13 大河のほとりで

 白い棺桶スノーホワイトの貴賓室でベガクロスは、ベートーベンのようなマイスターゲルバーと、象徴図形を捜査していたヴァルマ教授に早速セキュリティの話を訊いていた。

 分析カメラの映像をチェックしながらマイスターゲルバーが言った。

「…サーカス会場内に、高性能の監視カメラが着いていたのはチェックしていたのですが、あの怪生物が出現してから、ごく一部の観客しか気付いていなかったのにわずか5秒ほどで警備員が動きだしたようです。そしてニードルガンで観客席から追い出しをかけた。そこまで約7秒ほどです。メカも凄いし警備員も凄い、驚くほどの対応の速さです」

 さらにヴァルマ教授があの象徴図形を持ちながら言った。

「私は会場の《気》の流れを読んでいたのですが、まちがいありません。ギラードの後ろには強力な超能力者が着いている。あの怪生物が走り回っていた時に、強い超能力の気配を感じました」

「ほほう、どんなやつかわかるか?」

 ベガクロスの言葉に、ヴァルマ教授は少し考えながら答えた。

「…緑…緑色の印象的な…女です」

「…女か…わかった女に気をつけることとしよう」

「それ岳ではない…ほかにも複数の超能力者の気配を感じます。起きをつけください」

「…なるほど万全の監視カメラシステムと複数の超能力者に守られているわけか。道理でアンナに無邪気に自由にふるまっても平気なわけだ。これは思ったより手ごわそうだな」

考えるベガクロス。だが同じころクリフたちも考え込んでいた。

「…そうですか…ではこの監視カメラの映像に移った図形のようなものをバルマ教授はずっと手にしていたわけですね」

ここはサーカス会場に止められたサイレントパンサーの社内、クリフとネビル、そしてゼペックが打ち合わせをしていた。クリフの言葉にゼペックが答えた。

「あのバイオクリーチャーが出現する直前んに、占い師のマギ・トワイライトがオペレーター室に飛び込んできたんだ。その時はとにかく急いでクリフに連絡だけしたのだが、あとで落ち着いて聞いて見たら、恐ろしい暗黒闘気が渦巻き、いてもたってもいられずに危機を知らせに、一番運気の強い人を知らせにやってきたと言うんだ。そして、マギの言うとおりにクリフに任せてすべてうまく行った。ではどこから暗黒闘気が出ていたか…?!…いろいろ調べてみると、それはヴァルマ教授であり、この手にしていた象徴図形に行きついたわけだ」

もちろん誰も、この円と二つの三角形等が組み合わされた不思議な図形の正体を知るはずもなかった。第一に、まずヴァルマ教授とは何者なのか、そこから調べることと鳴った。ゼペックがお得意の人口知能を駆使して、謎の人物ヴァルマ教授の経歴を調べて行く。最初はごく普通の考古学の研究者なのだが、今から十数年前に突然危険な行動をとるようになり、やがてベガクロスのもとで大きな力を持つにいたるのだ。すると、ネビルがそのデータの中から興味深い項目を見つけ出した。

「ちょっと待ってください…ヴァルマ教授が惑星ルパートの大学で研究していた時の協同研究者の中に、マリア・ハネスの名前があります」

まさしくマリア・ハネス・メルセフィス女王様に間違いない。ゼペックが、女王様の発表した論文データの中を急いで検索した。

「あった…これです、この図形です」

3人の視線が集中したヴァルマ教授と女王様は昔研究仲間だった、そして女王様もその図形を自分の論文に乗せていた。

「…ただ残念ながら、この論文にはこの図形に関する詳しい内容は記載がありませんね。でも、とても重要な図形だと取り上げていることから見て、女王様はたぶんこの図形がなんであるかご存知だと思われます」

ネビルの言葉にクリフが言った。

「女王様とは以前、テロリスト立てこもり事件や爆破事件の関係で何回かあったことがある。しかも諜報部のサンドラ・こーつ長官は女王様と旧知の仲だ。うまくすればすぐに会うこともできるぞ」

ネビルもゼペックもうなずいた。クリフはサンドラ・こーつ長官とすぐに連絡をとり、2日後惑星ルパートのあの博物館のイベント会場で話を聞けることとなった。

2日後の朝、超ハイテクの捜査員専用車サイレントパンサーは、惑星ルパートに移動し、大河メラーに沿ったハイウェイを走っていた。このあたりは環境保全地区になっていて、高い建物は見当たらず、昔ながらの畑や果樹園、遺跡や林などが豊かに広がっている。雄大な大河と並木道の南国の並木が美しい。今日は女王様に謁見と言うことで、3人ともビシッとスーツを決めている。

「女王様は長期療養中と聞いていたが、博物館のイベントに出るなんて、けっこう元気なのかね?」

ゼペックが何気なしに訊く。もちろんクリフもネビルも女王があのメルパの昆虫メカで体調をコントロールされているなど知る由もない。クリフが答えた。

「サンドラ・こーつ長官の話しだと、現在の体調はすこぶるいいらしい。ここ数日は宮殿の周囲を散歩するまでに回復しているようだ」

「ほほう、そりゃあよかったいい情報が引き出せそうだ。長官レベルで撮影・録音の許可はとってあるそうだが、失礼のないように、二人のスーツにつけた宇宙連邦のバッチの中に超高精度のカメラユニットが組み込んである。普通に会話をするだけで、きれいに記録が取れるぞ」

「僕は女王様に会うのは初めてなんですが、何か気をつけることはありますか?」

ネビルが尋ねる。クリフが丁寧に答える。

「マリア・ハネス・メルセフィス女王は、もともとは気さくなインテリ研究者だ。だが、女王を演じているときは少し気高く難しいところもある。研究者モードなのか、女王様モードなのかそのつど見極めないと機嫌を損ねることもあるかな」

「え、じゃあ難しい人なんですかね?」

するとクリフは笑いながら答えた。

「気さくな顔と女王様の顔、女性はみんなそんなじゃないかな。特に彼女は、気高く、情熱かで、知的だが、チャーミングであたたかい。はは、心配はいらない、誠意をもって接すれば、とてもやさしい人だよ」

ネビルもちょっと安心した。やがて緑の並木道の向こうにルパートの考古学博物館が見えてきた。

「さあ到着だ。今回ばかりは秘密行動をする必要も身分を隠す必要もない。われわれは堂々と捜査官として乗り込めるぞ」

クリフについてみんな歩き出した。今日は移籍の資料をもとに復元した古代図書館の開館のイベントだという。

博物館の前を通り過ぎ図書館に向かう。いろいろな宝物が展示されている博物館のゲートの前には、あのマリガンと死闘を繰り広げたあの重量級の警備ロボットゴリアテが今日も巡回している。

巨石の門をくぐる。古代図書館は、大きなアーチ構造の荘厳な建物だった。石造りの長い廊下をまっすぐ行くと、広いイベントホールの舞台に式典の用意が整っていた。そこに司会者とともに女王が早くも登場だ。なるほど、にこやかで血色もいい。とても元気そうに見える。

「古代図書館へようこそ。ここは古代の英知に直接触れられる石板展示室と古代の文献や英知をわかりやすく学べる映像データ室、そして古代ルパート文明の巨大建造物や王宮を再現した立体映像エリアを走る古代ライドの3つのエリアからなっています…」

そして女王の話しをしばらく聞いた後、そのまま女王の案内で各セクションを見て回る。

石板展示室は本物の石板がいくつも置いてあるのだが、石板の古代文字を見つめると、どこを見ているのかセンサーカメラが分析し、古代語で朗読したり、その現代語訳を石板の上に移したり、当時の関連資料をホログラムモニターに映し出したりしてくれる。驚いたのは部屋の中央に置かれた古代の建造物の精緻な模型だ。すべて石板を読み解き、そこから設計図を起こして作られたのだと言う。建造物模型の名前は「オルガデウム」、バベルの塔を思わせる壮大なスケールの6層構造の塔だ。スタジアムがすっぽり入るほどの広い屋上と堅牢な外壁に囲まれた古代の皇帝の居城出と言う。ここ石板展示室にあるのは模型だが、底辺が2m、高さは1m半ほどもある。裏側は無い部がわかるように4分の1ほどが断面図のようになっていて、大ホールや皇帝の部屋、美術館や植物園、屋上には天文台や空中庭園まである。数十分ごとに朝・昼・夕とライティングが変わったり、音声やホログラムで解説がついたり、王族や兵士、天文学者や楽器演奏家などのミニチュアが動いたりと、実に良くできている。周囲にはリアルな岩山のジオラマやホログラムの大河メラーが悠々と流れ、古代船や伝説の怪魚もときどき姿をあらわす。屋上の空中庭園の池では、ホログラムの水鳥が飛び立ち、雲もたなびく。本当に巨大なものを見ているような錯覚をおぼえる。

地震か何かの天変地異で、1日で崩れ去ったという石板の記録があるが、原因はよくわかっていない。

2つめの映像データ室は季節や月によってテーマ映像を決めていて、このオープン記念上映は壮大なスケールの映像を映していた。「古代の天変地異とモンスター」だ。古代でも文明を滅ぼすほどの天変地異や戦争などが何度か起きていて、細かい資料も発見されている。興味深いのはそのたびに、虹色の雲や地震、さらには災厄獣と呼ばれる、竜や巨大な蟲、巨鳥などが目撃されていると言う事だ。詳細なデータから虹色の雲やその竜、巨大な蟲の姿を再現し、映像にして謎に挑むと言うのが今回のイベントの目的だと言う。博物館に造られた球状の360度スクリーンで上映されるのだ。この映像は、ミラーボールにそっくりな反重力ドローンを使って撮影された360度映像に古代の風景や災厄獣の立体cgを合成して作ったものだそうだ。重低音を響かせながら頭上突きぬけていく巨大な災厄獣は圧巻だと言う。

「…おおう…!」

女王が合図をすると、今度はミラーボールのようなものが、ふわりと飛んできた。反重力エンジンの全集胃カメラだと聞かされていても優雅できらめくその姿に観客からため息が漏れる。「クリスタルフォルス」と命名された女王の自慢の撮影システムだと言う。

そして一番前評判の高いのが3つ目の古代ライドだ。その時のテーマにそって、リアルな立体映像の中をライドに乗って進んで行く。今回は神官や古代のおうぞくたちも本物そっくりに再現された、神殿ピラミッドの脇を走り、それから急降下、水しぶきをあげて古代メラーの流れに飛び込み、優雅な船旅で皇帝の秘密の儀式を執り行う上流の洞窟神殿へと探検に行くツァーだ。途中で姫君と踊り子たちの古代ダンスを見たりい、古代の大河メラーにいたとされる伝説の怪魚に遭遇し、追いまわされたりと、イベントも満載だと言う。

その他にも古代からの料理を資料から再現した古代レストランやアクセサリーショップなど、移籍を使ったテーマパークの第1段と位置付けた施設なのだ。

「もちろんルパートの移籍関係の研究の中心として、データベースや研究会などの会場にもどんどん使われる予定です」

大勢来ていたマスコミ関係は、テーマパークのように楽しみながら、しかも最新の研究結果が学べる、これらの展示の工夫に注目していた。意外な人気だったのは天変地異の時に現れたと言う災厄獣、螺旋を描くように上昇して行く竜や巨大な蟲の映像だった。全集胃スクリーンの迫力に、みんなが圧倒されていた。

女王へのマスコミ向けの取材が終わると、クリフたちは、奥の専門家のための研究室の一つに通された。女王と博物館の女性の学芸員が温かく迎えてくれた。

「あら、クリフさんとゼペックさん、テロリスト事件の際は色々と有難うございました」

「お元気そうで安心しました。こっちは私の若い相棒でネビル、空手やボクシングが得意で、戦ったら、私でもかなわない猛者なんですよ」

「女王様、ネビルと申します。よろしくお願いします」

だが挨拶した後、その大きなガラス窓を見てネビルがつい歓声を上げてしまう。

「わあ、すごい、こんな絶景が見られる研究室ってあるんですか?」

ネビルが窓ガラスから外を覗き込む。目の前には大河メラーの雄大な流れ、沢山の人々を乗せた古代船が行き来する。こちら岸には復元された太陽神殿と。精緻な12神の石造、向こう岸には遠くピラミッドも見える。点在する林と田畑、そしてはるかな青い山脈…それらが一望できるのだ。

「研究のためには、実際に現物を見ることが何より大切なの。ここなら1年十、現物を肉眼で観察できるのよ」

女王は笑っていた。なごやかな雰囲気で話し合いは始まった。

「ローゼンバーグさん、例の資料をモニターに出してくださる」

「はい、ゼルマ・ケフの紋章ですね」

学芸員の手によって、モニター画面に石板に刻まれたあの象徴図形が表示された。

「これです、これと同じ図形をヴァルマ教授が持っていたんです」

ネビルの言葉に女王はさみしそうに答えた。

「ヴァルマ教授は私の師匠のような存在でした。全く未知の失われた文明であるルパート文明の全体像を明らかに氏、その素晴らしさを世間に知らしめたのは教授です。彼がすべてのルパート考古学の土台を築いたといっても過言ではない。間違いなく天才的な研究者でした。しかし教授はある研究をきっかけに闇の道に堕ちてしまった。その研究こそがゼルマ・ケフの紋章だった…。彼には現在、何人もの殺人の容疑がかかっています。教授の輝かしい経歴や功績は、あらゆる専門書やデータから抹消され、葬られていきました。だから現在、彼のことを調べようと思ってもなかなか出てこない。でも、彼は依然生きていて、歴史の裏で暗躍している…。あんな頭脳明晰な人が、いったい何であんなことに…」

女王様は、そう言ってその紋章をじっと見つめていた。

学芸員のローゼンバーグさんが基本的な解説を始めた。

「今から一万二千年前に栄えたルパート王朝ですが、その黄金期に活躍したのが、自然哲学者であったキンドラ・マキンドラです。彼が示した宇宙の重大な法則を示した図形がこのゼルマ・ケフの紋章です。でも誤解しないでいただきたいのは、この紋章はもともと人を幸福に導くための図形であり、光の種の紋章と呼ばれて、縁起のいいものだったのです」

「それは意外でした」

ネビルがつぶやくと、女王が割って入った。

「宇宙を平常に運航し人を幸せにするための紋章、でも、それを逆位置で使ったり、流れを止めて使えば、ライバルを不幸にしたり、自分に富を集めることもできる、バルマ教授はそういう使い方を発見してしまった」

ある日、教授は乾季に震える顔でその当時のマリア・ハネス博士に言ったのだと言う。

「ふはははは、マリア・ハネス君、すごい、すごいぞ、私はついに発見してしまった。ついに解き明かしたのだよ。人間を越える方法を!」

「人間を越える?!」

「人間を越える最強の強さ、超能力、不老不死の完璧な肉体だよ」

「そして転がり落ちるように教授はその研究に没頭し、強い格闘家を倒し、超能力で災いを起こし、人の精神を食らって不老不死に地下ずくと言う魔人と化して行ったのです。気がつくと闇はもう光には戻れなくなっていたのです…」

そして女王は首からぶら下げたいくつものネックレスなどの中から一つのペンダントを取り出して見せた。それは古代の本物のゼルマ・ケフの紋章だった。この惑星の古代文字は、「古代ルパート文字は、人口知能の活躍で早くから解読されていたが、この紋章に添えられた解説書は難解を極めたのです。でも、研究によって、キンドラ・マキンドラはもともと、今で言う生物学者であるとわかり、現代の生物学の用語をうまくあてはめることによってやっと解読されたのです」

そして女王は理解する必要はないが、詳しいことを話しておきましょうと説明を始めた。

「この紋章は全体として、原因と結果をすべて内包する宇宙卵、または光の種の紋章と呼ばれています。すべての図形を包む、一番外側のつながっていない楕円は、上昇し加工するサイクルであるとともに、切れ目から次のサイクルにつながる時間を表しています。時間はいろいろなサイクルを無限にもちながら繰り返して行く、新しくなっていくと言うことを表しているのです。その縦長の楕円の中に上から、2つの正3角形の組み合わさった6角形、2つの瞳、3本の経糸と3本の横糸で織られた布を意味する図形が描かれています。2つの3角形のうち、上向きの三角形は、生命の三角形。3つの頂点が、成長、巣作り、増殖を表しています。次の下向きの3角形は進化の三角形。3つの頂点が、オスメスの活動、新しい組み合わせ、死と世代交代を表しています。この二つの3角形が合体して6角形になる事によって、進化しながら殖えて行く生物を表していると考えられます。その下にあるのが2つの瞳、右目が王の瞳、左目が女王の瞳です。支え合って生命が生まれ、進化し、死んでいく。愛や悲しみを生むその大きな流れを、王と女王で見つめ、その思いを共感することに幸せがあると彼は説いています。そして瞳の下にあるのが、宇宙の豊かさの織物と言われています。宇宙には者が古くなると壊れ、崩れ去ると言う破壊の力と、関わらない、作用し合わない、という虚無の力があり、この2つの力によって滅びが生まれると賢者は言います。でも宇宙には滅びに打ち勝つ豊かさという性質が備わっているのです。豊かさの縦糸。豊かさは大きな変化でスイッチが入るのです。環境の変化、えさや縄張りの変化、ライバル・天敵など、これらが生物の存在を揺るがします。ところが、試練ともいうべきその縦糸は種を育てる雨の役目ももっているのです。豊かさの横糸。大きな変化を糧として、豊かさが織られていきます。適応、共存、組織化。自分を変え、さらに回りとつながってともに支え合うことにより、そこに豊かさや多様性が自然に生まれてくる。それが宇宙の法則なのです。だから我々は悲しみや憎しみに負けず、心を豊かにして世界を見れば、あらゆるところに、豊かさを見つけられる。絵画や音楽、様々な芸術として取り出せる、創り出せる、心に光の種を持つなら、破壊や虚無の中にさえ豊かさを見つけられる。その豊かさを家族やパートナーと共有し、共感することに幸せがあると賢者は説くのです。そして自然の適応、共生、組織化を例に、人間も、個性を認め、許しあってともに生き、支え合うことによって豊かになるとときます」

さらに女王はこう続けた。

「悠久の大河メラーは絶えず流れ、移り変わり、瞬間瞬間に新しく、しかし数百年数千年の時を見つめている…。時に洪水も起こし、荒れ狂うこともあるが、大河の水と肥料が田畑を潤し、草木をを育てるのです。宇宙は絶えず移り変わりながらも、豊かになる性質を帯びているのです。物質が集まり、星が生まれ、大気が、水が循環し、森が育ち、生命が満ちて行く。それが宇宙の豊かさの力だと」

女王の説明は難しかったが、ネビルにもなんとなく伝わった。そんなすばらしい紋章を、奴は、ヴァルマ教授は逆位置で自分のために使っている。

「では、この光の種の紋章を暗黒面から使う時の方法について話すこともできますが、いかがいたしましょう」

クリフとネビルは一瞬顔を見合わせたが、ゼペックが言った。

「敵を知らなければ攻略はできない。ぜひお聞きしたい」

すると女王は簡単な説明ですがと前置きをして話し始めた。

「宇宙は螺旋階段のように、繰り返しながら流れてゆきます。そして変化し、適応して、そしてつながって多様な世界を構築して行くわけです。ならば、流れを止め、変化に対応させず、つながりも持たせず世界から隔離させる。そうすれば、命の輝きは失われ、思考は停止し、弱体化してしまう。そこが大1歩だと聞いています。そのようにして人間を弱体化させて倒すことも、思いのままに操っることもできるといいます。また、社会のシステムそのものを止めてしまえば、富は流れず、一人のところに集めることもできるのです。そしてヴァルマ教授のような古代の秘術を身につければ、この象徴図形に精神の波動を流し込むことによって、流れの方向を変え、あるいは止め、逆流させ、相手を弱体化させたり、自分に力を集中させたり、さらには相手の精神力を食らい尽くして不老不死に成る事さえ可能になるのです。その力を世界に及ぼせば、権力や富を一人占めにすることさえできるのです。それが奴らのやり方なのです」

女王の話しは一通り終わり、最後にネビルがひとつ聞いた。

「ヴァルマ教授の暗黒の技を破る方法はないのでしょうか?」

すると女王は端的に答えた。

「心を乱さず、正しい精神波動で迎え撃つことです。いろいろな方法はあると思いますが、挑発に乗れば、奴の術中に落ちます。心を乱さぬことです」

「ありがとうございました」

別れ際に女王が、昔書いた本だが、賢者のその他の教えも書いてあると言って、小さな本を渡してくれた。「キンドラ・マキンドラ、賢者の教え」という本だった。

試しにクリフは、その中の、「光の種の書」を読んでみた。

光の種は、光の森の記憶を思い、発芽する。光の種は、認め、ゆるし、支え合う心で枝を伸ばす。そして、祈りと命の調べが光の木と木をつなぎ、光の森が現れる。豊かさの経糸と横糸を紡ぐのは祈りである。破壊や虚無の中に命や豊かさが同時にある事を、東洋ではわび・さびとも言う。

3人は丁重にお礼を言うと、研究室を出て、サイレントパンサーに乗り、川沿いのハイウェイを再び走り出した。

窓から外を見れば、そこには、今日も悠久の大河メラーが静かに流れていた…。

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