15 ハカイ三銃士

 宮中晩餐会が近いある朝、数人の皇帝親衛隊を引連れて皇帝クオンテクスの腹心、オーギュスト・ゼノン大佐が廊下を歩いていた。皇帝クオンテクスに重要な話があるのだ。思い起こせばゼノンとクオンテクスは街の少年同士の抗争時代からの付き合いだった。

 当時、体が大きく気天のきいたゼノンは不良少年グループのトップをとっていた。街のギャングに知り合いの兄貴がいて、月に1度か2度、運びや見張りなどの仕事を手伝わされていた。少年のグループには荷が重い危険な仕事もあったが、成功報酬がもらえたので、引き受けることが多かった。ある日兄貴に頼まれた仕事は。

「最近、うちの縄張りで裏ネットを使ってドラッグを売りさばいてるグループがいるらしい。とっ捕まえようとしたんだが、ネット技術にたけたやつで、なかなか尻尾を出さない。やっとおとりを使って呼び出しに成功したんだが、真昼間のフードコートだ。あそこは逆に監視カメラは多いし俺達が出入りすると怪しまれる。そこでだ…」

ゼノンたち少年グループに見張らせ、怪しい奴が来たら、写真を撮り、うまくしたら尾行して出入り先を突き止めろというものだった。

ところが指定された時間にゼノンたちが見張っていると、そこに現れたのは自分たちと同じくらいの少年だった。目印の青い布が左腕に巻いてある。まちがいない、こっそり写真を撮り、打ち合わせ通り。

「警察に気付かれた。また連絡する」

と、嘘メールを撃ち、帰り道の尾行を始めた。ゼノンたちはその1人の少年を5人で追いかけた。少年は町はずれで体の大きなもう一人の少年と待ち合わせると、バイクに乗ってそのまま2人乗りで走り去ろうとした。まずい、逃げられてしまう。

「まて!」

ゼノンは5人のグループでバイクを取り囲むと2人を引きずり降ろし、殴りかかった。体の大きなほうがめちゃくちゃ強くてこずった。そいつの名前はジャック、少年時代のクオンテクスだった。だが多勢に無勢、ゼノンたちのグループが勝ち、持っていたドラッグの小袋を取り上げ、裏に着いている黒幕の連絡先を吐かせたのだった。

裏にいたのはクオンテクスのパソコンマニアの弟で、大きな組織ではなかった。拍子抜けした。ゼノンはギャングの兄貴から成功報酬の小金をもらい、その日はそれで済んだ。

だがそれから半月後、ゼノンたちは待ち伏せに会い、こんどは2対2でコテンパンにやられてしまった。いつの間にか行動パターンを探られ、一番無防備な時間に、不意打ちをくわされたのだった。向こうの完全な作戦勝ちだった。

「俺はジャック。喧嘩には負けない。1度やられても2度目にぼこぼこに打ちのめす。でも、ゼノンとか言ったな。お前なかなか強いじゃないか。どうだい、俺のグループに入らないか?」

それがジャック、現在のクオンテクスのやり方だった。1度やられても、頭のいい弟のテオ、現在のベガクロスが作戦を立てて2度目は必ず勝つ、そしてたとえ敵でも使えそうな奴は仲間に引き込むのだ。そしてついてくる奴はめちゃくちゃ取り立ててやる。ゼノンはそんなジャックに恩義を感じるようになり、敬愛するように変わって行った。ゼノンは、気に入られてジャックの片腕となり、さらにグループを大きくして行った。

大きな転機は弟のベガクロスが医大生の時に起業した製薬会社だった。兄のジャックが社長に収まり、その面倒見のいいところから人脈を広げていった。ベガクロスが地下工場で作った、非合法なドラッグを高く売りさばくのがゼノンの仕事だった。裏社会の奴らと張りあったり、犯罪組織のやばい奴らと銃撃戦で戦ったこともあった。そんなときでも社長のジャックはいつも表に立って仲間を守ってくれた。たまに負けることがあっても2度目には必ず勝つ、やがてジャックは新しい商売を始めると言いだし、製薬会社を弟にスッパリ譲ってしまったのだった。最初は武器の密輸で大もうけをする。そしてその儲けをもとに、プラテオ・バルガスというロボット研究者と組んで、低価格の戦闘ロボットや目的別のロボット兵器などを次々に開発して売りさばいた。さらに人脈を生かして連邦に深く入り込み、巨大な軍需産業を起業するのである。そしてジャックは超能力水晶を狙うテロリストに手を焼いていたルパートに目をつけ、意を決してルパートに拠点を移し、犯罪組織を撲滅しましょうと女王に協力を申し出たのだった。人脈をフルに使ったジャックは防衛大臣に就任、ゼノンもジャックの施設軍隊の隊長として犯罪組織相手に大活躍をするのである。

そして平和と繁栄の時期のさなか、女王が原因不明で体調を崩し、ジャックは軍事クーデターを起こして改名し、皇帝クオンテクスとなったのだ。そしてゼノンは、現在も最強の皇帝親衛隊を率いる大佐として采配を振るっているのである。

「どうしたゼノン、何事だ」

「クオンテクス様、会議室に至急お願いいたします。そして、人払いをお願いします、バルガスが例の件でやってまいりました」

「わかった、すぐ会議室に行こう。面会しよう」

ゼノンに連れてこられたのは連邦戦略研究所のプラテオ・バルガスceo、というと聞こえはいいが、早い話が、今は武器商人の親玉であった。

「私は、二度続けて喧嘩に負けたことはない。次はハカイオウをぶちのめす。頼んでおいたものはできたのかな」

「はい、きっとご満足いただけるかと…」

バルガスは計算高い上にポーカーフェイスの、腹で何を考えているのかわからないタイプの男だった。

「前回のウォーダイン6は、最後はハカイオウの信じられない攻撃、プラズマキャノンの砲口に弾を撃ち込まれると言う非常に確立の低い攻撃でまさかの逆転負けをしましたが、それまでは圧倒的な攻撃力で押していました。その記録映像のおかげで、ウォーダインは売り上げが記録的に伸びました。皇帝のおかげでございます。次のハカイオウの出現はわが社の最大の販売のチャンスだと考え、この短時間で3機種の開発を急いだ次第です」

すると皇帝の会議室の大きなモニターに、広大なカイザーパレスの中庭が映し出された。そこにバルガスの宇宙船から出てきた最新の装甲車ソニックスコーピオンが静かに進んできた。ゲートがはね上がり、なかからバルガス自慢の最新兵器ロボットが降りてきた。

「おお、こ、これは…」

カメラが降りてきた戦闘マシーンを大写しに捉えた。

1台目はあのハカイオウと死闘を繰り広げたウォーダインαにそっくりな、しかし細かい個所やカラーリングが変更されてさらに精悍さを増した機体だった。

「ウォーダインマークⅡです。攻撃反応スピードや、耐久性が格段に向上しています。さらに前回、ハカイオウの破壊センサーによって弱点とみなされたプラズマキャノンの発射口、その他の武器の発射口などに、すべて自動開閉シャッターをつけました。発射する瞬間だけしか開閉しませんので、ハカイオウの前回と同じ攻撃は事実上不可能です」

もともとハカイノキシを名乗っていた最強の平気アンドロイドが、弱点を克服して返ってきたのだ。

次に降りてきたのは、全身銀色に輝くたとえて言えば小さな空飛ぶ円盤の上に大きな冷蔵庫が乗っていて、2本の長い手と東洋の仏像のような頭がついているるような不思議なロボットだった。良く見ると地面から10センチほど浮いていてゆっくりと動いている。

「最新の反重力式のドローンの上に、高性能なロボットアーム付きのオートコンテナを乗せ、さらにその上に戦略用ai、ビリケンを取りつけた機体です」

仏像のような銀色の頭部の先はとんがっていて、そこに種々のセンサーガあリ、背中の小さな後光の中に高性能のレーダーがあると言う。そのロボットはカメラの前で止まると静かに地面に降り立ち、今度は四角いボディの前面のシャッターを開けたのだった。

「おお、小型の…なんだこれは?」

四角い大きな箱の中には、小型のドローンや小型のロボットのようなものがきちんと整理されてぎっしりとつめこまれていた。

「試しにトラップマシンを2つほどセットして見せましょう」

バルガスの言葉に、モニター画面の向こうで、ロボットの長い手がしなやかに動き、中の機材をさっと取り出してセットする。とり出されたドローンがふわっと浮かび上がり、足の生えたピストルのようなものが歩きだした。

「これは?」

するとバルガスは得意そうに答えた。

「こっちのアームのついたドローンは監視カメラ付きのレーザーユニットが3個積んであり、天井や壁などにすばやくとりつけることができる。こっちのピストル型のマシンは、床や物陰に自分で移動し、近くを通るものに強力なドリル貫通弾を撃つ。この本体のロボットのボディには、このようなレーザーユニットをとりつけるドローンや自分で動くトラップマシーン、トラバサミ、ネットランチャーや地雷ロボットなど、100個以上のさまざまなトラップマシンが入っている。このロボットは大量のトラップを敏速に運び、セットするトラップロイドのヘルボックスだ。ヘルボックスの人工知能ビリケンが、仕掛ける場所の状況から最適のマシンを組み合わせて選び出し、セッティング、その場所が、瞬時に恐ろしいトラップゾーンに変わるのです」

もしもハカイオウが大河メラーと繋がっている地下水路や屋上から、何らかの方法で忍び込んでも、すぐにその周囲をトラップゾーンに変えて対処できると言う代物だ。そして3台目、最後は、全身が包帯でぐるぐるに巻かれた怪物のような機体であった。

「なんだこれは?」

モニターを見ていた皇帝のクオンテクスがバルガスに訊いた。

「私どものリサーチによれば、ハカイオウには破壊回路と呼ばれる、エネルギーの集注点や漏れ出すところ、相手の弱点などをすぐに分析し攻撃すると言う機能がついていると言います。ウォーダインαがまさかの逆転負けをしたのもその機能の力が大きかったのでしょう。でも、どんなものを作っても、弱いところはどこかにあるものです。それならば、目も鼻も口もなく、弱点の分析の手がかりさえないロボットを作れないだろうか?そう考えて思索しました」

このロボットには、プラズマキャノンやマシンガンなどの武器はまったくない。基本的に殴る、蹴るだけである。だが動力や骨格はあのマリガンを追い詰めたゴリアテのものをもとに強化しパンチやキックだけでもハカイオウを粉砕する力があるのだ。さらにその表面に対衝撃性能の高いアーマーやプロテクターを取り付け、さらに分析できないように、耐熱性能や繊維強度の非常に高い特殊繊維の包帯で全身をぐるぐる巻きにして隠したのだ。すなわち、超怪力、超防御力、分析不可能なのっぺらぼうのマシンなのだ。名前は「ラムセス」地球の古代のファラオからつけたと言う。

このラムセスには単純にハカイオウも攻めあぐねるだろうと思われた。だが、モニターを見ていた皇帝は初歩的な質問をした。

「バルガスよ、ラメ背巣には目や鼻や耳、その他あらゆる感覚気センサーが見当たらぬが、それで相手の姿を捉えられるのか?自分から攻撃ができるのか?」

するとバルガスはにやっと笑って答えた。

「さあ、どうでしょう、私にもわかりません」

とぼけてみせるバルガス。それは教えられないとの意思表示とみた。まちがいなくのっぺらぼうのラムセスは何らかの方法で相手を確認できるのだろう。

するとクオンテクスも笑いながら続けた。

「これはおもしろい。いいだろう、こいつら3体とも早速私の護衛に使おう。そしてウォーダインマークⅡ、ヘルボックス、ラメ背巣よ、お前たちは、破壊三銃士と名乗るが良い。ハカイオウに2度目の勝利はない。徹底的に叩き潰すのだ!!」

さらにバルガスはゼノン大佐に告げた。

「それからこれは以前からゼノン将軍に頼まれていたものですが…」

するとそこにあの皇帝の紋章のついた軍服姿の兵隊が2人入ってきた。

「これは?」

バルガスは得意げに答えた。

「ふふ、驚いたでしょう、親衛隊の軍服をきていますが、例の高性能戦闘用アンドロイドですよ。親衛隊の持っている武器はすべて上級者以上に素早く的確に装備し、的確に敵をせん滅できるように長い時間をかけてプログラムしました。訓練された最強の親衛隊に遜色ない動きができます。しかもこいつらは一度エネルギーを充填すればまるまる1週間、眠らない、突かれない、もちろん飲み食いもしません。絶対服従で、何より銃弾を受けても死ぬこともない。普通の銃弾で歯、決して倒すことはできない。しかも対ハカイオウように、1人1発ずつですが、新開発のエネルギーボムキャノンを装備しています」

するとひとりの兵士の胸の部分がパカッと開き、大砲のような形状のものが突きだした。

「カイザーパレスの中庭では危険過ぎて試し打ちもできませんが、それだけの威力を持った兵器です。いかがでしょう」

良く見なければ普通の親衛隊員と見分けもつかない、動きもそん色のないアンドロイドが、いざとなればハカイオウにも対抗できる。ゼノン大佐も大きくうなずいた。

「では、試しにこのメカ兵士を7体ほど入れてもらおうか」

商談成立と鳴って、プラテオ・バルガスは自信たっぷりに引き上げて行った。オーギュスト・ゼノン大佐は言った。

「宇宙船館ブラックホークをのっとって攻めてくるような突拍子もないことをやってのけるのがハカイオウです。今回もどんな作戦で宮中晩餐会に乗りこんでくるのか見当もつきませんが、我々は小さなリスクを1つ1つ取り除いてゆき、最後は新しい3台のこのマシンでハカイオウを完全に抹殺いたします。お任せください」

ゼノン大佐は力強いロボットたちを得て勢いづいた。死の商人は静かに笑って引き揚げて行ったのだった。

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