなものを凄い勢いで噴きかけた。

「おお、火が、火が消えていく」

「冷却ガス?消火機能?!これって、まさか…」

クリフが何かに思い当る。ネビルも何かに気がつく。

「ちょっと、ちょっとクリフさん、これはもしかして…?」

焼け落ちたロボットたちの衣服や気ぐるみの下からはピカピカのメタルシルバーのボディが見えてきた。なんと体の炎が消えるとそこには美しい金属の光沢が輝く。どのロボットも耐熱加工のしてある特別なボディを持っているではないか。

「そ、そうか、耐熱ボディ…?!君達こそ…」

そう、サーカス団のロボットたちこそ、失われていた高性能レスキューロボットたちだったのだ。燃えている木造船に飛び込んだ海賊ピエロが火を消して、そこに怪力ボブオクトが入ってガレキを排除、アリストアリエスが逃げ遅れていた人を、空中をすべるようにして運び出す。

R1、被害状況を上空から見て分析、的確な指示を与えるそれがキューピーだ

R2、2本の他関節の足で歩き、4本の怪力アームでガレキをどかし、レーザーカッターアームで切断、ドリルアームで粉砕する大型怪力ロボットがボブオクトだ。

R3・R4、反重力エンジンを両足に装備し、被災者を2人で抱え、スピードで運搬するアリストアリエスだ。

R5、応急処置や消火、飲み水、非常用食料も装備している多機能ロボがピエロのガレオンだ。ロボットたちは木造船から離れると、今度はテラスのガレキ撤去にとりかかった。

その時まさかの人影が近づいてきた。クリフとネビルが驚いた。

「カバチョ団長!ご無事だったんですね」

「すまん、しばらく気絶していたらしい」

「本当によかった。でも、ロボットでも破壊するエネルギーボムキャノンを受けて…どうして…?!」

するとカバチョ団長は穴のあいた燕尾服をとって中をみせた。それはミハエル・マキシミリアンが皇帝に進めていたもう一つの鎧、フィリッポセブンだった。あの衝撃に1番強い鎧が博士の命を守ったのだ。ベルトに反重力エンジンが装備されていて、道理でお腹がぽコント出ている。

いつも命を狙われていたペリー博士は、人前に出るとき、コノフィリッポセブンを着て、カバチョ団長になって、身を守っていたのだ。

「クリフ君、ネビル君、君達がキューピーの知らせを聞いて、サーカス団の仲間を救ってくれたそうだね。ありがとう、ありがとう、ありがとう…」

「団長とみんなが早く非難をさせてくれたから、大勢の人が助かったんですよ…」

その時、上空から白い小型宇宙艇がヘリポートに緊急着陸してきた。

中から背の高い男が1人で走ってくる。

「兄貴は、兄貴は、どうなったんだ!」

ベガクロスは空中庭園のひどい有様に驚きながら、人影のあるケペル号のそばにやってきた。ゼノン将軍が悲痛な顔で今ガレキの下から掘り出しているとベガクロスに説明した。大型のロボットボブオクトが、大きな材木をレーザーカッターで切断し、4本腕で撤去していた。やがて埋まっている場所が判明したらしく、翼の生えたロボットキューピーが、指令を出し、掘り出し作業がスピードアップした。

ベガクロスが何かを聞く。ゼノン将軍が首を大きく横に振る。だがつぎの瞬間、ガレキの内部からごとごとと音がして、やがて体の黒いロボットがガレキの中から立ち上がった。ベガクロスが驚いた。

「ハカイオウ?!」

体を分解してガレキに潜り込んでクオンテクスを発見、その中で合体して、ガレキを持ち上げながら今出てきたのだった。それこそがレスキューロボr5の能力だった

ボブオクトが大きな木材を撤去すると、ハカイオウはクオンテクスを両手に抱えたままベガクロスの前に進み出た。

「…俺はこの男をもう3回殺している。もう十分だ」

そう言って、ベガクロスにクオンテクスを渡した。クオンテクスはまだ息をしていた。すべてが抜けきったようなおだやかな顔をしていた。そしてハカイオウは振り返るとクリフたちに近づいてきた。

「あんた、博士を手助けして、それに仲間の命も救ってくれたんだってな…。心からありがとう」

思いがけない言葉だった。

「あんたが俺を逮捕に来てくれて良かった…」

そう言ってハカイオウは両手を差し出した。クリフはアンドロイド用の電磁手錠をはめ、さらに電磁ロックチェーンで上半身を固定した。

クリフはサンドラコーツ長官とノーマン本部長に報告し、指示を仰いだ。

「とりあえず空中庭園のヘリポートに緊急用のホバーがすぐに来るそうだ。ハカイオウを宇宙空港まで護送する、空港に、特別護送艇が用意してある…」

木造船の火災はほぼ鎮火し、白い煙がかすかに風に流れていた。

レスキューロボットたちも仕事をやり終え、皇帝以外は、犠牲者もけが人も出なかった。

歩きだそうとするハカイオウの前にまさかの人影が近づいてきた。あのリアルなマスクをとると、ペリー博士の顔が現れた。

「お前の人工知能がR5なのか、アレックス・レムなのか、両方なのかわからん。でもお前は確かに人を助けた」

「…博士…」

「これから先はどうなるのかわしにもわからない。だが、どうなろうとも、レスキューロボ達は、お前も含めて私の大事な子どもたちだ…」

ハカイオウは何も言わずに歩きだした。そして去り際に、振り返って言った。

「レオナルドを、r7を呼ぼう。奴には私の命令に絶対従うコマンドを入れたが、それ以外は昔のままだ。きっとみんなの役に立ってくれるだろう…」

ハカイオウはクリフと一緒にヘリポートへと歩きだした。入れ替わりにメタルグレイのドローンが遠い空から近付いてきた。

その時後ろから鋭い声がかかった。

「ネビル!もう連絡が取れなくて心配してたんだから」

息せき切って駆け付けたメリッサは、そこに立っている黒いアンドロイドを見て鳥肌が立った。

「もしかして、ハカイオウなの?!」

ネビルはメリッサの眼を見てうなずいた。

その頃空港の医療センターで怪生物騒ぎが起きていた。偶然空港に来ていたジュネとジュリの姉妹がリップパイパーの最後の生き残りを仕留めたとのことだった。毒牙による犠牲者は、1名だけだった。

そして…、事件は終わりを迎えたのだった。

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