24 サーカス団危機一髪

 クリフとネビルは貴賓室へと走り出した。女王から報告を受けた中央セキュリティ室は、早速手はず通りに動きだした。

「…ハカイオウ出現、場所は貴賓室。大ホールにいる皇帝をヘリポートからジェットホバーで脱出させる」

 ヘリポートは空中庭園と中庭にあり、脱出用の高性能ホバーもスタンバイしている。空中庭園は、狼男やバイオクリーチャの事件があったばかりなので閃光から外され、まだ眠ったままの皇帝クオンテクスは、ストレッチャーに乗せられ、大ホールから中庭へと運ばれることとなった。2名の医師に付き添われ、3名の親衛隊員が皇帝をストレッチャーに乗せ、大ホールを出て行こうと押して行く。その時だった。

「う、ううう…」

 いままで眠りっぱなしだった皇帝が突然苦しみ出した。

「いかがされました皇帝陛下?!」

 野望や願望が強いと、それを食らって幼虫が急激に成長して行く。

 そしてその野望や願望を叶えるために蟲は宿主に力を与える。それが超能力うや不老長寿となって、現れる。だが、皇帝の闇蟲は大きくなりすぎた。予測できないことが起こり始めていたのだ。

「うわああ、な、なんだ?」

 カイザーパレスが揺れた。地震だった。すぐに中央セキュリティルームに緊張が走る。地震がおさまるとともに、アノスがカイザーパレスの被害状況を報告する。

「…現在の地震は震度4、マグニチュードは測定不能…震源地はカイザーパレスの直下ゼロキロメートル、ほぼこのカイザーパレス周辺だけが揺れていて、プレートテクトニクスや火山性の地震とは性質が異なる模様。現在は原因不明に着き調査中、したがって余震も予測不可能。またカイザーパレス周辺に地磁気の大きな異常が観測され、観測されたことのない地震雲が発生中…」

 そのアポロンからの放送を聞いていた女王は何かを思いつき、例の古代図書館に突然携帯で電話を始めた。

 その頃クリフとネビルは、親衛隊員より早く、事件のあった貴賓室へと到着していた。地震には少々驚いたが、それどころではなかった。

「お、廊下に誰か倒れているぞ」

 駆け付ける2人。1人は倒れてまったく意識がない様子、影の騎士のれいべんか?。もう1人はまだ意識があるが重症のようだ。抱き起こすと、それは竜巻の剣のジェイクではないか?ジェイクは2人に苦しそうな声で警告をした。

「女王様とデビッドが大ホールに出かけた後、俺とレイベンがここに残り、あとの王宮騎士団はスパイパー胎児に出かけて行った。レイベンは計画通りナインキューブから生命金属を取り出して隠してしまおうと1つのキューブの中箱を開けたんだ」

 ジェイクはそこで大きく息をしてさらに続けた。

「…すると内箱の中から、黒光りする腕が飛び出し、レイベンの胸に突き刺さったんだ」

ジェイクはレイベンを助け、腕と戦ったのだという。

「信じたくないが、この竜巻の剣のジェイクとあろうものが腕1本にこのざまだ。あの金属の黒い腕は、爪を立て、殴りかかり、空を飛ぶぞ。まるで強い意志を持ってるかのように何度たたき落としてもしぶとく攻撃してくる」

確かにハカイオウの9つにわかれたパーツはそれぞれに生命金属の人工知能を持ち、1つ1つに反重力エンジンがあり、自由に動く…!

「それでその腕は今?」

「ちょっと前に貴賓室にもどった。気をつけろ、腕1本でもあなどれない強さだ」

「わかった」

遅れて駆け付けた親衛隊員に2人の手当を託し、クリフとネビルは銃を構えながら貴賓室のドアを開けた。目で合図して、最初にクリフが入る。おかしい何も襲って来ない。しかし見ればすべての箱の封印が解かれている?!あのレイベンを倒した腕が開けたのか?

続けてネビルが入ってくる。

「…おかしいですね何の動きもない、ハカイオウはもうどこかに移動したんですかね?!」

そう言いながらネビルが蓋の開いた無いんキューぷをを調べようと近付いた。クリフがあわてた。

「危ない、ネビル。レイベンがやられた手だ」

とっさに飛び退くネビル。その時、9つの箱の中から一斉に黒い物体がフワーッと浮かび上がってきた。

「…ハ、ハカイオウ!」

黒い金属銃弾が無数に装備された右胸、左胸、黒いルパートクリスタルがミゾオチに輝くボディの中央部、ガンベルトが巻かれた腰、そして右腕、左腕、右足、左足…。

「さすがだ、命拾いしたな。最初に蓋を開けたのが皇帝でなかったのは、お互い運が悪かった」

最後に頭部がしゃべりながら出てきた。

「ハカイオウを前!」

クリフが高性能のイズナを、ネビルがぶぐとして持ち込んだ電磁鞭をかまえた。イズナには対ハカイオウのための貫通弾が用意され、電磁鞭は強力な磁力でロボットやアンドロイドの自由を奪うことができる。

「フフフフ…」

すると不敵にも9つのパーツは銃弾や電磁鞭から逃げるように辺りをぐるぐると飛び回り、貴賓室の2匹のスフィンクスの石像の間で瞬時に合体して見せたのだった。

その瞬間、ハカイオウの胸の銃弾が突然空中を飛んで、クリフとネビルの武器を持つ手に命中した。二人は手がしびれて、武器を落とした。どういうことだ?なぜ銃弾が、ピストルも無しに飛んでくる?!

「銃弾の威力を手加減しておいた。私は無駄に戦うつもりはない。皇帝の居場所を教えろ」

クリフとネビルは首を振った。

「残念だが、それはできない。お前を逮捕する」

「…では仕方ない…自分で探そう」

その瞬間、ハカイオウは9つのパーツに再分離すると拘束で飛び回った。銃声が響き、電磁鞭が唸った。

ガチャーン!

なんとハカイオウは貴賓室の窓を破り、部品のまま外へと反重力エンジンで飛び出したのだった。

「逃げられた…!」

「ハカイオウは9つの部品に分かれたまま飛行し、皇帝を追跡中!」

カイザーパレス中に警報が流れた。カイザーパレスに数千か所ある監視カメラシステムとセキュリティaiがすぐにリアルタイムにハカイオウの位置を把握し、細かい情報を全体に流す。

「…現在、ハカイオウと思われる物体は、9つがバラバラニなってカイザーパレスのあちこちを飛行中。皇帝を探索している可能性が大きい」

アノスの報告にゼノン大佐が言った。

「緊急警戒態勢発動。親衛隊員は、アノスの戦略データに沿って、拘束で移動するハカイオウを撃墜するタイプcの装備で迎え撃て」

ゼノン将軍の命令が出る。皇帝の紋章のついたミサイルランチャーや対空砲などが迅速に用意され、ほどなく遠くからパンパンドカンと物騒な音が聞こえてくる。

危険なため、招待客たちは大ホールで待機。しばらくは様子をうかがう事となる。何事にもソツがないベガクロスはすぐに宇宙空港につけているスノーホワイトに連絡をとり、いざとなればすぐ脱出できるように用意を始める。グレイシス将軍はあちこちに散ったエリュテリオンのメンバーと連絡を取り、次の作戦を検討している。女王は貴重な文化財が破壊されないよう、ゼノン大佐に連絡を取り始める。

皇帝クオンテクスはカイザーパレスのすぐ前に広がる中庭のヘリポート近くまで運ばれてきていた。今この状態でハカイオウに発見されでもしたらもう、手の打ちようがない。とにかく敏速に、しかも気付かれずに運ぶしかない。やがて中庭と言っても、宇宙船が何隻も離発着できるほどの広い庭が目の前に広がる。するとそこに緊急着陸してくる小型宇宙帝が降りてきた。

「こちら宇宙連邦戦略研究所のプラテオ・バルガスだ。3銃士の1人、ラムセスのメンテナンスでやってきた」

「よし、急いで現場へ向かってくれ」

バルガスとエンジニアがどたどたと通り抜けると、中庭には緊張が走った。

警備の親衛隊員が集まり、周囲を取り囲んでいる。バイオクリーチャー退治が終わったばかりの王宮騎士団も急きょ、中庭に呼び出されていた。

そうなのだ。いよいよ皇帝脱出が始まる。宇宙空港から駆け付けた空軍の戦闘ホバー、パープルエンジェルがヘリポートにゆっくり着陸してくる。

「ところでクリフさん、どういうことなんでしょうね?」

ネビルが右手を押さえながら言った。2人は中庭に抜ける通路を足早に移動していた。

「拳銃も使わずに、おれたちの右手に命中し、武器を落とした銃弾だよな?」

「しかも武器を落とすだけに手加減を加えていた…」

「…それ何だが、サーカス団にナイフ投げのキールって男がいて、そいつは投げたナイフの軌道を自由に変えることができるんだ…ギラードが発掘にかかわったルパートクリスタルを使って超能力を増幅し、自在にナイフを投げられると言っていた…。つまり…」

それを聞いていたネビルはいろいろ思い当ったようだった。

「私もさっき貴賓室でハカイオウを近くで見てピンと来たんです。奴の胸には黒紫の大きなルパートクリスタルが輝いていた。あれってマリガンが古代博物館でゴリアテを倒して盗んだ超能力クリスタルですよ。以前、ハカイオウがウォーダインを倒した時に、奴のプラズマキャノンの砲口に銃弾が偶然は言ったって言われていたけど…?!」

クリフが確信を持って答えた。

「奴は自分の意思で銃弾の軌道を変えたんだ。偶然じゃなかったんだ。だからその気になれば奴にピストルはいらないのだろう。生命金属で動く意思を持った奴の人工知能は、念じただけで思った場所に思った威力で銃弾を撃つ事ができる…!」

だがネビルは1つ疑問に思う事があった。

「でも、奴はガンベルトをしていて黒い拳銃もぶら下げていた…あれは何なのでしょう。あの拳銃は飾りですかね?」

クリフは冷静に答えた。

「奴は思ったところに思った威力で撃ち、軌道も自由に変えられる…。あの拳銃は、それを越える能力を持っているのかもしれない…。さあ、急ごう」

その時、ゼノン大佐とレイカー少佐のいる中央セキュリティルームのそばで爆発音が続いた。

「アノス、どうした、何があった?ハカイオウか?」

「突然このエリアのすべての主要な監視カメラに銃弾が撃ち込まれ、カメラ映像の分析が不可能、セキュリティレベル3ランクダウンです…、原因は不明」

その時、ドン、ドンというドアをたたく音がした。

「何かあったのか?」

するとドアのすぐ向こうで爆発音がした。そしてドアが開くと、傷ついた親衛隊員が倒れこんできた。

「いったい何があった?」

すると倒れた親衛隊員の後ろから、ひらりと黒い影が入ってきた。

「貴様、ハカイオウ?!」

どこをどう通って今ここにいるのか、奴は自分から乗り込んできたのだ。それは合体した姿のハカイオウだった。ハカイオウは瞬間で中央セキュリティルームの並んだモニター画面を見渡すと叫んだ。

「そこか!」

それと同時にハカイオウの右腕がロケットのように撃ち出され、部屋の中央のスーパーコンピュータに飛び込んだ!

ズババーン!

爆発するコンピュータ!腕はまたハカイオウに戻って行く。

「私は…アノス…機能が低下しています…さらに低下…」

モニターに映った太陽神の顔がボロボロと崩れ去って行く。

「私は…」

そしてモニターには何も映らなくなった。あっという間にハカイオウは部屋を飛び出して消え去った。その間、わずか数秒の早業、吹き荒れた嵐に太陽はかき消えたのだった。

その頃中庭の脱出用ホバー、パープルエンジェルへと眠った皇帝を乗せた装甲車が走り出していた。クリフとネビルも中庭に出る。

「あのホバーに乗ってしまえばもうハカイオウにチャンスはない」

「逆に言えば、奴は必ずここで襲ってくるはずだ」

だがそんなことは親衛隊も承知のこと、ロックオンレーザーや誘導ミサイルランチャー等の装備を準備し、いつどこからハカイオウが近づいても攻撃できるように周到に準備していた。超能力者集団、王宮騎士団も中庭でハカイオウを待ち構えている。

セキュリティaiのアポロンが動作不能になり、もうハカイオウの居場所は全く分からない。そして装甲車はパープルエンジェルのすぐわきで停止、親衛隊員が取り囲む中、ドアが開いて皇帝を乗せたストレッチャーが運び出される。だがその時だった。

「…クリフさん、居ました、カイザーパレスの屋上にハカイオウが!」

「あんな高いところに?」

クリフはすぐにイズナの貫通弾を撃った。だがハカイオウはそれに気付くとすぐに屋上の奥へとさっと移動し、下からは見えなくなった。

「あんなところから銃を撃っても当たるはずもないし、あそこから飛んで近付けばロックオンレーザーや誘導ミサイルに撃ち落とされるのが落ちだ。奴は何を考えているのだ」

クリフはすぐに近くの親衛隊員にハカイオウの場所を教え、自分たちは脱出艇の動向をうかがっていた。

その時、中庭の風に吹かれた皇帝が、なぜか目を開けた。

「皇帝陛下、目覚められましたか?」

親衛隊員の言葉に皇帝は何も答えなかった。その時の瞳が妙な輝き方をしたのに気づく者はだれ一人いなかった。

「よし1発で方をつける」

ハカイオウはあのガンベルトの黒い拳銃を取り出した。そしてバックルに入っていた特別製の生命金属と超小型爆弾ででできた銃弾をすばやくこめた。そしてアレックス・レムの家族の恨み、村人たちの恨み、大自然の蟲や小鳥、あらゆる生き物の恨み、ホルムフェニックスの恨み、あらゆる恨みの念を銃弾に込めて、皇帝の姿を思い浮かべ、トリガーを引いた。

「滅せよ!」

この拳銃は体中の強い意志を1つに束ねて発射するための道具だった、銃弾は凄い勢いで飛び出した!ズバーン!!

下の風景の見えない屋上から、しかも装甲車や親衛隊員に取り囲まれて乗り込もうとする皇帝に、当たるはずもなかった。たとえ近くからねらっても確率は相当低かった。だがその特別な銃弾は、なぜか皇帝に向かってまっしぐらに、王宮騎士団や装甲車や親衛隊の隙間をかいくぐるように飛んで行った。

そうこの銃弾は生命金属でできた10番目のパーツとも言うべき「意思をもつ銃弾」だったのだ。たった1発だが、敵を撃つと言う強靭な意志を持って撃ち出され、自分の意思で軌道を修正し、自分の意思で相手の急所で爆発を起こすのだ!

ババーン!!

「ま、まさか?!陛下!」

ストレッチャーに寝たままの皇帝の胸で小さな爆発が起こった。胸から火柱が立った。確実に心臓に大穴があいていた。付き添いの医師たちがあわてて駆け寄った。

この瞬間、夢の中でクオンテクスはめまぐるしい体験をしていた。

あの6層の巨大な塔、オルガデウムが大きく揺れている。皇帝から王位を取り戻すためにやってきたきらびやかな隊群を率いる女王は輝きを増し、東の平原からオルガデウムに押し寄せる。クオンテクスの地位を揺るがす女王と命を狙うハカイオウのイメージが夢の中で1つとなり、女王の滅びよと言う言霊が、死神ハカイオウを呼ぶ。オルガデウムと同じほどの大きさになった巨大ハカイオウがズシンズシンと近寄り、そのハカイオウの鋼の拳が、怒りのパンチがオルガデウムに撃ちおろされる。ギュオオオーン!

そして拳が壁にめり込む。ドゴオオオン!拳から放射線状に亀裂が走る。地響きとともに、壁は崩れ落ち、大きな穴となるのであった。だが、皇帝は叫ぶ。

「俺は唯一無二の皇帝だ。俺は負けない、俺は不死身だ!」

その途端、穴の中に竜のような巨大な闇蟲の姿が浮かぶ。党と同じぐらいに育った闇蟲が体をうねらせて答える。

「…ならば、お前に与えよう、不死身の肉体を…!」

その言葉は大きな地震となり、その揺れとともにハカイオウは消えていく。すると穴はみるみる修復し、オルガデウムも一回り大きくなっていく…!

そんな映像が1秒ほどの間に何回もフラッシュバックする。

そして…、本当に恐ろしいことはここから始まった。

カイザーパレスの地の底から地響きが起こった。そして、生きているはずの無い皇帝が、むっくりと上半身を起こした。親衛隊員も医師達も声も出なかった。胸に爆発の痕があり、10センチほどの穴があいていて、後ろの風景が見えるのだ。

目を丸くする親衛隊員、そして医師たち、いったい何がどうなっているのか。その時、大きな地響きが起こり、大地が揺れた。地震だ。さっきよりずっと大きい。カイザーパレスが激しく揺れ、ガラスの割れる音、何かが倒れる音、そしてたくさんの悲鳴が、叫びが聞こえた。壁に亀裂が走り、空中庭園でいくつかの石像が崩れた。

すぐに、空中庭園に行け…。

揺れがおさまるとともに、突然皇帝がしゃべった。しかも血はみるみる止まり、傷口はふさがっていっく。

「皇帝陛下、すぐに医療センターを手配します!」

慌てて走り出す親衛隊員。だが、皇帝は隊員の後ろ襟をつかむと引き戻しさらに言った。

「誰にも言うな。すぐに私を空中庭園に連れて行くのだ。」

皇帝の瞳が不気味に光ると、親衛隊員はまったく抵抗することなく答えた。

「ハハーっ、すべておおせのままに」

もう1度見るともう傷口はほとんどふさがっていた。さっきの爆発は、火柱は何だったのだろう?皇帝の胸の穴からたしかに後ろの風景が見えたはずだったが?!医師達は困惑しながら空中庭園へと引き返し始めたのだった。

大ホールでは、大きな地震に招待客たちが悲鳴を上げて逃げ惑った。

「窓から離れて!テーブルの下で頭を守るのですぞ!」

意外なことにハッピーカバチョ団長がさっと飛び出し、みんなにテーブルの下に入るように指示し、サーカス団の団員やロボットたちが整然と導き、大きな被害は免れた。

しかし大ホールの高い窓のガラスが割れて降り注ぎ、招待客は窓に近寄らないよう、しばらく動かないように指示があった。するとカバチョ団長をはじめ、ロボットやサーカスの団員がガラスの破片や落下物などを能率よく片付け、清掃をはじめたのだった。

明るさを失わないカバチョ団長の姿に人々は元気づけられた。

すると突然1人の来賓が立ち上がり、応急騎士団の1人を護衛につけ、大ホールの外へと走り出したのだった。

いったいどうしたのか?それはマリア・ハネス・メルセフィス女王だった。女王があわてて出て行った時、騎士団とは別にもう1人の人影が、そっと女王を追いかけて行った。そして女王を尾行しながらどこかへ去って行った。その時カイザーパレス全体にゼノン大佐の声が響き渡った。

「緊急連絡です。2度目の地震は震度が6以上あり、カイザーパレスでも、宇宙空港でも多少の被害が出ている模様です。王宮晩さん会は最後のプログラムの途中ですが、この地震をもって終了とします。カイザーパレスでは1部壁が崩れたり、停電が起きたりしていますが、大きな崩落や火災などは確認されていません。宇宙空港でも順次発着できるように確認点検準備が進んでいます。空港までのシャトルバスは1部運転を開始しております。親衛隊員が招待客の皆様を宇宙空港までお送りできるように順次手配中です」

放送があったものの、まだ招待客を誘導するなどの指示はない。不安が募って行く招待客たち。だが、またカバチョ団長が、みんなに声をかけ安心させ、エリュテリオンのメンバーに声をかけて、避難の準備を始めたのだった。要領のいいベガクロスは、楽団員や合唱団員の安全を守るためだと言って、いち早くスノーホワイトへの乗船を準備していた。このカイザーパレスの中庭に自前のホバーバスが、あの白いアンドロイド軍団、ホワイトゴーストを護衛にしてすでに着陸したところだ。マイスターゲルバーを先頭に、早くもすぐ目の前の中庭へと避難を開始した。

だがそれ以外の人々の脱出はなかなかはかどらなかった。直接中庭に着陸できる乗り物がすぐには確保できないからだった。

「ハッピーカバチョ団長、倒れた石像などがありバスの運行は難しそうです。でも、徒歩でなら空中庭園を抜けてグランポリスのふもとまで降りて行く経路がなんとか使えそうです。そこからならシャトルバスも走れます」

避難経路の安全確認をしていた九鬼一角達からの報告があった。

「よかったよかった。エリュテリオンの英雄たちのおかげで無事脱出できそうですよ、みなさん」

英雄の砦のメンバーは避難経路を確保、ハッピーカバチョ団長の明るくたのもしい誘導に協力し、不安な招待客やムナカタの厨房のスタッフなどをカイザーパレスを出てさらにグランポリスの下まで脱出させる手伝いを始めていた。

サーカス団は、大ホールの片付けが終わると、パリス兄弟やブランかシスターズなどを先に避難させ、みんなの脱出が終わるまで災害に強いロボットを中心に、双子の美少女や海賊ピエロなどは大ホールに待機させていた。

その頃クリフとネビルは屋上に消えたハカイオウを追って、やきもきしていた。2回目の大きな地震のあと、まだエレベーターは動いておらず、復旧の見込みもついていない。階段で上がろうにも、途中に壁の亀裂剥落箇所があって通行禁止になっており、屋上までは行かれない状態だ。

「クリフさん、どうしましょう」

偵察に行っていたネビルからの通信が入る。ネビルは無理にでも屋上に駆け上がる勢いであった。冷静なクリフは状況をもう1度把握し、慎重に言葉を選んだ。

「ネビルおかしいと思わないか?」

「エ…、と、言うと?」

「さっきまでは皇帝をジェットホバーで脱出させると言う計画だったはずだ。だが、地震の後はどうだ、中庭から飛び立った機体は1つもない。ハカイオウが何らかの方法で皇帝を襲撃したのか?でも皇帝の身に何かあったような様子もない、皇帝はどこに言ったのか、ハカイオウはどうなったのか?!」

するとゼペックの通信が割り込んできた。

「現在は招待客の避難の指示しか親衛隊員の通信には流れていない。何があったのか、あれだけ騒いでいた皇帝とハカイオウのことがまったくどうなったのか分からない状況だ」

大きな地震で招待客を避難させるのが精いっぱい、被害の詳細も把握できず、セキュリティAIのアノスも破壊され、情報も交錯していた。

1番困っていたのは中央セキュリティルームのゼノン大佐であった。当初、皇帝が襲われたようだと一報が入り、すぐにストレッチャーを押していた親衛隊員に連絡が飛んだ。

「今、皇帝が銃撃されたらしいと報告が入ったが?!!」

「…はい、確かに銃弾が命中しました。ハカイオウの仕業のようです」

「なんだって?陛下はご無事なのか?」

「はい、お元気です。陛下の希望で、今、カイザーパレスに戻ることになりました」

「どういうことだ?ジェットホバーはスタンバイしているのだぞ!」

「陛下の希望で中庭を移動中です…まもなくカイザーパレスに到着します」

「まだハカイオウはつかまっていないのだぞ。カイザーパレスは危険だ。すぐ計画通りジェットホバー、パープルエンジェルに陛下を乗せるんだ」

「…ですから、陛下の希望で中庭を移動中です…まもなくカイザーパレスに到着します」

親衛隊員はその言葉を繰り返すだけだった。なにがあったのか?絶対服従のはずの優秀な親衛隊員が一体どうしたのだ?第一に銃弾が命中したのに皇帝は元気なのか?いらだちを隠せぬゼノン大佐は中央セキュリティルームをレイカー少佐に任せ、中庭へのゲートへと歩きだした。

誰も昇ってこなくなったカイザーパレスの屋上で、ハカイオウは風に吹かれ、何かを考えていた。大河メラーが悠々と流れ、警告や移籍群、遠くの青い山脈まで見渡せる。

「…おかしい…。確かにクオンテクスの神像に銃弾が命中し、爆発したはず、それはまちがいないのだが…?!」

でも同時に地震が起こり、そのあと少しすると、もう何事もなかったように静まり返ってしまった。手はず通りなら反重力バイクのブラックジェイドを呼び、この屋上から逃亡している時刻のはずなのだが…。

「…ありえないことだが、皇帝はまだ生きているのか?」

その時、ハカイオウはいくつか石像が壊れ、雑然とした空中庭園に歩きだす人影を見つけた。高い屋上からだが、ハカイオウのセンサーアイはすぐにその人物を割り出した。

「マリア・ハネス・メルセフィス女王…なぜ、こんなときに?」

後ろからは護衛だろうか、応急騎士団のダビデがついて歩いているのが見える。

「…あの男、確か王宮騎士団のリーダー…」

前回宇宙船館ブラックホークを乗っ取ってカイザーパレスに攻め込んだ時、最初に苦戦した相手がこの男だった。超能力で使う波動の件は生命金属のボディにまさかの傷をつけたのだった。

女王は身を隠すように、庭園の奥へ奥へと小道を進み、空中庭園の大河メラーに面した丘の上へと昇って行った。そこは一番古いと言われている柱の神殿。不思議な彫刻のある6本の柱が円形に建てられている。女王はその中心に立つと、上流のほうを見ながら両手を上げたのだった。少しすると上流の博物館の方からキラキラ光るミラーボールのようなものが飛んで近付いてきた。

「よかった。間に合いそうねクリスタルフォルス」

それは360度立体映像撮影用のドローンだった。

「女王様、いったい何を…?何かの記録でございますか」

ダビデの問いに女王はこう答えた。

「ええ、記録するのよ、数千年に1度の恐ろしい、しかし奇跡の映像を根…!」

その頃ベガクロスの軍団も中庭から専用ホバーバスで宇宙空港へと飛び立ち、その他の招待客も英雄の砦のメンバーにより、空中庭園の南側の階段を使い、グランポリスを下り始めていた。最後まで大ホールに残っていたサーカス団のロボットたちもカバチョ団長と空中庭園へと歩きだしていた。

「もう、これで地震がおさまってくれるといいのだが…」

サーカス団の仲間たちとゲートを抜けて空中庭園に出ると、涼しい風が吹いてきた。大活躍だったカバチョ団長も、あの精巧なカバのマスクを脱いで、素顔を風にあてて汗をぬぐっていた。その時、庭園の隅から二度と聞きたくなかった声が聞こえてきた。

「おやおや、こんなところでお会いできるとは奇遇ですな。ペリー博士じゃありませんか」

それはミイラ男を探しに空中庭園にやってきていた連邦戦略研究所のバルガスだった。ミイラ男ロボットラムセスはすぐに巨石の下に落ちているところを発見され、共生命令により再起動し、誤作動もなおり、空中神殿の西側の階段のゲートを開けて、間もなくここに上がってくると言う。それでここで待っているとまさかのペリー博士を見つけたらしい。

ペリー博士はすぐにカバのマスクをかぶり、人街が枝と手を振った。もちろん声も出さなかった。

「はは、今さらマスクをかぶっても遅いですよ。ペリー博士、あなたに会いたくてどれだけ探したことか。まさかサーカスをやっていたなんて?!」

ハッピーカバチョ団長は、すぐにサーカスの仲間と何事もなかったようにそこから歩きだそうとした。だが、なぜかバルガスとやってきた親衛隊員が行く手をふさいだ。

「待ってくださいよ。あのヴェルヌ博士の事件の時以来ですな。私ですよ、プラテオ・バルガスですよ。こんな偶然はめったにない。今日こそは、あのレスキューロボットの行方を教えてほしいものですねえ」

カバチョ団長は自分は違うと手をふって、無理やり歩き出した。

するとなぜか親衛隊員の一人がカバチョ団長の腕をつかんで離さない。すごい力だ。カバチョ団長がつぶやいた。

「…この親衛隊員、本物そっくりのアンドロイドか?」

「さすがペリー博士はすべてお見通しだ。親衛隊員の中にはうちが開発したアンドロイドが何人か混じっていましてね。いざとなれば、私の命令を優先してきくわけですよ」

「貴様は何を考えている。今は大きな地震で大変なんだ。みんなを安全に避難させなきゃならん、わかっているのか?!」

「大きな地震ねえ、だからいいんじゃありませんか?、監視カメラも正常に動いていない、親衛隊も避難やハカイオウで手いっぱいだ、この空中庭園でもいくつも石像が壊れているが、あちこちで小さな故障や事故が多発していてゼノン大佐も右往左往している。あなたを拘束し、連れ去ることも今なら可能だ。」

「バルガス、貴様」

だがその時、カバチョ団長の危機を察知し、双子の美少女、アリスとアリエスがメカ兵士に体当たりした。

「団長、逃げて!」

走り出す団長。だがバルガスが何か合図すると今度はありすたちの悲鳴が聞こえた。

「一人で逃げるつもりですか、ペリー博士、言う事を聞かなければ、この失礼な娘たちの命は保証できないねえ」

なんと卑怯なことに、メカ兵士の2人でアリストアリエスを抑え込み、3人目が横からマシンガンをつきつけていた。

「さあ、早く戻ってきた方が身のためだ。…そうそう、わかってるねえペリー博士」

団長はカバの衣装のまま、引き返してきた。

「それでいい、そして礼のレスキューロボットの行方を言えばいい。この娘たちはすぐに帰してやる」

「それは…」

困り果てる団長を見て、アリストアリエスが意外なことを言い始めた。

「私達は、人間そっくりに作られたアンドロイドなんです」

「団長ももちろん知ってます。だから撃たれても平気です」

するとバルガスは2人をじーっと見つめてから言った。

「案外本当かもしれない。サーカス用のアンドロイドにしちゃあ、よくできているな。では、これならどうだ」

バルガスはそう言ってマシンガンを持っていたメカ兵士を自分の近くに並ばせ何か合図した。すると胸の真ん中がパカッと開き、キャノン砲のようなものがつきだしてきた。

「おお?!」

「メカ兵士の対ハカイオウように取りつけたエネルギーボムキャノンだ。相手がアンドロイドだろうとぶち壊し、スクラップに変える。さあどうするペリー博士。レスキューロボの行方を教えてくれ。私は約束する、もしレスキューロボットが見つかれば、必ず平和のために役立てるとね。どうかな」

「ウグググ」

バルガスの本性を良く知っているカバチョ団長、いやペリー博士はよくわかっていた。

こいつは平気で嘘をつく。平和のために利用すると言っていたが、戦争に利用しないはずはない。バルガスもペリー博士の強い意志は良くわかっていた。見せしめにアンドロイドの1台2台、壊さないと脅しにはならない…。

「レスキューロボットはどこだ。早く言わないとかわいいアンドロイドは二度と動かなくなる。まあ、サーカス用のアンドロイドなど安いものだがな」

「科学は人々を助けるため、幸せにするためにあるんだ。戦争のために使う貴様のような奴には決して渡さない」

「早く言うんだな。5秒だけ待ってやる。…5、4…」

「ちょっと、ちょっとだけ待ってくれ」

「待てだと?居場所を言わなけりゃお話にならない。…3、2、1…やれ」

「待てと言ったろう?!」

エネルギー砲を撃てとバルガスの手が振り下ろされた。

「やめろ、やめてくれー!」

だが、アリストアリエスを守るように、な、なんと、カバチョ団長が飛び出した!!

ズババン!

「カバチョ団長!」

アリストアリエスの悲鳴がこだました。カバチョ団長は2人の代わりにエネルギー砲を胸に受けて吹っ飛んで転がった。

「カバチョ団長!」

地面に転がったカバのマスクはピクリとも動かなかった。海賊ピエロやタコの怪物ボブオクトなどサーカス団のロボットたちはまさかのことに、すぐカバチョ団長の周りに駆け寄ってきた。アリストアリエスが心配そうにすぐに抱き起こした…。アリストアリエスは噴水の横のベンチに団長を寝かすとカバのマスクを外した。すぐに海賊ピエロも駆け付け応急手当てをはじめた。だがカバチョ団長は相変わらず動かない。

バルガスはまさかの結果に困惑していた。命の無いアンドロイドを人質に脅したつもりがまさか博士が彼女たちを守ろうとするとは?!…。

「カバチョ団長!どうなのピエロのガレオン、団長は助かるの?」

アリストアリエスの呼びかけに、応急手当をしていたガレオンが何かを言おうとした時だった。

「これはたんなる事故だ。自分から飛び出してくるとは…おもわなかった。ロボットでも粉砕するエネルギーボムキャノンの直撃を受けては、人間は助かるはずもない…。あとはメカ兵士の記憶を書き換え、ハカイオウが現れてキャノンを使ったと言う事にしておこう。その争いに巻き込まれたと…。ペリー博士は残念なことをした。だが、サーカス団の関係を調べればレスキューロボットの隠し場所もわかるはずだ」

バルガスはメカ兵士とともにさっさと逃げ出そうと歩き始めた。

だがその時、バルガスの前に、サーカスロボットたちが立ちふさがった。ニコニコしながらあの海賊ピエロが進み出た。

「ごまかしても無駄だヨオオオン。あっしの目は、高精度記録用カメラになってるのだ。あんたの非道な行いはすべて記録したヨオオオオン」

もしや、このピエロもアンドロイド…?だとしたら…。

プラテオ・バルガスは通信端末に何か話しかけた。すると、一人、また一人とメカ兵士が集まり、空中庭園の出入り口を固め、さらにこちらに近づいてくる。気がつけば最初のメカ兵士と会わせて7人ほどになった。みんなにたような無個性な顔で全員がメカ兵士らしい。皇帝の紋章のついた戦闘スーツと武器を持ったバルガスの犬だ。

バルガスはメカ兵士の前に立ち、サーカス団に叫んだ。

「お前たちサーカス団のロボットをすべて拘束する。全員の記憶を書き換え、正常に戻す。さあ、お前たち、こっちへ来るんだ」

だがロボットたちは全く動かなかった。

「何をしている。早く来るんだ。反抗をするならそこに転がっている石像のように破壊するぞ!さあ、お前たち、こっちへ来るんだ」

だが、ロボットたちは一人として動こうとしない。誰もバルガスのところに進み出る者はいなかった。

「頑固な奴らだ。動きたくないなら、動かなくてよい。これからこのロボットたちに、エネルギーボム弾の一斉攻撃を行う。こいつらを炎上させ、記録カメラのメモリーもすべて灰に変えてやるのだ。なあに、サーカス団のロボットなど替えはいくらでもある」

メカ親衛隊員が1列に横並びになり、バルガスの前に進み出た。

そしてあの胸から小型のキャノン砲を出し、一斉にロボットたちに向けたのだった。

すると、海賊ピエロがつぶやいた。

「カバチョ団長、ごめんなさい。約束を破りますヨオオオオン」

サーカス団危機一髪!今何かが起ころうとしていた。

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