4 ナインキューブ
クリフは上級相サインの専用戦闘スーツに着替え、マルチゴーグル付きのヘルメットを着用、通信端末を胸のプロテクターの内側に装備すると、外部との連絡も、端末のデータ画面も自由にゴーグルのスクリーンに映り、視線で入力もできる。
「おや、ゴーグルモニターに新しいアイコンが開いたぞ?」
二つのアイコンが加わっていた。一つはネビルが作ったらしい映像分析データベースだ。これは目の前に映った事件に関係ある者をAIがリアルタイムで分析し、ハカイオウなどの関係データを自動的に提示する者。もう一つは…。
「こりゃ、俺の拳銃イズナの新機能か?」
最近は対レーザー用スーツや従来の銃弾を跳ね返す超硬質素材のプロテクターなどを装備している敵や戦闘アンドロイドなども増え、従来の拳銃で歯が立たないことが多い。この拳銃も捜査局のゼペック技術部長によって色々な改良が、さらに加えられたようだ。握った感じが少し違う。さらに予想を越える新機能も付いているようだ。
まずイズナは、普通の銃弾ではなく、超合金の貫通弾対応となり、ほかに小型レーザーユニットがうめこまれたのだ。銃身の上部に小さなドーム型のレーザーロックオンセンサーが装備され、そのままレーザーも打ち出される。貫通弾は銃弾に限りがあるが、レーザーは、500発以上連発で打てる。さらになんと、クリフの脳にこの間埋め込まれたチップと連動し、気配を感じた方向にある敵や目標物をロックオン、瞬時に打ち抜くのだ。
「通常弾との切り替えも、頭で考えるだけで行けるのか?!まあ、ゼペックの調整ならまちがいはないだろう」
その時、宇宙警察のノーマン本部長から高速艇の通信モニターに連絡が入る。
「おお、クリフ、君が復帰してくれて心強い限りだ。ハカイオウは大型輸送船アステカビートの迷路のような貨物室の中を只今移動中、うちのアンドロイド機動部隊と部下の刑事たちが追跡中だ」
「それで、ハカイオウの狙いはいったい?」
「まだはっきりとはわからん。だが、アステカビートにはエスパルにある巨大なオークション市場で売買される貴金属や美術品、レアメタルなどの高価な品物がぎっしり詰まっていると予想される。その中に、どうやらハカイオウの狙いがあるらしい。奴は、それを探して、アステカビートの迷路のような貨物室の奥クヘト向かって移動している。もう、アステカビートの警備ロボットの半数以上がスクラップにされてしまった」
「こちらもすぐに突入します。突入口と船内マップのデータを転送してください」
複雑なマップがすぐに送られてくる。船内の警備ロボット、宇宙警察のアンドロイド機動部隊、刑事たちが、それぞれ色分けされて船内を移動しているのがわかる。そして、非常に不規則でかつ高速で動きまわる点が確認できる。
「ハカイオウ!」
驚くことに、奴はたった一人で乗り込んできた。正気ではない。これだけのロボットや機動部隊があちこちから取り囲んで追ってくれば、つかまるのも時間の問題かと思われた。やがて惑星エスパルの静止軌道上にある、巨大な物流ステーションがその姿を現す。クリフの高速艇が捜査本部の許可を得て、物流ステーションに近づいていく。
物流ステーションから伸びる大型輸送船の荷物積み下ろしようブリッジに繋がれたままのアステカビートを宇宙警察の高速船が取り囲んでいる。荷物積み下ろしようの4つのブリッジのうち2つが宇宙警察によって封鎖され、2つの脱出用ゲートが見張られている。クリフは本部長に連絡をとる。
「宇宙警察の機動隊の本体がいるブリッジ周辺ではなく、手薄になりやすい脱出用ゲートから突入します。よろしいでしょうか」
「賢明な判断だ、すぐにゲートの部下に連絡する。成功を祈る」
クリフの高速艇は物流ステーションにドッキングし、エアーロックが解除され、足を踏み入れると、クリフのゴーグルモニターには、すぐに大きな物流ステーションの内部が。そして、それに続く迷路のようなアステカビートの地図が浮かび、現在位置が示される。
クリフの頭の中には、ノーマン本部長と協力しながら、ハカイオウをどうやって追い詰めて行くのか、何パターンもの作戦が考えだされていく。
「新開発の超合金の貫通弾やレーザーユニットが奴に通用するかどうか?」
物流ステーションの中央通路から脱出ゲートに走り出す。
「クリフ捜査官ですね、こちらです」
ノーマン本部長の部下、アレン刑事がげーとのロックを解除してくれる。
いよいよ内部に突入だ。クリフはイズナをベルトから取り出し、構えながら、輸送船アステカビートへと突入する。輸送船特有のがっしりした壁や通路が目の前に広がる
「う、こ、これは?」
見ると、この高価な貴金属や宝石、美術品などを守るために配備されたアステカビートの警備ロボットが2体、動かなくなって通路に転がっていた。すぐにゴーグル画面の映像分析データベースが動きだした。
「警備ロボットダリウス6、高性能監視カメラシステムと連動し、スタンガンやニードルガンで武装、この機体は分厚いシールドやプロテクターを持っていて、防御力はピカイチである。だがそのダリウスが、一撃で頭部のセンサーと電子頭脳を打ち抜かれている。これは破壊センサーを持つハカイオウの仕業だと分析できる」
クリフは通路を進みながら問うた。
「破壊センサーとはなんだ?」
するとネビルの用意してくれた映像分析データベースは続けた。
「ハカイオウは2つのタイプのセンサーをもっていると推測される。1つは、エネルギーや情報などが集中する点を見つける集注点センサー、そのたった1つをたたくことにより、全体を破壊できる。もう1つは、エネルギーや情報が暴走したり、漏れ出たりしている点を瞬時に見つけ出す流出点センサー。防御力が高くても、そこから攻めて行けば攻略できるポイントだ。その2つのセンサーを組み合わせることにより、効率よくシステム全体を破壊して行くのだ。ハカイオウは特別強力な武器を使わず、警備ロボットを一撃で動作不能状態にしたと考えられる」
クリフは今更にして背筋が凍りつくような感じを久しぶりに味わった。なるほど堅牢なボディの警備ロボットの他の部分には傷一つない、的確に弱点だけが撃ち抜かれている…。ハカイオウはどうもこの大型貨物船アステカビートの再下層へと向かっているようだった。ノーマン本部長から連絡が入った。
「まだ確認は取れないが、アステカビートの最深部にある品物のリストが上がって来た。ほとんどが美術品ばかりで、ハカイオウの狙いそうなものはなかった。ただ一つ、気になるコンテナがあった。中身はナインキューブと呼ばれる9つの40cmほどの立方体の箱がはいっているらしい」
「なんですか?ナインキューブって?」
「ベガクロスの関わっている非合法のオークションの出品物だったらしい、激レアの高価なもののようだが、持ち主などの詳しいデータは不明だ」
「ベガクロスのオークションの出品物だと…?!」
ベガクロスとはこの第3開拓地区を牛耳る4人のボスの一人、魔薬王と恐れられている男だ。奴が関わっているとなると、かなり面倒なことになるかもしれない。
「う、いったい何が起きたんだ?!?!」
その時、緊急のシグナル音がなり、ゴーグルモニタの画面上の色分けされた点がすべて消えさった。もう誰がどこにいるのかまったくわからない。
「やられた…ハカイオウは移動しながら、何箇所かに小型爆弾をしかけていたらしい。監視カメラや追尾システムのあるコントロール室が、爆発で吹き飛ばされた。システム修復の見通しは立ちそうにないそうだ。これでは奴の思うつぼだ。仕方ない、約30秒後に各アンドロイド警備隊員のかめら画像に切り替えて対応する」
「くっ、このタイミングで監視カメラシステムをダウンさせるとは…」
もうハカイオウの正確な位置はしばらく特定できない。だがクリフはナインキューブがあると思われる最深部のエリアに向かってひたすら進んで行った。
その時、またノーマン本部長から緊急通信が入った。今回、本部長の後ろでは、何かけたたましく軽快音が鳴っていた。
「…たった今、物流センターに大型の宇宙船が予告なく近付いてきた。今、ハカイオウが侵入していて立ち入り禁止だと警告したのだが従う様子はない」
「何ですって?!」
「想定外の奴が乗り込んできた。麻薬王ベガクロス本人のお出ましだ!」
その直後、モニター画面に割り込み画像が入って来た。広い額に神のような大きな瞳、プラチナブロンドの頭髪、この男こそ、医学博士の肩書きを持つ4人の実力者の1人、魔薬王ベガクロスだ。
魔薬王と言うのは、麻薬はもちろん、精神状態を思いのままにコントロールするありとあらゆる悪魔のような薬品を使いこなし、売りさばくことから名付けられたと言う。
「無礼を許してくれ。だが、ナインキューブはうちのオークションの大事な商品だ。ある筋から、すぐに売りたいと期限付きで出品された高額商品だ。ハカイオウが現れたとなると、宇宙警察には任せておけない。数日中にオークションに賭けなければ、大変な損害になるのでね」
「ナインキューブには何が入っていると言うのだ」
「ふふ、非合法なものではないことを宇宙警察には伝えておかないとな。特別に教えよう。あのチタニア星系で発見された生命金属だ。命を持ったメカもできると注目されたあれだよ、自己修復機能や、自己強化機能も持っているそうだ、ノーマン本部長」
「生命金属だと?!」
「誰もが欲しがるとても高価な物だ。投資目的で富裕層の金持ちどもも喉から手が出るほど欲しがっていた物だ。だからこそ宇宙警察には任せておけない、すぐに撤退してくれ」
ノーマン本部長がきっぱりと言った。
「宇宙警察がすでにハカイオウを追い詰めている。ベガクロスよすぐに引き上げるのだ…」
「寝言を言ってる場合じゃない?相手はハカイオウだぞ。うちの最強の兵士たちを連れてきた。お前たちの手に負える相手じゃない。宇宙警察はすぐに全員撤退してもらおうか」
「はいそうですかと肯くと思ったか?」
「好きにするがいい、だがこちらの邪魔をするとけが人が出るぞ」
そしてベガクロスの映像は消えた。
「めちゃくちゃだ!」
クリフの顔がゆがんだ。予想のできない展開になる。
やがて白い棺桶と恐れられる、ベガクロスの白い宇宙船スノーホワイトが、物流ステーションに姿を現す。そして大型輸送船アステカビートに横付けするような位置で停泊した。
「ベガクロス達は、アステカビートの使っていない荷降ろし用のブリッジに直接ドッキングさせて、お宝を直接運び出すつもりだ!」
回りをうまくとり囲んで、ハカイオウを追い詰めようとしていた宇宙警察の作戦は、この段階で見事に崩れ去った。ベガクロスの白い棺桶から、大量の人数が物流ステーションを介さず、直接アステカビートに乗り込んできたのだ。
そして、な、なんと、脱出用ゲートから走って来たクリフの前で荷物の積み下ろし用の封鎖されていたブリッジゲートが開き、ベガクロスの軍団が今まさに入って来たのだった。
「く、まさかここから入ってくるとは?!」
イズナをかまえたまま立ち尽くすクリフ。
戦闘をやってくる古めかしいモーニングできちんと正装した男、ベートーベンのような長髪を振り乱し、大股で歩いてくる。暗殺楽団と恐れられる女性楽団ミリオンクロスシンフォニーオーケストラの指揮者として有名なマイスターゲルバーだ。麻薬王のボディガードとしても知られている。こいつは高名な芸術家であるとともに、裏の仕事を何でも片付けて行くベガクロスの参謀であり、始末屋でもあるのだ。そして5本の指のレーザーメスを自在に使いこなす白いアンドロイド軍団ホワイトゴースト、こいつらは、1ミリの誤差もなく相手を切り刻む、解剖マシーンとか歩く手術台とか呼ばれる恐ろしい奴らだ。
マイスターゲルバーはすぐにクリフに気付いた。
「おや、その戦闘スーツは連邦の上級捜査員だね。腕利きだ。そういうわけでベガクロス様の命令だ。お手柔らかに頼むよ」
「ちょっとまてよ…後ろに見えるのは、暗殺楽団の天才美少女メルパ、暗殺殺法の横笛のジュリ、そしてあの黒い戦闘服は、暗黒剣法のヴァルマ教授と鉄仮面の貴公子フリード?!奴らまで連れてきたのか。ベガクロスは本気だ。本気でハカイオウを仕留めるつもりだ」
音楽と魔薬を駆使して相手の精神を思いのままに操り、死に至らしめる暗殺楽団のリーダーメルパ、楽器に暗殺武器を仕込んで仕留める達人横笛のジュリ、そして相手の精神エネルギーを食らって自分の剣のパワーに換える暗黒剣法のヴァルマ教授とフリードだ。しかもフリードは、もともとは長身の二枚目だが、今日は戦闘時だけにかぶると言うどくろのような鉄仮面をつけている。さらに軍団の最後尾には、身長2mをはるかに超えるウゴリラのような、兵器ロボットが控えていた。体にいくつものミサイルランチャーを取りつけた「歩く要塞」ファイアコングだ。
ナンバー2のマイスターゲルバーがメルパに何か合図した。
「うふ、私のかわいい妖精たちよ、頼んだわ」
メルパはバイオリンを取り出すと、さっと不思議な曲を弾き始めた。それと同時にバイオリンの裏から、無数の美しい小さな蝶が噴き出した。そして、それが高速で飛び立って通路に広がり、少しするとメルパがマイスターゲルバーに言った。
「今、私のコンタクトレンズモニターに画像が送られてきたわ。ハカイオウを見つけたわ。あと、ハカイオウを手伝うメタルグレイのアンドロイドも映っている。メタルグレイは警備用ロボットのコントロールパネルで何か仕掛けをしている。急ぎましょう。何が起きるかわからない」
マイスターゲルバーがクリフに声をかけた。
「捜査員君、彼女の使うメカバタフライのカメラが発見したようだ。一緒に来るかい」
このメルパの放った機械仕掛けの昆虫は、通常は盗聴、盗撮、そして毒針での暗殺を1番の得意としていると言う。さすが魔薬王の部下だ。
ベガクロスの軍団はハカイオウの位置を特定すると駆け足で迷路の奥に向かって走り出した。クリフも覚悟を決めて、ベガクロスの軍団と遺書に走り出した。
最後の長い通路を走っていた時だった、目的地の直前で突然警報が鳴り、シャッターがおもむろに開き、左右の小部屋から何かが出てきた。立ち止るマイスターゲルバーとベガクロスの軍団、クリフも立ち止って銃を構えなおした。
「侵入者発見、撃退します。侵入者発見!」
警備ロボットダリウスが無差別に攻撃を仕掛けてきた。ハカイオウは、どうやらこれを仕掛けていたようだったが、警備ロボットダリウスのニードルガンが火を噴く前に、右から来た警備ロボット3体は、頭のセンサーと人工知能を撃ち抜かれて転がった。
「ふう、ハカイオウに弱点を教えてもらってよかった。危なかった」
イズナの超合金の貫通弾の威力は凄かった。
「さすが、連邦の上級捜査員だ、大した腕だ。敵にしたくはないね」
そう言って笑っていたマイスターゲルバーだったが、足元には、電撃指揮棒で電子頭脳をやられたダリウスが転がっていた。
そしてもっと驚いたのは、左側から出てきたダリウスたちであった。2体は一撃で首をはねられ、1体は頭から上半身までが、真っ二つにされて火花を散らしていた。その超合金の装甲ごと切断されていたのである。
「…こんなことができるのは…、やはり…」
振り返ったクリフの目に飛び込んできたのは黒ずくめの鉄仮面男、暗黒貴公子フリードだった。黒いオーラを放つ暗黒件が不気味に揺れていた。フリードの後ろのヴァルマ教授がそっとささやいた。
「ベガクロス様の命令は、第1にナインキューブの回収だ。だが、かまわん。フリードよ、今日与えた秘薬は暗黒オーラを高める強力なもの。お前ならハカイオウを仕留められる。わが暗黒剣法が唯一無二の最強の剣だと証明するのだ」
「はい、マスター、仰せのままに」
さらに奥へと進んで行く。そして輸送船の一番奥、第9セクション、そこに着いた時、にんなの足はピタッと止まった。そいつ、ハカイオウは不敵に隠れもせず、通路の真ん中に突然姿を現したではないか?!
「オオッ!!」
その黒い金属で覆われた重厚なボディは、しかしまるで風のように軽やかですばやかった。張りつめた空気の中、全員の視線がそいつに集中した。
スリムで精悍な黒いボディのアンドロイド、胸の中心には大きな黒紫のルパートクリスタルが光り、数十発の弾丸がずらっと並んでいた。
「遅かったな。…俺がハカイオウだ」
その言葉がすべて終わらぬうちに通路の数か所に仕掛けられた超小型爆弾が突然火を噴いた、マイスターゲルバーの声が重なった。
「伏せろ!待ち伏せだ!」。
煙幕弾も混じっているのか、もうもうと立ち込める煙で、通路は何も見えなくなる。
「グオオオオオオ!」
空中を何かが飛んでくる気配!何が起きているのか、悲鳴と機械が砕ける音が聞こえる。そして2回目の爆発音、みんな再び凍りつく。あの暗黒導師バルマ教授の声が響いた。
「今だフリード、奴を斬るのだ!!」
薄暗い霧の中で閃光がきらめき、鈍い音が突き抜ける。
突然火災防止装置がけたたましくなり、天上から水が噴き出した後、火災がないことが確認されると、今度は通気口に煙がどんどん吸い込まれていった。
長い数十秒が過ぎた。やっと見通しが聞くようになってくると、あの白いアンドロイドホワイトゴーストが数体、後頭部の急所を砕かれて転がっていた。そしてあの巨大なファイアコングは、1発もミサイルを放つ間もなく、自爆させられ粉々に砕け散っていた。
マイスターゲルバーの指示で、全員が大勢を整える。だが、今度は静寂が広がるだけ…。
ヴァルマ教授は辺りをうかがい、フリードは剣を構えたまま大きく息をしていた。良く見ると鉄仮面に大きな亀裂が入り、左肩の肩当てがぱっくり割れていた。ハカイオウはどこにもいない。勝負は引き分けか?
「ハカイオウはどこだ。メルパよ。何かわかるか?」
そうなのだ、今度はあれだけ暴れ回ったハカイオウが消えたのだ。サポートしていたメタルグレイのアンドロイドもいない。どこかに隠れてこちらを狙っているのか、逃げたのか、それとも…。メルパが言った。
「ナインキューブのある奥のコンテナ方向から音がします」
「よし、周囲に注意を払いながら、コンテナ方面に進むぞ!」
マイスターゲルバーは冷静に、なんの動揺もなく、慎重に皆を導いた。こいつは芸術家風だが、精神は筋金入りのようだ。
輸送船アステカビートの再深部、そこは高いセキュリティに守られた専用コンテナが並ぶ、迷路の空間だった。あちこちに物陰があり、奴がどこに隠れていてもわからない。何か仕掛けをするにしても爆弾を仕掛けるにしても絶好の場所だ。
慎重に進んで行ったが、これでは時間だけが過ぎて行く。メルパがまたバイオリンを弾き始めた。小さな美しい蝶たちが、コンテナ地帯の隅々にまで飛んで行き、怪しいところがないか確認する。そしてメルパが、マイスターゲルバーに何もないと合図を送った。
「奴はどこに消えたのか、まあいい、生命金属の探知機を用意しろ、ナインキューブを確保するぞ」
マイスターゲルバー自ら、1K9と書かれたシルバーのコンテナに近づいて行った。ホワイトゴーストの1体が何か探知機のようなものを持って進み出た。
「このコンテナのセキュリティロックが壊されています」
「なに?!」
まさかハカイオウがこのコンテナの中にいるのか?そんな疑惑さえ心に浮かんできた。だがマイスターゲルバーは言い放った。
「ホワイトゴースト部隊で周囲を取り囲み、コンテナのドアを速やかに開け放つのだ」
レーザーメスやハンドガンを持った白いアンドロイドが、ざっと回りを取り囲んだ。クリフもイズナを構えてドアの見える場所に陣取った。
「よし、開けるぞ!」
ホワイトゴーストたちが身構えた。探知機を携えたホワイトゴーストがコンテナのドアを静かに開けた。
「…!」
コンテナは沈黙したままだった。探知機を持ったホワイトゴーストが、中を覗き込んだ。
「ナインキューブは無事です。それ以外に怪しいものは確認できません。これからキューブ1つ1つの生命金属の反応を調べます」
やがて中から40センチほどのシルバーの立方体が運び出された。思ったよりズッシリと重たそうで、また、大きさに多少のバラツキがある。
「すべてのキューブから、強い生命金属の反応があります。封も解かれていません。ナインキューブに間違いがないです」
マイスターゲルバーは初めてほっとした顔で速やかな運搬を指示した。
早速ベガクロスに報告すると、大きなファイアコン具も倒され、ホワイトゴーストも何体も戦闘不能にされたが、手っ仮面のフリードは互角に戦い追い返すことに成功した。我々の勝利だと自信をのぞかせた。
その時、ノーマン本部長から連絡が入った。
「…そうか、ナインキューブはベガクロスの手に渡るか。だが、今、本部にハカイオウ本人からメッセージが届いた」
「ハカイオウからメッセージ?で、なんと?」
「…計画はすべてうまく行った。ご協力を感謝する。サラバだ。ハカイオウ」
「ど、どういうことだ?奴の狙いはナインキューブじゃなかったのか?」
ハカイオウはまるで異空間に消えてしまったかのようにどこにもいなかった。あのメタルグレイのアンドロイドも消えていた。刑務所を抜け出した事件も謎だが、これだけの大勢の前でいなくなったのも信じられないことだった。
「奴はテレポーテーション能力でも持っているのか?」
ノーマン本部長がつぶやいた。そして、この謎が後で大きな意味を持つことになろうとは…?!
宇宙警察の刑事たちによって、物流ステーションから一人乗りの非常用脱出ロケットが一台なくなっているのが判明したが、それも、数日後に無人で回収された。またアステカビートのコンテナ周辺からタに盗まれたものは特になく、ベガクロスは、ベガクロス社のオークションで生命金属を高値で売り、すべて完売。裏社会の富裕層や組織など、様々な者の手に渡り、莫大な儲けを出したのだと言う。
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