第29話
協力してくれることとなった壺職人ネカルに、俺はさっそく命じる。
「よし、それじゃあネカルのツテを使って、協力してくれる壺職人を集めてくれ。
この作戦には、壺職人が大勢必要なんだ」
「わかった」
するとネカルの一声で、この街の半数もの壺職人が集まってくれた。
チンピラたちに苦しめられている職人、すでに壺職人をやめてしまった職人。
それどころかマルモーケ商会の壺を作らされている職人たちまで来てしまった。
どうやら彼らは低品質の壺を作らされていることに嫌気がさしてしまったらしい。
彼らはマルモーケ側のスパイになる危険性もあったが、ネカルが人柄を保証してくれたので、まとめて巻込むことにする。
そして壺職人はみな山賊みたいなごっつい体格の大男ばかりだった。
これには理由があって、ポトポの高品質な壺を作るには、土を力強く練らなくてはいけないらしく、それで自然と鍛えられたそうだ。
なんにしても、この腕っ節は後々に役に立ってくれることだろう。
俺はマルモーケ商会のヤツらに見つからないように、職人たちを街外れにある広場に集めて言った。
「集まってくれてありがとう。それじゃあみんな、これから『壺まつり』に向けて壺を作りまくるんだ。
もちろんポトポらしいいい壺をな。それをありったけ用意してくれ」
すると当然の異論が噴出する。
「それはかまわないが、その壺はなにに使うんだ?
『壺まつり』に出品したところで、マルモーケ商会のヤツらにぜんぶ壊されるのがオチだぞ!」
「いや、そうはならないから安心してくれ。
そこに、俺の考えがあるんだ」
『神ゲー』のスキルを説明できればよかったのだが、俺はしなかった。
その理由はふたつある。
ひとつ目は、言っても理解してもらえないだろうということ。
スキルの持ち主である俺ですら、まだテュリスの言っていることの半分も理解できない。
こんな状態で説明したところで、わかってもらえるとは思えなかったからだ。
そしてもうひとつは、スパイを心配してのこと。
もしこの中にマルモーケ商会のスパイがいて、『神ゲー』のことが漏れてしまったら、作戦は失敗してしまうからだ。
というわけで俺は、当日までダマで通すことにする。
しかし、俺みたいな見るからにうさんくさそうなオッサンの説得では、職人たちは信じてくれなかったのだが、
「おにいちゃんのおっしゃることなら、まちがいはありません!
みなさんも、おにいちゃんのおっしゃることを、しんじてください!」
「は……はいっ、シャイネ様!」
我が妹の鶴の一声には、むくつけき男たちも頬を染めて二つ返事だった。
というわけで、水面下で作戦準備の準備は行なわれた。
職人たちは表向きはマルモーケ商会に服従するフリをして、その裏ではポトポの壺を焼く。
焼いた壺は見つからないように外に出さずに、各自の屋内保管とする。
そしてついに『壺まつり』当日がやって来た。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
壺まつり当日の早朝、ポトポの街は準備で大わらわだった。
祭のメインストリートとなる大通り瀬戸物屋には、マルモーケ商会のロゴが入った壺が所狭しと並べられる。
その中を、マルモーケ商会の代表であるマルモーケと、勇者シャランガンは闊歩する。
後ろには大勢のチンピラたちを従え、彼らは最終チェックを行なっていた。
もしマルモーケ商会のロゴが入っていない壺がひとつでもあったなら、即刻叩き壊すために。
大通りの半分までチェックしたところでは、すべてがマルモーケ商会の壺一色。
祭が開催されれれば多くの観光客が訪れ、これらの壺は飛ぶように売れるだろう。
そうなると、他の街中でマルモーケ商会の壺がスタンダードとなる。
やがては世界中を席巻、旧時代のポトポの壺を駆逐し、世界的なブランドに取って変わる。
それがマルモーケの野望であった。
マルモーケは世界にはばたく妄想を膨らませながら、大通りの残り半分のチェックに入ったのだが……。
しかしそれから先は、黒一色が当たり前の世界が白く塗り替えられたような、ありえない光景が広がっていた。
「なっ……!? この通りにあるのは、ぜんぶがぜんぶ、ポトポの壺ではないかっ!?
ただのひとつとして、ワシのマルモーケ商会の壺が無いではないか!」
すると通りの向こうから、別の集団がやってくる。
集団の先頭は見知らぬオッサンで、その後ろには大勢の職人たちがいた。
「な……なんじゃ、ゾロゾロと!?
あっ!? まさか貴様ら、このワシに歯向かうつもりか!?」
マルモーケが一団を怒鳴りつけると、その先頭にいたオッサンが一歩前に出る。
「察しがいいな、その通りだ。
俺がそそのかして、職人たちにポトポの壺を作らせて、こうやって並べさせたんだ」
「なんじゃと!? 貴様はいったい何者だ!?」
すると、マルモーケの隣にいた勇者シャランガンが前に出る。
「マルモーケ、コイツはただの荷物持ちだよ。ここは俺に任せろ」
「おお、頼みましたぞ、シャランガン殿!」
シャランガンはオッサンを鼻であしらった。
「フン、まさかこんな所でオッサンと再会するとはな。とっくにのたれ死んだと思ってたぜ。
職人たちを丸め込むなんて、オッサンにしちゃがんばったじゃねぇか。
しかし相手が悪かったな。この俺の力を、荷物持ちだったお前なら覚えてるよな?」
「ああ、もちろんだ。でもシャランガン、お前にはもう、その力はない。
相手が悪かったのはお前のほうだよ」
「ハァ? なに荷物持ち風情が俺のことを呼び捨てしてんだよ? その上お前呼ばわりだとぉ?
テメェ、なめてんじゃねぇぞっ!」
シャランガンはオッサンに向かって走り寄る。
そして振り上げた脚で、オッサンの真横に置かれていたポトポの壺を蹴り割った。
……ガシャーンッ!
「こんな風にしてやろうか? ああんっ?」
これでオッサンはビビるだろうとシャランガンは思っていた。
しかしオッサンは目をきつく閉じるどころか、眉ひとつ動かさない。
次の瞬間、無言で突き出されたオッサンのミドルキックが、シャランガンの腹にめり込んでいた。
……ドムッ!
「がはあっ!? な、なにしやがるっ……!?」
「職人たちが精魂込めて作った壺を、壊すんじゃねぇよ。
これは、俺と職人たちの怒りだ」
腹を押えるシャランガンを、怒りに満ちたオッサンと壺職人たちが見下ろしていた。
シャランガンは眉をひそめる。
「俺の力があれば、壺を壊しても、怒らないはずなのに……!?
なぜ、コイツらは怒ってやがるんだ……!?
クソッ、なんでもいい! おい野郎ども、見せしめだっ!
ここにある壺をぜんぶブッ壊しちまえ!
コイツらは壺をブッ壊されてもなにもできやしねぇんだ!」
シャランガンの号令一下、控えていたチンピラたちが押し寄せる。
……ガシャーンッ!
新たにもう1個の壺が割られた途端。
……ドガスウッ!
壺職人の丸太のような腕から繰り出されたパンチで、チンピラが吹っ飛ぶ。
待ってましたとばかりにオッサンが叫んだ。
「コイツら、俺たちの壺を壊したぞ! それも2個もだ!
職人の命ともいえる作品をブッ壊したヤツがどうなるか、思い知らせてやれっ!」
「おーっ!!」
職人たちは憤怒の雄叫びとともに、一斉にチンピラたちに襲いかかった。
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