18 空中庭園の侵入者
「いよいよだな。そちらの手筈はどうだ、クリフ君」
「クリフさん、私も女王様と連絡を取りながら、ノーマン本部長と作戦に加わるわ」
ハカイオウ事件を追っているエスパルのノーマン本部長と諜報部のサンドラ・コーツ長官が、並んで画面の向こうから話しかけてくる。
「私とゼペックは今フラッシュギラード船長の天空船でサーカス団とともに移動中です。私はサーカス団の団員として、ゼペックはサーカス団のエンジニアの一員として宮中晩餐会に潜り込む手はずです」
「ネビルさんはどうなったの?」
「色々あったのですが、総合武術大会の控えの選手としてエプシロンの船でルパートに向かっています。ですから、ゼペックと私とネビルのチームで作戦に臨めそうです」
「我々連邦警察でも誰一人近寄れもしなかった宮中晩餐会にチームで潜入できるとは大したものです。カイザーパレスの周囲やハカイオウに関する情報はこちらからすぐにゼペックの方に送っておきますよ」
「了解」
すると今度はサンドラ・コーツ長官が訊いてきた。
「それで宮中晩餐会の式次第は、タイムスケジュールはまだ分からないの?」
「ええ、先ほどギラード船長から教えてもらいました…。すぐそちらにデータ転送します」
それによると。
場所、カイザーパレス大ホール、5時開演。
1、総合武術大会の演武・予選。
2、コラボ公園キンドラ・マキンドラ。
3、コラボ公園「幽霊船の戦い」。
4、休憩。その間に宴会の準備。
5、晩餐会、今回は中華のフルコース。
6、休憩時間。
7、総合武術大会決勝。
「なるほど…それで肝心の皇帝が出てくるのはどのあたりなのかしら」
「映像参加が2回、実際に出てくるのが2回です。途中までは皇帝の部屋で画面参加らしい。でも宴会の始まる時に出てきて、完敗に参加します。それが1回目です。そして午後、総合武術大会の決勝戦に出てきて、優勝者にトロフィーを渡すようです。それが2回目です。ですから当日、相手があのハカイオウですからどの時間帯も気を抜けませんが、大勢の前に出てくる宴会の時が1番狙われやすいかと…」
「わかりました。追って連絡します。健闘を祈ります」
秘密連絡を終えたクリフは、念のために変装用のメガネをかけた。目の大きさや感覚を微妙に変えて顔認証を逃れる特殊なメガネだ。そして通路に出ると、あのハッピーカバチョ団長があの本物そっくりのカバのマスクを小脇に抱えて歩いてきた。
「カバチョ団長、いよいよ本番ですね、緊張しますね」
「ほうほう、クリフ君、メガネもに会うねえ。君の幽霊船長の拳銃の技のきれが抜群だから、会場も大盛り上がりさ。今夜もよろしく頼むよ!」
「はい」
団長はいつどこであってもニコニコしている。怒ったりしているのはみたことがない。
「ところでカバチョ団長は、発明家だったのに、なんでサーカスを始めたんですか?」
クリフがふと思いついて訊くと、カバチョ団長は素晴らしい笑顔で答えた。
「科学は人間を笑顔にするために使ってこそ本当の化学だ。人間を幸せにするための化学なんだ。サーカスに使えばそれが1番かなって思ってね」
発明も素晴らしいし、本当に大好きな人だ。だがその時、カバチョ団長の言葉をきいて、クリフは何か心にひっかかるものを感じていた。でもはっきりとはどうも思いだせない。
「それでね、クリフ君、ギラード船長がすぐ船長室に来てくれってさ」
「わかりました」
なんだろう?緊張が高まる。
天空船の廊下にある小さな丸い窓の外は大宇宙、星の海原だ。クリフは廊下の突き当たりにある船長室へとはいって行く。大きな錨やこのアドニス開拓ちくの惑星の大洋や海流の流れもわかる立体地図がかざってある。
「おや、こっちは宝の地図?」
見ると、ギラード船長が発見した各地の遺跡地図が展示してあり、部屋の中央には宇宙航行用の立体羅針盤が動いている。
「いやあ、こんなときに呼び出してわるかったなあ、じつは直前にいつもの通りマギに占ってもらったんだがね、マギがどうしても占いの結果を君に知らせたいと言うんだ」
船長室の奥で、小さな机に座ったまま、マギがあの大きな緑色の瞳を開いて、ルパートクリスタルを眺めていた。
「ちなみに私は、その時が来たら、命がけで走れと言われたよ。その時を逃したら、一生後悔するとマギは言うのさ、いったいなんのことやらね」
まぎは、その緑色の瞳をいっぱいに開き、集中して、おごそかに話し始めた。
「いくつか重要なビジョンが見えて、今船長にお話ししたんですけれど、その中に恐ろしいものが見えて、これはクリフさんにすぐお知らせしなければと思って…」
クリフは、ごくんと唾を呑んだ。マギの占いのビジョンが見えてきたようだった。
「…正義の名のもとに何人もの人が犠牲になる、嘘と裏切りが歩きだします。恐るべきは、4匹の不死身の怪物です」
「4匹?それは…、4人のぼすかい、それともあのハカイオウの感警戒?」
「厳密に言うとどちらでもありません。奴らは文字通りの怪物なのです。そしてその4匹の怪物とハカイオウが関わった時、古代の災厄獣があらわれるかもしれない…。この予言は当たらないでほしいものです…」
そしてマギはクリフの目を見てまっすぐに言った。
「その1番大変な時に悪意の牙が襲いかかります。大切なものを見失わないように気をつけてください」
「わかった」
マギの占いは良く当たる。とにかく慎重に行動し、自分の使命を全うしようとクリフは思った。それにしても博物館でやっていた天変地異とモンスターの展示が思い出される。災厄獣?そんな巨大なものが本当に現れたら…?!
「気をつけてくれ、よろしく頼むよ、幽霊船長さんよ!」
ギラード船長は、あの無邪気な笑顔でクリフに最後の握手をしてくれた。
いよいよ天空船は、サーカス団を連れて大河の惑星ルパートに到着だ。
天空船は大気圏を統べるように進んでいっく。海を越え、遠い山脈を眼下に見ながら地上へと近づいて行く、やがて緑の山、大河メラーの流れ、大瀑布、巨大ダムが飛び越えてカイザーパレスへと近づいてゆく、宇宙空港にはもう、ベガクロスの白い棺桶の異名をとる宇宙戦艦スノーホワイトが到着している。そしてつい今しがた到着してゆっくり滑走路を移動している金色に輝く宇宙船館も見える。エリュテリオンのグレイシス将軍の旗艦ライジンだ。
そしてもう少しすれば地球や開拓地のあちこちからプライベートジェットや大型宇宙船で招待客もどんどんかけつけてくる。宇宙空港はにぎわいの時間を迎えたのだった。
実は昨日のうちから先発隊が一足先に到着し、サーカス関係の大型の舞台セットや立体映像システムなどのセッティングに入っている。あとは夕方までにサーカスの舞台づくりを済ませ、着替えて会場入り、本番だ。
案の定、空港ではサーカス団員にも持ち物や身体の厳重なチェックが待ち構えていた。
「おや、前の方で引っかかっている」
持ち物チェックでトラブルが起きているようだった。ギラードの天空船より先に着いていたベガクロスのスノーホワイトの乗客だ。のぞきこんだクリフは驚いた。
「ヴァルマ教授とフリードの持ち物らしいぞ」
教授のカバンから出てきた小さなフラスコのような精妙なガラスの容器とフリードの新しい鉄仮面だ。まあ、普通の乗客が持っている持ち物で歯あり得ない。しかもヴァルマ教授のフラスコの中にはちいさな黒雲のようなものが入っている。
「…一体なんですかこれは?」
取締官も困っているようだった。教授は平然と答えた。
「古代の秘術で作った霊的な生命体だよ」
そして教授は爆発の恐れはないと言わんばかりに、ライターの火を近づけ、フラスコの口にかざした。
「ほら、どうだね。まったく危険はない」
取締官はそんなことをさあれては困ると、逆に態度を硬化させたようだった。
「ふむ、いったい、どうしたというのだ。教授?」
おっとりでてきたのは長身のプラチナブロンド、大ボスのベガクロスだった。
「このフラスコも、鉄仮面も古代の貴重な研究の結果だ。取締官のマニュアルには記載がない、迷惑をかけるね」
「はあ」
そしてベガクロスは半ば強引に学術的物品と言うラベルを貼ってフラスコと鉄仮面を通してしまったのだった。
そしていよいよサーカス団の順番だ、あの花火弾の拳銃も、クリフのイズナもひっかかってすぐには通過できない。
やはりだめかと半分あきらめていたら、意外に2つとも無事に通過。ガンマンショ―のピストルはそのド派手なデザインから、イズナの方は、そのレーザードームのついたオモチャのようなデザインからサーカスの小道具だと認められたようだった。
クリフはゼペックとともに、悠久の大河メラーの岸辺を移動用のバスで進んで行った。カバチョ団長をはじめとしたサーカス団の仲間も一緒だった。バスは巨大なゲートをくぐり、北側に曲がると、グランポリスと呼ばれる丘の前に出る。そこは古代に造られた丘で、横幅900m、奥行きも400mほどあり、小さな街が入るほどの広さがある。周囲は巨石が城壁のように組まれ、簡単に丘の上に攻め入る事はできない。洪水の被害を避けようと古代の皇帝たちが作った丘で、最初にここを再現、整備したのはマリア・ハネス・メルセフィス女王であった。
今は東西南北にいくつも階段や道路があるが、昔は大河メラーに出る南側通路だけで、そこを閉ざすと難攻不落の要塞と化したという。
巨石の丘の南西側に大きな扉が開き、やがてバスは石舞台を昇る西側の地下通路へとはいって行く。ここから緩やかな坂道を登り、バスは巨石の上に顔を出す。
そこは空中庭園と呼ばれる古代の壮大な庭園であった。城壁の上にある庭園なので高い場所にあると言う事で空中庭園と呼ばれていたと言う。空中庭園は古代の庭園博物館とも呼ばれる、この観光立国ルパートのシンボル的な施設である。
バスがのぼってすぐの西側の隅には、子どもにも人気の古代の木造船「ケペル号」が展示されている。これは学術研究用に造られたもので、今も実際に大河を走っている古代観光船のもとになった船体だ。堅牢な木造船で、船首には伝説の怪魚ラルーガの彫刻があり、船体には太陽神アノスの紋章がついている。ない部も忠実に古代の様子が再現されているが、冷暖房も完備で、怪魚ラルーガやケペル号のフィギア等を売るグッズコーナーもある。甲板から眺める風景が美しいと、人気の写真スポットにもなっている。
そしてケペル号のすぐ横に、以前クリフが来た時には無かったものがそびえていた。
「おお、これが噂の太陽神の顔か?なんと大きなものだ」
クリフもつい見入ってしまう。
古代実在の歴史では、メルセフィス女王にとってかわったクオンテクス皇帝は、それまで女王が崇拝していた創造神アマミラに代わり、太陽神アノスを崇拝するようになったという。現代の皇帝クオンテクスも女王から実権を奪ったのをきっかけに、この空中庭園の西の奥に太陽神の巨大な顔のレリーフを建てたのだ。顔の長さだけで数mはある太陽神アノスがカイザーパレスから周囲を見下ろす凄い存在感であった。これは古代の正確な記録に基づいた再現なので女王も表立って反対はしなかったが、心の中では屈辱の嵐が吹き荒れたようであった。
クリフは巨大な太陽神のレリーフを見上げながらいろいろ考えていた。
空中庭園をさらに進む。庭園の中央には古代様式の噴水とせせらぎ、そして遊歩道と数え切れぬ石像が立ち並ぶ。古代の12神、スフィンクス、歴代の皇帝、女王等、すべて遺跡から発掘されたものの高度な技術で再現された精緻なレプリカである。
石像の中には、古代のクオンテクス皇帝の石像もあるのだが、この石像は最近、クオンテクスが皇帝になってから創られたものだった。その顔はやはり古代の政変によって打ち壊され、現代には伝わっておらず、欠けたまま再現されていた。
「古代クオンテクス皇帝の顔が打ち壊されたままなのが、まだ女王が、許したところか?」
さらに噴水や石像の北側には1万数千年前の最古の移籍とされる「柱の神殿」が女王により作られている。これは6本の柱が丘の上にストーンヘンジのように並べられたもので、創造神アマミラの光臨を願う儀式に使われたものである。
やがて南側の広いヘリポートを抜けてバスが進んで行くと、このグランポリスの中心となるカイザーパレスの中庭が広がり、さらにその向こうに東側の大理石の螺旋塔と植物園も見える。螺旋塔は前回皇帝が逃げ込んでハカイオウに追い詰められた場所であり、植物園では、古代のルパートローズが目にも鮮やかに咲きほこっている。
石像や壁画で飾られたカイザーパレスだが、もちろん内側はエレベーターから自動扉、監視カメラやセキュリティaiまで完備している最新の施設である。
「ゼノン大佐、サーカス団のバスが空中庭園を通り、正面ゲートを通過しました。予定通り順調に進行しています」
優秀な情報将校であるレイカー少佐がモニターをチェックしながら告げた。
ゼノン大佐は現在時刻をもう一度確認するとおごそかに言った。
「よし、レイカー少佐、レベル5に上げろ、アノスの本格始動だ」
「了解」
レイカー少佐が操作すると、大きなモニターにあの太陽神アノスをデザインした人工知能アノスの顔が浮かび、しゃべり始めた。
「セキュリティAI、アノスレベル2からレベル5に変更します。」
これでこのカイザーパレスの周辺、上流のタイタンダムや宇宙空港、博物館や移籍などの観光スポット、ハイウェイや観光船などの交通システム全般まで、あらゆるセクションの監視カメラやセキュリティ異常などのデータがリアルタイムで人工知能に処理される。
人間の目では分析不能な数万を越える監視カメラ画像をすべて、広く深く総合的に分析して、異常があればその結果がこの中央セキュリティルームに報告されるのだ。
やがてモニターの太陽神アノスの顔が報告を始める。
「私はアノスです。今このエリアにいるすべての人間の認証が終わりました。このカイザーパレスにいる人間、アンドロイド、警備兵、招待客などすべての配置場所、活動レベルを把握しています。今、空港に次々に新しい人間や物資が入ってきて認証・確認作業が行われています。…要注意団体、ミリオンクロスオーケストラと合唱団の人員と荷物が、ゲートを通過、こちらに移動を始めます。…只今、最重要物資、ナインキューブが3つの宇宙船から別々に運ばれてきました。これから生命金属反応を一括して測定します…」
最重要物資なので画面が新しく開く。空港であの皇帝の紋章のはいった黒い戦闘服の皇帝親衛隊が1か所に集められた。少しずつ大きさの異なる9つのキューブを取り囲んでセンサーでチェックを始める。
「うむ、反応に間違いはない、内箱の封印も解かれていない」
ゼノン大佐が許可を出すと、その命令がダイレクトに現場に伝わり、運搬が始まる。そして逆にゼノン大佐の命令や、このナインキューブの確認などの重要な映像は親衛隊員の持っている通信端末に、重要事項として随時流される。だがゼペックがこの通信端末のコピー機をあっという間に創り上げ、必要なデータや命令、映像などはこちらも随時、ネビルとクリフの通信端末に小さな画面となって流れるようにしてしまった。クリフが興味深そうに言った。
「へえ、あのアステカビートの事件の時のナインキューブが、めぐりめぐってここに集まってきたのか…」
「なんかいわくつきの物品ですねえ…」
招待客は、政府関係や女王の関係の学術研究者などを除けば、そのほとんどがこの第三開拓地区の富裕層で、クオンテクスやベガクロスの取引相手なども多い。
「要注意招待客の、ガロア博士一行です」
アノスの声に、ゼノン大佐は画面を確認する。皇帝に忠実なゼノン大佐は何人かの怪しい人物に目をつけて警戒していた。このガロア博士もその中の一人だ。でもまさか、皇帝の主席補佐官のウォルター・ワイルダーが裏金を送っている人物とまでは把握していない。今日は、ガロア博士は本人のほかに2人の若い研究員、サム・グリーンとニック・ブルーを連れている。
「荷物や衣服をっ厳重にチェックして、少しでもおかしなところがあったら追い返せ」
しかしガロア博士たちの持ち物にも衣服にも怪しいところは1つもなく一行はカイザーパレスへと移動を始めた。
「これからもこの3人の行動は細かく分析しろ。異常が少しでもあったらこちらに報告だ」
「了解しました」
レイカー少佐は引き続き重要人物の指定をアノスに命令した。
招待客や出演者たちはそれぞれの大きな控室で身支度を整え、やがて時間に成るとぞろぞろと大ホールへと移動を始める。フラッシュギラード船長は特別待遇でサーカス団とは別行動だ。クリフはあの幽霊船長のがいこつ衣装、さすがにこの姿で廊下を歩くのは気がひけたが骸骨船員になったナイフ投げのキールもやってきた。2人で歩けば怖くない。双子の美少女アリストアリエスは海の妖精のファンタジーな衣装、クリオねロボットのキューピーも彼女たちの回りをパタパタと飛び回っている。ほかの団員達も海賊衣装だ。海賊ピエロに、例の海の怪物ボブオクトもくねくねとついてくる。警備の係にはあらかじめこの衣装で動くと連絡しておいたので特に問題は起きなかったが、親衛隊員たちもさぞ驚いたことだろう。
カイザーパレスのあちこちには戦闘服姿の皇帝親衛隊が配置され、ものものしい雰囲気であった。
クリフはゼペックやサーカス団の仲間と大ホールへと入場だ。
「おお、す、すごい」
普通の建物なら5階の高さまでの吹き抜けの天井、まるでヨーロッパのオペラ劇場のような豪華さだ。でも舞台や観客席はロボット運搬装置による移動式で、ずらっと座席を並べることはもちろん、全部片付けてだだっ広い空間にすることも、おしゃれなパーティ会場のようにテーブルを並べることも自由にできると言う。今日は招待客や女王などの座席がきちんと用意されている。そしてその前に、総合武道大会が行われる四角い闘技場が一段高く組まれている。今は、立派なホログラムの幕が下がり、闘技場は見えない。その横には、幽霊船の大掛かりな帆柱などのセットやオーケストラのための演奏用の座席などが出番を待っている。クリフたちはさらにその奥にある出演者のスタンバイスペースへとはいって行く。
クリフたちサーカス団から良く見えるところにミリオンクロスオーケストラと合唱団がもう着ていて、静かに椅子に座って出番を待っている。最前列の目立つところに、あのベートーベンのようなマイスターゲルバーも、天才美少女メルパや舞姫ジュネの妹ジュリもいて、おとなしくじっとしている。
やがて出演者や招待客もそろったところで、ボスたちの登場だ。まず、王宮騎士団に守られながら、長身の揺れる挑発輝く古代アクセサリーの、マリア・ハネス・メルセフィス女王が入場。最近なかったような体調の良さで、顔色もよく、肌もつやつやしている。会場がわっと華やぐ。そして次にハッピーカバチョ団長と占いのマギ・トワイライトを引き連れてやってきたのが海賊王、フラッシュギラードだ。いつも自由で無邪気だが、今日は威風堂々とした船長の服を着ていて、しびれるほど男前だ。
そのギラードが女王のそばを通る時、突然声をかけた。
「よう、女王様、ドレスもきれいだが、今日は最近になく顔色がいいねえ、安心したぜ」
一度はギラードに決別を決心して、別々の道を歩んだ女王だったが、べつに喧嘩したわけでも、問題が起きたわけでもなかった。ああ、そうなんだ、この人は何も変わっていない、あのほれぼれするほどカッコよく、でも無邪気で純粋なままなんだ…。もしかして私の体調をいつも気にかけてくれているのかしらてん。女王の心にドキドキがよみがえってきた…。続いて入場したのは、あのセレニアス老師と長身黒ひげのモリヤ・モンドを引連れて入ってきた連邦軍の軍服姿が戦う哲学者、グレイシス将軍だ。最後にとびきりの美女二人と楽しそうに会話しながら入ってきたのがあの長身のプラチナブロンド、魔薬王ベガクロスだ。
椅子に座ってしばらくすると、宮中晩餐会の開幕時間だ。招待客の前にあるホログラムの幕がそのまま大モニター画面に代わり、会場が暗くなる。静まり返る会場。スタンバイスペースのクリフたちの前にもモニター画面が開く。皇帝の部屋が映る。誰もいない。
広い部屋の中央に皇帝の大きな椅子があり、周囲の壁には、皇帝に送られた美術品や宝石が飾られている。女王の発掘した貴重な古代の宝石や遺物はわざと置かれていない。一番目立つのは、算術軍師ミハエル・マキシミリアンから送られたヒスイとトパーズで作られたホルムフェニックスの置き者だろうか…。
そこにまず主席皇帝補佐官ウォルター・ワイルダーが正装して姿を表し、机の上に原稿を用意する。すると、そこにあの頭部にメタルの輪をはめた皇帝クオンテクスが歩いて入ってくる。手や足の義手義足部分もきちんとわかる映像で歩き方やあの独特の雰囲気も伝わってくる。強く、高圧的で、でもどこかに優しさや哀愁が漂っている。今日は襲撃を想定して準備したのか、首や胸を覆う鎧のようなスーツを着込んでいて見るからに強そうだ。
部屋にかかっている大きな時計から、生中継である事が伝わる。
「…それでは皇帝クオンテクス陛下から挨拶がございます」
ウォルター・ワイルダーの言葉に、皇帝が進み出る。
「…私だ。皇帝のクオンテクスだ…」
皇帝は復活宣言を行い、招待客に礼を述べ、宴会の時に直接みんなの前に姿を現す約束をして生中継を終わる。
すると部隊の幕も大画面も消えて、大ホールの中央に、正方形の大きな闘技場が出現する。数人の美しい女性が登場する。
「今日、士会を仰せつかりました、クィーンウイングスのアイリーンです」
クィーンウイングスは、現在エリュテリオンのグレイシス将軍の所で活躍しているが、もともとは女王のブレインとしてこのルパートに集められたスペシャリストたちだ。このカイザーパレスはかってしったる古巣である。先ほど女王と感動の再会を果たし、どことなく生き生きしている。
「ではプログラム1番、トップクラスの武道家たちによる演武から始めます」
会場がどっと盛り上がる。武道大会の立会人、および特別レフェリーとして紹介されたのが、あの見事な黒ひげの大男、モリヤ・モンドだった。そして続いて出てきたのが、巨大なグレートソードを自在に操るアリオン、どちらも格闘階の伝説的なビッグネームだ。それがすぐ目の前に出てきて技を披露すると言うのだから、観客も沸き立つわけである。
アリオンが今日使うのは訓練用の刃のない剣だが、ずっしり重そうで十分危険そうだ。
「グレートソード10人勝負。始め!」
大男のモリヤモンドが叫ぶ、するとアリオンの一派の若い剣士が10人さっと出てきて、剣を振り上げ、1度にアリオンに襲いかかる。こんな振り回すのも難しいような大きな剣でどうやって戦うと言うのだろう?
「満月旋風斬り!」
突然巨大な剣を360度振り回す、クモの個を散らすように10人はバラバラニ陣系を崩す。そしてきれまなくそのまま次の技だ。
「水車斬り!、波紋斬り!」
さらに縦回転、地を這うような低い回転の連続技で、敵を近づけない。
「8の字斬り!」
今度は複雑なスイングで後ろの敵と前の敵をなぎ払う。だが、ここで数人の敵が懐に飛び込んでくる。長い剣は近い距離からの攻防に弱い?!だがアリオンは今度は巨大な剣を両手で盾のように使い攻撃を統べてはじき返す、
「鳳凰斬り!」
そしてそのまま鳥の羽ばたきのように横に振り回して2人を打ち倒す。
ブンブンとすごい音がして、さらに切れ目なく攻撃が続く。
「振り子斬り!」
下から上に振り上げるようにして1人倒すと。
「突風剣!」
そのまま大きく伸びる月技を繰り出しまた2人を吹っ飛ばす。そして左右から迫ってきた敵を。
「メビウス斬り!」
横8の字スイングで確実にしとめる。
そして最後の1人の攻撃を小さな回転で跳ね返し、そのまま飛び上がるようにして、大きな回転で上から斬りおろす!
「ギロチン斬り!」
最後の剣士の剣が宙に舞い、あっという間に誰もいなくなった。
「そこまで。勝負あり!」
モリヤ・モンドの声が響いた。
1瞬静まり返った後で凄い歓声が湧きあがった。すごい、すごい迫力だった!
次は、ぶっとい首、武暑すぎる頑丈な胸板のロック・ゴードン・ムトウだ。身長は2mある黒ひげのモリヤ・モンドにはちょっと負けるが、やはりデカイ。そのどっしりとした肩幅や岩のような筋肉は人間離れした大きさを感じる。ミュう嬢とともに上半身裸となり、すさまじい呼吸法で古武道の型を行う。これで体が岩のようになると言う。
「おおおおっ!」
そして1門の若いものが何人も太い角材を持って入場する。モリヤ・モンドが角材を1本1本力を加えてチェックをするが、どれもなかなか折れそうにない。
さらに重ねたレンガも3か所に置かれ準備が終わったようだ。
「岩石気巧演武始め!」
「おう!」
若者たちが、首に、背中に、肩に、腹に、太ももにその角材を何度も叩きつける!
「うわあっ!」
すべての角材はへし折れ、砕け散る。その時の音が、まるで岩にでも当たったような凄い音なのである!
そしてロック・ゴードン・ムトウはそのまま目の前の重ねたレンガを頭突きでこなごなにし、拳とひじ打ちで左右のレンガも粉々だ!、
一瞬凍りつくような静けさの後またもや大歓声だ。
「ではエリュテリオン総合武道大会予選を執り行います」
そこでモリヤ・モンドから説明があった。舞台の正面に第画面が開き、エリュテリオンで行われた1次予選のダイジェストが映し出される。
「…危険のないようにそれぞれの流派の武道アーマーや訓練用武器を使っての対戦です。致命的な一撃が決まったところで1本勝負で決します。エリュテリオンの各流派から総勢78名が参加、先日1次予選が執り行われました」
クリフもスタンバイスペースで映像を見ていた。驚いたのは武道アーマーの多彩な進化だった。新素材を使った軽くて丈夫なヘルメットやゴーグル、体の各部のプロテクターなども非常に個性的なデザインやカラーリングが使われていたことだ。
凄いと思ったのは、昔ながらの胴着や戦闘用の衣服と一体化したタイプの武道アーマーだ。伝統的でもあり、近未来な感じでもある。さらに今は話題の生命金属や体表への銃弾や打撃に反応するバリアシステムのアーマーもかいはつされているという。
「おお、1次予選にはネビルも出場していたのか」
ネビルもあのハヤテと同じような実践的な武道アーマーを着て、果敢に戦っていた。だが、相手が悪かったようだ。あの190近くもある漆黒のアテナ、サンダーボルトジェニーの怒涛のようなアックススピア攻撃の前に吹き飛んだ映像がちらっと映った。
それぞれルールや武具も異なる無理な対戦であるのは承知の上、しかも1本勝負なので必ずしも予想通りの勝敗にはならないが、参加者はそれを楽しんでいるようでもあった。まあなんといっても予選からレフェリーを務めるのがモリヤ・モンドだ。この最強の大男の裁定に派誰も意義を唱えることはなかったようだ。
ダイジェスト映像が終わり、いよいよ本日の本番となる。正確にはエリュテリオンでの1次予選を勝ち抜いた者による4試合がこれから行われる。
「今朝厳正なる抽選を行い、対戦が決まりました」
今度は第画面に第1試合の対戦が表示される。総合司会のアイリーンの声が響く。
「予選第1試合、ボクシングと総合格闘技のクラッシュ・レイ・ゴング対裏合気道、舞姫ジュネ!」
「おおおおおっ!」
湧きあがる観客。クラッシュ・レイ・ゴングはボクシングのスーパーヘビー級のチャンピオンだった男で、最近は武道アーマーをつけて格闘技戦にも出ているビッグネームだ。そして舞姫ジュネは通の間では超有名な名前だが、なにぶんにも、まだ1度も試合に出たことはおろか、道場以外には姿を見せたことのない幻の格闘家だ。ただ気になるのはゴングが186、90kgの巨漢なのに対し、舞姫ジュネは普通の小柄な女性である。さらに、ゴングは軽装の武道アーマーに軽くて堅牢なパワーグローブだが、舞姫ジュネはしとやかな和服の袴姿に美麗なヘルメットやプロテクターをつけたようなハイブリッドな服に、扇子を1つ持っているだけだ。
「では、1本勝負、初め!」
モリヤ・モンドの声に、舞姫ジュネは丁寧にお辞儀をする、巨漢のゴングは拳を構えて突進、一気にかたをつけるつもりだ。
「ええっ?」
舞姫ジュネは閉じたままの扇子を1本左手に構えたままそれを迎え撃つ。切れ目なく、っジャブがストレートが繰り出される。
「ば、ばかな?!」
だがなんと言うこと、舞姫ジュネはヒラリひらりと紙一重でパンチをかわし、あるいは扇子で左右に跳ね返し、パワーグローブをたたき落とし、舞うように間合いをとりながら、すべてのパンチを見切って行く。
あせったゴングは、フットワークを使い、右から左から変幻自在に回り込み、切れ目なく、多彩なパンチを繰り出して行く。しかし、舞姫ジュネはかすかにほほ笑むとまるでその動きを予測するかのようにヒラリひらりと舞うようにかわして行く。そして時折すごみさえ感じられる眼力をゴングに向けるのである。そしてゴングが伸びのいいストレートを放った瞬間だった凄まじい闘気が、閃いたのであった。
「ううっ!」
ゴングが右の肘を押さえてよろめいた。何が起こったのかほとんど分からなかった。セレニアス老師がつぶやいた。
「まずい…腕が伸びきる瞬間に閉じた扇子で関節のツボをつきおった」
ゴング本人にも何が起きたのか分からなかった。突然のひじの痛みをこらえながら強力なパンチを放った!。
「うぐっ!」
予期せぬひじの痛みに動きが一瞬止まる。その瞬間だった。
「はーっ!」
左手を舞姫ジュネにひねられたゴングがあっという間にバランスを崩した。舞姫の白足袋がぐっと踏み込んだと、見る間に巨体が宙を舞った。裏合気道の投げ技だ。そして、ゴングは、背中から叩きつけられたのだ。
「勝負あり、舞姫ジュネ」
モリヤ・モンドが叫んだ。ゴングはすぐ立ち上がったがふらふらしていた。舞姫ジュネはおしとやかにお辞儀をして闘技場を降りた。モニターで見ていたクリフは凍りつくような戦慄をおぼえた。技の切れはもちろんだが、舞うような動きの中に、修羅場をいくつもくぐり抜けてきた凄みを見たからに違いなかった。
「予選第2試合、ハヤテ対サンダーボルトジェニー!」
またもや会場がざわめいた。若手のホープ、今が伸び盛りのハヤテと、なく子も黙る怒涛のアックススピア、サンダーボルトジェニーだ。
ハヤテは木刀を、ジェニーは練習用の斧のついた槍で勝負する。ハヤテは流れるような連続技が持ち味、ジェニーは今まで最初から終わりまでガンガン攻めまくるスタイルで勝ってきた。
「勝負始め!」
早速アックススピアを鋭く突き、ブンブン振り回すジェニー、だが今日はハヤテも負けていない。しかし、その時ゼノン大佐とレイカー少佐の中央セキュリティルームでは異変が起きていた。
「アノス、どうした?」
突然の軽快音に大佐はあわてた。
「今、1秒の数百分の1秒ほどの間、強力な暗号電波がこのカイザーパレス周辺で観測されました」
「何?内容は?…暗号で全く分からない?場所はどこだ?どこかにスパイがいるのか?」
だがカイザーパレスの敷地のどこかと言うことまでしかわからなかった。その頃、皇帝は部屋のマルチ画面で、ハヤテ対サンダーボルトジェニーの一千二興じていた。
「おおっ!」
上からたたきつける斧の1撃がハヤテの木刀をついに叩き落した!
「おお、やはりサンダーボルトジェニーが勝ったか。ハヤテもどんどん強くなっているが、あの女の強さはどうだ!」
だがその皇帝の後ろでは、あの算術軍師ミハエル・マキシミリアンから送られたホルムフェニックスの置物が、怪しい光を放っていた。
その時、大河メラーが注ぐアネスシア海に浮かぶ漁船の選定から、1台の一人乗り用のステルス潜水艇が発射されたのであった。潜水艇は、人知れず海底を音もなく進んで行き、やがて大河メラーを遡って行ったのだった。
「予選第3試合、神泉寺師範、リクウ対九鬼宗家、九鬼一角」
またまた観客は度肝を抜かれた。リクウはメリッサ達に武術指導をしていたセレニアス老師の弟子で、精悍で謙虚な熟達者だ。2年前、地球の霊山で千日の荒行を終え、このエプシロンに来て師範の座に就いたばかりであった。あらゆる武道に精通した達人だが、特に武具を使わせればナンバー1の呼び声も高い実力者だ。
「ハアーッ!」
リクウは入場とともに、軽く良くしなる棒術の棒を振り回し、見事な型を披露する。
そして実践では叶うものがいないだろうと噂の九鬼一角である。普段はシャイなどこにでもいそうな若者にしか見えない。長髪に今日は羽織はかまと言う伝統的な姿で現れた。だがこの和服はいくつもの仕掛けがあり、カーボン繊維などを使った超ハイテクな戦闘用スーツらしい。ぶきはやはり一本の棒であった。だがこちらの棒は、先端にフックのような金具が付いている?
「一本勝負、初め」
モリヤ・モンドの声が響く、まさかこんなビッグカードがみられるとは思ってもみなかった、観客の熱い歓声が会場に吹き荒れる。会場にっ未知テクる。
リクウの華麗な棒術が最初から爆発、突く、斬る、叩きつける、回転して連続技だ。
だが防戦一方に見える九鬼一角だったが、冷静にすべての攻撃を受け止めて、生き一つ乱れていなかった。
そしてこちらも棒術を使うのだが、フックでひっかけると言う変則的な攻撃も加わる。
そこでリクウが勝負に出た。
「地竜!昇竜!」
リクウの地面すれすれの突き、払い、そして地面を強くたたいてからの突然の突きあげ、切れ目のない流れるような連続攻撃に、会場が盛り上がる!だがここで暗器を得意とする九鬼一角が仕掛ける。
「蛇変化!」
「な、なに?!」
いままで棒対棒で華麗な攻防を繰り広げていると思っていたのだが、突然、九鬼一角の持っていた棒が瞬間死なって伸びたかと思うと、生き物のようにくねり、鞭のようになり、リクウの両手をぐるぐる巻きにしてしまったのだ。
「く、はずれない?!」
あわてて逃れようともがくリクウ。この一角の棒はいくつもの関節を持った棒で、仕掛けを緩めれば関節が緩んで鞭のようになり、しかも先端にあるフックに絡めると、ちっとやそっとでは外すことができないのだ。
観客の目が展開に集中していた時だった。まったく別の思惑で別の物たちが動きだしていた。スタンバイスペースのミリオンクロスオーケストラの楽器ケースの一つのフタが、突然開いた。中から偵察用の小さな昆虫メカが飛び出し、会場や廊下の警備データを送信したのだった。熱狂する観客はまったく気付くこともない。
そしてメルパが動きだす。数人の選ばれた楽団員と横笛のジュリのコンタクトレンズモニターにメッセージが浮かぶ。
「偵察メカから異常なしのメッセージが届いたわ。予定通り、すべての昆虫メカの発信、行くわよ」
選ばれた楽団員たちはそれぞれが持っていた楽器の運搬ケースに向けて、アック背去りいーのリモコンボタンを押したのだった。
あるケースからは軽やかに飛ぶ蝶のメカが、別のケースからは高速で移動するアリのメカが、ほかにも特殊能力を持った蜂のメカや甲虫のメカが音もなく飛び出し、熱狂する観客の足元を、そっと移動して行ったのだった。
「うぐぐ…!」
必死に逃げようとするリクウ、だがフックにからめた鞭を自在に操る九鬼一角は、次の仕掛けを発動させた。シャキンという音とともに左の袖から鎖分銅が伸び、8の字に回転させたと見るや、当て見一発、動きのとれないリクウのみぞおちのあたりを的確に狙い、リクウを膝から崩してしまったのだった。
「勝負あり!宗家、九鬼一角」
まさか、神泉寺の師範が破れると言う大葉蘭、しかもみたことのない九鬼一角の暗器攻撃、会場は熱気に包まれたのだった。
だがそこで士会のアイリーンから、驚くべき発表があった。
「じつはグレイシス将軍からこの総合武術大会について提案がありました。エリュテリオンの武道家たちは開かれた試合を望んでいる。もしも、エリュテリオン以外の武道家で参加したいものがいれば、この予選の最終試合にぜひ参加してもらいたいと」
観客がざわめきだした。公平で人格者の戦う哲学者と言われているグレイシス将軍だ、その態度は流石だと…、しかし、この達人たちと戦うものがいるのだろうか?士会のアイリーンが続けた。
「グレイシス将軍の提案をこちらで検討し、広く呼び掛けたところ、出場希望者が名乗り出ました」
「ええっ!うそだろ?」
会場がさらにどよめいた…。アイリーンが続けた。
「予選最終試合、グレイトソードのアリオン対、王宮騎士団、波動の剣ダビデ!」
「ええっ!ええっ!なんだって?!」
一体、何が、どうなっているのだろう?あの迫力の剣技を披露したアリオンが出るだけでも凄いのに、今までこのような大会に1度も出たことのない王宮騎士団の、しかもリーダーのダビデが出るなんて!
誰もが注目する中、あの巨大な剣を背負ったアリオンと、女王が発見したルパートクリス、タルをはめ込んだ波動の剣を持ったダビデが入場してきた。鋼のような躍動する筋肉の無頼者アリオン、どこか高貴なたちふるまいの金髪の貴公子ダビデ、対照的な2人が向かい合った。あの黒ひげのモリヤ・モンドがルールについて一言付け加えた。
「…王宮7騎士はルパートクリスタルを使った超能力者部隊です。ダビデからは、超能力を使わないで戦ってもよいとの申し出がありましたが、アリオンはそれでは戦う意味がない、いつも通り使ってくれとの答えがありました」
…いったいどうなるんだ?観客の視線の前に出てきたアリオンは、その巨大な剣をかまえ、そしてダビデは美しい飽食のついた型なの鞘から、剣を引き抜いた。
「おおっ!」
光った。内なる光が刃の中から波打ち、あふれている。これが波動の剣か。しかしこの剣が実践でどんな力を発揮するのだろうか。
アリオンとデビッドが向かい合っていたその時だった。カイザーパレスの周囲では異変が起きていたのだった。
大河メラーの船着き場から、あやしい人影が上がってきた?、いや、ステルススーツを使っているらしく、じっとしているとほとんど周囲に溶け込んで判別がつかない。船着き場からカイザーパレスまでは意外と近い、そしてすぐにカイザーパレスの周囲を囲む巨岩の陰に転がり込む。警備兵がすぐ横を通り過ぎる。じーっとしていると、巨岩の一部にしか見えない。そして警備兵の目を盗み、あのバスが入って行った西南のゲートへと少しずつ進んで行く。
そして外壁を昇るための忍者ロープを外壁の上部にひっかけると、ワイヤーが自動的に巻き取られ、スルスルと外壁を登り始めたのだった。監視カメラの1部にはその姿は映っていたが、周囲の壁と判別が難しい状態で、感知されずにうまく空中庭園にたどりついた。そしてあの巨大な太陽神のレリーフの前に出た。しかしすぐそばで見るとなんと巨大な太陽神の顔か?この大河メラーの一体を見下ろし、この土地はわがものとでも宣言しているように見える。ステルススーツを着た侵入者は、巨大な太陽神の顔を堂々と横切り、カイザーパレスの中心部へと近づいて行ったのだった。!
稲妻や竜巻、氷のナイフや炎弾などを使う超能力者部隊王宮騎士団、素それを統べる波動の剣とはいったいいかなるものなのか?
「波動剣、波の盾!」
そう言ってデビッドは波のように光を発する剣を構えた。
「まいる!水車斬り。」
アリオンが、グレイトソードを振り上げ、疾風のように突進した。
「ぐおおっ!」
全員が驚いた、ありえない?!、あの鋼のような筋肉のアリオンが、高速で振りおろされた巨大な剣が、片手で持ったデビッドの剣に跳ね返されたのだ。
涼しい顔で波動の剣を持つ金髪の貴公子デビッド、その剣の内側からは絶えず光の波が広がっている。
「クレイとソード、嵐!」
アリオンも負けていない、今度は剛刀右から左から、上に下に、怒涛の連打だ。
だがデビッドが今度は両手で波動の剣を持つと、内側からあふれる光の波動が輝きを増し、ものすごい衝撃をすべて跳ね返し、それどころか。
「波動の剣、白波!」
と叫び、剣を振りおろすと、波動の圧力で、アリオンをのけぞらせたのだ。
「ふ、流石だぜ、王宮騎士団のダビデよ、お前の波動の剣はお前の年度売り気を増幅させる剣とみた。だが、それなら同じ人間と人間、どっちが吹っ飛ぶかだ」
アリオンはまるで相手の強さを喜ぶかのように、笑顔で巨大な剣をかまえなおした。その眼にはゆるぎなき戦士の魂が輝いていた。
「その闘志、あなどれぬ。こちらも全力でお相手いたそう」
デビッドは波動の剣を天にかざすように持ち上げた。
「波動の剣、天空剣。!」
「おおおっ!」
なんと光の波を広げながら剣が空中に舞い上がって行くではないか?!そして、デビッドの手の動きに会わせて、カイザーパレス大ホールの天井近くを軽やかに舞ったかと思うと、次の瞬間、鷹のようにアリオンに向かって急降下をしたのだった。
通常ではありえない高い位置からの鋭い攻撃、かわしきれない?だがアリオンはとっさにグレイトソードを両手で盾のようにかざしてぎりぎり天空の剣をかわしたのだった。跳ね返って戻ってきた波動の剣をぱしっと受け取るとデビッドはアリオンに声をかけた。
「見事!この天空の剣をかわしたのは、君が最初の一人だ」
「王宮騎士団におほめの言葉をもらうとは公営だぜ。ならこれはどうだ!」
アリオンは高まる胸の鼓動を抑えきれないと言う勢いで、巨大な剣を肩に担ぐとそのまま駆け出し、ダビデを捉えると大きく飛び上がった。
「流星斬りデエエエエエイ!!」
そしてグレイトソードに全急降下する体重と気合いを乗せて、振りおろしたのだった。
「波動の剣津波!」
迎え撃つダビデが叫んだ!瞬間光の波が横に広がり、そして大きくうねりながら前方へと叩きつけた。
流星と津波が激突し、光のしぶきがあたりに飛び散った。ダビデの超能力とアリオンの精神力が砕け、爆発した。
「うおお!」
前方に富んだはずのアリオンが後ろに吹き飛び、ダビデもはじけて転げ回った。静まり返る場内。だが一足早くダビデが起き上がった。モリヤ・モンドが裁定を下した。
「勝負あり、王宮騎士団、ダビデ!」
2人はよろけながら近付くと、堅く握手を交わした。観客もみな立ちあがって、拍手をしていた。女王は体を震わせダビデの勝利を祝福した。
そして予選の前半が終わる。ホログラムの幕が降り、闘技場の半分は隠され、ステージの様になる。闘技状の横で待機していたミリオンクロスオーケストラの楽団員と合唱団員が幕の向こう側に上がってきて演奏の用意をする。そして一瞬会場が暗くなり静まり返る。
「では次のプログラム…」
興奮冷めやらぬ闘技状を照らす突然の派手な照明と、流れ出す古代の響き、やがてオーケストラの雄大なシンフォニーが響き、そしてポップなメロディが重なる、格闘アイドルユニット、fガールズの登場だ。最初は二人ともホルムフェニックスの羽ばたきのようなふわりと氏たコスチュームで登場、ところが、音楽がテンポの速いものに代わると照明も暗くなり、2人は上着を脱ぎ捨て、格闘コスチュームに変身、マジックヌンチャクを使ったダンスで踊り出す。舞台用の点滅する光が内蔵されたマジックヌンチャクで、実戦さながらの技を出しながら、ダンスのステップを踏むのだ。手拍子で沸き立つ場内。そしてついにキンドラ・マキンドラの曲が流れる。古代の自然哲学者の教えが、女王の思いが、そしてメリッサの兄ケントの叫びが重なって行く…。
キンドラ マキンドラ光の種。
昔賢者は、こう言った。
心に光の種を持ち、旅立つものは幸いなり。光が芽生え、道照らし、迷いの森も、闇も越え、光の城がそびえたつ。でも今、光は差し込まず、戸口も堅く閉ざされて、旅立つこともままならぬ。賢者キンドラ・マキンドラ、私を導いておくれ。賢者キンドラ・マキンドラ、光の種はどこにある。重い扉を突き抜けて、空をかける日のために。
昔賢者はこう言った。
雨は大地を削りとり、すべてを流し、無に還す。でもだからこそ、木は芽吹く、雨が命を育て行く。光の枝が伸びていく。でも今日、雨は降り続き、山は崩れ、道途切れ、すべては押し流されてゆく、賢者キンドラ・マキンドラ、私を導いておくれ。賢者キンドラ・マキンドラ、恵みの雨は、どこに降る。この土砂降りをつきぬけて、虹の橋を渡るから。
昔賢者は、こう言った。
心に光の種をまけ、雨で芽吹いて枝が伸び、小鳥さえずり、花も咲く、すべてがつながり、支え合い、光の森が現れる。でも種なければ森もなく、森がなければ降る雨に、山さえ崩れ、流れ去る。賢者キンドラ・マキンドラ、私を導いておくれ。賢者キンドラ・マキンドラ、雨が森を育てるなら、心に光の種をまき、雨に打たれて芽を出して、光の根を張り、枝伸ばし、嵐に耐えて、ながれしのぎ、小鳥さえずり、花も咲き、命が命を支え合う。賢者キンドラ・マキンドラ、私を導いておくれ、光の森の風になるから。
メリッサとリンダは歌い切り、最後にもう一度マイクをマジックヌンチャクのように使い、最後のポーズを決めた。盛り上がる観客、だがその時、リンダが客席の一部を指差し、叫び出した。唖然とする観客?!一体何だ?
「どこなの、どこにいるの?」
叫ぶリンダ、メリッサもそのあたりを探している。そしてリンダが何かを見つけた
「我々Fガールズは、本格的に格闘技を学んできました」
するとメリッサもマイクを握り直し、そこに向かって叫んだのだった。
「我々は最強の格闘アイドルです。そこにいる者たちに武道で挑戦します」
総合司会のアイリーンが止めようとすると、あの黒ひげの大男モリヤ・モンドがやんわり止めた。観客は誰に挑戦するのかと、指差したあたりを見て、確認して、どっとざわめいた…まさか…。メリッサが続けた。
「ヴァルマ教授、フリード、私達はあなたたちに宣戦布告する。暗黒剣法が犀峡などとは嘘です。私達の方が強い、さあ、挑戦を受けるの、受けないの?」
会場は大騒ぎだった。暗黒剣法に若い娘が挑戦だと?ありえない…。
寝耳に水のベガクロスだったが、若いアイドルが、人気を得るためにパフォーマンスをしているのだと高をくくっていた。ちらっとグレイシス将軍を見る。将軍もこの突然の挑戦は初めて聞いたらしく、驚いているようだった。
リンダとメリッサもここできっかけだけ作り、そのうち対決に持ち込めればと言うのが本音だった。ところがなんとヴァルマ教授は、フリードを連れて、つかつかと舞台に上がってくると、アイリーンのマイクを手に取り、挑戦にこたえたのだ。
「君達が誰かは全然知らない。だがこれだけの公衆の前で対決を挑まれたのなら、私も答えよう」
どうやら挑戦を受ける様だぞ、いったいいつ、どこで…だがヴァルマ教授が言いだしたのは、予想外の答えだった。
「午後、晩餐会の終わった後、総合武道大会の決勝で戦おうぞ」
あとほんの数時間後、ここでやるって?観客は乾季とどよめきに包まれた。
「どうした、挑戦を受けると言っているのだぞ。臆したかな?」
メリッサとリンダもまさかこんなに早くチャンスが巡ってくるとは思わなかった。だがそこは鼻っ柱の強いメリッサだ。
「そっちこそ覚悟しなさい。勝てる自信がなかったら、朝鮮なんかしないわ!、決勝戦で後悔しても知らないわ。私達には秘策があるのよ!」
「ほう、勇ましいお嬢さんだ。決勝戦を楽しみにしておるぞ」
ヴァルマ教授はそう言うと、うっすらと笑いを浮かべてフリードとともに帰って行った。
マイクを返されたアイリーンは何もなかったように、プログラムの終了を告げた。そしてついに今日のメインのエンターテイメントだ。
「それではここからミリオンクロスオーケストラ、合唱団と天空船のサーカス団のコラボ公園です」
その声にクリフも、深呼吸して顔を上げた。いよいよだ。すると会場が暗くなり、あのリアルカバのマスクをつけたハッピーカバチョ団長が出てきて観客に挨拶をした。
「レディスアンドジェントルメン、ご来場ありがとうございます。私が天空船のサーカス団長、ハッピーカバチョです。今日はかの有名なミリオンクロスオーケストラと合唱団との世紀のコラボ公園、出し物は幽霊船の戦いでございまあす」
するとどういう仕掛けか、団長の後ろで花火のような光がいくつも上昇し、光の花が咲き、広がり、流れ、またたき、それが最後にはユーモラスなどくろの形に広がって、そして消えて行った。
明るくなると、一面のホログラムの海原が広がり、静かな海の交響曲が始まる。あのマイスターゲルバーが指揮者の代から指揮棒を振っているのが見える。そして波が激しくなり嵐の曲、そして静かになると礼のイカだが床の上をやってくる。流石に今日はフラッシュギラードはいない。そしてホログラムスクリーンに近づく幽霊船の立体映像。今日は時間がないので、この海の場面の間に、闘技場の後ろにロボット運搬車によって大きな帆柱が運ばれ、仕掛けを積んだ大道具ロボットや幽霊ドローンがスタンバイする。そして海原から幽霊船の甲板へと場面が変わり、海賊たちが甲板に次々に飛び込んでくると、あの闘技場のホログラムの幕も秋、青白いメイクをした黒い楽団員と幽霊メイクの白い合唱団が姿を現す。
海賊ガイコツや幽霊の立体映像のスタンバイの準備をしていたゼペックだったが、その時、中央セキュリティルームの警報ランプが点滅し始めたのに驚いた。
「いったい何が起きたんですか?レイカー少佐?」
すぐに反応は来なかった。数十秒してからゼノン大佐の顔がモニターに出て冷静に事態を伝えた。
「侵入者反応があり、現在セキュリティaiのアノスが分析している。侵入者の正体は不明、ステルススーツを着て巨石の外壁をよじ登り、現在なぜか空中庭園に潜伏している模様。内部には入ってきていない。大ホールで進行中のプログラムには今のところ影響なし」
侵入者アリの報告はクリフとネビルにも伝えられた。緊張が走った。
「…この間も幽霊船が出たあたりで怪生物が飛び込んできたんだよな…。侵入者っていったい…?」
ネビルが舞台裏でつぶやいた。ハカイオウが来たのだろうか、それとも…。
ゼノン将軍は監視カメラがとらえたステルススーツの人影をじっと見つめて行った。
…まさかこいつは建物の窓を破って侵入するつもりか?ここからなら、皇帝の部屋は意外にすぐだ…?!
「アノス、分析は終わったか?奴が動きだしたら追跡はできるのか?」
「はい、ステルススーツの動く時のわずかな空間映像のゆがみパターンの解析が終わり、侵入者がどこに移動しても追跡もできます」
「よし、奴が建物内に侵入する前に、叩き潰す。破壊3銃士を空中庭園に差し向けろ、すぐにだ!」
「了解」
幽霊船の甲板で海賊ガイコツが、どくろがはためく帆柱で白い幽霊が暴れ回っていた時、空中庭園では、謎の侵入者と破壊3銃士との対決が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます