19 最後のファイル

 巨石の舞台の上に造られた空中庭園に出るには3つのルートがある。1つ目は大階段、古代風の手すりと古代の彫刻の印象的な、幅が広く、100段以上あるおおきな階段が巨石の丘の下へと続いている。2つ目は、大ホールにもつながる空中庭園入り口の大きなゲートだ。だが今日は朝から封鎖されていて、内側には皇帝親衛隊が警備に張り付いている。そして3つ目は、普段は使われることのない大型のエレベーターである。

 大きな音がしてベルが鳴り、エレベーターの重い扉が開くと、先に出てきたのは、あのトラップロボットを積み込んだ恐怖の箱ヘルボックスだった。あのシルバーのビリケンヘッドは空中庭園の状況、ステルススーツの侵入者の現在位置をすぐに確認した。そしてレイカー少佐の命令を実行するためにaiビリケンが作戦を瞬時に立てると、早速空中庭園の奥へと進みトラップロボットを展開する。

「よし、布陣は整った、ラムセス、マークⅡ、出動だ」

 やがてまた大型エレベーターの音がしてベルが鳴り、今度はあの全身包帯だらけの怪力ロボットラムセスと、全身兵器の塊ウォーダインマークⅡが降りてきた。

「よし、奴はまだ動いていない。皇帝の部屋の窓方向に動かれると面倒なことに成る。作戦通り2手にわかれて挟み撃ちだ」

「了解しました」

皇帝の部屋に近い庭園の奥方向にはヘルボックスが展開し、皇帝に近付くものをトラップロボットで撃退する。そして大階段の上へと移動して行くラムセス、階段の下の通路から建物内部への侵入を断固阻止する布陣だ。そして空中庭園の通路を進んで行くマークⅡ、射程の長い種々の武器を使って、侵入者を追い詰めて行く作戦だ。

「よし、マークⅡ、奴の移動データはアノスが正確に伝える。奴を追い出せ、追い詰めろ!」

「了解」

スフィンクスのあるエレベーターゲートを出てマークⅡハ動きだした。そしてステルススーツ反応を見つけるや否や、レーザーとマシンガンを使って、追い出しに入る。

「ん!!」

あわてたステルススーツの侵入者は、飛び出すと、皇帝の部屋に近い空中庭園の奥へと駆けだして行った。大理石の見事な噴水のある小道に沿って走り、12の神像のあるエリアを通過しようとした時だった

「ビシッ!」

トラップのボウガンが発射され、侵入者の背中に当たり、そして跳ね返った。

「…矢を跳ね返す金属のボディ…、奴はアンドロイドか…?やはりハカイオウなのか」

レイカー少佐がつぶやいた。ボウガンの矢を跳ね返す金属ボディ、やはり…!

さらに奥に進もうとする侵入者だったが、れーざーが閃き、貫通弾がかすったのをきっかけにさっと方向を変えた。トラップゾーンの存在に気付いたようだった。

「ウグッ?!」

だがトラップが無い方向に逃げたはずなのに、すぐに足に金属のトラばさみが、凶悪な牙がかみついてきたではないか。すぐにそのトラップを外した者の、侵入者はその時大きく動揺した。

「おかしい、ここのトラップは、こちらの動きに会わせて位置やトラップの種類を変えてきている…?丸で生きているトラップゾーンだ…」

まさか人工知能によって操作されているトラップだとは思わなかったが、侵入者は危険を感じて、そのエリアから退去した。だが道を戻れば強力な兵器を持つマークⅡが追ってくる、侵入者はラムセスが待つ大階段へと一直線に駆けだして行った。

「うむ?!」

レイカー少佐が気付いた。ボウガンやレーザーによってステルススーツの背中が破れ、内部に鮮やかな青い色がのぞいた。

「ウオオーン!」

大階段の入り口でラムセスが雄たけびを上げて威嚇した。侵入者が銃を取り出して撃ってみるが、包帯そのものが非常に丈夫で、銃弾はばらばらと地面に落ちて行く。

侵入者が飛びかかり、パンチやキックを打ち込むが…!ラムセスはひと回りほど大きく、分厚い胸板はびくともせず、丸太のような腕を振り回せば侵入者は1発で吹っ飛ぶ。すごい怪力だ。そして背後からはマークⅡが近付いてくる。だがそこからの侵入者の動きは眼を見張るものがあった。

「なんだと?」

侵入者はタックルと見せかけてさっとラムセスのバックを撮ると、そのまま後ろから大きなラムセスを抱えあげ、なんと美しい弧を描きながら反り身になって真後ろに投げ捨てたのだった。

「…サンダースープレックス!」

だが、ここは大階段の上である。

「ば、ばかな!」

ラムセスは階段の1番上に後頭部から叩きつけられて、しかももんどりうってそのまま、百段以上ある大階段を転げ落ちて行ったのだった。

ドコッゴトッバゴッズサササッ!

「ウオオオオーン!」

ラムセスの唸り声に転げ落ちるすごい音が重なり、やがて階段の1番下で壁にぶつかったのか、扉に激突したのか、ドンガラガラドシャーンという凄い音が響き、そして何がどうなったのか静かになってしまった。

だがその時マークⅡが大階段のそばまで追いつき、侵入者にグレネード弾を数発はなった。とっさに地面に伏せ、爆発を死のいだ侵入者。だがステルススーツは完全に破れて侵入者の正体がついに現れた。メタルブルーのボディ、メタルの筋肉と複雑な関節を持つ芸術的な肉体、ロボレスリングのチャンピオンだったあのロボットに違いなかった。

「お前はブルーさんだー・マリガン、そういうことか?」

レイカー少佐がうなった。隣にいたゼノン大佐が叫んだ。

「マークⅡ、私が許可を出す。そこは建物の外だ、プラズマキャノンを使え!そいつをこなごなにしろ!」

プラズマキャノンのエネルギー充電が始まった。

だがマリガンはしてやったりと言う自信に満ちた顔でマークⅡに告げた。

「邪魔者は消えた。1体1だ。この瞬間をずーっと待っていたぜ」

プラズマキャノンに充電ができるまでのほんのわずかな時間、攻撃にブランクができるのをマリガンは見逃さなかった。

「なんだと!」

その瞬間マリガンがマークⅡの足元に何かを投げた。ものすごい煙だ。煙幕弾か?

次の瞬間プラズマキャノンを発射しようと腕を振り上げたマークⅡに異変が起きた。

「どうしたマークⅡ、動きがおかしいぞ」

煙幕弾で良く見えなかった。だがマークⅡは突然身動きが取れなくなっていた。

「うう、何をした?」

マークⅡはとっさにマシンガン攻撃を仕掛けたが、敵には全く当たらなかった。腕や首の自由が全く効かないのだ。

「フフ…、ハカイオウが俺に言ったのさ。あのウォーダインを矢つけるのは、お前に任せる。あいつと正面からまともにやりあったら、次は負けるかもしれない。だがマリガンなら勝てるとね」

メタルの筋肉と人間以上の複雑な関節を持つマリガンがマークⅡの後ろから腕や型の関節と首の関節を完全に決め、ぐいぐいと締め上げていた。

「…プラズマキャノン、エネルギー充填完了、今、お前の体をこなごなにしてやる…!」

「悪いな、ギブアップは無しだ」

そう言ってマリガンのメタルの筋肉に力が入った。

無理やり腕を振り上げてプラズマキャノンを放つマークⅡ、だがプラズマの光の球は、青い空へと吸い込まれていった。

「ありゃ、はずれだ。残念だったな」

その時、バキッと音がして、関節技を決められていたマークⅡの肩から火花が走った。

「とどめはツームストーンパイルドライバーだ」

そう言うとマリガンは腕がダラリと下がり、動きが止まったマークⅡの体をかつぎあげ、逆さにすると、そのままジャンプ。自分の体重も乗せ、一気に地面にたたきつけた。

ガツッ!

「ウォン、ウォン…」

言葉にもならない電子音のような音がして、マークⅡの首は妙な角度に折れ曲がり、火花が噴き出し、そしてすべての機能が停止したのだった。

兵器の塊のようなマークⅡも密着されては力を発揮できなかった。

マリガンは何か小さくつぶやくと高笑いして走り出し、そのまま神々の石像の間を抜けると巨石から巨石に飛び降りて地上にあっという間に舞い戻ると、そのまま上陸してきた船着き場から大河メラーの中へと飛び込み、消えて行った。警備兵が水面に向けて銃を発砲したが、もう後の祭りだった。

その頃「幽霊船の戦い」もフィナーレを迎えていた。

クリフの幽霊船長も、海の妖精の聖なる剣に胸を貫かれ、崩れ去る。今日はその体が朽ちて消えて行く立体ホログラムのスペシャルエフェクトの大サービスだ。

幽霊船長が消え去ると、そこに魔術師のキューブリックと海賊ピエロがまた宝箱を持って部隊の中央に登場、キューブリックが魔法の杖で宝箱をたたく。

「わああ!」

金貨が噴水のように噴出し、ルビーやダイヤが、サファイアやエメラルドが、流れ星になって飛び出し、いつの間にか部隊がまばゆく光り出し、明るくなっていっく。フィナーレだ。カバチョ団長が飛び出し観客に大きく手を振る。巻き起こる拍手。オーケストラと合唱団の海賊の歌の演奏がハじまり、出演者全員がかわるがわる出てきて挨拶する、大成功のうちにコラボ公園は終わり、前半のプログラムは、すべてめでたく終了だ。ここから1時間半の休憩の後、いよいよ皇帝が直接姿を現す晩餐会となるのであった。

公演が終わると、クリフは1度控室に戻り、奥の更衣室で普通のスーツ姿へと戻った。またあの変装用のメガネをかけて、内ポケットには高性能拳銃イズナをしのばせたところで、中央セキュリティルームからゼノン大佐による一斉放送が入った。

「先ほどは公演の途中の警報でさぞ驚いたことだろう。だが侵入者は我々の手により撃退され、大河メラーの流れへと逃げ帰った。建物の中に侵入することもなく、けが人の一人もでなかった。侵入者は何もできずに逃げ去り、もう戻ってこないようだ。侵入者の正体はロボレスラーのマリガンだった…」

そして今の戦いの記録映像のダイジェスト版が流された。送られてきた映像を見たクリフはつぶやいた。

「…いろいろと違和感が残る」

それを通信で聞いていたネビルが問うてきた。

「なんですかクリフさん、違和感って?」

「マリガンはなぜ空中庭園で長い間潜伏していたんだ。破壊3銃士が来る前に、皇帝の部屋の窓ガラスから侵入できたようなものだが…」

「それもそうですね…?」

「それにマリガンのやつ、マークⅡをやっつけたと思ったら、笑ってそのまま逃げてしまった。皇帝には見向きもせず…?、これってどういうことなんだ。まるでウォーダインマークⅡを倒すためにやってきたみたいだ」

するとそれまで黙って通信を聞いていたゼペックが思いついたように言った。

「案外クリフの思った通りじゃないかな。マリガンはハカイオウのために破壊3銃士を皇帝から引き離して外に連れ出し、あわよくば倒すのが目的だったかもしれない」

するとネビルがまた言った。

「なるほど皇帝から引き離して外に連れ出すか?…じゃあ、ハカイオウはもう建物の中にいるのかな?まさかね?」

クリフはその言葉を聞いて、何かとんでもない見落としがあるような気がしてきた。

「ゼペック、ンネビル、とにかくいろいろ腑に落ちないことが多いかもしれない。お互いに連絡を密に取って、小さなことでも報告し合おう」

「了解」

話しながらクリフも着替えが終わり、更衣室を出た。

「あ、カバチョ団長、ごくろうさまでした」

ハッピーカバチョ団長はあのお腹がぽコントでた燕尾服の気ぐるみのまま、顔のマスクだけを外し、あのカバキャップをかぶってニコニコしながら出てきた。マスクをしたままでは晩餐会のごちそうは食べられないが、気ぐるみを全部脱いでしまえば誰だかわからなくなってしまうということらしい。

「あれ、さすが、幽霊船長君も、今日は男前だね」

「ありがとうございます。カバチョ団長は、科学は人を幸せにするためにこそあるって言ってましたけど、本当にサーカスを見る人もやっている方も幸せな気分ですよ」

「はは、それは良かった、君にそう言ってもらえれば、おかげでまたがんばれそうだ」

そう言って笑いながらカバチョ団長は歩いて行った。

その後ろ姿を見ていたクリフは何気にある事をひらめいた。

「あれ、これって…もしかして?、そうか、思いだした、あの開かなかった最後のファイルのパスワードがわかったかもしれない?!」

それは忍者軍団とビーストフォームの戦いの中からネビルが見つけたメモリーカードに会った3つのファイルの最後の1つだ。流石のゼペックもパスワードがわからず、解読できなかった最後のファイルだ。

「そうか、そうだったのか。そうだとしたらすべて説明がつく」

クリフは、控室にいるはずのゼペックを探し始めた。

「ゼペック、ゼペック訊いてくれ、パスワードがわかったかもしれない」

同じ控室で休んでいたゼペックは突然のことに驚いたようだったがすぐに冷静になってクリフから詳しいことを聞いた。

「やったなクリフ、そりゃ、間違いない!」

「あ、でもそうか…あのファイルはここにはないか?」

「ははは、任しときなって」

ゼペックは手荷物の中から見たことのあるようなアタッシュケースを取り出してさっと蓋を開いた。ふたの裏側はマルチモニターに成っていて、そこにはいつものコンピュータ画面がぱっとついた。

クリフはエリュテリオンの控室にいたネビルもすぐに呼び、チームはハカイオウの最後の謎に向かってついに動き出したのだった。

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