第28話

 俺たちはリーホールの村を襲うモンスターの撃退に成功。

 そしてイベントの戦闘のおかげで、気付いたら俺のレベルは一気に10アップしていた。


 ブレイ レベル10 ⇒ 20

  HP 34 ⇒ 68

  MP 20 ⇒ 44

  筋力 17 ⇒ 35

  知力 10 ⇒ 22

  俊敏 12 ⇒ 30

  魅力 1

  CP 15


 肉体的な成長だけでなく、新しい剣技も使えるようになったし、なんと魔術も覚えた。


 コレスコの使う魔術に比べたら威力はぜんぜん無いが、それでも魔術が使えるようになるのはすごい進歩といっていい。

 いまの俺がどのくらいの強さに相当するかはわからないが、小学生レベルは超えていると思う。


 そして、その日は遅くなったので村で一泊したのだが、夜中に俺の部屋に聖女たちが夜伽にやってきて大変な目に遭った。


 そんなこんなで次の日、俺たちは村人全員に見送られながら、リーホールの村をあとにする。

 それからは大きなトラブルもなく、当初の目的地であった『ポトポの街』に到着した。


 ポトポの街は壺で有名で、高品質な壺の生産地でもある。

 俺の家にあった壺もポトポで作られたもので、この国だけでなく隣国でも流通しているらしい。


 街の大通りには瀬戸物屋が立ち並び、壺焼きのための大きな釜がある。

 そこらじゅうが壺だらけで、まさに『壺の街』だった。


 俺とシャイネは珍しくて、思わずふたりでキョロキョロしてしまう。

 すると、コレスコに笑われた。


「あはははははっ! シャイネはともかく、なんでオッサンまで珍しがってんの!?

 この街はマジハリから超近だから、珍しくもなんともないっしょ!?」


「いや、この街は勇者の荷物持ちをしていた時は何度か来たことがあるんだが……。

 冒険者を引退してからはずっとマジハリにこもりっきりだったから、久しぶりで……」


 なんて雑談をしながら大通りを歩いていると、トラブルに出くわす。

 いかにもガラの悪そうなチンピラたちが、壺職人らしき男にインネンをつけていた。


「この街じゃ、マルモーケ商会の壺以外は作っちゃいけねぇんだよ!」


 チンピラたちはそう言いながら、壺を次々と蹴り壊している。

 壺職人は筋骨隆々とした大男で、チンピラたちなんて折りたためそうなくらい強いのに、壺を壊されても黙って耐えている。


 完全なる器物破損だが、通りかかる衛兵も日常の光景を見るかのように、注意ひとつしない。

 やりたい放題のチンピラたちは壺をすべて破壊すると、


「そんなに壺が作りたきゃ、マルモーケ商会の傘下に入るんだな! そしたら壊さないでいてやるぜ!」


 妙な捨て台詞とともに去っていった。


 俺は、静かにうなだれる壺職人の男に話を聞いてみた。


「なんで、壺を壊されても黙ってたんだ? それに衛兵まで……」


 すると壺職人は、困惑した表情で顔を左右に振る。


「わ、わからないんだ……」


「わからない?」


「精魂込めて作った壺なのに、壊されても腹が立たない……いや、立てられないといったほうがいいのか……。

 衛兵も頼りにならないから、自衛の武器も揃えたが、使う気になれないんだ……。

 壺は職人にとっては我が子のようなものだから、本当だったら、ヤツらを八つ裂きしてやりたいくらいなのに……。

 なぜか目の前で壺を壊されても、しょうがないことだと思ってしまうんだ……」


 さらに突っ込んで話を聞いてみると、チンピラたちは『マルモーケ商会』という、この街にある壺商店に雇われたチンピラだそうだ。


 マルモーケ商会はこの街の壺をすべて自分たちのブランドで埋め尽くそうとしているらしい。

 それでチンピラたちを雇って、マルモーケ商会に入っていない壺職人の壺を壊して回っている。


 職人たちは壺を壊されては生活ができないので、マルモーケ商会の傘下に入るしかない。

 しかしマルモーケ商会は利益優先のため、粗悪な材料での壺作りを強いているそうだ。


 できあがるのは低品質な壺ばかりで、こんなものがポトポの壺として流通するのは耐えられないと、プライドの高い職人は壺作りを止めてしまう者もいるという。


 そして、なによりも聞き捨てならなかったのは……。

 マルモーケ商会に勇者が入り浸るようになってから、急速に勢力を拡大しはじめたそうだ。


 その勇者の名前は『シャランガン』。


 特に変わったスキルを持っているヤツだったので、忘れもしない。

 シャランガンのスキルは『壺をいくら壊しても怒られず、罪にも問われない』というものだった。


 俺が荷物持ちとして仕えていた頃、ヤツは民家の壺をストレス解消がわりに叩き割っていた。

 壺を割られた家の者たちは文句ひとつ言わず、破片を掃除している姿が印象に残っている。


 それで俺は、いまこの街でなにが起こっているのかを理解した。


 チンピラたちはきっと、シャランガンのパーティメンバーなんだろう。

 パーティに入っている者は、リーダーのスキルの恩恵を得られる。


 そうなれば、人海戦術でライバル職人たちの壺を壊して回れる。


 その嫌がらせを続ければ、やがてこの街の壺はマルモーケ商会一色となり……。

 莫大な利益を独り占めにしたうえに、また国じゅうにマルモーケ商会の名が響きわたる。


 そうして得た利益と名声の後押しがあれば、壺を壊すしか能がないシャランガンでも勇者ランクを上げられるだろう。


 そう、これは……。

 『マルモーケ商会』と『壺壊し勇者』の、お互いの能力と思惑が歯車のようにガッチリと噛み合った、恐るべき作戦……!


 それで今まで以上に良い壺が広まるならまだしも、低品質な壺を流通させるとは……。

 許せないっ……!


 俺と話していた壺職人は、すっかり疲れ切った様子だった。


「来月にはこの街で『壺まつり』が行なわれる。

 その日は多くの観光客が訪れるから、マルモーケ商会はそこで自分たちの壺だけを並べてアピールするだろう。

 今から壺を作ってたとして、数の力ではどうやっても勝てない……。

 たとえ当日までに数が揃えられたとしても、観光客の目の前に並べた時点で壊されてしまう……。

 はぁ……。俺ももう、潮時かもしれんな……」


 ヒロインコンビは見かねた様子で俺に言う。


「おにいちゃん……このおかたを、なんとかたすけてさしあげられないものでしょうか?」


「そーだよ! あーしも壺壊されてるときになんにもできなかったけど、なんか今になってムカついてきた!」


 俺もふたりと同じ気持ちだったので、うむ、と頷き返す。

 そして壺職人に向かって言った。


「俺はブライっていうんだが、ちょっといい考えがある。

 うまくいけばマルモーケ商会を街から追い出せるかもしれん。

 そのためには壺職人の力が必要だから、手伝ってくれないか?

 やめるのは、それからでも遅くはないだろう?」


「そういえば、名前をまだ言ってなかったな。俺はネカルだ。

 どうせやぶれかぶれだ。いいだろう、手伝ってやるよ」

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