1 波止場
宇宙連邦の優秀な捜査官クリフ・石崎は、その朝、海風の強い波止場へと来ていた。ここ数年は地球に帰って、海の見える温かい土地でゆっくり過ごす予定だった。 突然の呼び出しに、美しい妻と幼い娘は不安を隠せなかった。
「あの若手のネビルさんが仕事を引き継いでくれたんじゃなかったの?」
「はは、そのネビルが、まさかの行方不明になってね…仕方がないのさ…」
妻はクリフの手を二度、三度といとおしく握った。
「パパ…早く帰ってね」
「ああ、約束しただろ、ぶどう狩りのころにはちゃんと帰るよ。一緒にぶどうを食べような…」
「うん、きっとよ」
近所の農家がささやかな果樹園をやっていて、春は家族でイチゴ狩りをしたのが、娘はよほど楽しかったらしく、秋の葡萄の収穫を心待ちにしていたのだ。
海辺の緑深い丘の上の白い壁の一軒家をクリフはあとにした。振り返るとカモメの風見鶏が揺れる青い屋根の下、娘がいつまでも手を振っていた。
波止場では漁船の両氏が、船の整備に追われていた。なんでも起きに嵐が近づいていて、白波が建っているらしい。薄曇りの空では、かもめが海風にあおられながら飛んでいる。
そこにホームクリーンサービスと書いてある、場違いな白いワゴンがゆっくり近づいてくる。中から降りた作業服の男が、クリフとすれ違いざまに、小さな白い紙きれを渡す。そして港をぐるりと見回すと、振り返りもせず、またワゴン車に 乗ってどこかへ走り去る。クリフは気付かれないようにその紙きれを見ながら、漁港側の小さな漁船へと近づく。
「この船は海上の麻薬取引を阻止するためのチャーター船だ。あんたのことは聞いてるよ。急いで乗ってくれ、すぐに出向だ」
くわえ煙草の船長はクリフ御すぐに招き入れた。ほどなくして、嵐が近付く海へと小型の漁船は漕ぎだして行った。昼近くに鳴り、波止場のそばに止まっていたホームクリーンサービスのワゴン車の運転席で、作業服の男は港の無線を傍受していた。
「…あのチャーターした漁船は、大波に飲まれて連絡を絶ったようだな…。さあてと、仕事に映るか」
ホームクリーンサービスの白いワゴン車は、クリフの家族の住む、海辺の丘の上へとゆっくりと進んで行ったのだった。
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