21 皇帝の石像

 総料理長のムナカタは厨房のスタッフに確認を撮り、晩餐会の用意が整ったと、総合司会のアイリーンに合図を送った。

「さすがムナカタね、定刻通りにスタートできそうね」

 そして厳重な警備の中、招待客や来賓たちの入場が始まった。豪華なテーブルセットが用意され、おしゃれな食器やテーブル周りはもちろんクィーンウイングスの働きだ。招待客もみんなパーティー用の衣服に着替えてきたようだったが、特に女王はキラキラ光る見事なゴールドのロングドレスで注目を集めていた。ネビルは英雄の砦の面々とグレイシス将軍の近くにfガールズ達と座り、クリフとゼペックはサーカス団のスタッフ扱いで、フラッシュギラードのすぐ後ろの席に場所をとった。

 ムナカタは去年、初めての中華料理店をこのルパートに出し、大好評を博していた。その評判を聞きつけた皇帝クオンテクスの意向にそい、今日はムナカタ考案の新しい中華のふるこーすが出るのだと言う。

「それでは、乾杯の用意をお願いします。これより皇帝クオンテクス陛下の入場でございます」

中央セキュリティルームに緊張が走った。ゼノン大佐とレイカー少佐が、もう1度アポロンのすべてのモニターに異常がないことを確認し、警備兵に号令をかけた。大ホールを取り囲む親衛隊員が一斉に動き出し、皇帝の入場に備えた。算術軍師ガブリエル・ディーの言っていたリスク曲線のピークが刻一刻と近づいてきた。警備の兵と廊下を歩いてくるクオンテクス。大ホールの入口まで足音が近づき、そして大きな扉が開いた。大ホールに緊張が走る。ついに生身のクオンテクスが、一度は爆死したかと思われた男が、奇跡の復活を果たして、今、まさにそこに立っていたのだった。警備兵に囲まれ、数人の補佐官を引連れて、義手、義足で頭に金属の輪をはめたその姿で入ってきた。やはり物々しい鎧のようなアーマースーツで体を守っている。いつの間にか小さな拍手が舞い起こり、ベガクロスもギラードも、グレイシス将軍も、そして女王も皇帝の復活を確かに確認していた。

アイリーンの手引きで祝杯を掲げると、クオンテクスは力強い大声で話し始めた。

「私はこの通り復活して、皆の前にこうして立っている。私が皇帝のクオンテクスだ…」

クリフはイズナを内ポケットに忍ばせ、皇帝の挨拶の間、気付かれないように会場の周囲に気を配っていた。ネビルは反対側を、ゼペックはアポロンやゼノン大佐と連絡を取っている警備隊長の動きをずっと追っていた。もうすぐ皇帝の言葉が終わるが、今のところ何もない。ハカイオウは現れない。だが、もうすぐ挨拶が終わると言う時に、事態は意外な方向に展開したのだ。

「…では最後に記念事業についてお話したい。今回は命を狙われて関係者に多大な心配をかけた。そこでこのようなことが二度と起こらないように、生命金属を使ったアーマーの政策を計画している。自己修復能力を持ち、防御力は今着用しているこの鎧のようなアーマースーツの10倍以上になる。高い機能はもちろんだが、皇帝にふさわしいデザインを考慮し、皇帝の地位を万全なものにしていきたい。あとで私の部屋から詳しいことを報告しよう。そして…もう1つ、以前から気になっていたのだが…」

え、なんてことを言いだすのだ!!クリフはさっと女王に目をやった。皇帝がとんでもないことを言いだしたのだ。

「…ということだ。私の復活に会わせて、空中庭園にある古代のクオンテクス皇帝の像も修復する。私も復活したのだから、あの古代の顔の欠けた石像も、私に似せて修復することとする」

もちろん古代の皇帝の石像は最近誰かに壊されたものではない。発掘された時にすでに顔の部分が壊されていたのだ。学術的な意義のわからないクオンテクスは、単なる思い付きで言ったのだろうが。最初、唖然としていた女王の顔はみるみる歪み、そのうち何かを小声で繰り返していたようだった。

「修復じゃない、それは修復とは言わない、愚かな男だと思っていたが、これほどとは?!、自分に似せてだと、何を思いあがっておる!!」

女王の体は遠目にもわかるほど怒りに震えていた。あの日生まれた亀裂はここで一気に大きくなり、まさにダムは崩壊してしまった…!!

「乾杯!!」

クオンテクスの声が高らかに響き渡り、ワイングラスが響き合った。だが女王は乾杯はせずに、最上級のシャンパンをぐいっと飲みほした。クリフはこれはただでは済まないと思った。何もわからない招待客たちはうっとりと極上のシャンパンを飲んでいた。

総料理長の宗像が出てきて、簡単に料理の紹介を始める、それぞれのテーブルに中華料理のフルコースが運ばれてくる。

まずは前菜が美しい色ガラスの小鉢やグラスに3点運ばれてくる。

カニ肉のムース仕立て、口の中で淡雪のように溶け、後味に濃厚なカニの風味が残る。クラゲと干しアワビのカクテルサラダ、こりこりした食感に噛むほどにうまみの出る逸品。上海ガニのソフトシェル紹興酒付け、柔らかくコクのあるカニを丸ごと味わえる。

次は厚いスープだ。

フカヒレの姿煮白トリュフ添え、とろりとした濃厚なうまみにたっぷりのトリュフが香る。

すると次は一見焼き鳥のような3本の串が運ばれてくる。串酢豚、揚げた豚肉、パイン、玉ねぎなどの串、とろりとした酢豚のあんがかかる。

串チンジャオロースー、牛肉の細切り肉巻きとピーマン・筍の串に味噌風味のたれが香る。串ユーリンチー、パリッとあげた鳥の中華唐揚げに甘いたれがしみこんでうまい。

そして、蒸篭に入ったほかほかの点心3種が来る。中華街牛筋カレー饅頭、牛筋がとろりと柔らかな人気の味。北京ダックのサラダ饅頭、冶才と北京ダックをはさんだヘルシーな味。ツバメの巣とホタテの饅頭、ホタテのうまみの肉汁あふれるとろける味だ。

そして於継はエビとカニの競演だ。オマールエビの中華オーロラソース、マヨネーズ風味の甘酸っぱいソースが絶品。

焼き渡りガニの青唐辛子ソース、濃厚な子持ちの焼きガニにさっぱりソースがとても会う。

そして最後はマーボ料理を選択できるのだ。

1、牛テールスープのお焦げと熟成牛肉マーボ、牛テールスープのお焦げが香ばしい。

2、種類の唐辛子のレッドマーボとパラパラ炒飯、ピリリと辛いエスニックな風味だ。

3、味噌ウママーボとニンニクの葉の炒飯、4種類の豆板醤と味噌を合わせた秘伝の味。

そして見た目も美しいかわいらしいデザートがつく。果肉たっぷり3種のフルーツゼリー玉とフルーツゴマ団子。ミントの葉をのせた苺・桃・梅のゼリーとマンゴーのあん入りの香ばしいゴマ団子。

最後に冶性種の葉の手もみウーロン茶を飲んで、大満足だった。

晩餐会は、ハカイオウの襲撃もなく、料理も最高で大成功だった。

「では、これより25分の休憩をはさんで総合武道大会の決勝を始めます。皆さまは一度控室にお帰りください」

司会のアイリーンのことばに、招待客は満足してばらばらと控室に戻り始めた。シェフのムナカタはみんなに絶賛の言葉をいただき、ニコニコと本当に幸せそうだった。テーブルはすぐに片付け始められて、また中央に闘技場が用意されるのだと言う。ゼペックは最後のファイルが開きそうだと、控室で最終的な調整に入っていた。クリフとネビルはそれを待ちながら、ハカイオウの襲撃に備えていた。ヴァルマ教授はベガクロスに許可を得て、これから大事な試合があるからと、フリードと2人で小部屋にこもった。だが小部屋に入ると教授はあのゼルマ・ケフの紋章を取り出してフリードに言った。

「あんな小娘たちは何でもないが、後ろに着いているモリヤ・モンドやセレニアス・クロノがどうも何かを企んでいる。あ奴らはあなどれない。万が一にも負けるわけにはいかない。良いかフリード、これから古代の儀式を行う。今日はお前にもわしにも、同時に秘術を行う、よいな」

「はい、マスター」

すると、ヴァルマ教授は誰も小部屋に入ってこないことをもう1度確認して、カバンから宇宙空港で問題になったあの精妙なガラス細工でできたフラスコを取り出した。

「マスター、これを使うのですか?先ほどは確か霊的な生命体が入っているとおっしゃっていましたが…」

ヴァルマ教授はにやっと笑った。

「うむ、今までお前には、試合のたびに暗黒物質の飛躍を渡し、強化してきた。でも今日は違う。これは、星の卵となる宇宙の暗黒物質と霊的な生命を秘術によってこのフラスコの中で私が調合したものだ。呪文によって取り出せば、それは闇の種と呼ばれる小さな塊となる。これをお前の体に入れれば、闇蟲と呼ばれる黒い鍵づめのある幼虫になる。これでお前も私と同じ力を手に入れられる。秘薬を飲まずとも相手の精神を食らって自分のパワーに変えることもできるのだ。この幼虫はお前の欲望や感情を食らって育つ。そしてもしもお前が危機に陥ればお前に力を与えてくれる。うまくこの蟲の力を引き出せば、無敵の超人にもなれるし、不老不死の肉体を手に入れることさえ可能だ。ただし、この蟲を思い通りに育てるには高度な修行を積まなければならない。コントロールできなければ己の精神が食われてしまうことさえある」

「え?己が食われてしまったらどうなるのですか?」

教授はその問いには答えずに続けた。

「案ずるでない、お前は鷲のもとで厳しい修行を積んできた。なんの心配もいらない。いつも通りにしていればすべてはうまくいく」

「わかりました」

すると教授はゼルマ・ケフの紋章の前にフラスコを置き、あやしい呪文を唱えながらフラスコの蓋をとった。すると中の黒い雲のような暗黒物質が渦巻きながら噴き出し、やがてそれは空中で回転しながら黒い粒、闇の種となったのだった。その種に重なって、宇宙が、黒い幼虫のイメージが見えた。

ヴァルマ教授はフラスコの蓋を閉めると、種を手のひらに乗せて言った。

「さあ、紋章の力により、これからお前の胸にこの種を蒔くこととしよう」

「マスターはどうするのですか?」

「ふふ、私はもう、この蟲を3匹も飼っておるわい」

そう言って、教授は闇の種を刺しだしたのだった。

「そして最後に、蟲の力を引き出す秘術を授ける。うまく行けば、もう、お前は無敵じゃ。ふふふふ」

そしてあの貴賓室に戻ったマリア・ハネス・メルセフィス女王は、王宮騎士団に囲まれ、今決断を迫られていた。もともと顔の欠損していた古代の石像の顔を、自分に似せて修復するだなんて?!不用意に事を起こすとあとあと面倒なことに成るのはわかっている。だが、思いだすほどに怒りがたぎってくる。耐えがたい日々の結末がこれでは?!…。波動

の剣のダビデがしずかに伺いをたてた。

「わが女王、お怒りはごもっともです。決断なさいますか?」

女王は毅然として答えた。

「私は決断します。計画通り、闇の剣と影の兵を放つのです。奴の石像の修復計画を白紙にもどし、奴の生命金属で作ると言うう鎧の計画をつぶしてしまいなさい」

「かしこまりました」

闇の剣、レイベンが動きだした。

その頃皇帝クオンテクスは皇帝親衛隊にナインキューブを皇帝の部屋に運ぶよう命令を出していた。最後のイベントが終わったところで、もう1度放送が予定されている。そこで自分の前にナインキューブを並べて、生命金属による最強の鎧をつくる発表を行うつもりだ。自己修復機能やある種の意思を持つと言われる生命金属でゆるぎない強さを手に入れると宣言したかったのだ。

「かしこまりました。ただ今運搬を始めます」

皇帝はほくそ笑んで、ナインキューブを待っていたのだった。

その頃、大階段を転げ落ちた、あの包帯ぐるぐる巻きのラムセスが、かすかに動きだした。一度完全に機能が停止していたのだが、非常時修復起動プログラムが動き始めたらしい。だが、どこかおかしい、中央セキュリティルームの指示と関係なく、自分でゆっくりと動き始めたのだった。

「ウオオオーン」

物悲しい声を出して、ラメセスは立ち上がるとあの大階段を登り始めたのだった。

「…ゼノン将軍、1時活動停止していたラメセスが活動を再開しました。まだ本調子ではないようですが、大きな故障はないようです」

「よし、ハカイオウの襲撃に備えて、こちらに呼び寄せ、スタンバイさせておけ」

「了解」

レイカー少佐が呼び寄せる命令を送ったが、きちんとした応答は帰ってこなかった。

「やはり、本調子ではないな。まあこちらに歩いてきてはいるので、到着したらエンジニアに見てもらおう」

その頃控室でゼペックが、例の最後のファイルを開く最終的な作業に入っていた。すぐ横ではネビルとクリフが、息を殺してその作業を見ていた。

「よし、パスワード画面まで来たぞ」

ゼペックの興奮した声が響いた。ネビルが見つけ、クリフが回収したメモリーカードには3つの秘密ファイルが入っていた。1つ目にはヴェルヌ博士とペリー博士、二人の天才科、学者が作り上げたr1からr7までの究極のレスキューロボットの性能が記録されていた。ガレキを取り除く怪力ロボットや狭いところでも行動できる偵察ロボット、2体1組の救出搬送ロボット、ドローンに変化できる修理ロボットなどとともに、崩壊した建物やガレキの中から人々を救出する高機能なロボットが記載されていた。それがr5、ハカイオウだった。

そしてもう1つのファイルには、故郷の美しい自然や家族をすべて奪われたアレックス・レムの少年時代の記録があった。だが最後のファイルだけが、どうしても開かなかった謎のパスワードを解かなければ不可能だったのだ。

「科学は人々を幸せにするために存在する。さあ、私の新しい名前は何だ?…?」

この答えがやっとわかったとクリフがひらめいた。

「よしクリフ、もう1度パスワードを言ってくれ」

クリフはゆっくりと話出した。

「科学は人々を幸せにするために存在する、それと同じことをサーカス団の団長が言っていたんです。その時分かった。すべてが納得した。彼はたんなる発明家ではない、反重力エンジンや高度な監視システムなどは発明家には作れない、サーカス団を始める前は天才科学者と呼ばれたドラドニア研究所の博士だった。あの新しい名前、パスワードの答えは。そう、ハッピーカバチョです」

ゼペックがパスワードを入力した。緊張が走った。

「ピピピピピポポポポ!」

今まで聞いたことのない電子音が流れた。みんなごくりと唾を呑んだ。

「やったぞ、クリフ。ファイルが開いたぞ!」

するとまず、動画画面が開き、そこに小柄な男がテーブルに着き、話す様子が映っていた。場所はどうやら、あのレスキューロボットを開発していたドラドニア研究所のようだ。

「私はこの研究所の創始者の1人、スペンサー・ペリーだ」

ペリー博士だ。その顔をしげしげと眺め、クリフのひらめきは確信に代わった。

「…昨日、連邦戦略研究所のプラテオ・バルガスを名乗る男がまたやってきた。われわれがどうしても話に応じないので、連邦政府の法律を使って強制撤収、記録や現物をすべて持ち帰ると言うのだ。私の相棒のヴェルヌ博士が銃で脅して追い返そうとしたところ、反撃され、流れ弾に当たって博士は緊急搬送、今朝早くに亡くなった。奴らには正当防衛と言うことでおとがめはないらしい…。だがしかし、レスキューロボットたちは昨夜のうちにある場所に隠し終わった。これでヴェルヌ博士が命がけで守ったロボットたちは永遠に奴らの手には渡らないだろう」

そこまで話してペリー博士は一度下を向き、涙をぽろぽろと流した。そして顔を上げて言った

「…科学は、…科学は人を救うために、幸せにするためのものではなかったのか…?ヴェルヌよ、君は私達のロボットが軍事転用されることを決して許さなかった。でも、もう、君はいない…。君のおかげでロボットは守られ、私も生き延びた。だがいつ私も消されるかわからない、だからこのファイルを残す。願わくば、奴らの手に渡らないことを願う…」

そこで動画は終わり、レスキューロボットの秘密のデータ1ランが並んだ。ゼペックが何か操作すると、自由に内容が似られるようになった。

「さあ、とりあえず、俺の仕事はここまでだ。あとはクリフとネビル、お前たちの仕事だ。俺はこれから、九鬼一角が仕留めたっていう昆虫メカの分析に入るぜ」

「オッケー、じゃあ、ネビル行くぞ」

「はい、お願いします」

そこで二人が見た者は、ハカイオウの隠された機能だった。ハカイオウのいろいろな謎が、そして宮中晩さん会侵入計画がついに明らかんに成るのだった。

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