2 デリーとコーディネートプログラム

 渦巻く黒雲、横殴りの雨が海風に混じってたたきつける。漁船は大波に大きく揺れて、不気味にきしむ音を立てていた。千兆二薄暗い選定まで連れて行かれたクリフはそこで意外なものを発見する。

「麻薬の取り締まりなんてもちろん嘘だ。俺達船員は、予定通り、このぼろ船を捨てて救命ボートで脱出する。あんたはこの救命カプセルで一人で行ってくれ」

「了解だ」

 クリフが救命カプセルに入ったのを確認すると、船長は船底を抜けて何かスイッチを押した。すると防水シャッターが閉まり、船底が大きく開き、クリフの乗った一人用の救命カップセルは、懐中へと打ち出された。救命カプセルはやがて海中を進んできた連邦の潜水艦に回収されたのだった。

 1週間後、クリフは連邦捜査局の本部に来ていた。早速長官のサンドラ・コーツに呼び出される。

「お疲れ様、クリフ・石崎、あなたは麻薬捜査中に海で遭難、これがあなたの死亡通知書と新しいidカード、電子パスポートも入ってるわ。あなたの指紋、掌紋、目の光彩データもすべ別人のものに書き換えられている。あなたのDNAデータは、ホームクリーンサービスの来るまでフレディが出かけて家ごと全部洗浄処分したから、もうサンプルを手に入れることも不可能ね。今回のあなたの身分を消し去るデリーとコーディネートプログラムの達成率は98,8パーセント、ほぼ完ぺきに近いわ」

 今回の任務にはレベル4以上の凶悪な組織も入っているため、家族に危険が及ばないように、デリーとコーディネーターのフレディに登場してもらったのだった。彼はもう正式に死亡したことになっていて、そのほかのデータもすべて身元を確認することが不可能に仕立てられている。そしてサンドラ・コーツ長官は早速、新しい捜査官専用の通信端末をクリフに手渡すと、今回の特別なミッションについて説明を始めた。

「本件の内容と関係データはすべてその端末に入っています。第7コロニーにある宇宙刑務所から、ハカイオウが脱獄しました。彼は惑星ルパートの宇宙艦隊と皇帝府を破壊し、皇帝クオンテクスを爆死させた第1級の殺人アンドロイドです。早急に逮捕願います」

「わかりました。それでは、すみませんが…」

「わかったわ、ではあなたから預かっていた専用の拳銃、イズナよ。1週間前から技 術部長のゼペックが調整していたみたいだから、即使えるわ。それからすぐにサイパンを手配しましょう。ゼペックも可能ならば同行させるわ」

「助かります、ゼペックまで来れば百人力ですよ」

 拳銃はピカピカに磨きあげられ、専用の特殊な銃弾もたっぷり用意されていた。この本部に来た時、身体検査と一緒にクリフの脳内に新しいチップが埋め込まれたのだが、この拳銃とも関係しているらしい。極秘のため、いつも実戦で使いながらその性能を知る。いつものことだ。ベテランの捜査員で銃の名手でもあるクリフだが、相手がハカイオウとなると、もう予想がつかない。おそらくよほどの策を講じなければ、奴を捕まえるなど、不可能だろう。戦って勝てるとも全く思えない。ハカイオウは次元を超えた、とんでもない犯罪者なのだから…。

「それから、私の相棒のネビルですが…」

「ごめんなさいね、1週間たつけどまだ連絡一つないわ。ただあなたに渡した通信端末はネビルのコピー機だから、何か動きがあれば、まずそちらに反応があるはずよ。あとその通信端末にはネビルのまとめた捜査資料や関係データが入っているから、何か役に立つかもね」

 クリフは、ネビルが最後にハカイオウを追いかけていたという砂漠の惑星エスパルへと早速行くことに決めた。そして外宇宙専用宇宙港に向かい、恒星間宇宙航路の高速宇宙船へと飛び乗ったのだった。

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