3 スケジュール帳
デニムの短パンに白い無地のティーシャツ。
シャツは体のサイズよりもひと回り小さいからブラが透けている。すこし窮屈だが子供服だから仕方ない。新調しようにも灯里は流行に
それに比べて妹は身なりに気を使うタイプで、出来れば見立てて貰いたいところであるのだけれど、姉のプライドがどうしてもそれを許さない。というか、いつからか体の成長も止まってる。育ち盛りってなんだろう。
――そうして灯里は、背中にブラのホックを浮かせて町を歩いてしまう子になった。
・
ふいと尻が震えたので手をやると、ポケットに突っ込んだスマホが鳴っていた。
着信は
『あら
「いや忙しくはないけど……なに?」
その、口調。
『そうよね、忙しくないわよねえ?? だからわざわざその日に予定を入れたんですものねえ!!?』
「あ?」
予定なんて入れただろうか。凛子と、日曜日――それって先週の話じゃなかったっけ。
そこまで考えて、
「あ、……ああ!!!!」
ようやく思い出した。一週間前のその約束、今日に入れ替わったのだった。灯里がすっぽかしたから。
『うるさいわよグズ! あんた何のためにスケジュール帳持ち歩いてるわけ!!!?』
「な、何時だっけ、その、予定とやらは」
『十時よ!!!!!!』
過ぎているではないか。いや、それで怒ってるのか。しかし幸いなことに、
「大丈夫、準備はできてるし! ちょっと家事してただけ! もう出るし、十分で着く!」
というのはさすがに方便だが、電車だけの時間でいえば確かに十分弱だった。
・
慌てて電話を切り、居間へ走った。
「……お姉ちゃん?」
居間のラグに放り捨ててあったショルダーバッグにスマホを乱暴に押し込む
「どこへお出掛けかしら?」
「いや、これは、ちがって」
灯里は一生懸命に事情を話したが、まぁ当然、
「なんのためにスケジュール帳をプレゼントしたと思ってるの!? 友達と用事があるからって何回も私との予定をドタキャンしてきたからでしょ!?」
これには閉口した。返す言葉もないし姉としての面目もないが、今は時間もなかった。
「ぜったい埋め合わせするから!」
「しなくていい。私も行く。どうせその相手って
――凛姉ちゃん、というのは言うまでもなく
昔はよく三人で遊んだが、その名残で光里はいまでも「姉ちゃん」と慕い続けている。光里にとってはもう一人の姉のような存在なのだろう。ちなみに凛子は中等部時代に吹奏楽部に所属していて、二人には灯里の知らない付き合いもある。灯里は妹に対して嘘で保身してきたから、そういうのは困るのだ。だから今日だって、ついて来られると困る。
「ダメ」
言うなり光里は片頬を膨らませ、「この顔どうすんのよ」と姉を責めた。
化粧のことだろう。
作っちゃったわよ、と既に置いていかれることを承知しかけている様子がなんとも健気で、灯里はきゅっと胸が痛くなった。
「化粧なんてしなくても可愛いのに」
その言葉に妹はすこし怯み、顔を赤らめた。
行ってきます! と居間を出ようとする灯里に、妹は待って待ってと近寄ってきて、自分が着ている薄手のパーカーを脱いで渡してくれた。
「下着透けてるし、何気にまだ寒いから」
妹のこういう健気なところが、灯里は好きだった。つくづく良くできた妹なのだ。
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