20 カゲロウ

 いよいよあと1時間ちょっとでクオンテクス皇帝が晩餐会に出席する。ゼノン将軍とレイカー少佐は、セキュリティaiのアノスと警備の最終確認に入っていた。

「算術軍師のガブリエル・ディーも、セキュリティのリスク確立が、皇帝が人前に出る瞬間が1番高いと言っていた。だが、映像ではなく、招待客の前に立ってしゃべることに皇帝はこだわっている。もともと女王の健康問題から軍事クーデターを起こしたわけだから、ここで体の弱みを見せればすぐに女王復活の声が大きくなる。そのことを皇帝はよくわかっておられるのだ」

 アノスが、上流のダムの映像や、先ほどのマリガンが上陸してきた大河メラーの映像、その他の重要ポイントの映像と分析結果の報告をする。あれから大きな動きは何もない。

「カイザーパレスの内部はどうだ?」

 ゼノン将軍の呼びかけに、皇帝の部屋が映り、そして大ホールの画像も映る。

 皇帝はセキュリティの厳重な皇帝の部屋で何重にも護衛の親衛隊に守られている。隣の部屋には女王と超能力者部隊の王宮7騎士も配置されている。破壊3銃士はマークⅡがやられ、ラムセスは調整中のランプが突いたままだが、ヘルボックスは全く無傷で、すぐに出動可能だ。皇帝は現在は、出番に備えてくつろいでいるようだ。

大ホールでは、幽霊船のセットはきれいに片づけられ、ムナカタの美食コンテナがいくつも運び込まれていた。あっという間に厨房空間が出現、忙しそうに働くシェフたちの前では晩餐会用のテーブルセットや食器が、ロボット運搬車やクィーンウイングスのメンバーたちにより、あっという間に組まれ、美しく飾りつけらられて行く。

次にあちこちの通路や出入り口がチェックされる。この広大なカイザーパレスのありとあらゆる空間に数え切れない監視カメラが入り、それがセキュリティaiのアノスにより、一括処理される。着替えたり準備のための控室にはカメラはない。たとえば要注意人物のガロア博士たちの控室には、ギャンブル経営者やサプリメントの社長なども集まっているが、中で何が行われているのかは分からない。でも、その控室の出入り口には例外なくカメラが突いていて出入りも厳しくチェックされる。現在は、ガロア博士たち3人がいて、ただ博士の連れのサム・グリーンとニック・ブルーはラウンジで休んでいることが確認されている。

特別に用意されたのが、飲み食いが自由にできるラウンジ空間だ。ゼノン将軍とレイカー少佐がチェックして行くと、ブルーとグリーンは第1ラウンジのカメラに写っていて所在が確認されている。ここには、fガールズも来ていた。

「ほら見て、大河メラーに夕日が沈んで行くわ」

「わあ、きれい。大昔の賢者もこんな夕日をみていたのかなあ…」

2人は決戦の前のつかの間の雄大な風景を楽しんでいた。

すぐ近くのパフォーマー専用の第3ラウンジには、何かと危ない噂が絶えない、ベガクロスの所の楽団員と合唱団員たちがみんな集められて楽しそうにしていた。専用ラウンジと言うと豪華な感じだが、早い話が危険なやからをまとめてここにぶちこんで、まとめて監視しようと言うわけである。ラウンジには監視カメラがバッチリついているからだ。

だがラウンジで楽しそうにスペシャルスムージーを飲む天才少女メルパのコンタクトレンズモニターに秘密の通信が入る。

「…カイザーパレス内の指定されたエリアすべての監視カメラをわが昆虫メカが押さえました…」

「…別行動の昆虫メカネプチューンが、カイザーパレスの電源設備に侵入成功です。いつでも実行できます…」

メルパはほほ笑んで選ばれたメンバーに連絡した。

「いよいよ実行よ。あの悪党どもに天罰を加えるのよ。みんなカゲロウの準備はいいわね」

「じゃあ、練習通り、すべての動作を流れるように同時に行うシンクロシステムに従って動くわ」

そして日が暮れて周囲が暗くなるのにあわせてメンバーのコンタクトレンズモニターの中にシンクロカウントダウンが表示された。

「…3、2、1、0」

その瞬間ネプチューンがカイザーパレス全体の電源を切った。建物の内部は真っ暗だ。

「非常用電源に代わるまでの時間は12秒間よ」

暗闇の中、あらかじめラウンジの出口側に座っていた選ばれたメンバーはコンタクトモニターを暗視モードに切り替えると、自分の座席に小さな立体映像装置「カゲロウ」を置いて音もなく動きだした。

「いったい何が起きた、事故なのか奴の仕業か?」

食らい中央セキュリティルームでゼノン大佐が怒鳴った。

「原因を至急調査中です。…あと数秒ででんげんが復活します」

そして電源が復活した。部屋に明かりが戻った瞬間、メルパやジュリ達がいなくなったはずのラウンジの座席に、メルパやジュリ達が現れた。ちゃんと動いて、おしゃべりさえしている。これが精妙な立体映像システムカゲロウだった。

ゼノン将軍は暗くなった間に何かが起きなかったかとしんけいをとがらせた。アノスが報告した。

「…原因ははっきりしません。事故の可能性が高いようです。メイン電源がすでに回復しました。監視カメラシステムに異常はありません」

よし、レイカー少佐、たんなる停電事故だと放送を入れろ。

だが、アノスに異常なしと言われてもどうも嫌な予感を感じたゼノン大佐は、あちこちの監視カメラ映像を自分の目で再び確認した。

大ホールで歯1次的な停電にも動揺せず、シェフたちが最後の仕上げにかかっていた。各通路や重要な出入り口には警備兵以外は何も写っていなかった。

「そうだ、ラウンジも見ておかなければ…」

だがラウンジでは、先ほどと同じように楽団員や合唱団員が楽しそうに会話しながら座っていた。

「要注意人物のメルパや横笛のジュリもいる。まあ一安心か…」

その頃ある控室では密談が行われていた。

「いやあ、さっきの停電に派驚きましたよ」

家事の経営のジュリアーノとサプリメント会社のロッドマン、そしてガロア博士が何かを話しあっていた。

「…そういうわけでね、ガロア博士、頼むよ、エスパルのうちのカジノは今火の車さ、フラッシュギラードのホテルやテーマパークが、ごっそり観光客を持って行っちまうんだ」

するとガロア博士は冷酷に言い放った。

「ふふふ、ギラードねえ、奴は自分のことしか考えてないかってな男だ、共存共栄の精神なんてものはゼロだ。我々の仲間に成るように誘っても断るし、裏取引を何回か持ちかけたが、全く載ってこない、食えない男だよ、近いうちに矢つのテーマパークで怪生物やビーストフォームが出没して、観光客が激減するってのはどうだね、ジュリアーノ君」

「すばらしいね。売り上げの増収分の5%を寄付するってのはどうかね、ガロア博士」

ジュリアーノが通信端末の画面を見せて、なにやら数字を打ち込む。

「いいねえ、でも、そうとなれば、もう少し人体実験用の若い人間をこちらに送り込んでもらわないと…」

するとサプリメント会社のロッドマンが言った。

「今度売り出すシェイプアップ用のサプリは、筋肉増強に抜群の効果があるんだが、常用性も高く、若いスポーツマンをひっかけるにはちょうどいい。薬が安く手に入ると言えば何でも言うことを聞くようになる。うまく落とせば筋肉がモリモリなだけにビーストフォーム用にもってこいだろう?」

そんなとんでもない話をこいつらは楽しそうに笑いながら話すのであった。

するとその時、ガロア博士に暗号メールが入る。

「うん?おお、われらの大スポンサーがついにお目見えだ」

どうやらこの悪党どもを影から操る黒幕の登場だ。

コン、コン。

ドアをノックする音がして、誰かがこっそりはいってくる。

そこから入ってきたのは、ほかでもない、主席皇帝補佐官のウォルター・ワイルダーだった。印象的な大きな瞳と太い眉、皇帝の金庫番、ここの金の流れをすべて操る男だった。

ワイルダーは、その洗練されたふるまいの奥に邪悪な笑みを浮かべながら言った。

「みんな、ごくろう。今日は久しぶりに、誰にも邪魔されずに打ち合わせができるってもんさ。盗聴器も念入りにけんさして、ないことが確認されているし、最強の皇帝親衛隊と最新の監視カメラシステムでこの部屋の出入りを守ってくれている。安心してくれたまえ。私でさえここへ来るのに、大佐の許可を撮るのが大変だったからね」

みんなは眼と眼を合わせてほくそ笑んだ。そう、皇帝を取り巻く怪しい資金の流れは、こんなところにも行きついていたのだ。このエスパルやルパートで問題になっている人身売買や非合法ドラッグ、テロ事件の原因にもなったルパートクリスタルの裏取引もこのメンバーが窓口になっているのだ。

「さて、今日の話しだが…」

だがその時、またドアをコン、コン、とノックする音が聞こえた。みんな驚いてドアを見た。あの警備網をくぐりぬけて近づけるものなどいったい?ドアはすぐにスーッと開いて、美しい女性が楽器を手に、次々と入ってきた。

「失礼します。ミリオンクロスの楽団員です。陛下に3分間だけ演奏してくるように言われて…」

…そうか、クオンテクスの命令ならばここにも来ることは可能だ。しかしこんな美人ばかり来てくれて大サービスだな…。部屋が一気に華やぎ甘い香水の香りが広がった。

「モーツァルトのクラリネット協奏曲第2楽章をもとにした静かな曲です。すぐおわりますからお邪魔はしませんよ」

なんだろう?!あの香水を嗅いだ頃から、眠くなってきたかもしれない。そして、美しい女性たちの心地よい生演奏…、クラリネットが鳴り始めると、意識もだんだんおぼつかなくなってくる。なんと安らぐ調べだろう…。一人の女が眼で合図を送る。メルパだ。ラウンジにいるはずの彼女がなぜ?そして、ジュリアーノの首元に針が光る。ジュリアーノが、ことんと眠りにつく。やられた本人もまわりの仲間も誰も襲われたことに気づかない。

「おいおい、ジュリアーノどうした、寝てる場合じゃない、晩餐会はこれから…!」

声をかけたロッドマンもそのままテーブルに突っ伏した。

「これはいったい?…」

異変に気付いたガロア博士が立ち上がろうとしたが、首元に地くっと小さな痛みを感じた瞬間、体の自由が利かない。部屋に入ってきた女性も誰も怪しい動きをしたようには見えなかった。ただ美しいモーツァルトの調べが流れ、意識が朦朧としてくる。

「あわわ…!」

あわてて立ちあがり、出口に歩き出そうとしたウォルター・ワイルダーだったが、さっと近付いてきた女こそ、横笛のジュリだった。

「う…」

ズブッ!!

すれ違いざまにウォルター・ワイルダーの後頭部の神経節に何かがささる?

引き抜くとそれは横笛から突き出たしこみ針だった。針はすぐに横笛に戻り、ウォルター・ワイルダーは音もなく崩れ落ちた。

ここにいる4人は、すべて何が起きているのか、自分はなぜ意識が朦朧としているのか分からないままに、意識の最後の糸が切れそうになっていた。

「ウう…、こんなところで…」

朦朧とする意識の中でガロア博士は助けを呼ぼうとしたが、それもかなわず、最後の1手に賭けた。

腕時計の秘密のボタンを押し、そして倒れた。腕時計からは、最初カチット言う金属音が聞こえ、さらに小さな電子音が流れた、その瞬間ガロア博士の体がビクンと動いた。これはいったい?!

ジュリは動かなくなった男達の神経節に次々と針を突きたて、さらに証拠を丹念に消し去ると、楽団員はそのまま監視カメラがあるはずの廊下に出てラウンジまで歩いて行った。もちろん彼女たちの歩いている廊下のすべての監視カメラには停電中に昆虫メカが張り付き、疑似映像を送っているので誰にも分からない。

「いいこと、もう一度シンクロカウントダウンがかかるわ」

やがて数秒後またもや停電、暗視モードで元の席に月、また明かりがついて彼女たちは何もなかったようにおしゃべりに興じる。

二度目の停電があった後、3人の人影が、廊下に駆けだしてきた。そして、警備に当たっていた皇帝親衛隊に話しかける。皇帝親衛隊は、中央セキュリティルームのゼノン大佐たちにれんらくを採りながら、あわてて3人とともに走り出す。

「停電以外にはセキュリティaiにはなにも異常が出ていないそうだ…まさか?」

ネビルがゼペックと連絡を取りながら叫んだ。舞姫ジュネが先頭に立って呼んだ。

「こっちよ!」

さらに九鬼一角がまわりの状況をつぶさに観察しながら現場へと近づいて行く。

「む、こ、これは!」

そしてついに撤収中の芥子粒のような昆虫メカが壁際を移動するのを発見?!

「むん!」

そして、九鬼一角は袖の中に入っていた小型の吹き矢を取り出すと、数発の針を打ち出した。

「プス!プス!」

高速で移動する昆虫メカだったが、2匹が針を刺され床に転がった。

「ネビルさん、これを分析してください!」

九鬼一角から渡されてネビルが早速、子袋に昆虫メカを入れる。

「確かにさっきこっちの方角から妹の殺気が!」

すると警備兵が1人、扉をバタンと開いて飛び出してきた。

「発見しました、この部屋です。4人が倒れています…」

「く、まにあわなかった…すぐに救急車を」

舞姫ジュリは遺体をササッと調べ、4人とも毒針やしこみ針で襲われたもので、通常の検査では体の異常の原因がわからないだろうとささやいた。

横笛のジュリの仕事は完璧であったが、年後の姉に特別な気配が伝わる事は本人も気づいていなかったようだ。

だが、中央セキュリティルームで調査を始めたところ、大変なことがわかった。

「えっ!ジュリやメルパ、他の楽団員たちにも完全なアリバイがある?」

ゼペックから報告を受けたクリフは驚いた。2回の停電の前、中、ご、どこも楽団員たちはラウンジの監視カメラに映り続けていたのだ。

しかもラウンジから控室までの廊下はそれほど遠くはないのだが、そこにも彼女たちは一度も映っていない、停電以外の何の異常も記録されていないと言うのだ。

「じゃあ、10秒ほどの2回の停電中に4人を襲って帰ってきた…?そりゃあ、無理だ」

そしてもちろん凶器も特定できず、証拠の品も無し、襲われた被害者は4人とも意識が朦朧としていて、事情聴取は不可能……。

「じゃあ、調査を続けて何かがはっきりするまでは彼女たちは…?」

逮捕されることはあり得ないと言う。でも横笛のジュリやメルパ達がやったことに間違いはないのだろう。いったいどうやって?

今のままでは殺人未遂で鼻く、自己の扱いになる可能性さえあるというのだ…。

ネビルはゼペックに昆虫メカの分析を託し、引き上げることしかできなかった。

そしてゼノン大佐は原因不明のけが人(?)は出たが、皇帝の意向を汲んだうえで、晩餐会を挙行すると言う結論に達したのだった…。

しかし、ガロア博士たちと離れ、ラウンジで休んでいた連れの2人、サム・グリーンとニックブルーはその時、からだの異常を感じていた。

「おかしい、体が熱い、ガロア博士に何かあったらしいとは聞いたが…、まさか遠隔操作でビーストフォームのスイッチが押されたのか?!」

2人はそのまま近くの医務室で休むことに成る。だが、体の異変はどんどんと進行して行ったのだった。

だがその頃移送中の救急車の中で突然ガロア博士が目覚めた。

「…ジュリアーノも、ロッドマンも、主席補佐官のウォルター・ワイルダーまでもこんなことになるなんて…」

ガロア博士も事件の前後は意識が朦朧として、ほとんど何があったのかは思いだせない。でも自分は助かった。実験的に腕時計の中に仕込んでおいた、ビーストフォームに使った細胞活性剤を注入して命拾いしたようだ…。

ガロア博士はそのまま他の3人と一緒に宇宙空港にある医療センターに送られたのだった。

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