14 鉄仮面
その日、ベガクロスの本拠地、砂漠の惑星エスパルの港町にある白い巨塔では楽しそうな笑い声が響いていた。このベガクロス者の本社ビルは、専用の海水を真水にろ過するミネラルウォーターセンターを糯、砂漠の中にスイミングプールやダイビングプール、白い砂浜の淡水ビーチまで完備している。またアドニス開拓地1のコンサートホールやオペラハウス、美術館まで併設されていて、さながら砂漠の惑星のオアシスのようである。今日レストラン付きのレセプションホールで開催されているのは、巨万の富を持つベガクロスが定期的に開催するパーティーだ。
「みんなの日ごろの検討を讃えて乾杯だ!」
「乾杯!」
貴腐葡萄で作られた甘いトロッケンベーレンアウスレーゼが、美女たちののどを潤す。
ムナカタの厨房や、イタリアンの名店、有名なイチゴケーキ店から呼ばれた1流のシェフやパティシエたちが作るバイキング方式の立食パーティーだ。参加者に女性の楽団員や合唱団など女子が多いため、天然や無農薬のものばかり使い、ヘルシーで食べやすい大きさに調理してある。
目の前で霜降り肉のミニステーキやビーフハンバーグ、分厚い手作りハムを焼いてくれたり、ローストビーフを切り分けてくれるミートコーナー、
蒸したてのロブスターやタラバガニ、牡蠣などを目の前で殻むきしてくれて、好きなソースで味わえるシーフードコーナー、手作りマヨネーズドレッシングが大人気だ。
そして、カキ、海老、イカなどのフライ、唐揚げ、ミラノ風カツレツ、カニクリーム、ヒレかつ等の揚げ物コーナー、これもどれも一口サイズで食べやすいうえに、濃厚からさわやかまで5種類のソースがある。
さらに目の前で切り分ける生ハム、カマンベールやブルーチーズなど各種チーズなどは本場の専門店から取り寄せた貴重なもの。ヘルシーなサラダコーナーは、たっぷりの無農薬野菜にムナカタのレストランから取り寄せた最高級のドレッシングを選び放題だ。雑穀やシリアル、天然酵母パンのコーナーもある。
今日はそのほかにも、ボローニャ風のミートソースパスタ、イカスミパスタ、カルボナーラ、明太子と紫蘇、有頭エビ・イカ・あさりのペスカトーレなどのパスタも食べ放題。20分おきにゆで上がったパスタが追加される。
ほかにもイベリコブタのサラミを使ったピッツァやシーフードパエリア、ポルチーニ茸をぜいたくに使ったスープなど、彩りも味もバラエティに富んでいた。
そして三か所の8割以上が女性の会ならでは、新鮮なフルーツや冶菜をを目の前で絞ってくれる生ジュースバー、10種類のジェラートが選べるジェラートスタンド、そしてイチゴムースやイチゴケーキ、など7種類のイチゴスウィーツが食べ放題のイチゴデザートコーナーも大人気だ。
立食パーティーが終盤に近づくと、ベガクロスが前に進み出て、楽団員や合唱団員、部下たちの前でグランドピアノの演奏を始めた。多忙な彼だが日に数時間はバッハを弾き、腕はプロ級、それが暮らしの潤滑材になっていると言う。今日はラフマニノフで華麗な指さばきを披露する。演奏が終わると大拍手、楽団員や合唱団員の美女たちが集まってきてほめたたえる。ベガクロスはとても気前のいい大スポンサーであり、うるさいことも一切言わないボスであった。彼女たちのうちの何人かは、ベガクロスに心酔し、身も心も捧げているものもいる。でもベガクロスは、女性は大好きだが、それだけによく心得ていて、鐘は出すが自分からは決して手を出さない、セクハラもしないし、差別もしない。来るものは拒まないが、束縛したりと言うことも一切ない。逆に採納豊かで鐘のあるベガクロスに女性たちが群がって行き、進んでハーレムを作っているようにさえ見える。だからいつもベガクロスの周りには美女たちがはべっているが、大きな問題にはならない…。
そこに一人のソムリエがやってきた。砂漠の惑星エスパルで今年初めて製品化されたと言う赤ワインを持ってきたという。
「ベガクロス様、ご足労ですが、ワインのテイスティングをお願いいたします」
「おお、ルネ君、これが例のわいんかい。どれどれ、楽しみだな」
「ボルドーから、カベルネソービニオンやメルロの苗木を取り寄せまして、エスパルの温暖な土地で栽培、醸造させた逸品です」
「うむ、これは…絹のようななめらかな舌触りで、菫のような可憐で豊かな方向がある。そうだな…、A2プラスと言うことにしよう」
「…ありがとうございます高い評価をいただきましてシャトーの物も喜びます」
ベガクロスのワイン鑑定は厳しいので今日はかなりの高評価だ。このベガクロスの一言で売れゆきも倍増するのだ。まわりの美女たちがみんなほしがったので、ベガクロスは早速大判振る舞いとなり、みんなで2度目の乾杯だ。
「乾杯!」
美女たちに囲まれて、今日もベガクロスはご満悦だ。
「おお、フリードよ。楽しんでいるかな?」
一人でワインを飲んでいたフリードにベガクロスが声をかける。長身でハンサム、剣の技も冴えるとなると女性にモテて仕方ないと思われるフリードだが、もともとシャイで無口なので、女性には根強い人気があるものの、パーティーではいつも孤立しがちだ。
「ええ、楽しんでいますよ。料理もワインも最高です」
「それは良かった。君のファンの女の子もさっきから待ってるぞ、ほら…」
「はい」
フリードの周りにもたくさんの女の子が集まってくる。だが、パーティーが終わると、フリードはヴァルマ教授の部屋に静かに入って行った。
「すまんな楽しいパーティーの後に呼び出して…」
「いいえ…。それでご用は何ですか、マスター」
「あの時ハカイオウに壊された、鉄仮面の新製品が出来上がってきた」
ヴァルマ教授はそう言って、テーブルの上の箱を開け始めた。もともとフリードは、セレニアス老師の弟子の善良な修行者であった。だが生来の弱気な性格が影響したのか実践になるともう一つ強さが発揮できず、悩んでいた。さらにヴァルマ教授に敗れ完全に自信をなくし、自暴自棄になったのだった。だがヴァルマ教授はメふぃスト・フェレスのようにささやいた。
「もしも私のもとに来れば、お前は自信で満ち溢れ、限りなく強く慣れるであろう」
そしてヴァルマ教授は鉄仮面を渡した。正体がわからなくなるだけでなく、中に精神を強くするベガクロスの薬が仕込んであって、自分が自分でないように、すごい人間に変われたように思えるのだった。
フリードは変わった。仮面をつけると自信にあふれ残虐なことも平気でやってのけるようになった。この仮面こそ外界から隔離し、結びつきを遮断する秘術の1つであった。そして彼はヴァルマ教授の弟子になり、暗黒剣法を学び、さらに強くなっていったのだった。
その箱の中からはどくろを想わせるメタルブラックのフルフェイスの、新しい鉄仮面が出てきた。そしてハカイオウと戦った時にぱっくり2つに割れた肩当ても着いていた。
「おお、素晴らしい、これはもしかして…」
「…今度の鉄仮面は強度が3倍に上がっておる。ハカイオウでも簡単には手を出せまい。それだけではない、前の物より3つの点が改良されている。1つ目は着脱が簡単、スピーディになったことだ。2つ目は呼吸補助装置がついた。これで激しい動きをしても息が苦しくなることはない」
「それはとても助かります。それで3つ目は…?」
「中に仕込んだ薬品がかなりグレードアップした。精神力や身体能力が、長時間に渡って向上するそうだ。この配合は、ベガクロス様の大傑作だそうだ。早速、かぶってみるといい、新しい鉄仮面を!」
フリードが仮面を手に取り、側面にある小さなスイッチに軽く触れてみる。すると指紋認証が自動的に行われ、鉄仮面は2つに割れる。それを顔にはめるとカチット音がしてロックされる。なるほどとてもスピーディだ。
「フフフ…本当だ、呼吸にほとんどストレスがない」
鉄仮面をはめた途端、薬がしゃ作用したのか、仮面の効果か、フリードは突然堂々とし、声さえも野太く自信に満ち溢れているようであった。
「マスター、本当にありがとうございます。暗黒剣法が唯一無二の最強の武術であると、今度こそ照明しますよ、ハハ、ハハハハ…」
その頃、メリッサとリンダのfガールズも武術の特訓に余念がなかった。今日はあのセレニアス老師の高弟、市販のリクウにこの日はマジックヌンチャクの指導を受けていた。まずは普通のヌンチャクの技を徹底的に特訓し、メリッサも合格レベルまでに来た。
「それではこれから、実戦に有効な特別な仕掛けを教える」
リクウ師範がヌンチャクの握りの部分に着いたボタンを押すと、ヌンチャクをつないでいたワイヤーが一瞬長く伸びる、そしてもう一つのボタンで先から刃が飛び出すのだ。これを自在に操れるようになると、威力が増すだけでなく、間合いの距離が長くなったり短くなったりして相手を混乱させることができるのだ。
高速で回転し相手に向かって伸びるヌンチャク。型の練習から、応用技、そして練習用の刃のないヌンチャクでの実践練習、まだまだクロガネ出身のリンダにはかなわないが、メリッサも費一日と進化を遂げていた。
「うむ、飲み込みが早いな。リンダは合格点だ。メリッサもよくここまで修練を積んだ」
一息つくと今度は歌と踊りの練習だ。Fガールズのところにも、ついにステージ用のコスチュームが届いていた。クィーンウイングスのアイリーンが大事に2人に渡してくれた。
「わあ、カラフルで、おもったよりかわいい」
「軽くて動きやすそうね」
メタルブルーとメタルグリーン、そしてゴールドのホルムフェニックスからデザインした戦闘服にもなるコスチュームだ。とりあえずは2着だけだが、本番に向けてどんどん作られるらしい。スペシャリスト集団のクィーンウイングスのお姉さま方が頑張って縫ってくれるそうだ。
そして、実はメリッサがどうしてもお願いしたいと頼んでいたことがもう1つあったのだった。音楽担当のカメリアさんが、楽譜を持って話出した。
「…メリッサ、あなたが一定た曲、亡くなったお兄さんが最後に作った曲を歌わせてもらえないかと言っていた曲なんだけど…」
メリッサはごくりと唾を飲み込んだ。
「お兄さんの作ったデモテープを聞かせてもらって、感動したわ。とてもいい曲。ウイングすのみんなも意見が一致した、採用よ」
「やったー!」
「ただ、題名の賢者の教え、と言うのはちょっとかたすぎるので、変えてもいいかしら…」
「はい」
するとカメリアさんたちの手によって女性ボーカル用に編曲し直された兄の曲の楽譜が配られ、曲が流れだした。題名は、キンドラ・マキンドラ、光の種だった。
「さあ、メリッサはもちろん歌えるわね。早速みんなで歌ってみましょう」
ウイングのカメリアさんの手によって、アイドルユニット用の編曲が見事に仕上がっていた。そしてメリッサの兄ケントが作った歌が、エプシロンに響き渡ったのだった。
歌詞は3番まであり、それぞれ冒頭に賢者の言葉が語られ、それに対するケントの思いが訴えかけていく。2番、3番とさらに深くなる賢者の言葉にケントの思いが響き合っていく。みんなで最後まで歌った。リンダが一言言った。
「…いい曲ね」
兄が命がけで作った曲がみんなの力で形になってきた。メリッサは感極まってしばらく何も言えなかった。
その時、物陰から、セレニアス老師がその歌をじっと訊いていた。
「奇しくも古代の紋章の光と闇の戦いになりそうじゃ」
戦いが動きだした。
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