2 灯里のやりたいこと
――それで、えっと。
「あ、そうそう。『クリエイターばっかりじゃん』、って話だったね」
話を戻した
「そうなの。クリエイターがカラオケを作って、ディレクターが間違いをチェックする――そういう役割分担をしているんだけど……、例えるなら、『間違い探しを作る人』と『問題を解く人』、どっちが楽かって話」
「そりゃまぁ『解く人』の方が楽……や、そんなことないのか? もし問題がひねくれてたら……」
「でもほら。『間違い探しを作る人』は、まず大前提として正しい絵を
奈々千はそこで言葉を止めて
その辺の作業は何となく絵が浮かんだ。つまりこの部屋に入った時に、グミがやっていたあの作業のことだろう。ぱっと見冴えない感じの、あの作業。
灯里もエアピアノで真似をしてみたけれど、結局大したときめきは得られなかったっけ、なんて思い出す。
ただただ地道である。
そうなら確かに『解く人』の方が楽なのかもしれなく、人員を割く割合に偏りがあるのも頷ける。
「あ、そうだ、先輩」
それと灯里はもう一つ思い出したことがあった。
「一つ聞きたいんですけど、部員の一人が
「あぁ、それはブドウくんのことね」
――ぶ、ぶどう?
灯里が
「うちの部長のあだ名。うん、
灯里が二度三度うなずく。それは相槌というより
「それで? そこでディレクターは、どんな事をしてるんですか!?」
「……だから、間違い探しを――」
「例えじゃなくて、もっと具体的に」
「あれ。どうしよ、なんだか思いのほか食いつきがいいみたい……。大丈夫かな、あんまり期待しないでね」
奈々千は心配そうにそう前置き、そうだなぁと考え込んだ。
「すっご――――――………………く端折って言うと、『CD音源』と『クリエイターがつくったカラオケ音源』に間違いがないかを聴き比べてるの。例えるなら出荷前の検品みたいなもので――」
「私っ、」
それやりたいですっ! と灯里は大きな声をあげ、ソファから跳ね起きた。
これほど強く意思を示したこと――無いでもないが、灯里にしてはかなり稀なことである。
自分から率先して物事を始めるタイプではない。むしろ何事にも億劫がる性格で、やらなくていいことは極力避けてきた人生だった。
ここに凛子か妹か母か父がいたら、それは大いに驚いたことだと思う。だって、灯里自身も驚いた。グミも奈々千も、それから梅田も。いきなり立ちあがった灯里にぎょっとして目をまん丸にしている。
でも。
それしかないじゃん、と思った。
それはまさしく灯里が四年間こつこつ続けてきた『一人カラオケのクレーム趣味』そのものだったのである。
あれだってそう。
誰かが作ったカラオケ音源と、自分のスマホに入っている本物の音源とを聴き比べていただけだ。運命を通り越して使命に思えた。灯里がやらずして誰がやると言うのだ。
こんな場所で眠たい座学を受けている場合ではなかった。
――私は、
ディレクターになりたい。
すごい設備が揃った防音室で、あの趣味をしたい!
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