11 Fガールズ

「本当にごめんなさい。とんでもないことに巻き込んでしまって…」

 まったくとんでもない娘だった。おかげで本部と連絡が取れなくなり、みんなに心配をかけてしまった。だが命を救ってくれたのもメリッサだし、エリュテリオンで協力を得られたのも彼女のおかげと言っていいだろう。

「じゃあ、約束通り、あなたの通信端末と拳銃を返すわ」

 メリッサは老師と会った後すぐにネビルに通信端末を返したのだった。いろいろな思いが交錯したが、ネビルは一言。

「お互いに蹴りが着いたらまた話をしよう」

 とだけ言って別れた。一人になったネビルは、早速通信端末のスイッチを入れる。

「はい、こちらクリフ。おうネビル、、よかった。げんきそうだ」

 間髪をいれず、画面にクリフの顔が浮かぶ。

「こちらネビル。元気です。いま宇宙コロニーエリュテリオンに来ています。ハカイオウの捜査で予定外の成果がありました」

 マギ・トワイライトの占いは早くも当たった。クリフは画面に映ったネビルの元気そうな顔を見て、ほっと息をついた。心配していた。しかし、あの若かった相棒は、ちょっとみないうちに、たくましくなったような気さえした。

「君の任務を引き継いで今エスパルのエンターテイメントエリアにいるよ。今晩は捜査の成り行きで、サーカスに出演することになっていてね」

「えっ?サーカスに出演?!ピエロとか、空中ブランコとか?」

「ああ、そんなところだ。ほら、みなさん元気だ」

 そう言われてみれば、西部劇のガンマン姿のクリフの後ろで、海賊ピエロや双子の美少女が見える。あのまじめで物静かなクリフさんがなんでこんなところに?

クリフはエージェントに手配し、すぐにエスパルの地表に降りて来られるように段取りをとると言ってきた。しかったり、わけを聞いたりはまったくない。

「サーカスに出演じゃ、僕がそっちに行くしかないようですね」

ネビルはそう言って笑った。いつもと変わらぬクリフの優しさが心に染みた。

そしてメリッサはリンダに連れられて、思いがけない場所に来ていた。あの最強の女性戦士と名高いサンダーボルトジェニーと配下のアマゾネス軍団の部屋だ。

「あなたがメリッサね。いい目をしてる。気に入ったわ」

サンダーボルトジェニーは、漆黒の肌を持つ長身の女性で、身長も190近くある。筋肉はしなやかでパワーあふれる見事なもの、これで先に斧がついた強力な槍、アックススピアを振り回すそうだ。アマゾネス軍団もみな大柄で、美女ぞろい、人種もいろいろだ。

金髪のエルフのいみょうでしられる弓の名手ジェシカフレアや、鞭の名手、スピネル・ポーラウルフなど有名人も多い。

「ねえ、メリッサ、あなた、歌とかダンスとかは得意?」

サンダーボルトジェニーの突然の問いにメリッサはとっさに答えた。

「はあ?兄のバンドでキーボードとかバックコーラスはやってはいたんですが…」

「すごい、渡りに船ね!」

この人は何を言い出すのだろう?でもジェニーはメリッサの腕をつかむと、有無をも言わさずに突然、リンダのまねをして歌とダンスをするようにうながしてきた。

「暗黒剣法をやっつけるには、何でもするってあなた言ったそうじゃない?いいから、私の言う通りにやって!」

この強そうなお姉さんにそう言われると誰も歯向かえそうにない。

「はい」

「オーケーよ。アイリーン、あとは頼むわ!」

最近流行のポップが流れてきた。すると、あのスペシャリスト美女軍団、クィーンウイングスのアイリーンがカメリアという歌やダンスの専門家を連れて登場、歌と踊りを手とり足とり教えてくれた。なんだか分からないが一生懸命歌と踊りを頑張るメリッサ。

「はい、そこで手をこうよ!そう、そう。ジェニーさん、この子、なかなか筋がいいわ」

相棒のリンダも一生懸命教えてくれる。リンダはもともと、戦闘集団クロガネの出身で、姉とともに暗黒剣法を倒すために、モリヤ・モンドから送りだされ、神泉寺で修行した格闘のエリートだと言う。そのしなやかで躍動するリズムは格闘術で培われたものだろう。

「歌はメリッサの方がうまいわね。さすがにバンドをやっていただけのことはあるわ」

カメリアのおだてで、メリッサもその気になって来た。

「二人とも背の高さも同じくらいでいい感じね。よし、きめたこの2人で行くわ。いいわね、あなたたち!」

「はい」

サンダーボルトジェニーの声がすべてを決めたようだった。

「これからあなたたちは、格闘アイドルユニットFガールズとして毎日歌やダンス、そして武術の特訓よ」

今の時点で暗黒剣法に対抗するには、まず基本的な武道経験は当たり前だが、それに加えて女性であること、そして暗黒波動を打ち消す歌が歌えることが条件であった。それがこのアイドルユニットなのだろうか?歌と踊りが終わるとサンダーボルトジェニーが近づいてきて優しく言った。

「私や軍団の女の子たちは顔が知られ過ぎていてばれそうで、どうしたものかと思っていたの。あなたたちはニューフェイスでフレッシュその者よ。もしかすると宮中晩餐会なんかでも活躍してもらうかもね…よろしく」

Fガールズの「F」というのは、このアドニス太陽系であの一番美しいと言われているホルムフェニックスのフェニックスのことだと言う。実はクィーンウイングスのすえ者リストたちの手によって、イメージカラーのメタルブルー、メタルグリーン、ゴールドのカラーを生かしたコスチュームがすでに企画されていたのだった。

その頃、惑星エスパルの閉鎖された遺伝子工学研究所の地下で、迷彩服の男達が怪しい実験を行っていた。

開拓者が惑星の環境に適応するように連邦はいろいろな医療的研究を行っていた。その中で遺伝子の発現型を変化させ開拓民の能力や適応性を格段に上げていく研究がおこなわれていた。研究はある程度の成果を収め、開拓民の医療に大きく貢献した。そして、研究所は次のプロジェクトに向けて、1時閉鎖されていた。だが実際は鉱山のレアメタルの密売で資材を膨らませた富裕層や犯罪組織がスポンサーとなり、禁断の研究を続けていた。

ここには薬物中毒の男や、ギャンブルで破産してしまった開拓民、一攫千金をもくろむ傭兵などが集められ、人体実験が行われていた。その多くは自分が実験の露に消えるとは思ってもみなかった者たちばかりであった。

「何が4人のボスだ。一角を切り崩して、最後には我らがすべてを握る…、この秘密結社ザムが」

近くに迫って来た宮中晩さん会には、皇帝クオンテクスが姿を現すだけではない。皇帝の弟ベガクロスはもちろん、海賊王フラッシュギラードも当然来るし、今まであまり表には出なかったグレイシス将軍も来る予定だと言う。4人の実力者が集まる事は今までになく、多分これから先もほとんどないだろう。

「ハカイオウや女王の使う忍者軍団も集まるに違いない。我々ザムはそこで一発恐怖の出し物をぶちあげてやろうではないか!」

人間の遺伝子の中には、進化の途中で使われていたが今は埋もれている遺伝子がある。我々の科学はその眠っている遺伝子を発現促進剤を使って発現させることに成功した。第1段階の日常の能力を向上させる段階を過ぎ、獣変化する第2段階に到達していた。そして今、第3段階のビーストメタルがついに完成しようとしていたのだ。

第1段階では、筋肉や神経などの能力控除、第2段階では鋭い牙や爪、剛毛等の辺にだった。だが、第3段階では1度に数百から数千の遺伝子発現を1度に行うのだ。もちろん、眠っている遺伝子を一度に目覚めさせたら、体の中では暴走を起こし、めちゃくちゃになってしまう。そこで遺伝子の発現組み合わせを目的に合わせてデザインし、最適化しなくてはならない。数千の遺伝子の発現を制御することは不可能だと思われていたが、我々は人体と人工知能を直結することでその制御に成功した。つまり、今までの遺伝子操作や改造手術は必要ない。胸にビーストメタルと言う遺伝子発現物質の制御装置を取り付け、発言促進剤を飲ませるだけで、その時々の条件に最適な遺伝子が組織的に発言するのだ。

「ガロア博士、ビーストメタルの実験体が今完全発言化を終了しました」

一人の研究員が部屋に飛び込んでくる。研究所の所長であるガロア博士は隣の部屋に入って実験体を確認することにした。この実験室には、今までの研究結果と鳴る様々な実験生物のサンプルが奇声や唸り声をあげている。哺乳類の幹細胞から培養したサンプル017は6本足の敏捷なネコ型だが、顔はイソギンチャクに似ていて、哺乳類には見えない。鳥の幹細胞と節足動物の幹細胞をあわせたサンプル024は、ペリカンのような巨大なくちばしと大きな瞳、そしてタランチュラのようなしなやかな8本の長い足を持っている。こちらも一見何の生き物かわからない。そして、透明なカプセルの中に横たわった人間を使った実験体、0071ビーストメタル…。

「おおお、これは、すばらしい、ここまで短時間で発現化するとは!」

だが、その完全変身した実験体をしげしげしげしげと観察したガロア博士は、ふと我に返って言った。

「すばらしい、すばらしいだが、何だ個の姿は…発現遺伝しの組み合わせの数億通り以上もある最適化がどういう経過で行われたのかが見えないが、。原生生物や、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類、あらゆる形態が混在している。こんな遺伝子が埋もれていたのか?と思いたくなるような外骨格のような皮膚まで確認できる。これは未知の遺伝子なのか、組み合わせの妙なのか、生命の神秘なのか、もう人間の理解を越えている。だが、この姿は?!我々が作り上げたのは、高度な知能を持っ人間の体と遺伝子をもとに人口知能がデザインした超人なのか?それとも怪物なのか?!!」

ガロア博士は迷彩服の隊員を呼ぶと何かを耳打ちした。そして不気味ににやっと笑った。何かとんでもないことが閃いたらしかった。

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