7 英雄の砦

 この開拓地区最強の軍隊を持つ皇帝クオンテクス、毒薬や暗殺術を駆使する魔薬王ベガクロス、エンターテイメントエリアの莫大な儲けを一手に握る海賊王フラッシュギラード、

 そして4大支配者のもう一人が英雄の砦のグレイシスであった。今から12年前、連邦を揺るがす大きな事件が起きた。エスパルのすぐ近くに浮かぶ巨大な建造物、広大な空間と最新の設備を持った巨大コロニーエリュテリオン、中には4000人の居住者が住んでいたが、内部で反乱がおきた。犯人は開拓地区の独立を画策する宇宙規模のテロ組織であった。彼らは新しいコロニーの新住民になり済まし、多くの兵士を居住者の中に潜入させ、計画的に武装化を進めていたのだ。

 だがすぐに出動した宇宙連邦の正規軍が鎮圧に成功、組織の中心グループは逮捕された。だが、居住者の中に紛れ込んだ多くの兵士はほとんど逮捕できず、1年ほど不安定な緊張状態が続いた。その間、治安は乱れ、誰がテロリストなのか、人々は疑心暗鬼にかられ、小さな暴動騒ぎや犯罪組織の暗躍が目立ち、産業も衰退し、このコロニーを去る人も後を立たず、人口も半分以下まで激減した。そこで内部からエリュテリオンを立て直そうと言う試みの一つとして送り込まれたのが、グレイシス将軍であった。辺境の地の武装組織の壊滅に功績をあげた将軍は、自らも高名な舞踏家であった。彼は武道を盛んにすることにより、治安を改善するだけでなく、格闘技の興業やタイトルマッチを定期的に行うことにより、経済も立て直すと言う政策を実行した。スタジアムや巨大アリーナなど色々なスポーツ施設やホテルなどの祝発施設を次々に建設、充実させ、大きな格闘技イベントを積極的に開催するとともに格闘技エリートの育成を盛んに行った。

また、様々な有名格闘家や武道家と協力し、武装したテロ組織に対抗できるような実践的なプロテクターやヘルメット、バリア・シールドなど、いわゆる武道アーマーの開発や生産を進めて言った。さらに辺境の地で格闘技を進化させていた武道家の一族「クロガネ」や中国拳法の総本山の一つ「神泉寺」を全員呼び寄せて武道アーマーを与えたことにより、治安が飛躍的に向上した。なんと彼らは、パンチやキック、ナイフや暗器で、拳銃や爆弾テロと互角以上に戦ったのである。

そしてある日、テロ組織が大掛かりな報復攻撃に出た時、武道家・格闘家は地区ごとに協力し立ち上がった。武道アーマーにより、けが人は出たものの死者はゼロ、そして、住民んの中に紛れ込んでいたテロ組織の兵士たちを一掃することに成功したのであった。武道家たちは英雄ともてはやされるようになり、さらに地球や連邦のあちこちの開拓惑星から、様々な武道家たちが、将軍のもとへと結集してきたのであった。その結果宇宙葡萄の聖地と呼ばれるようになり、定期的に行われる総合格闘技のタイトルマッチも大いに盛り上がり、経済的にも潤い、半減していた人口も回復して行ったのであった。そして2年前、この広大なコロニーは、武道特別自治区に指定され、沢山の武道家や格闘家が道場やジムを持ってテロ組織と戦う「英雄の砦」と呼ばれるようになったのである。

「観光客や格闘技戦の観客なら簡単に入れますが、その際も、居住地域や武道家たちの修業トレーニングエリアには入れません。セレニアス老師に会うならば、特別な紹介状がなければ会うことはできません」

エリュテリオンのコロニー入国ゲートの職員はそう言い放った。ネビルはこの時点でメリッサがあきらめると思っていたが…。

「でも私は聞きました。何カ月かかっても、修業を積んで認められれば老師に会うことができるって」

メリッサはまったく動じることもなく、まっすぐに言い返した。

「よくご存知でしたね、エリュテリオンでは本気で武道を志す者には門戸を開くと言う精神から、常時、志願者入門プログラムを用意してあります。でも近年志願者が多く、レベルも高くなり、合格は極めて難しくなっています。ご覚悟はおありですか?」

「もちろんです」

メリッサはそう言って進み出た。その時ネビルの腕をギュッとつかんで引っ張った。ネビルはその手を払いのけることも簡単ではあったが、命を助けてもらったこともあり、彼女の強い決意も知っていたので、若さとチャレンジ精神で、メリッサと一緒に進み出た。

するとそこに最新の量産型武道アーマーを装着した2人の警備係が入って来た。2人ともかなりの武道の有段者であることが直感で分かった。

「それではこちらへどうぞ」

二人が案内されたのは小さな武道の練習場だった。2人は1時間ほど何もせずにただ座って黙って待っていた。

「お、誰か来たぞ」

ネビルはただならぬ気配を感じた。そのずしりとした足音が近づいてくるだけで緊張が走った。メリッサも背筋を伸ばして呼吸を整えていた。

「…待たせてすまなかった」

身長2m、均整の取れた五体、長い髪と豊かな髭、堀の深い端正な顔立ち。鍛え抜かれた筋肉と知性の輝きが高いレベルで一体となっていた。

「私はクロガネを統べるモリヤと申す。2人の面接官としてやってきた」

モリヤ・モンド、戦闘種族クロガネのリーダーにして、エリュテリオン将軍の右腕、エリュテリオンのナンバー2、総合格闘技大会の重量級タイトルを3連覇し、そのまま殿堂入りした最強の武道家の一人、今は試合には出ていないが、ますます強くなっていると評判の男だ。とんでもない面接官がやってきた。

まず二人は、この道場の片隅にぶら下がっていたサンドバッグに、得意な技を打ち込むように言われた。ネビルは強烈なパンチを、メリッサは蹴りの連続技を決めた。ネビル君はかなり実践を積んできたようだ。メリッサ君はまるでカミソリのようなキレ味だ。なんかすべてを見透かされたような気分だった。さらにモリヤは言った。

「何も気を使うことはない。真実のみを話なさい」

「はい」

黒ひげの豪傑、モリヤ・モンドの瞳はあくまでやさしく、でも強い思いが伝わって来る。

「では、メリッサ・ほなー、君は何をなすためにここに来た?」

するとメリッサは、英雄モリヤの眼をまっすぐ見つめてはっきり言った。

「暗黒騎士フリードを倒す力をつけるためです」

豪傑モリヤの瞳に驚きの輝きが宿った。

「ネビル・クレイド、君は何をなすためにここに来た?」

モリヤの瞳にはネビルも嘘はつけなかった。

「彼女の、メリッサの願いをかなえるため、少しでも力になれればと一緒に来ました」

嘘ではなかった。でも、モリヤは何かを感じ取ったようだった。

「それだけではあるまい。お前の1番の使命は何だ」

なぜだろうモリヤの前ではうそがつけない。

「私は連邦政府の捜査官、犯罪者の逮捕が目的です。その男の名は…ハカイオウ…!」

「ハカイオウ?!」

モリヤもおどろいたが、初めて聞いたメリッサもその言葉に驚いた。

しばしの沈黙の後、モリヤは口を開いた。

「君達の追い求めるものはあまりに強大すぎて、こちらでもどれだけ役に立てるかわからないが…」

するとメリッサがすかさず答えた。

「でも、セレニアス老師が暗黒剣法を打ち破る方法を知っていると聞きました」

暗黒剣法に対抗するには、技よりも精神の鍛錬が不可欠だと老師はおっしゃっていた。カミソリのような君の「気」では道はまだまだ遠い。

「それは、セレニアス老師の達人の技や境地があってこその者。またハカイオウは謎の破壊アンドロイドだ。倒す方法も攻略法もまだ誰にもわからない」

やはりまだ自分ではセレニアス老師に会うなど早すぎた…だがメリッサはまだあきらめようとはしない。

「お願いです、せめてセレニアス老師にひと目会わせてください」

「僕からもお願いです。彼女を一度だけでも老師に会わせてやってください」

するとモリヤは静かに答えた。

「とりあえず君達の覚悟は伝わった。我々は武道によって宇宙の秩序を正すのも大きな目的と考えている。暗黒剣法の件も、ハカイオウのことも実は以前から秘密裏に取り組んできたのだ」

「え、今、なんと?!」

「まずは君達の精神力や鍛錬がどれほどのものか、別々の場所で実践的な修行に入ってもらう。すぐにだ。いいかね。その結果を見て、我々も決断しよう!」

「はいっ!!」

まさか、この英雄の砦が暗黒剣法やハカイオウに取組んでいたとは?ネビルは意外な展開に驚いた。そして臨みがかないそうだと笑みを浮かべるメリッサ。2人は新しい運命の中に身を投じて行ったのだった。

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