12 幽霊船とシンフォニー

 ネビルはサーカス団のスタッフユニフォームを手に入れ、一人で海賊船長のサーカス団の大テントをパトロールしていた。この20世紀のサーカステントを再現した大テントだが、数え切れない監視カメラ戸分析人工知能、そして30台の高性能警備ロボットによってセキュリティも万全であった。それでも緊張感が漂うのには理由があった。サーカス団は時々外部のパフォーマーやアーティストたちとコラボ公園をするのだが、今回の相手が特別だったからだった。そう、魔薬王ベガクロスの配下の女性楽団ミリオンクロス真ふぉみーオーケストラとその合唱団との1夜限りのコラボ公園なのだ。長期的に見れば皇帝クオンテクスの復活記念宮中晩餐会のリハーサルでもある大事な公園だった。あと数時間後には、あのベガクロスの宇宙船館白い棺桶ことスノーホワイトがここに舞い降りる。

 サーカス団の団長ハっぴーカバチョは舞台の設営、大道具の設置、音響、照明などを一手に引き受ける人口知能「アガサ」と綿密な打ち合わせ中だ。カバチョ団長の一声で舞台セットが自動的に動きだしたり照明が当たったりする。今回は大掛かりな幽霊船のセットがあるので、用意が大変らしい。さらに団長が自在に操るラクダショーのリハーサルをやるためのラクダもスタンバイ状態で、時々鳴き声が聞こえてくる。

「クリフさん、急いでこちらに来てくれる?あなたの本番用の衣装が上がって来たわ。早速着てみてね」

 ネビルのすぐ目の前で、クリフがあの占い師のマギに呼ばれて走って行く。

 少しして着替えて出てきたクリフを舞台裏で見て、ネビルは驚く!

「ええ?!どういう設定なんですか?リアルすぎますよ!」

「ストーリーはまだ教えられないが、幽霊船のせんちょうだとさ」

 昔の海賊船の船長の制服に、一部貝殻や海藻、サンゴなどがはりついている。そして、腕と顔にホログラム装置がついているそうで、右腕は白骨化、顔はクリフとは全く別人の恨みのこもった青白い顔で、しかも半分骨が見えている

「動きにくくないんですかあ?」

「それがよく工夫されていて、軽い素材と超小型ホログラム装置の組み合わせで、動き安い。実はベガクロスとの合同公演が決まった時から、顔が割れているかもっしれないので、衣装を工夫してくれと頼んでおいたんだ」

 そう、あの大型の貨物船アステカビートで、マイスターゲルバーやメルパに正体を知られたかもしれない。あの時はヘルメットとゴーグルはしていたが、警戒するに越したことはない。

「なるほど。これなら、誰も気が付きませんよ。なんたって幽霊ですから」

 そして腰にあの花火ショーの時に使うごっつい拳銃をぶら下げて用意完了だ。

 このサーカスの出し物がうまく成功すれば、そのうち、宮中晩餐会、ハカイオウが来るかもしれない本番だ。ネビルは、ベガクロスが来ることもあり、今夜は公演中ずっとクリフの警備役を買ってでることにしたのだった。

その頃ベガクロスたちも今晩の合同公演の準備に追われていた。あと1時間もしたらあの巨大な白い宇宙船に乗りこまなければならない。楽団員、合唱団員たちは楽器と衣装を用意してそろそろ集まり始めていた。表向きは女性だけのシンフォニーオーケストラ「ミリオンクロス」のゲスト出演、だが実質はベガクロスの影の支配のための策略であった。今度の宮中晩さん会でほかのボスたちに存在感を示すこと。あわよくばその勢力を食いつぶしてやろうというのが目的だ。もちろん楽団員たちはメルパを始め、音凶器と呼ばれる、吹きやや隠し針などの暗殺っ武器を操る訓練を受けていて、いざとなれば、音楽を奏でながら命を奪うことさえできるのだ。そのためにも今日のサーカスとの共演は成功させなければならなかった。

ベガクロスは、暗黒剣法のヴァルマ教授とナンバー2のマイスターゲルバーに命令していた。

「ゲルバーよ、ヴァルマ教授よ、今日は一見無防備に見えるあの海賊王ギラードのセキュリティが知りたい。奴は全く何にもとらわれず、いつも自由で勝手気ままにふるまっている。だが大きな事故にあったとか狙われたという噂を聞いたことはないのだ。やがてやつとも対決する時が来るかもしれない。その時のために調べておくのだ。マイスターゲルバーよ、ヴァルマ教授よ、なんとかして奴の強さを、セキュリティの秘密を探るのだ」

するとマイスターゲルバーはいぶかしげにつぶやいた。

「そういわれればフラッシュギラードは現在、自分の軍隊や兵隊を持っていないと聞いています。それなのに、あれだけの有名人なのに、レジャーエリアでも、サーカスでも、もっと言えば遺跡探検においてもほとんど事故らしい自己の知らせは効きません」

するとヴァルマ教授がささやいた

「私も実はフラッシュギラードの周囲に特別な《気》の気配を感じております」

「それは、どういうことだ?」

ベガクロスの問いに教授は静かに答えた。

「女王の使っていた王宮騎士団のような超能力者が影にいるのではと考えている次第にございます。もしも、サーカスの最中に小さな事件を起こしてもらえば、私が探り当てましょう」

「なるほど、女王と一緒に遺跡の発掘をしていたギラードだ。十分考えられる。頼んだぞ、ヴァルマ教授。マイスターゲルバーよ、協力してやってくれ」

「はは、お任せください」

ベガクロスからの無理な命令にマイスターゲルバーは自信たっぷりに従ったが、その胸中は複雑だった。小さな事件を起こす…?!考えてみれば、今日の講演で問題や遺恨を残せば、っ宮中晩餐会本番に支障をきたす。そうかと言って何か仕掛けなければセキュリティがどうなっているのかはなかなか分からない。ゲルバーは、そのベートーベンのような長髪をポリポリとかきながら策をめぐらした。そして海千山千のこの男はちゅうちょなくある組織のトップに秘密裏に連絡した。

「もしもし、ガロア博士?…」

ベガクロスの財団はあの秘密結社ザムにも資金提供を行っていたのだ。自分の手を汚さずに、しかしきちんと事を進める。したたかなマイスターゲルバーのやり方だった。そして今夜のサーカス公演には予期せぬベガクロスの思惑と、ヴァルマ教授の陰謀、さらに秘密結社ザムの暗躍が交錯することとになったのであった。

会場の設営も一通り終わり、いよいよ開演の準備の段階になって来た。

曲芸の筋肉美4人組のパリス兄弟やブランかシスターズ、魔術師のキューブリック、海賊ピエロも入って来た。

「あれ、クリフさん、ラクダが…なんだかたくさん…?」

その時舞台裏の通路を一列に隊列をくんでラクダがやって来た。決行みんな大きく、中には迫力の鼻ナガオオラクダものしのし歩いている。

「カバチョ団長のラクダショーのラクダだよ。みんなアニマルコミュニケーたが着いていて、おとなしくて言うことを良くきくよ」

確かに顔はユーモラスだし、目が大きくてくりくりしている。そうは言われても、地球のラクダの数倍ぐらいの奴もいて、ネビルはちょっと落ち着かない。

そこにゼペックが小さなメガネ型の通信端末を持ってやって来た。ネビルが早速つけてみる、軽くて違和感がない。幽霊船蝶のクリフもつけてみる。この小さなメガネならつけたままで、幽霊船長になれるようだ。

「発明家のカバチョ団長が作った、監視カメラの異常を分析して知らせてくれるセキュリティシステムと、このメガネ型の通信端末はつながっている」

これをつけていれば、本番中でも異常がすぐにわかり、ゼペックとネビルと連絡がとれるそうだ。

その時大テントの周囲がざわめきだした。テントの横の広場に、あのベガクロスの巨大な宇宙船、白い棺桶スノーホワイトがやってきたのだ。

大きな音とともにスノーホワイトのゲートが開き、黒い正装姿のオーケストラの楽団員が荷物を持って降りてくる。指揮者でもあるマイスターゲルバーが先頭について歩きだす。

遠くからそれを見ていたクリフやネビルは複雑な表情でそれを迎えた。

「…なんてこった…今日もメルパは当たり前だが、あの恐ろしいホワイトゴーストや暗黒剣法のフリードとヴァルマ教授もついてきている」

ネビルもメリッサのターゲットである暗黒剣法の二人を見て、その静かなる殺気に戦慄をおぼえた。

そしてそのうしろから合唱団の美女に取り囲まれ、ハーレムさながらの銀髪の支配者魔薬王ベガクロスも降りて来たではないか?!

だがベガクロスの姿を見つけると、すっと出てきて握手を求めるとんでもない男がいた。

「よう、久しぶりだなベガクロス。元気そうじゃねえか」

その男が進み出ると、ベガクロスの軍団はササッと道を開けた。

「おやフラッシュギラード直々のお迎えとは感激ですな」

考えてみればここには海賊船長の身内は誰もいない。策士のマイスターゲルバー、暗黒剣士のヴァルマ教授にフリード、周りには護衛を務めるアンドロイドホワイトゴースト、ベガクロスを囲む美女たちは暗殺楽団員だ、そしてその中に一人で飛び込んで行くのだから凄い男としか言いようがない。

二人は握手をすると、笑顔を交わしながら歩き始めた。会円までのしばらくの間、ギラードの海賊船に乗り込み、くつろぐのだという。

今日のゲスト出演者であるミリオンクロスの楽団員は着替えたら大テントに行って、すぐにリハーサルだ、もちろん幽霊船蝶のクリフも今日は楽団員の万前で芸を披露することになる。

そしていよいよ開園時間が近づく。今日は有名なオーケストラのミリオンクロスや合唱団が来ていると聞いて、いつも以上の大盛況だ。部隊の前方には招待された地元の子どもたちの席もあり、元気な声がこだまする。

最前列の貴賓席には、暗黒騎士のフリードとベガクロス、ヴァルマ教授の姿も見える。ネビルは警備員に変装して会場をパトロール、ゼペックはアタッシュケースを一つ持って、スタッフの、オペレーター室に陣取った。この部屋では舞台の移動設置から小道具の用意、照明、音響出演者のスタンバイ指示などが、人口知能アガサによって行われ、警備・事故対応など、万が一のアクシデントにも迅速に対応ができるのだ。このシステムで何百回も公演を行うことによって人口知能アガサが学習し、どんな事態にも対応できる信頼できるシステムになっているのだと言う。

そしてゼペックのアタッシュケースにはいろいろなツールを仕込んだパソコンが入っていて、このサーカスの警備システムとクリフたちを直接つないでくれるわけだ。

ついに時刻だ。会場が一瞬真っ暗になり、まるいテントの真ん中にスポットライトが当たる。そこにはリアルでかわいい本番用のカバのマスクをつけたハッピーカバチョ団長が、シルクハットをかぶり、姿を現した。

「お、どういう仕掛けだ?!」

カバチョ団長が立っていた床が具ぐぐっと持ちあがり、あっという間にカバチョ団長は5mほどの塔の上に上がってきたそこにスポットがいくつも当たる。

「レディス&ジェントルメン、今日はギラードの天空船のサーカスにご来場ありがとうございます。今日はいつもの出し物にプラスいたしましてベガクロス財団のミリオンクロスうシンフォニーオーケストラとの世紀の初共演、この日のために温めていた特別プログラムでございます。ではまずオープニングのグランパレードから!お楽しみください!」

高らかに鳴り響くファンファーレ、すると食らい会場にキラキラ照明を輝かすパレードワゴンが、3台、4台と、円形のサーカステントにゆっくり入ってくる、ワゴンの上にはそれぞれ特設舞台が組まれ、工夫を凝らした照明が当たり、曲芸のパリスブラザースやブランかシスターズの、綱渡り宙返りやジャグリング、アクロバットなどの派手なパフォーマンス、魔術師キューブリックが小さな箱から大きな花束や花火、ホログラムの巨大な魔神を次々と呼びだす魔術、さらに海賊ピエロと双子の少女の空中浮遊マジックなどが始まる。パレードワゴンが中央のカバチョ団長の回りをゆっくり回りながら、4回ほど停車し、音楽に合わせて大技を決める。

「わああ、すごい!」

アクロバットジャグリングや綱の上での3回宙返り、空中浮遊大回転などが一斉にきまり、そこにキューブリックの出した大きな流れ星が飛び回る。歓声と大きな拍手がこだまする。観客席に近づいて目の前ぎりぎりで見せるパフォーマンスはやはり大迫力だ。そして観客席を一周すると、今度は入れ替わりにあのラクダのショーが入場だ。

「わあ!」

子どもたちの歓声が一段と高まる。

この砂漠の惑星エスパルに生息するユーモラスなラクダたち、身近に見るだけでも貴重な体験だ。鳥の羽のように大きな耳をパタパタさせながらお辞儀をするひょうきんなミミナガラクダ、体中しわしわなシワコブラクダは、カバチョ団長の合図でプクプクとコブや体が膨れ上がる。夏はしわから熱をにがし、冬は空気でふくらまし、ぽかぽかだそうだ。

そしてのしのし歩く巨大なハナナガラクダ、大きなコブが3つもあり、夜行性でくりくりとした大きな目が印象的、団長の合図で長い鼻で大きな筆を持って、絵かきのパフォーマンスだ。そして、アフロラクダ。そのモシャモシャの髪型に加え「ようこそ!」「ありがとう」などの簡単な言葉をしゃべる芸ができる人気者だ。

団長のマスクに着いたアニマルコミュニケーたで、どのラクダもじつによく言うことを効く。やがてダンスの曲がかかると、耳をパタパタ、体プクプク、鼻でパオー、アフロをゆらして全員でステップを踏むのだ。

子どもたちは大喜び、惜しまれながらラクダは退場。ついに今日のメインプログラムだ。

機体に胸を膨らませながら、だんだん静まって行く観客席。だがその中で別な動きを始めた男がいた。フリードが訊いた。

「ヴァルマ教授、いかがなされました?」

「おかしい…さきほどまで静かだったフラッシュギラードの《気》が動き始めた…なんで今頃…。マイスターゲルバーよ、仕掛けの時間を少しずらす」

「わかった。ではその時が着たら合図をくれ」

ヴァルマ教授は荷物から円と3角形などが書き込まれた古代の紋章のようなものを取り出し、そこに手を置いて、何か呪文の世王な者を唱え始めた。

会場では、カバチョ団長のたっていた高い塔が縮み始め、また床へと戻って行く。何もなくなった会場に、今度は突然波音が響きだす。あっけにとられる観客。次の瞬間、青いうねりが床全体を包む。なんと言うこと、あっという間にホログラム装置により、会場は一面の海原に代わってしまった。

するとどこからかオーケストラの雄大な音楽が聞こえてくる、テントの幕のすぐ後ろで演奏が始まったようだった。

「交響曲、海と嵐の演奏です」

まずは静かで雄大な主旋律がうねるように流れ出す、やがて海鳥の声、海風、波の砕け散るさま、だが次の瞬間だった。

「嵐だ、嵐だ!」

突然の大きな声がして、どういう仕掛けだか、会場に風が吹きだす。オーケストラが嵐の曲を演奏し始め、うねりが大きくなり、波がしらが白く砕け散り、雨が降り出し、稲津魔が、2回、3回と閃き、鳴り響く。やがて会場がだんだん明るくなり始めると、しばしの沈黙、やがて、夜明けの曲が静かに流れだす、波は収まり、風も弱まる。はっと気が着くと海の上を遭難したのか、いかだに乗った船員たちが流れていく。たぶん、床の上をボードが動いているだけなのだが、ホログラムとまじりあい、本当に海を漂っているように見える。スピーカから台詞が流れ、それに会わせて船員たちが演技をする。曲芸のパリス兄弟や、空中ブランコのブランかシスターズ、魔術師のキューブリックや海賊ピエロのガレオンなどが船員薬で乗っているようだ。

「船長、俺達はどうなっちまうんですかね」

「はは、この海賊王ギラード様に任せときな!」

そう言うと船長らし気男が立ち上がって望遠鏡をのぞいて見る。

楽屋の方からそれを見ていたクリフは驚いた。リハーサルと違う、あの船長は本物のフラッシュギラードだ!何かカバチョ団長に頼みこんでいたが、驚いた、本当に船長役をやるとは?!ギラードは練習をみているうちに面白くなって、今回だけという約束で、船長役を代わってもらったらしい。

しかしクリフも、もう出番だ。ゼペックとネビルにギラードが出ていると連絡を取り、スタンバイした。ギラードが叫ぶ。

「おや、大きな船が来たぞ!」

いかだの船員たちが大きく手を振る。すると不気味な歌声や音楽とともに、サーカステントの奥の大きな幕に、巨大な幽霊船が霧の中を近づいてくる立体映像が映る。

「ギラード船長、どうします?」

「いいかお前ら、これから、あの船を乗っ取るぞ!」

「がってんだっ!」

船員たちが雄たけびをぁ上げると、テントの中の照明が消え、明るくなると、今度は海原は消え、テントの床は広い幽霊船の甲板になっている、中央には大きな帆柱がたち、っボロボロの帆柱荷はドクロの旗がぶら下がり、青い火の玉が揺らめいている。後ろの幕がさっと悪とそこにあのバンパイアのような青白い化粧に黒のドレスを着た女性のオーケストラと、白いドレスを着た幽霊のような合唱団員が姿を現し、恐ろしい曲を奏で始める。

「てめえら、ぬかるなよ!」

海賊船長やいかだの船員が船のヘリからよじ登って甲板に飛び降りる。すると、楽団員や合唱団員の不気味な音楽は一段と大きくなり、あたりをきょろきょろする船長たち。

「船長、てえ変です。で、でました!」

ナイフを持ったガイコツ海賊、ふわふわ浮かぶ白い幽霊があっちからもこっちからも出て襲ってくるのだ。骸骨は床の上を滑るように進む影のようなプレートから1体1体精巧なホログラム映像と音が出る仕組みで、歩いたり、戦って壊れたりするたびにリアルにぽきぽきガシャと音がするし、白い幽霊は超小型ドローンから映像と音が出ているので、本当に空中をヒュルヒュルと自在に動くのだ。

「やっちまえ!」

ギラード船長が一声かけると、オーケストラの演奏に会わせ、パリス兄弟は連続回転や、肩の上から宙返りジャンプしたりするアクロバット格闘技で骸骨海賊を撃退。ポキポキガシャガシャと凄い迫力だ。空中ブランコのブランかシスターズは帆柱の上に昇り、ターザンロープや空中ブランコの技で白い幽霊を撃墜。落ちるたびに合唱団のかなしい悲鳴のようなハーモニーが重なって行く。その派手なパフォーマンスとオーケストラの演奏、合唱団のかなしい透き通る声が、アクションシーンと見事にマッチングだ。

ギラード船長も、アドリブで、骸骨と戦って見せる?!

ギラード船長とものすごい迫力の攻防を繰り広げている骸骨のボスは、ナイフを自在に操るところからナイフ投げのキールだとわかる。

そして音楽に合わせて、アクロバットと、空中ブランコの最高の大技がさく裂!

空中では、左右から2回転飛び移り交差攻撃。甲板では、後ろ回転宙返り蹴りと360度スイング攻撃の連続技だ。ついに骸骨海賊と白い幽霊はすべて悲鳴とともに消えていく。すると舞台の奥から魔術師のキューブリックと海賊ピエロが、2つの宝箱を持ってくる。

「船長、やりましたのだ、宝箱を見つけたんだヨオオオン」

「よくやったガレオン、早速フタを開けるんだ!」

ファンファーレとともに、魔術師が1つ目の宝箱を開ける、中から金色の花火がふきだし、金貨や宝石がジャラジャラともリ上がり、キラキラ輝く。

「やったぜ、お宝だ」

続けて2つ目の宝箱を開ける。

今度はピンクと紫の花火が噴き出し、中から海の妖精に扮装した双子の少女が出てくる。あのクリオねロボットのキューピーも一緒に出てきて回りを飛び回っている。

「助けてくれてありがとう。でも気をつけて、あいつが来るわ」

その時、不気味なファンファーレが鳴り、舞台の奥からついに真うち登場。足が2本で手が6本あるタコの怪物ロボット、ボブオクトとともにやってきたのは、あの派手な花火ピストルを撃ちまくる、クリフの幽霊船長だ。

オーケストラと合唱団が不吉な戦慄を奏でだす。タコの怪物に向かって行く船員たち、だが攻撃は通ぜず、怪力に吹っ飛ばされる。

「海の藻屑となるがよい」

そう言って幽霊船長が、乾パンを打つと、仕掛けられていた花火を的確に撃ち抜き、小さな爆発音とともに、床のあちこちから不気味な花火が吹きあがり、船員たちは派手に吹き飛び、宙に舞う!

「覚悟するのだ、今、やっつけてやるヨオオオン!」

海賊ピエロが、銃を取り出して幽霊船蝶を打つ。銃弾を撃つおとがむなしく響く。

「ははは、いくら命中しても、痛くも痒くもない。何せ俺はもう、1度死んでいるんでね。ハハハハハハ」

あわてて逃げだす海賊ピエロ。そしてこんどは幽霊船蝶があのデカイ拳銃を構えた。

「きゃああああああ!」

そしてピストルを振り上げて帆柱を狙えば空中ブランコのブランかシスターズが光の粒子まきちらしながら、高い帆柱の上で、苦しそうによろめく。こんな高さから落ちたら、いくら曲芸師と言えども命はない?!

「ははは、お前らこそ地獄へ落ちろ!」

幽霊船蝶が帆柱の上を狙って、拳銃をぶっ放す。

「キャアッ!」

帆柱の上で花火が爆発し、ブランかシスターズの一人が墜落する。観客席からも悲鳴が聞こえる。だが途中で甲板に張り巡らされたネットにうまく落ちてセーフ。続けてネットのないところに一人落ちる。だが、こんどはすぐに近くのロープにつかまってセーフ。そして3人目はネットもロープもないところにまっさかさまだ。今度ばかりは観客席も大きな悲鳴を上げる。だが、甲板に激突寸前で体が泊る。なんと足首がロープに絡まったように見せかけて、バンジージャンプのような仕掛けがついていたんのだ。!ほっと胸をなでおろす観客。ブランかシスターズも残りは2人、さあ、どうなる?

その時、ついにフラッシュギラード船長がクリフの前に立ちふさがった。

「はは、おれと勝負しろ!」

すると海の要請が宝箱の中から、光る剣をギラード船長に投げた。

「これを使って、魔をはらう聖なる剣よ!」

さあ、いったい勝負の行方は?!戦いはいよいよクライマックスだが、その時、ついに古代の象徴図形を手にしていたヴァルマ教授が何かを感じて合図を送る。

「マイスターゲルバーよ、今だ!」

指揮をしていたゲルバーの指揮棒があやしく赤く光る、それを合図に何かが動き始めたが、観客席で小さな悲鳴が起こった。

「な、何が起きたんだ?!」

ゼペックがすぐに異常野出ているモニターをチェックする。

「な、なんだこれは?」

観客の荷物に潜り込んでいた奇妙な生物が、手すりの上にに飛び出した。モニターが捉え、拡大した。すぐに人工知能アガサが分析する。

「6本足の猫に似ていますが、顔はイソギンチャクのようです。分析不能。でも造り物やロボットではない。生物反応から遺伝子操作で作られた、バイオクリーチャーだと推測されます」

来賓席のヴァルマ教授がほくそ笑んだ。

「ついに始まりおったわ。さあ、どうする?お手並み拝見と行くか」

ゼペックの指令で、ネビルが最短距離で現場に駆け付け、ニードルガンをかまえた。だが観客席でニードルガンは使えない、できれば警備ロボットのいる出入り口方向へ追い立てろと的確な指示が下った。まだ怪生物に気付いた観客はごく1部、ほとんどの観客は幽霊船のクライマックスに目と耳を奪われ、気付いていない。タコの怪物がくねくねと暴れ回り、幽霊船蝶の花火弾を、ギラード船長が光る聖剣で跳ね返し、戦いは盛り上がるばかり。帆柱の上では、弾丸からよけるようにブランかシスターズの生き残りの2人が、横に伸びた柱の上にたち、歩いたり、ジャンプしたり前方回転しながら花火弾をかわしている。ひやひやするすごい技のさく裂だ。

一方ネビルは、わずか10秒ほどの間にターゲットを発見し、狭い通路を追い立てて行った。

「ギャウ!!」

秘密結社ザムの用意した怪生物は危険を感じたのか、出入り口の通路の方へは行かず、なんと、舞台へと、幽霊船の甲板へと飛び降りた。

「しまった!」

気付いた前列の観客が騒ぎ出した。足が6本あり、顔がイソギンチャク、どう見ても猫が紛れ込んできたようには見えない。だが広い甲板の上に出た怪生物に、ネビルがニードルガンを放った。あたれば、即効性のある神経毒で、体がしびれて動けなくなるはず。

「フギャーッ」

あたった?!いや、足に浅草去っただけのようだ。足を引きずりながらもまだ素早く動き回っている。今度は回りに出演者が多く、またなかなかニードルガンは打てない。だがその時、政権を持っていたギラード船長が、政権で怪生物をゴルフのスイングのようにひっぱたいたのだ。なんと見事にヒット!怪生物は、甲板の上から目立たない帆柱の後ろへと吹っ飛んで行った。でも、劇の小道具でバイオクリーチャーを吹っ飛ばすとはさすがフラッシュギラードだ。

だが、さすがに出し物を中断するかどうかという局面になってきたようだった。でもその時、オペレーター室のゼペックのところに意外な人がかけこんできた。

「幽霊船長のクリフに任せなさい」

占い師のマギだった。カバチョ団長からもマギの言うとおりにという指示が入った。

まさかの幽霊船蝶クリフにゼペックから指令が飛ぶ。

「バイオクリーチャーと思われる謎の怪生物が幽霊船の甲板を徘徊している。チェックしてくれ」

「え?…いた、顔がイソギンチャクみたいだ」

怪生物はすぐそばを走り、なんとそのまま帆柱に駆け上って行った。

「クリフ、奴をなんとかして氏止めろ!」

「了解!」

幽霊船蝶は帆柱の上のブランかシスターズを狙っているのだが、そうみせかけて、クリフの花火弾が帆柱を駆け上がる怪生物を狙う。

「ギャン!」

花火弾は見事に命中、だが、派手な花火は周囲に広がったが、殺傷能力がない銃弾なので、怪生物は驚いて、さらに帆柱を駆け上り、なんと上にいるブランかシスターズの所まで飛び上がった。

「キャアアアア!」

一人が襲われるかと思ったが、その瞬間、クリフが隠し持っていた拳銃イズナのレーザーガンが火を噴いた。脳内チップによる直感ロックオン装置が働いて、光とともに命中だ。だがその時、怪生物にバランスを失ったブランかシスターズの1人が思わず墜落、流石にこれはもう墜落事故、終わりかと思われた?!

だがその時、海の要請にふんした双子の少女が、その隠れた力を発揮したのだ!

「空中フィギアスケートとはこういう技だったのか…」

クリフが驚いた。双子の少女の靴は特別せいで、靴底にはローラーが隠れているだけでなく、超小型の反重力装置と推進装置がついていて、滑るように壁を昇ったり、階段の手すりを上り下りできるのだと言う。双子の少女は、瞬間帆柱を滑り昇り、空中でブランかシスターズを受け止めると、反重力装置でふわっと静かに甲板に降りてきたのだ。

「くそう、海の要請目、邪魔立てしおって」

海の要請に近づいて行く幽霊船蝶。だがその時ギラード船長の持っていた魔法の政権が光り出す。それを合図に、オーケストラと合唱団が、「聖なる奇跡の曲を奏でだす。会場に教会の鐘が鳴り響き、聖なる調べとともに、剣が一段と光り出すのだ」

悲鳴を上げながら海へと逃げ出すタコの怪物!

ここぞとばかりにギラード船長が、剣を振り上げ、幽霊船長の銃弾をまばゆい光をまき散らしながら、跳ね返し近付いて行く。

「この聖なる剣を受けて見よ」

 ひるんだ幽霊船蝶にギラード船長が魔法の聖なる剣をつきたてて、戦いもついに決着。幽霊船蝶は青い光とともに、動かなくなっていく。そこでなんと2人の海の要請は、ブランかシスターズのてを上げると観客にアピール。すると観客席からも大きな拍手が起こった。なんだかよくわからない怪生物が幽霊船蝶とギラード船長の戦いに巻き込まれて、帆柱の上からの落下パフォーマンスが大盛り上がり、最後に空中フィギアスケートの技で救出。すべてがショーの一部のようになってしまったのだった。

最後にオーケストラが勇壮な「海賊の歌」を合唱団とともに演奏しだす。するっと、ギラード船長を始め、海賊ピエロ、海の要請や幽霊船蝶、タコの怪物、ブランかシスターズや立体映像の骸骨海賊や白い幽霊など、出演者がみんな出てきて甲板の上で順番に手をつないで挨拶。盛大なフィナーレだ。勇壮な曲が響き渡り、大歓声の中、オーケストラとサーカス団のコラボは終わったのだった。

 楽屋に引き上げて行くクリフに、ネビルが話しかけた。

「あの場面で、一発で怪生物を仕留めるなんて、さすがクリフさんですね。銃の腕前はやっぱりおれより何枚も上だ」

 ネビルの言葉に、クリフは笑った。

「なに、今日も運が良かっただけさ。ゼペックの新しい装置のおかげだよ」

 するとゼペックの声が通信装置から聞こえてきた。

「はは、敵の位置を直感的に感知しないと脳内ロックオンは機能しないのさ。まあ、クリフならやってくれるとは思っていたがね。それよりあの双子の少女の救助活動は見事だった。最初から墜落事故を想定して帆柱の下に待機していたようだな。発明家のカバチョ団長のメカもばっちりだし、すごいサーカス団としかいいようがない」

 とにかく観客は大喜び、招待された地元の子供たちも目をキラキラ輝かせて拍手を送っていた。ミリオンクロスオーケストラと合唱団を連れてきたベガクロスも大きな声援にご満悦だ。

 楽屋で女性たちをねぎらい、指揮者をやっていたマイスターゲルバーに臨時ボーナスをみんなに出そうと約束し、ゆっくりとスノーホワイトに帰って行ったのだった。

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