23 闇蟲

「…グレイシス将軍、状況は以上です」

 偵察に行っていた九鬼一角から報告が入る。

「よし、狼男や怪生物の討伐隊を早速送り込むこととする。モリヤ・モンドは打ち合わせ通り、精鋭部隊を率いて空中庭園に迎え。王宮騎士団と皇帝親衛隊との共同作戦となる。サンダーボルト・ジェニーよ、やはりアマゾネス部隊のアーチェリーが必要なようだ、用意ができ次第、モリヤ・モンドの後を追え。ではセレニアス老師とリクウ師範よ、決勝戦の審判を任せたぞ」

 そして、グレイシス将軍は司会のアイリーンに決定事項を伝えると自分の席に戻った。

 狼男とスパイパーの騒ぎを鎮めるために、モリヤ・モンドをはじめとして、アリオンやサンダーボルトじぇに、ロック・ゴードン・ムトウなど、そうそうたるメンバーが大ホールを後にして空中庭園へと向かって行った。

 狼男騒ぎはあったが、建物の外に出たと言う事で、もう闘技場となった大ホールにはみんなが集まってきていた。海賊王フラッシュギラード、魔薬王ベガクロス、マリア・ハネス・メルセフィス女王も席についていた。そしてそこに少し遅れて、やってきたのが、皇帝クオンテクスだった。親衛隊に付き添われ黙ってはいってきた。事件があったこと、頭が時折痛くなることなどは少しもにおわせずに何事もないように悠然と入ってきた。皇帝がまた姿を現したということはハカイオウ出現のリスクも高まる。クリフもいつものサーカス団のガンマンショーの、西部劇の衣装に着替えて、入場、闘技場の裏のサーカス団の輪に加わった。ネビルはもっと皇帝の近く、闘技場のすぐ前で、審判の手伝いを装って周囲を見張っていた。

「…というわけで、モリヤ・モンドを始めエプシロンの精鋭や出場選手たちは狼男退治に空中庭園に向かっております。そのため第1試合はfガールズ対ヴァルマ教授、剣士フリードとさせていただきます」

ええっ最初から暗黒剣法とアイドルユニットの戦い?!、観客はざわめきだった。

まずテーマ曲とともに鮮やかな武道アーマー姿のfガールズが入場だ。メリッサの兄ケントは地下通路で闇撃ちにあい命を落とした。リンダの姉クレアハ、まさかの媚薬で恋愛感情が湧きあがり、逆転負けを喫した。敵の名前はフリード、どこか陰のあるしかし整った顔立ちの貴公子だ。がその黒幕はヴァルマ教授に違いはなかった。相手に憎しみや怒り、恋愛感情などがおこればその感情の揺らぎが、胸の中にいる闇蟲の餌にされてしまう。闇蟲はますます育ってさらに暗黒剣法は威力を増すのだ。そしていよいよ教授とフリードの入場だ。

「おおおっ!」

観客がどよめいた。逆立つ髪、手元で鈍く光る鉄仮面、金色の瞳と銀色の瞳。そして何よりも、2人が動くその周囲には黒いオーラが立ち上っている。

「お前の兄さんもヒット曲が出たところだったのに残念なことをした」

フリードが突然メリッサの神経を逆なですることを口走った。だが聞こえなかったように無視するメリッサ。

「ほう、リンダか…。目のあたりが死んだ姉のクレアにそっくりだな」

リンダもいっさい聞こえないように冷静に振る舞った。

観客の誰もが、こんな対戦は無茶だ、Fガールズは殺されると直感した。だが、そこで教授から意外な提案があった。

「聞くところによると、2人のうち1人はまだ本格的に武道を習ってから日が浅いと言う。どうだろう、ここは私までが出ることはないだろう。フリード一人に任せたい」

突然の提案に審判も観客も顔を見合わせた。協議の結果、その提案は認められたが、実はこの提案こそが教授の作戦なのであった…。

まず教授は小さな香水瓶を取り出してそっとフリードにふりかけた。これこそが、リンダの姉クレアをおとしめた媚薬であった。

だが今回fガールズは万全の装備、ホルムフェニックスの武道アーマーは戦闘中一切外気を直接吸い込まない呼吸装置付きだった。武器は殺傷能力の無い刃のない訓練用の物が用意されていた。

「…予定時間に成りました」

アイリーンの声が響く。いよいよ時間だ。鉄仮面を装備するフリード、みるみる人格が変わったように猛り、威圧感が増して行く。

試合開始とともに剣を振り上げ、疾風のように突進、別人のように荒れ狂うフリード。

「決して、負けない!!」

2人の決意も鉄のように堅い。リンダが持つのは銀の紋章のついた聖なる盾と破邪の剣、メリッサはあの鎖が伸びたり刃が飛び出るマジックヌンチャクだ。フリードのロングソードが容赦なく振り下ろされる、リンダが中心になって盾と剣で対抗、隙を見てメリッサがマジックヌンチャクで強襲をかける。

振り下ろされる暗黒の剣、受け止める盾、閃くヌンチャク渦巻く黒いオーラ、一進一退、

予想外に見応えのある実力伯仲の試合になって木た。

「ほほう、さすが訓練されておる。思った以上に心の乱れがない。フリードのつけいる隙がないな…」

そうなのだ。セレニアス老師たちに精神的にも訓練され、挑発にも乗らず、心を乱さず、いつも平常心で戦う事を身につけた2人に死角はなかった。暗黒剣法は、相手の怒りや憎悪など心の揺らぎを闇蟲の力に変えるのが強み、だがそれができないのだ。

「仕方ない…でも、暗黒剣法にはこんな方法もある…」

すると、そこで、教授があの闇蟲のフラスコをこっそり取り出し、気付かれずに呪文を唱え出した。

「相手の心が乱れないのなら、直接このフラスコから暗黒のパワーを送ればよい」

フラスコの中の暗黒物質生命体が渦巻き、ほわっと青白く光る。

その途端、鉄仮面が震え、フリードの胸の中に育ち始めた闇蟲がパワーを得てぐぐっと動き出し、フリードの体を包む暗黒オーラも一回り大きくなる。

「フフフ、ハハハハ…!」

鉄仮面の中から不気味な笑い声が漏れてくる。パワーを得たフリードは突然リンダにその暗黒の剣を笑いながら振り下ろす。

「うぐ、まさか?!」

なんと言う事、暗黒の剣を受けた聖なる盾が割れ、銀の紋章が真っ二つになったではないか?!刃のない訓練用の武器でなぜこんなことが起きるのか?!勝ち誇ったフリードは、盾の無いリンダに、そのまま暗黒剣の大2撃を撃ちおろした!

「なんの。ええー?!」

なんと破邪の剣までが黒いオーラに根元からポッキリと折れ、飛んだ刃が床で金属音を響かせた。

これが暗黒剣法…?!

「フフフフハハハハハ」

そしてフリードは、リンダののど元に暗黒の剣を突きたてるポーズをして、また笑ったのだった。もう、盾も剣もない、しかもフリードの剣はなぜか金属を斬り裂くほどの威力を持ち、武道アーマーでさえ斬り裂くかもしれない?!恐怖が突然リンダの胸を襲った。不安と緊張で、メリッサも足がすくんだ。

そしてこのマイナスの感情の波動を闇蟲が喰い、黒いオーラをさらに強くしていく。

「もうひと押しだ」

教授はそうつぶやいてほくそえんだ。閑却もざわめきだす。このままでは目の前で大惨事が起きかねない。だが、審判のセレニアス・クロノも、リクウもじっと見つめたまま動こうとしない。その時だった。メリッサの透き通るような歌声が聞こえてきた。心が乱れた時の秘作だった。あの歌、キンドラ・マキンドラ、光の種の歌だ。

昔賢者はこう言った。

雨は大地を削りとり、すべてを流し、無に還す。でもだからこそ、木は芽吹く、雨が命を育て行く。光の枝が伸びていく。

もちろん伴奏も何もない、でもその澄んだ歌声が、リンダに自信を取り戻し、歌っていたメリッサの不安もとりさって行った。

「リンダ、反撃よ」

メリッサがリンダ愛用のマジックヌンチャクをさっと投げた。バシっと受け止めポーズをとるリンダ。そして二人でマジックヌンチャクを煌めかせながら、ハモって歌いだした。

「でも今日、雨は降り続き、山は崩れ、道途切れ、すべては押し流されてゆく」

「黙れ、歌をやめろ!」

フリードが暗黒の剣を振り回しながら突っ込んできた。2人はひらりとかわし、さらに歌を続ける。

「賢者キンドラ・マキンドラ、私を導いておくれ。賢者キンドラ・マキンドラ、恵みの雨は、どこに降る。この土砂降りをつきぬけて、虹の橋を渡るから」

「トァー!」

左右に分かれながら暗黒の剣をかわす2人。

「グオオォッ!」

2人の呼吸ピッタリのダブルヌンチャクがぐっと伸びて同時にフリードを襲う。痛手を受けて後ずさりするフリード。

まさかの弟子のピンチに、またヴァルマ教授は、例のゼルマ・ケフの紋章をフラスコの前に逆位置でかざし、もっと強い呪文を唱え始めた。黒いオーラが大きく渦巻き、フリードは暗黒の剣を大きく振り上げた。黒いオーラがフリードの後ろで渦巻き、闇のパワーが高まって行く。みんなはメリッサ達の戦いに注目していて誰も教授には気づかない…、いや一人だけがそのフラスコと紋章に疑いを持った。そう、誰あろう、マリア・ハネス・メルセフィス女王だった。

「うぬ、まさか、命がけの真剣勝負に卑劣な手段を?!」

女王はとっさに、自分の首から下げたルパートクリスタルのゼルマ・ケフの紋章のネックレスを教授に向けて念を込めてつぶやいた。

「闇を払いたまえ!」

その瞬間、女王の手の紋章が聖なる光を放ち、教授の逆位置の紋章ははじけ飛んだ。

「う、しまった?!」

その途端、あの暗黒物質と霊的生命から作られた暗黒生命体を入れた精妙なるフラスコは、教授の手を離れ、床に落ちて砕け散った。あちらこちらに飛び散って行く暗黒生命の黒い雲…!暗黒波動が乱れ飛び、フリードは混乱し、集中力が大きく落ちる。

「今よ、リンダ!」

「はーっ!!」

迎え撃つフリード、だがロングソードは空を切る、2人はよけながら体を反転させそのまま別々の方向からマジックヌンチャクを撃ちこんだ。

「トァー!」

二人のマジックヌンチャクが、同時にフリードに命中した。前のめりに片膝をつくフリード!

「勝負あり、Fガールズ!」

セレニアス・クロノ老師がメリッサとリンダの勝利を告げた。

リクウはほほ笑んでおおきくうなずいていた。

「やった、やったわ!」

抱きあって喜ぶ2人。そして2人は暗黒剣法の使い手を指差して叫んだ。

「暗黒剣法は最強ではなかった。もう二度と私達の前に姿を現さないで!」

フリードは仮面をとり、ただただ押し黙っていた…。教授は不敵に笑った。

「いいだろう、君達の勝ちだ。潔くこの場を去ろう」

そして2人は、すたすたと歩いてどこかへ消えて言った。

だが闘技場から観客席を見た時、リンダとメリッサは驚く、何人もの人が次々と倒れ、苦しそうにもがいているではないか。

「どうした、なにがおきたのだ?!」

舞台裏からガンマンの衣装をつけたクリフが飛び出してくる。だが、事件を起こしたヴァルマ教授はあっという間に立ち去り、もうどこにもその姿はない。

「毒ガスか?!黒い渦が会場のあちこちに広がっている!」

逃げ出す招待客たち。割れたフラスコから広がった暗黒生命体は小さな黒い渦となって、いくつもいくつもかいじょうに飛び散って行った。

フラッシュギラードの胸に、ベガクロスに、グレイシス将軍に…、さらにネビルや飛び出したクリフの胸に、たまたま座席にいたシェフのムナカタ、そして皇帝クオンテクスの胸にも…!!そう、大勢の人たちの体の中に闇蟲が入ってしまったのだった…!!

その頃、空中庭園につながるゲートの内外で歯、王宮騎士団と英雄の砦の共同作戦が動き出していた。ダビデの号令が響く。

「よし行くぞ!氷の剣のシオン、フローズンストームで一気に追い出すのだ!」

氷の剣が青白いきらめきで振り下ろされる。建物の奥から強力な冷気が吹き込む。

「炎の剣のフレデリック、雷の剣のエルディーン、ファイアウォールとサンダーシャワーで、奴らをゲートの外へと導くのだ!!」

あの蜘蛛と蛇のバイオクリーチャー、スパイパーが冷気に追い出されて一斉に動きだす。いつの間にかさらに数を増している。押し寄せる炎の壁が、雷のシャワーが、確実にゲートの外へと追い出して行く。

「よし、ゲートを封鎖白、もう1匹たりとも中に入れるな!」

思い扉が急いで閉められていく。スパイパー達はあの広大な空中庭園に広がりだす。石像に、噴水に、大理石の柱に、太陽神の壁にカサカサと肺昇って行く。

「アーチェリー用意!」

すると待ってましたとばかりに、あのサンダーボルトジェニーがゲートから飛び出してきたスパイパー達を狙う。あの筋肉美の美女たちがずらりと並んでアーチェリーに矢をつがえる。即座にアマゾネス軍団の弓矢隊に号令がかかる。

金髪のエルフのいみょうでしられる弓の名手ジェシカフレアが、青い瞳のスピネル・ポーラウルフが、力強く弓を引く。

「発射!」

ジェニーの一声で、一斉に矢を射る。そして矢の雨が、次々にスパイパー達を串刺しにしていく。

「第2弾発射!」

次々に射抜かれるスパイパー達。だがその中の1群がヒュンとジャンプして矢をかわし、

10匹ほどが、石造の陰に逃れていた。互いにおしりから伸びる蛇の首を同じようにゆらゆらと動かし何か合図を送っているようであった。その間も王宮騎士団とアマゾネス軍団の共同作戦は続いていた。炎の壁や冷気の渦、雷のシャワーが、逃げようとするスパイパーたちを1か所に追いこみ、アマゾネス達の矢が餌食にしていく。

だが、スパイパーたちがかなり数を減らした時、なんとあの隠れていた奴らが脱皮を始めたのだった。

「シュー…」

脱皮したそいつは8本の足を建てて立ちあがった。

あの蛇のような首も体の中心にまっすぐ立って、蛇の頭も吸いつく唇と独などを流しこむ牙だけに進化していた。ちょうどそれは、ブルゴーニュ産のなで肩のワインボトルのてっぺんに、牙の生えた人間の唇がのっかっているような姿だった。

スパイパーは人間の唇を持った、リップパイパーに進化し、より早くより高く、襲いカカッテキタのだった。

「危ない、気をつけて!」

ワインボトルの下半分は、8本の伸び縮みする足だった。立ち上がったリップパイパーは、移動速度、ジャンプ力とも格段に増し、アマゾネス軍団に迫ってきた。

「キーッ!」

リップパイパーがジャンプして、足を広げて襲いかかってくる。伸び縮みする足の内側にはタコのような吸盤が発達し、8本の足の真中にある本当の口には鋭い歯が並んでいた。

「キャーッ!」

今度は、一度つかまれたら引きはがすのは至難の技だ、長い首の先の唇のような部分ですいつかれると神経毒とともに卵を注入されるとわかってきた。こいつらの本当の口は腹にあり、この唇のような部分は卵の注入器なのだ。さっと逃げていくアマゾネス軍団。

「気をつけて!さっきより、ずっと危険よ!」

ジャンプして飛びかかってきたリップパイパー!!

「キャーっ!」

だが、猛然と飛び込んできたサンダーボルトジェニーが、アックススピアで真っ二つにした。

「そいつらは、俺達に任せろ!」

走ってきたグレートソードのアリオンのあの大きな剣が確実にリップパイパーを切り刻んで行く。危なかった?!

アマゾネス軍団がスパイパーやリップパイパーと戦っている時、空中庭園の噴水の前では狼男と英雄の砦のメンバーとで真剣勝負が行われていた。九鬼一角と舞姫ジュネのところに一人の若い女が近づいてきた。

「…ジュリ、武道アーマーはちゃんと着ているの?」

ジュネの呼びかけに遅れてやってきた妹はしっかりと答えた。

「楽団員の正装の下に着こんでるわ。メルパの作った最新の奴をね」

「ならば早い、すぐ始めましょう」

いよいよ狼男との対決だ。だがその真剣勝負を邪魔するものが乱入してきた。

「ウオオーン!」

包帯をぐるぐる巻きにした巨体が近付く。

ダアーン、バキューン!

「ウオオーン」

「やはり銃弾は受け付けないか、よし火炎放射攻撃だ!」

あの暴走ミイラロボット、ラムセスだ。親衛隊の銃弾も受け付けず、どうにも手がつけられない。

今度は一斉に親衛隊の火炎放射がミイラ男を襲う。だが特殊な包帯は、高熱に焦げたりはするものの燃え上がる事もなく、倒すことはできない…!

すると控えていたモリヤ・モンドが、ロック・ゴードン・ムトウを呼んで走り出した。

「ムトウよ、今あいつに来られるとすべてぶち壊しだ。力ずくで止めるぞ」

「よっしゃ!」

2人とも強力な武道アーマーを着用している。特にロック・ゴードン・ムトウの超合金のメタルアーマーは、肩幅の広さも凄く、全身、金属の塊のような迫力だ。

「ウオオオーン!」

暴走する重量級のミイラロボット、だがムトウは大地を揺るがし突進だ。

「岩石気巧の術」

体を岩のように堅くし、低い位置から猛烈なタックルを食らわした!

ガッツーン!

ものすごい音がした。な、なんとあの重量級の超合金ボディのラムセスが、真後ろに吹っ飛んだ?

「ウオオーン!」

ラムセスは負けじとあの怪力で思いっきり殴りかかる。だが、なんと言う事、ムトウの熱い胸板はそれをはじき返したばかりか、さらに強烈にもう1発ガッツーン、ボディーアタックだ!!ミイラ男はバランスを崩し、もんどりうって空中庭園の端までよろめき、ぶつかった、石でできた手すりが崩れかけた。だが、思わぬ衝撃をものともせず、再び立ち上がり、こちらに向かってくるラムセス…。

ドドドドッ凄い勢いで向かってくる!

「ウォオリャア!オクラホマす田んピートだ!」

すると突進してくる勢いを利用し、そのまま大きく持ち上げ投げ飛ばし、岩石のような体で下敷きにして押しつぶす、ロック・ゴードン・ムトウ、

空中庭園が大きく揺れるほどの衝撃だった!だが、ミイラロボットは倒れない。再びと立ち上がってみせたのだ。しかしそこに勢いよく向かってくるもう一つの影があった。

「ドリャアアッ!」

黒い髭が波打つ。強烈なラリアットがミイラ男の首に食い込み、吹っ飛んで倒れたところに強烈なニードロップ、そしてふらふらっ立ち上がったところに、最後は女装をつけたモリヤ・モンドのとび蹴りがとどめとばかりにはいる。伸びのあるしなやかな、しかし巨漢のモリヤ・モンドの全体重を乗せた突き刺さるような蹴りだった。

「グオオオオーン!」

人間わざとも思えなかった。ラムセスは崩れた手すりからそのまま裏庭へと墜落して行った。さすがにもうしばらくは邪魔もできまい…。

「さあ、ジュリ、今度こそ行くわよ」

姉のジュネの指さす方を見る。噴水の裏の小さな滝の影に、傷をいやし、体力を温存しながら隠れている怪物の気配がある…。狼男だ。

九鬼一角が静かに言った。

「ガロア博士が連れてきた男のうちの1人、サム・グリーンだそうだ」

その名前を聞いた途端ジュリは震えた。自分が助けようとしていた男の名前だ…!

「ジュリ、あなた、ガロア博士のところから若者を救いだそうとして裏の仕事をしたでしょ。なにがどうなったのかは知らない。でもこれが結果よ」

ジュリは噴水の裏をじっと見つめた。強烈な憎悪と獰猛さがひしひし伝わってくる。九鬼一角が言った。

「奴は医務室で2人、移動中に1人、空中庭園ですでに3人の犠牲者を出している。しかも戦いながら体表面に硬質の外骨格を発達させ、親衛隊の銃弾も致命傷を与えられない。早く仕留めなければ、どんどん凶暴な殺戮マシンへと進化してしまうのだ」

ジュリは変わり果ててしまったサム・グリーンの方をじーっと見つめた。そして1すじ涙を流しながら言った。

「ごめんなさい、あなたを救う事ができなかった…」

そして姉のジュネに言った。

「きっちり片をつけます」

「やつも傷が癒えてきた。チャンスは一回だけだ。あの跳躍力、奴は次はこの巨石を飛び降りて逃げだすだろう」

「首や関節など、外骨格の無い部分を正確に狙わないと、逃げられるのがおちね」

すると九鬼一角が、青と赤の腕輪のようなものを袖から出して渡した。見ると青い腕輪と赤い腕輪は鋼線のようなものでつながっている。

「…これを使ってみるか?」

姉と妹は無言でうなずいた。九鬼一角がそっと歩きだした。

「噴水前に追い出す…」

あっという間に九鬼一角は空中庭園の奥ヘト姿を消した。ジュネとジュリは、二つの腕輪を1つずつ手に持ち、2人並ぶようにして噴水へと歩きだした。

バアーン、バン、ババーン!

爆裂玉がわずかな時間差で何箇所かでさく裂した。仕込刀を持って小走りに九鬼一角が走るのが見えた。

「ガルル!」

激しい音がして、狼男が飛び出してきた。計算通りの位置だ。

だが、狼男の形状はさらにおぞましく凶暴に進化指定た。首の左右に大きなコブができ、そこに大きな口が開き、3つ首のケルベロスのように見えた。

ジュネとジュリが2足り並んで正面から近づき、そして直前で左右にさあっと開いた。2人の間を突破して走り抜けようとする狼男、だが、2人の腕輪に仕込まれた特殊な鋼線が、姉の腕輪からスルスル伸びて狼男の腕や首に絡みついた。あわてて外そうともがく狼男。だが姉のジュネがその動きを予測しながら片方の腕輪を持って右に左に大きくう動く。妹のジュリはその間鋼線を引っ張りながら、動きを封じて行く。

「勝負!」

ジュリが鋼線をピーンと張ったタイミングで自分の腕輪のスイッチを押した。この暗器の名前は高周波鋼線、目に見えないほどの特殊な刃んのついた鋼線が1秒間に数千回の振動を起こし、触れたものを切断するのだ。

「グァウオオオ!」

狼男の左腕が根元からすぱっと落ち、首のりょうがわにできた大2、第3の首がちぎれ飛んだ。狼男はもとの首が落ちる寸前で外骨格に光線をひっかける世王にして抜けだし、落ちた左腕を拾って走り出した。そしてだんだん速度が落ち、そのまま空中庭園の手すりを乗り越えると1度こちらを振り返り、何とも言えない目でジュリを見た。そしてそのまま体が傾き、真ん中の首が千切れ、ジャンプできずに空中庭園の端から墜落し、巨石と巨石の間に挟まって動かなくなった。

ジュリは何も言わずに振り向きさえせずにその場から立ち去った。アマゾネス軍団のスパイパー胎児も1段落し、空中庭園に出てきたスパイパーやリップパイパーで、もう動いている個体は見当たらないようであった。サンダーボルトジェニーは撤収命令を出し、アマゾネス軍団は引き揚げ始めた。

だがその時、最後の1匹のリップパイパーが、体を丸め、倒れた石像の下に潜り込んで身を隠した。そしてそいつはじっと動かず、最後のチャンスを狙って、何か目的を遂げようとしていたのだった…。

ネビルは夢の中で長い時間もがいていた。目の前には魔王が済むと言う尖塔がそびえ、長い螺旋階段を上って上に行こうとしていた。1階では皇帝の紋章を身につけた屈強な親衛隊兵士を殴り飛ばし、2階では武装したテロリストの傭兵をたたき落とし、3階ではあのビーストフォームの改造人間を、取っくみ合いの末回し蹴りで吹っ飛ばした。食い込んだ牙が痛む。思い足を引きずりながらさらに螺旋階段を登る…。次の階では思わぬ敵が待っていた。

「お前…ハヤテ?!」

次の部屋で待っていたハヤテは何も言わず殴りかかってくる。強い。蹴りもかわされる。ダメだ。

「ハヤテ、何でお前と戦わなければならない?」

するとハヤテは苦々しい表情ではっきり言った。

「お前が弱いから、弱すぎるから、もっと強くするためだ!」;

俺が弱い…そうか…俺はまだまだ弱い…。

「もっと強くなりたい、もっと強くならなければ、もっと強く…」

ハヤテの突きが、蹴りがきれいに決まる。だめだやられっぱなしだ。俺は弱い…もっと強くならなければ!

苦しい、もがいてももがいても、どうしたって勝てない…。その時だった。

「何言ってるんだ。お前は十分強い、自信を持て、厳しい訓練をやり遂げたではないか!」

言い聞かせるような優しく力強い声だった。

「そうだ、俺は強い。毎日激しい訓練を積んできたじゃないか…!」

そこでハっと目が覚めた。ネビルは大ホールのシートの上で横になっていた自分に気付いた。声の主は神泉寺の師範リクウのようだった。隣にいたセレニアス老師がおごそかに言った。

「はての無い野望や底しれぬ欲望、憎しみや怒りなどの精神のマイナス面だけではない、そなたのような強くなりたいと言う前向きな願望でさえ1歩間違えば、闇蟲のごちそうになる。よくぞ帰還した。もう平気だ。そなたの心から、闇蟲は消え去った」

よくわからなかったが、なぜか心がすがすがしさで満ちていた。たちあがって回りを見回す、たくさんの人が大ホールのシートのう飢えで横になっている。

「ネビル、お帰り」

少し離れたところから、クリフがニコニコしながら歩いてきた。

「クリフさんは平気だったのですか?」

クリフはうなずきながら言った。

「危なかった。だがぎりぎりのところで、かろうじてなんとか帰ってこれた」

リクウの話しでは、クリフは誰の助けも借りずに一人で帰って来たという。

「良くわからないが、人によって症状が大きく異なるようだ。同じように黒い渦を吸い込んだのに、ギラード船長や、カバチョ団長、シェフのムナカタなんかはほぼノーダメージだ。すぐに目覚めて起きてきたらしい。女王の話じゃ、ギラード船長みたいな無邪気な心が、闇蟲は1番苦手らしい。サーカス団でもナイフ投げのキールやパリス兄弟、ブランかシスターズなんかは中くらいかな?、さっき起きてきたばかりだ。ネビル、君は少し重いほうで心配していたんだ」

「僕はひどい悪夢を見ていましたよ。どのくらい苦しんでいたんですか?」

「ははは、それでも大したことはない。12、3分ってとこみたいさ」

ヴァルマ教授の暗黒剣法と戦うために研究していたセレニアス老師やリクウ、グレイシス将軍、そしてマリア・ハネス・メルセフィス女王は闇蟲を心から消し去るためにあちこちを回って治療を行っていた。

精神感応術やテレパシーを使って心をのぞき、心に話しかけて自分を取り戻させるのだと言う。

クリフも最初、謎の犯人を追って、高層ビルのエレベーターを昇っていた。ドアが開くとともに銃弾が飛んでくる。クリフは銃弾をかわしながら廊下を進み、イズナで1人、また1人と敵を仕留めながら突き進む。だが敵のボスは隠しエレベーターで屋上へ逃げると、そこからヘリコプターで脱出を試みる。今日風に吹かれながら夜の屋上で銃撃戦が展開し、飛び立ったヘリコプターは、ひだるまに包まれながら墜落、だがボスは飛び降りてエレベーターで今度は地上へ逃げていく。やっと追い付くと走り出す自動車、クリフもゼペックのサイパンに飛び乗り、夜のハイウェイを突っ走る。トンネルを抜け、ライトアップされたタワーブリッジを抜け、気がつけばボスの車は倉庫街へ。追跡はどこまでも終わりなく、心の休まる瞬間はどこにもない。ボスの車と抜きつ抜かれつのカーチェイスの末、ボスの車は倉庫に突っこみ、大破して炎に包まれる。やっと終わったか…。だがボスは炎に包まれたまま平然と車から降りてこちらへと歩いてくる。気がつくと、さっき拳銃で倒したはずの部下たちも、あちからもこっちからも出てきて迫ってくる。もう銃を撃っても倒れるどころか平然と笑っている。ボスは地獄の業火の向こうから報復白と命令を出す。立場が逆転し、今度はクリフは誰もいない真夜中の倉庫街をただただ逃げ続ける。

わびしい照明、響く足音、走っても走っても何かが追ってくる。廃墟のような工場あとにつっこんでも、まだ闇の中から気配が追ってくる。

「くっ、しまった」

錆びた大型機械の角を曲がるとそこは行き止まり。後ろの闇の中からおぞましい何かが迫ってくる。もうだめだ、追い詰められた時だった。

その時、どこからかさざ波の音が聞こえてきた。ふと見ると目の前にドアが現れた。ノブを握ってゆっくり開けると、透き通った光とともに海の見える丘が広がっていた。心が一気に光に満ち溢れて行く。

「そうだ、この風景…」

海の見える丘、その丘の緑の木立の陰にあの青い屋根の家があった。屋根の上ではカモメの金の風見鶏が静かに回っていた。そして白い壁の後ろから2人の人影が近づいてきた。

「ハナエ…、サッチャン…」

「おかえりなさい…」

海風をいっぱいに吸って、かけよって、2人を抱き締めた途端、クリフは金色のまばゆい光に包まれて悪夢から帰還したのだった…。

やはり症状の重かったメリッサもリンダ、そしてネビルに付き添われて起きてきた。彼女は地下迷路で怪物に追いかけられていたという。なぜか兄ケントとメリッサはこどもの頃のちっぽけな体に戻り、ひたすらに逃げ続けていた。地下の闇市やごちゃごちゃした地下市場、迷路のような入り組んだ地下通路を2人で手をつないで走って行く。足の遅いメリッサが遅れても、こけてもいつも兄が優しく助けてくれる。でも地下のぼろ屑のような亡霊や連邦の兵士のような怪物が2人を追い立て、脅してくるのだ。なんて自分たちはちっぽけなんだろう。でもそのうち、兄の剣とがだんだん力強くなる。そうだ、兄はすごいんだ!いつの間にかギターを持って走っている。やがて地下の中で広い空間に出る。兄は体も大きくなり、ギターを書きならす。すると広い空間に光があたり、気がつくと仲間が楽器を持って集まってクる。

「メリッサ、おれたちの曲ができた、最高の曲がね。ヒット間違いなしさ」

そこでバンド仲間全員で楽器を書きならす、あれ、声援が聞こえてくる。いつの間にかメリッサも成長して、ロックコンサートの会場でスポットライトを浴びている。総立ちで歓声がホール全体に響き渡る。

兄の歌声が、バンドのみんなの音が、重なって行く。観客の声援が波のように押し寄せてくる。やったあ、おにいちゃん、大ヒット、大成功よ!

だが気がつくと、あのぼろ屑のような怪物が兵士のような怪物が、会場へとなだれ込んでくる。兄に助けを求めようと振り返ると、なぜか兄はいない。そうか、お兄ちゃんは死んだんだ。迫ってくる怪物。倒れそうになるメリッサ。だが2つの光る腕がメリッサを抱き起こしてくれる。

「リンダ…、そしてネビル…!」

ネビルが渡してくれたマイクでリンダとメリッサで歌いだす。新しい曲が場内に響き渡る。追いかけてきた亡霊や怪物がその歌声とともに砕け散って、コンサート会場の紙吹雪に変わる。

その瞬間メリッサは帰ってきたのだと言う。

するとそこにマリア・ハネス・メルセフィス女王が歩いてきた。

「重症の患者を除いて8割方は快方にむかったようね。私や老師、リクウやグレイシス将軍が早めに治療を行えたからよかったわ。放っておくとこじれて抜け出せなくなる。こじれる前に手を打つことができたわ」

「ごくろうさまです。でも、重症のひともいるんですか?」

「一般の招待客の中にも数人いるわ…あとはベガクロスさんと…、一番重いのはクオンテクス皇帝ね…」

女王はやれやれと言った感じで皇帝を見た。でも皇帝はもがくわけでもなく、苦しんでいる表情もしていない。ただうわごとのようにことばを繰り返している。

「俺は負けない、勝ち続ける。1度負けても、2度目は必ず勝つ。俺はもう死なない、不死身になる、最強の体を手に入れる…」

女王や老師が何を言っても受け付けないのだと言う…。

「ベガクロスはぎりぎりなんとかなりそうだけど、皇帝は難しいわ。たぶん…皇帝のはてなき野望を喰い続け、闇蟲がとめどなく成長している…。もうこうなると手の打ちようがない。この先いったいどうなるのか、私にもわからない」

その時皇帝クオンテクスは夢の中で、巨大な塔の上にいた。あの古代図書館でみた模型、6層のバベルの塔、オルガデウムに違いない。皇帝は屋上の庭園でお妃や召使にかしずかれ、将軍や大臣に守られ、極上の酒と遠くから取り寄せた珍しいフルーツを食べようとしていた。下界を見下ろせば、大河メラー、東の豊かな平原、南の砂漠も着たの大地もすべては皇帝の支配下、すべてはながい戦いの末にこの手に握ったものだった。

「おや、なんだ?」

フルーツを口に運ぼうとすると、何か塔の下が騒がしい。

「おおっ!」

なんと近くを流れる大河メラーが不気味に波打ち、何かが上がってきた。クジラのように大きな伝説の怪魚、ラルーガだ。なんと長い足が生え、こちらに向かって地響きを立てながら歩いてくる。

「ばかめ、魚の分際でこの塔を攻める気か?」

皇帝は下界を見下ろしつぶやいた。成るほどラルーガが牙をむいて体当たりしてもオルガデウムはびくともしない。

さらにはるか足元で騒ぎが聞こえる。南の蛮族が隊群で押し寄せてくる。狼の毛皮を頭からかぶった狂戦士が斧を振り上げるのが見える。クオンテクスは屋上から見下ろして首を振った。

「あんな原始的な武器では輪が白はびくともしない。問題にならんな」

ところが、今度は北の台地から黒い鎧に身を包んだ屈強な軍団が、長槍を装備して押し寄せてきた。しかし、その軍団を率いる将軍はプラチナブロンドの知った顔だった。

「良く来てくれた、あの蛮族を皆殺しにしてくれ!」

「承知」

皇帝の声に、すぐに蛮族と黒い鎧軍団が激しい攻防線を繰り広げる。

だが、一方、あの怪魚ラルーガは体当たりをやめ、今度は吸盤のついた手がニョッキっと生えて、塔を少しずつ昇り始める。どうなるかと一瞬はらはらとしたが、プラチナブロンドの将軍が下から弓矢攻撃を仕掛けるとあたりを揺るがして墜落して行く。

しかし、怪魚も蛮族の襲撃も、戦争も、すべては、はるかげかいでおこった、取るに足らぬ出来事であった。

「皇帝陛下、御気をつけください、あの軍団が帰ってまいりました!」

将軍の声にクオンテクスは東の平原に目を見張る。なんと東からやってきた長い隊列は、煌びやかで輝くようであった。金や銀をちりばめた像やラクダに乗り、高価な宝玉をきらめかせ、絹のドレスをひるがえして現れたのは策略を使って追い出したはずの女王だった。

女王は立ち上がり、屋上のクオンテクスを指差すと鋭く叫んだ。

「滅びよ!」。

すると、その声に塔は震え、空はにわかに曇り、いつの間にか、皇帝の周りのお后や召使、将軍や大臣たちは消え、皇帝は1人斬りとなる。そして、目の前に黒い影が音もなく迫ってくる。

「お、お前は!」

それは黒い死神、そう、ハカイオウだ。

ハカイオウがうっすらと微笑むと、その途端皇帝の鎧は砕け、体は引き裂かれて血まみれになる。皇帝は倒れそうになるが、顔を上げ、死神をにらみつける。

「俺は負けない、勝ち続ける。1度負けても、2度目は必ず勝つ。俺はもう死なない、不死身になる、最強の体を手に入れる…」

その言葉を繰り返していた。その夢が繰り返され、そのたびにオルガデウスは大きくなり、領地は広がって行く。でもクオンテクスは知らない。このとめどなく大きくなる塔そのものが闇蟲の大きさなのだと…。

その時、会場の隅から美しい歌声が聞こえてきた、ベガクロスのために、控室から合唱団やオーケストラの美女たちが駆け付けたと言う。やがて美女たちがベガクロスを取り囲み歌い始める。

「ベガクロスさまあ!」

ベガクロスの好きなワーグナーが流れて少しすると、何がどうなったのか、重症のベガクロスが反応し、起き上がった。

「血の池の底から、凍りついた谷の奥から、燃え上がる炎の向こう側から、亡者の群れが俺を呼ぶ…、昔の知り合いが、昔の女が俺を引きずりこむ…もうだめかと何度も思った時、どこからか透き通った天使の歌声が、俺を、亡者のうごめく地獄の闇から引き揚げてくれた…、輝く天上の世界へと導いてくれた…。おおそうか、お前たちか?!お前たちの天上の歌声が私の命をつなぎとめてくれたのか…ありがとう…」

「ベガクロス様―」

ベガクロスは美女たちにもみくちゃにされて、帰還を果たしたのであった。

その時、女王の護衛についていたダビデに緊急通信が入った。ダビデはあわてて女王に取り次いだ。女王のあわてぶりにクリフやネビルも近寄って行った。

「女王様、影の剣のレイベンから、襲われたと言う緊急通信が!」

「姿を消すことのできるレイベンほどの使い手が?!」

女王はすぐに携帯端末を受け取り、連絡をとった。

「どうしたの、レイベン、今どこにいるの?」

「…今…貴賓室にいま…す…。」

途切れがちな声は今にも途絶えそうだった。

「レイベン、あなたをおそったのは誰なの?」

その女王の呼びかけに切れ切れの声はとんでもない名前を語った。

「それは…ハ…、ハカイオウ…」!!

「なんだって!」

そばで聞いていたクリフとネビルはつい大声を上げた。ついに奴が動きだしたのだ。

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