25 黒い稲妻

 逸早く宇宙空港にホバーバスで弾きあげたベガクロスはあのベートーベンのようなマイスターゲルバーと話していた。

「はい、楽団員や合唱団員、その他のスタッフも乗船を終了しました。でも、ヴァルマ教授とフリードがまだスノーホワイトに乗船していません。本当に離陸してよろしいのですか?」

「いやなに、こんなに早くここを出ることになったのはヴァルマ教授の考えなのだよ」

「と、いいますと?」

「教授の話しでは、これからほどなくして地震以上の天変地異が起こると言うのだ」

「地震以上?」

「何でも宇宙空港にも被害が出るだろうと言う、それで急いで出てきたのだ。とりあえず衛星軌道上まで出れば安心だそうだ」

「なるほど、英断ですな。それでヴァルマ教授たちは?」

「騒ぎを起こしてしまった責任もある、落ち着くまでいくつかある隠れ家に身を隠すと言っていた。まあ、その方がいいだろう。ゲルバー君の雑用も減るというものだ」

「そうですね。教授はいつもスマートで助かります」

その時、部屋にあの天才美少女のメルパが入ってきた。

「呼ばれて参りました。何のご用でしょう」

流石にメルパも、今回だけは勝手な行動をたしなめられると思っていた。だがベガクロスは少しもそのことに触れなかった。

「今回、どうも女王の出しゃばりで、ヴァルマ教授が大変なことになった、女王を少し元気にしすぎたようだ。どうかな健康レベルを2つか3つ下げると言うのは」

メルパはベガクロスの器の大きさに敬服し、快く仕事を引き受けた。

「ベガクロス様って本当に大物ね。大好きです。では早速昆虫メカキラークィーンに命令を出して、しばらく女王を寝込ませることにいたします」

メルパはにこっと笑うとすぐにカイザーパレスの女王の部屋に潜伏しているキラークィーンに連絡をとった。だが、いつもならとっくに部屋に戻っているはずの女王はキラークィーンのいる女王の部屋にはいなかった。キラークィーンは女王の体内に注入した測定センサーの発信電波から女王の位置を探った。女王は今、空中庭園の北側、柱の神殿にダビデといる。もともとカイザーパレスの西側にある女王の部屋の窓を開ければ、もうそこは空中庭園、直線距離にしてほんの目と鼻の先だった。昆虫メカキラークィーンは、窓の上の管機構からあっという間に飛び立つと空中庭園へ、柱の神殿へと近づいて行った。女王を弱らせる特殊な毒針をつけた働き蜂を引連れて…。

その頃、カイザーパレスをはさんで、空中庭園と反対側にある植物園、そしてその奥にある螺旋形のパレヌスの塔に人影があった。古代の天文観測所だと考えられているパレヌスの螺旋塔、ここは1年に数回の古代の再現イベントや夏のパーティー、野外コンサートのほかは周囲を散歩することしかできない。だがなぜか、ルパートローズのトンネルを抜け、鍵のかかったゲートの奥、パレヌスの塔の入り口近くのベンチに2人の人影があった。

「マスター、マスターの言う通り、見たこともない雲がカイザーパレスの上空にだんだん現れてきました…」

鉄仮面をとった暗黒剣士フリードと、その師、ヴァルマ教授であった。

「女王め、こざかしい真似をしおって…だがそのおかげで、歴史的にも珍しい、少なくともここ数千年は見ることのできなかった奇跡の減少がおこることになりそうじゃ」

「奇跡の減少?」

するとヴァルマ教授は立ち上がり、美しいルパートローズの茂みを背に語り始めた。

「女王のせいで、私の創りだした暗黒生命体は大勢の心に巣くって成長を始めた。まず闇蟲の幼虫は支配欲、金銭欲、性欲など、果てなく求め続ける欲望を、心の大きな揺らぎを食らう。もう1つ、幼虫は自分の弱さや劣等感を克服したいと言う願望を食らう…。その果ての無い欲望のエネルギーやマイナスの波動を食らって、闇の種から幼虫に育ち、さらに数回の脱皮を経て終齢幼虫となる。やがて蛹姿を変え、成虫と変態する。脱皮を繰り返すことによって体は長く螺旋形を帯びてくる。宿主の野望や願望によって色や形がだんだん事なってくるが、螺旋の巻き数の多い幼虫ほど生命力が強く超能力も強い。ここで修業を積むことにより、欲望のコントロールを行い、幼虫が変体しないようにもできる。ちなみに私は3匹の闇蟲を幼虫のまま10年以上飼い、そのうち1匹は6回の螺旋を持っている。だが幼虫に欲望を食べるだけ食べさせ、どんどん成長させてしまうと、やがて闇蟲は成長の次の時期を迎え、変態を始めてしまうのだ」

「成長の次の段階?」

「欲望が暴走したり、強いストレスが加わると、それをきっかけにして突然変体が始まる、その都度違うようだが、わずか数時間から数十分で幼虫は成虫になる」

「そんな急激に…!」

「蛹に姿を変えると文献では鋼の肉体を得ると言う。そして成虫になると宿主の体を抜け出て、飛び去り、力は完全に失われるのだ。フリードよ、長い時間に渡って蟲の力を引き出すのにはどうすればよい?」

「はい、マスター。欲望をコントロールし、蛹にさせずに買い続ければ力がいつまでも持続するのだと思われます」

すると教授はバラの花を手に取りながら語った。

「正解だ、弟子よ。心に命じよ、欲望に飲まれてはいけない、そうかと言って、いついかなる時も満足してはならない。幸福は我々の進化を止める。満ち足りた心、幸福な価値観があれば、心の揺らぎは消え、闇蟲は飢えて消えていく。いつも次なる目標を持て、勝ち続けろ、高みを目指せ、今の自分に満足するな、いいかすべてはお前のためなのだ。お前の心が決して満足することなく、終わりなく何かを求め続ける限り、ゼルマ・ケフの紋章はお前の中で永遠に回り続け、お前に無限の力を授けるのだ」

「はい」

「修業を怠ればお前の欲望は膨らみ続け、闇蟲は暴走し、最後にはお前自身が闇蟲に喰われ、闇蟲は蛹から成虫となり、お前から出て雪、すべては終わる」

「終わるって、どうなるのですか?」

「それが今から起こることだ。ついさっき、私にも見えた。誰かの闇蟲が比類なき大きさに育ちつつある。体中に鎧をつけたような重厚でいかつい姿の幼虫だ。たぶん今が終齢幼虫だろう。そして近いうちに蛹となり、もうすぐ我々の目の前でそいつは宿主の体を突き破り、大空に飛び立つ。天変地異が起こり、歴史書に記載されるほどの事が起こるのだよ」

天変地異…?そう言えば原因不明の地震がすでに起きている。

「体から抜け出す時が近付くと、闇蟲は宿主を空の見える高い場所へと導く…。もうすぐ近くで世紀の瞬間が起こると言うものだ!」

そして…。ヴァルマ教授の弟子、フリードは、ゆっくり螺旋の塔を昇りながら空を見上げた。カイザーパレスの上空には虹色に輝く、不思議な蜘蛛ができはじめていた。

「わずか数時間から数十分でそれは起こるのか…。ああ、なんて美しい雲なのだ」

だが実際は、ハカイオウに胸に大穴をあけられたと言う衝撃により、皇帝の中で闇蟲はすでに変体を始めていたのだった…。

その時ネビルとクリフは、突然飛んできた、あのサーカス団のクリオネロボットキューピーに呼ばれて空中庭園へと走っていた。

「カバチョ団長がプラテオ・バルガスに命令されたメカ親衛隊員に撃たれ、大変です。すぐ助に来てください」

クリフはキューピーに話しかけられおどろいていた。今まで1度もしゃべったのを見たことが無かったからだ。空中庭園に飛び出すとそこは大変なことになっていた。

凍りついたように動かないサーカス団のロボットたち、1列に並んでそれを眺めるメカ兵士達。クリフが叫んだ。

「やめてください、一体どういう事なんです!」

駆け込んできたクリフとネビルを見て、明らかにバルガスは動揺しているようだった…。

だがバルガスはすぐに態度を変えてしゃべり始めた。

「良く来てくれた、さっきの地震の影響で暴走したロボットのせいでペリー博士が大変なことになったのだ。さあ君達も協力してくれたまえ、この暴走したサーカスのロボットたちを拘束し、廃棄しなければならない」

「ロボットたちが暴走ですって?そんなことはあり得ない」

クリフが言うと、バルガスはすぐに言い返した。

「何を言うのだ、あっちを見なさい。暴走ロボットの犠牲になったサーカス団の団長を!」

カバチョ団長は痛々しく横になったまま動かない。クリフがにらみながら言った。

「私達を呼びに来た小型ロボットの話しでは、あなたの指示でメカ兵士がエネルギーボムキャノンを発射した、私はそう聴いている」

するとバルガスは少しもひるまず、自信たっぷりに話した。

「君達は暴走ロボットと、連邦の戦略研究所の責任者であるこのプラテオ・バルガスと、どちらを信じると言うのかね」

するとクリフが答えた。

「そんなことは決まっている。私はこれでもサーカス団の一員でね。このサーカス団のロボットたちは、かけがえのない仲間だ」

さらにネビルが付け加えた。

「あなたはそうやってヴェルヌ博士に続き、ペリー博士までてに賭けたわけですね」

「ぐっ…」

ネビルの言葉に、流石のバルガスも一瞬言葉をつまらせた。

だがすぐに出まかせを言って、2人の注意をそらしていく。

「うむ、では、何が起きたか、ロボットが暴走した時の記録映像を見せよう。見れば私が正しいとわかるはずだ。こちらに来てくれ」

「え、記録映像がある?!」

もちろんロボットが暴走した記録映像などありはしない。バルガスは何をしようというのか?クリフとネビルは何かを小声で打ち合わせると、バルガスに近づいて行った。その時だった。2人の後ろにそっとメカ親衛隊員が近づいてきた…!!

「君達も暴走ロボットに言いくるめられてなにか大きな勘違いをしているようだ。仕方ない、君達も一緒に身柄を拘束させてもらうよ」

信じられなかった。まさかこんな場所でだまし討ちにあうとは…?!メカ親衛隊員の体に内蔵された強力なスタンガンが2人を同時に襲った。

だが…?!

「トァーッ」

まさか2人はスタンガンの攻撃を紙一重でかわした。クリフがだまし討ちだと見抜いて、ネビルに指示しておいたのだった。ネビルはメカ兵士を回し蹴りでふっ飛ばし、クリフは銃を構えたメカ兵士全員の腕に直感でロックオンするイズナのレーザーを命中させた。はじけ飛ぶ親衛隊の拳銃。

「ばかな、人間の反応速度を軽くしのぐメカ兵士の銃がなぜ負ける?」

その間にサーカス団のロボットたちは物陰へと逃げ込んだ。そしてそのまま2人はバラバラニ石像の影に身を隠したのだった。

「逃げ切れると思うなよ。お、おや?!」

だがその時、空中庭園のゲートが開いて、あたりが急に騒がしくなった。大勢の親衛隊員や石、そしてゼノン大佐たちがやってきた。そう、クオンテクス皇帝を連れてきたのだ。

「皇帝陛下、お気を確かに!今空中庭園に到着しました。これでよろしいですか?早く体の精密検査を!」

皇帝はますます元気になり、もう胸には傷の後も何もない。ただ、穴のあいたアーマースーツでそれがわかるだけだ。もうストレッチャーにも寝ていない。いつの間にか車いすで移動している。ゼノン大佐がしつこく聴いてくる。

「ではもういいですね、陛下。医療センターの方へ…」

だが、クオンテクスは首を振り、まるで地の底から響いてくるような声で語った。

「空中庭園に着いたか、御苦労、ではあの太陽神のレリーフの前に連れて行ってくれ」

こんな時に皇帝は何を考えているのか?だが皇帝の瞳は何かがおかしかった。また命令を受けた親衛隊員は魔法にかかったように命令通りに動きだした。

「わかりました。では空中庭園の西の奥にある太陽神のレリーフの前にお連れします」

すぐ横では、ゼノン大佐が心配そうに付き添っていた。

「…仕方ない。いつハカイオウが襲ってくるかわからない。最大限の警戒態勢で皇帝陛下をお運びするんだ!」

バルガスは、あえて沈黙を貫き、なんとかこの場をしのごうとしているようであった。

さらにゼノン大佐は先ほどもマリガンを追い払ったあの三銃士に命令を出した。

「なに、ラムセスは今こちらに向かっていると?!ちょうどいい、早速働いてもらおう。ヘルボックス、先に行って、太陽神の周囲にトラップゾーンを作るのだ」

ヘルボックスの頭部、銀色の仏像ビリケンがかすかに唸った。ヘルボックスは静かに浮かび上がると、空間を統べるように進んで行った。にらみ合ったままのサーカス団のロボットたち、クリフとネビル、そしてバルガスとメカ親衛隊のすぐ横を皇帝とゼノン大佐達が通り抜けていく。この時、同じ空中庭園の北側の柱の神殿に女王とデビッドもいて、また少し離れたパラヌスの螺旋塔からヴァルマ教授とフリードが様子をうかがっていた。そして強制的に呼び出されたミイラ男がすぐそばまで近づき、北の神殿ではメルパの命令で昆虫メカキラークィーンが毒を流しこもうとねらっていた。

その様子を屋上から奴が、ハカイオウが眺めていた。空中庭園にいるすべての人物をつぶさに見ながら考えていた。

「…生きている?皇帝はやはり生きている。先ほどはたしかに手ごたえがあったのに。胸に穴が開いていたはずだ!」

皇帝は西側の奥の太陽神のレリーフを指差していた。車いすが徐々に進んで行く。ハカイオウは、あの黒い拳銃をさっと取り出したが、あえてそれをしまった、なぜ先ほどは拳銃が役に立たなかったのか、なぜかはわからなかった。

「…こうなれば私が直接この体で奴をこなごなにするまで…!」

ハカイオウは狙いを定めるとそのまま屋上から大きくジャンプした。

「ハァー!」

ハカイオウは気合いをこめ、ねらいを1点に絞った。そして反重力エンジンを逆加速させ、あっという間に時速数百キロにかそくさせて、クオンテクスめがけて急降下した。

「メテオキック!」

「ハカイオウだ!!」

気付いた時には遅かった。1秒の何分の1の間に奴は突っ込んできた。ミサイルも対空砲もかすりもしなかった。まばゆいほどに美しい虹色の雲の下、大気を斬り裂く黒い稲妻か、流星菓、魔神が急降下した。

ズバ、ババ、ドゴォオオン!

その鋭いキックは今度は確実に、皇帝の脳天を撃ち砕き、車いすは粉々になって吹っ飛んだ。その刹那ハカイオウの脳裏に巨大な6層の塔、オルガデウムと、それに重なるように螺旋状にとぐろを巻いた鎧をつけた巨大な幼虫の姿が重なって見えた?

「今のは何だったのか??!」

ハカイオウは、空中に飛び上がり、反重力エンジンを使ってふわりと地上に降り立った。

「皇帝陛下―!」

頭を抱えるゼノン大佐。騒然とする親衛隊たち!だが、衝撃で宙に舞った皇帝の体は、空中で大きく回転する間にみるみる修復していった。しかも全身に金属のような光沢を帯びてきた。そう衝撃で変体がさらに加速されて、幼虫が蛹に代わって行ったのだ。

空中を舞い、地面にたたきつけられるかと思われた皇帝は、次の瞬間ヒラリと体制を整え、着地、なんと2本の足で立っていたのだ。そして皇帝は太陽神殿を目指して、ゆっくり歩きだしたのだった。

脳天が砕けて死んだと思われた皇帝が、体に傷もなくしかも車いすも使わずに自分の足で歩いている…。異様な光景に一瞬周囲が凍りついたように静かになった。だが、かけ寄るゼノン大佐の歓喜の声がそれを打ち消した。

「奇跡だ、皇帝陛下、あなたはなんという強運の持ちむしなのだ!」!

そして振り返ると大声で叫んだ。

「ハカイオウを撃て、粉々にして葬り去るのだ!」

親衛隊員が、メカ兵士がさっとハカイオウに向けて武器を構えた。

だがそれと同時に、また巨大な地響きが唸りを上げた、

「…ま、まさか?!」

今日3度目の、そして1番大きな地震かもしれなかった。つきあげるような縦揺れに、み悲鳴が起きた。みんなまともに立っていられなかった。

亀裂が大きくなり、カイザーパレスの古代風の石の壁が崩落するのが見えた。女王は柱の神殿から広場に出て身を守った。古代の石像が水しぶきをあげて噴水の泉の中に崩れるのが見えた。石像の陰に隠れていたクリフとネビルもやっとのことで倒れる石像や落下物から逃げ伸びた。だがパニック状態になった空中庭園を、弾丸のように突っ走る黒い影があった。

「ハカイオウ!」

なぜかメカ兵士と本物の親衛隊員を一瞬で見わけ、続けざまに至近距離から3人のメカ兵士の首を1撃でへし折った。2人のメカ兵士が胸のパワーボムキャノンを発射しようとするのを見つけると、発射する前にキャノンの砲口に鋭いパンチをぶち込み、2台とも胸の中でキャノンが暴発、自爆して砕け散った。さらに走りながらあのガンベルトから拳銃をさっと抜き、斜め前方に親衛隊員が用意したミサイルランチャーを爆破した。異変に気付いた王宮騎士団のリーダーダビデは、波動の剣を用意、警戒態勢をとった。

バルガスはハカイオウの圧倒的な強さに恐れをなし、メカ兵士を1人連れて走り出し、噴水側へと身を隠したのだった。その時、空中神殿の西側の階段を上がる影があった。

「ラムセス、こっちだ、ハカイオウを叩き潰すのだ」

バルガスの命令が飛ぶ。

「ウオオーン」

あの全身包帯巻きのミイラ男が返ってきた。西側の階段をのしのしと昇りながらその異様なボディが見えてくる。あの大階段を転げ落ち激突、さらに親衛隊の銃弾や火炎放射を雨あられのように受け、さらにロック・ゴードン・ムトウとモリヤ・モンドのすさまじい肉弾攻撃を喰って空中庭園から落下した結果、包帯がこすれ、ほつれ、頭部の半分ほどが焼けこげたようになっている。それでも怪力は全く衰えず、凄みだけが数段増している。

そして皇帝を守るように太陽の塔の前に立ちふさがった。そこに突っ込んでくるハカイオウ!だがハカイオウの破壊センサーでも流石に攻めあぐねたのか、一瞬立ち止りあの拳銃を取り出すと、至近距離から突然ぶっ放した。ラムセスの胸と首、そして額に弾丸が命中、火柱が立った。

だが、強力な弾丸も包帯の下までダメージを与えられず、ほぼノーダメージであった。ハカイオウはそのままラムセスに体当たり、よろめかせてキックとパンチの連続攻撃だ。

「ウオオオオーン!」

だいたいダメージがあったのか、どうかさえはっきり分からない。ラムセスは逆に1発、2発と思いパンチを繰り出し、ハカイオウの動きを止めたところでハカイオウの首を締めながら持ち上げ、そのまま地面にたたきつけた。さすがのハカイオウもさっと反転し、距離をとった。そしてラムセスからさっと離れるその瞬間にいくつもの思考が交錯した。こいつの攻撃パターンはほかにもあるのか?今の銃弾の結果から分析して、弱点は?攻略法は?そもそもこいつはどうやって周りを認識しているのか?自分の攻撃パターンで有効な者は?そう言う考えが、瞬間にいくつも頭の中をめぐった。そして一つの結論…今の自分の攻撃方法ではこいつに致命的なダメージは与えられない…?!…、ならば…!

ハカイオウは、まず近くにある監視カメラを瞬間でサーチ氏、胸の銃弾を一斉に打ち出し、すべてのカメラを破壊、すると予想は当たり、ラムセスは動きが止まった。やはりラムセスは近くの監視カメラを自分の目として映像データを得ていたのだ。少しの間これで時間は稼げる。ハカイオウは先ほど屋上から眺めていた風景の中で、一番強力な武器をリサーチし直した。

「あった」

その武器を手に入れるためには?その戦略は?あっという間にハカイオウの体はばらばらになり、空中庭園を飛び回った。1つは目的を果たすために、そしてもう1つはその目的を知られぬために…!

そしてわずか数秒後、ハカイオウの体はラムセスのそばで再び終結、合体した。

その時、ハカイオウの右手に握られていたのは、なんとあの王宮騎士団のリーダー、ダビデの波動の剣だった。高速で飛び回った腕が、地震から女王を守って避難していたダビデからさっとかすめとってきたのだ。

ハカイオウはその波動の剣を両手で持ち直し、ラムセスに向かって行った。その刹那またハカイオウの頭の中では、1秒の何分の1家の間に、めくるめく思考がめぐって行った。

前回カイザーパレスの西側のエリアで戦った時、念動力がルパートクリスタルで増幅され、波動の剣は、驚異の切断力を発揮していた。念をこめ、気合いを入れて、切断する箇所に集中する。ハカイオウはダビデの技をシミュレートしい、さらに自分の生命金属の意思力と胸の黒紫のルパートクリスタルの波動とシンクロさせながらラムセスに剣を振り上げた。

「急がなければ、すぐにダビデが剣を取り返しに来る…!」

ハカイオウの生命金属のボディ全体からの気迫が波動の剣に届いた時、黒紫の波動が剣の内側からズンと広がった!

「トァーッ!!」

ハカイオウは躊躇なく、あのハヤテの北辰流の剣技出ラムセスの首からぬ根を右から1回、左から1回、バッサリと切りつけた。そしてすぐに波動の剣を鞘におさめ、ダビデの方向へ投げつけた。ダビデはそれを空中で受け取るとまた女王のところに戻って行った。

パチパチジジジジ…。

ハカイオウの波動の剣で包帯の下まで完全に切れ込みが入り、下のプロテクターにも大きな傷が入り、1部火花が散っているのがわかった。だが、ラメセスはまだ倒れない。波動の剣でも致命傷は与えられないのか?ハカイオウはあの拳銃を取り出しさっと構えた。

「とどめだ!」

そしてラムセスの胸の波動の剣に切りつけられた2つの傷の交差する点に向かって拳銃をぶっ放した。銃弾は1ミリの狂いもなく傷の中心に吸い込まれていった。

ズ、ズバアアン!

包帯の内側で大きな爆発が起き、らぬ背巣は崩れ去った。

その頃皇帝は、階段を上り、1段高い木造船ケペル号のテラスに出た。

テラスにはこのグランポリスの丘を囲むものと同じ巨石がいくつか配置され、見上げればカイザーパレスの西側から南側を見下ろす巨大な太陽神のレリーフ、すぐそばには古代のクオンテクス皇帝の石像もある。テラスの中心には皇帝お気に入りの大理石の椅子があり、西側の青い山脈、大河メラーと移籍群から南側の宇宙空港までが一望できる。

クオンテクスは古代から未来までを見下ろす「時の椅子」と言って気に入っていた。古代から、現在、未来永劫まで頂点に立って支配して行く、そんな気持ちになれるのだ。

「ゼノンよ、私はしばらくこの時の椅子でくつろぐことにする」

「ははっ」

ゼノン大佐はここまで皇帝と一緒に来た警護の親衛隊員と医師たちを木造船ケペル号の中に対比させ、自分はテラスで皇帝を見守っていた。

金属の光沢をまとって領地を見下ろす皇帝は、まるで神のようだとゼノン大佐は思った。

「むう、まさかラムセスがやられたか?!まあいい、ヘルボックス、奴にとどめをさせ!」

銀色の円盤状の台座の上に、トラップがぎっしり入った銀色の箱と長いしなやかなロボットアーム、そして背面には金色の後光のようなレーダーシステム、そして銀色の尖った頭は仏像のような戦略人工知能ビリケン。それらが円盤の反重力エンジンでふわふわと浮いている。ヘルボックスは既にトラップマシンを太陽神の周囲に展開、本体はこの眺めの良いテラスの巨石の上に瞑想するように浮かび、トラップマシンをAIで操作している。

あのラムセスを階段の下まで投げ飛ばし、ウォーダインマークⅡを破壊したロボレスラーのマリガンも、このヘルボックスに派退散するしかなかった。

なぜならヘルボックスのトラップゾーンは生きている罠なのだ。相手の特性や行動パターンを予測したトラップを仕掛け、さらに相手の苦手なトラップを探り当て、逃げる方向、飛び退く方向に次々と移動させて仕掛けていくのだ。

ハカイオウは時の椅子で支配地を見下ろす皇帝の姿を補足し、一気に太陽神のレリーフへと、時の椅子へと突っ込んで行った。

「ムッ?!」

ハカイオウのセンサーは無数のトラップ反応を捉えた。しかもあきらかにこちらの動きに会わせて、じょじょに位置や方向を変えている。これはもしや、マリガンが危険な敵だとデータを送ってきたやつか?そうだとしたら…?!また一瞬ハカイオウの頭の中ではいくつもの思考が交錯した。

トラップの数は?レーザー、銃弾、弓矢、トラバサミ…、トラップの種類は?いや、1つ1つは怖くない、怖いのは捜査している本体だ。本体はどこだ?本体はあの銀色の仏像のようなロボット?どうやって本体を攻略する?このトラップゾーンを抜けなければ本体のいるテラスの巨石には近づけない?!ましてどうやって本体を攻略するのか?しまった、ラムセスとの戦いでもう銃弾はすべて撃ち尽くした…!

そして1つの結論に達した。

「行くぞ」

ハカイオウはヘルボックスのトラップゾーンに真正面から飛びこんだのだった。

「グォオオオオオ!」

ケペル号に続く階段に仕掛けられた、ホログラムでカモフラージュされた超合金のトラバサミが牙をむいた。左足首がかみつかれたと思ったら、すぐに別の虎ばさみが右足にかみついてきた。そしてハカイオウの動きが止まったと見るや、トラップマシンがネットランチャーで、対ロボット用のメタルネットを発射したのだ。

網をかぶされ、もがき、体を分解して暴れるハカイオウ、かろうじて外に出た左腕は、ケペル号の脇で弓矢で撃墜され地面に転がった。やがてドリルのついた大きな槍がトラップマシンに装備され、ハカイオウをネットごと撃ち抜こうとする。

「ウヌヌヌヌ…ググ」

だがハカイオウは驚くべきことに、その口で金属ネットを噛みちぎり、ギリギリでその穴から脱出したのだった。

飛び出したハカイオウのパーツは、トラップゾーンの外側で再び合体、先ほど撃墜された左腕はなぜかもうそこにはなく、片腕のハカイオウとなってしまった。

そして銀色の仏像の方を睨んだまま立ち尽くした。さすがのハカイオウももう成すすべがないのか、ヘルボックスのトラップゾーンを突破することができないのか?そして生きたトラップゾーンは徐々に前進しながらハカイオウの周囲をとりまいて行くのであった。

しかしながら、この戦いは意外な結末を迎える。

「よし、そこだ!」

ハカイオウがつぶやいた。次の瞬間、テラスの奥で小さな爆発音が響いた。トラップマシンたちが一瞬暴走し、そしてピクリとも動かなくなった。

戦いを眺めていたバルガスが驚いた。テラスに陣取ったヘルボックスの本体が、あの銀色の仏像のような頭部ビリケンが爆発したではないか?!バルガスが首をかしげた。

「ハカイオウの左腕、さっき撃墜されたはずでは…?」

さっき落ちていたところにはもちろん左腕はなかった。左腕はハカイオウがネットに捕らえられてもがいているうちに、そーっと動きだしていたのだ。反重力エンジンと指を使って巨石に沿ってゆっくり進んでいたのでレーダーにはきづかれなかった。そしてテラスのヘルボックスの斜め後ろから襲いかかった。後頭部に超合金の爪でつかみかかり、指を喰い込ませ、人工知能を握りつぶしたのだった。わざとトラップにつかまったと見せかけ、テラスにそっと刺客をおくりこんだのだ。一か八かのハカイオウの戦略だった。

黒い稲妻のように屋上から急降下し、メカ兵士を破壊しつくし、不死身のミイラ男にとどめを刺し、そして今トラップにわざとつかまりながらヘルボックスを倒した。

さすがのゼノン将軍が、皇帝を無理やり連れて逃げ出し始めた。だが皇帝は動かない。

そして圧倒的な強さを見せたハカイオウは、時の椅子に座るクオンテクス皇帝の前に進み出たのだった。

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