#7
1 言うに言えない(1/2)
翌日の放課後。
準備室から機材を取って戻ると、二人はヘッドホンを外して話を交わしていた。
「ディレクター――ですか?」
「あくまで、フリ、だよ。今朝方、急に決まったの」
灯里はグミの隣に鍵盤を並べて、何の話? と
「先輩! 遅ーい!」
灯里の声にいち早く反応を示したのはグミだった。
椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がり、灯里の胸に飛び込む。この後輩は遠慮というものを知らない。
「灯里ちゃん、授業お疲れさま」
奈々千が灯里を見つけて顔を綻ばせる。化粧けのない笑顔はいつ見ても瑞々しい。真っ白で
「ね、先輩」
灯里が奈々千の
「今日このあと試聴会をやるんですって。なんでも全員がディレクターになったつもりで同じ曲を検査するそうですよ」
――試聴会、と灯里は少し考えるようにして呟き、また奈々千に顔を向ける。
「もしかしてその試聴会って、
「そうだよ」
やっぱりそうだ、と灯里は思った。
わずかに緊張した。喉の奥がひりっとする。
「よく分かったね。もしかして凛ちゃんから何か聞いてた?」
「ん、――ええと。聞いたといえば聞いた……ような。でもやっぱり――聞いてないです」
言い淀んで、けっきょく嘘を言った。
何それ、と奈々千は笑った。
聞きました、とはっきり言えばそれで済むだろうに。けれど灯里の中でこの話題は「ディレクターになりたい」という話題と繋がっている。それは裏を返せば「クリエイターに不満がある」という話にも結びつきかねない訳で、つまりこの話題を掘り下げてしまうと、灯里を教育してくれている奈々千を悲しませる結果になるんじゃないかと、不安に思ったのだ。
――要するに、
灯里が嘘を言ったのは、奈々千への遠慮だった。
グミは灯里の腕を大事そうに抱きしめたまま、つまらなさそうに奈々千と話す。
「私たちクリエイターなのに、ディレクターの仕事を覚えるとか意味わかんないですよね」
「うーん。全員が同じ基準を持っていられれば品質にばらつきが出ないし、私的には賛成だけど」
「私にはちょっと難しい話です。私はただクリエイターでいられたら、それだけでいいのに――ねえ、灯里先輩」
急に水を向けらた灯里は、あはは、と笑ってその場を濁した。
昨晩うっかり寝てしまった灯里は、まだその答えが見つけられていない。
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