第22話
俺は長年住み慣れた街を、ついに離れる。
理由は『住んでいたアパートが全焼したから』であるが、悲壮感はなかった。
なぜならば俺の隣には、楽しそうにスイングして歌う女子高生ギャル魔女と、歌にあわせて手拍子する小学生大聖女がいるから。
このふたりがいれば、どこにいってもやっていける……俺はそう確信していた。
そう思ってはみたものの、俺はどこに行けばいいんだろうか。
テュリスに尋ねてみると、「そりゃお城に決まっとるやら」と当たり前のように返された。
「お城? それってこの国、『ガルフレンド王国』の城ってことか? 行ってなにするんだよ?」
「お城に行ってすることと行ったらひとつしかないやろ。王様に会うんや」
「王様に? 俺みたいなのが行ったって会ってもらえるわけないだろ。
下手すりゃ捕まって、牢獄行きだぞ」
「大丈夫や、行く途中でストーリーが進んで、王様に会えるようになるはずさかい」
すると俺の隣にいたシャイネが、俺の肩に遠慮がちに触れた。
「あの、おにいちゃん、こくおうさまにおあいしたいのですか?
それでしたらわたしがいたらおあいしてくださるとおもいます」
「なに、本当か?」
「はい。わたしがこうこうをそつぎょうしたら、いちどごあいさつにうかがわなくてはなりませんでしたので」
さすがは将来を嘱望されている小学生大聖女だけあって、王様とも親しいようだ。
「だったら真っ先に会いに行かないとヤバいんじゃないのか?」
「はい。ほんらいはそうなのですが、まちきれなかったのです」
「待ちきれなかったって、なにが?」
するとシャイネはそっと顔を伏せ、俺の服の袖をきゅっとつまんだ。
「おにいちゃんに、おあいするのが……」
や、やばい、可愛すぎる……!
俺はテュリスの口癖である「惚れてまうやろー!」が口から飛び出しそうになって、なんとか飲み込む。
そのテュリスはというと、ドヤ顔をしていた。
「どや、ワテの言うたとおりやろ? これで王様にも会えるようになったやないか」
「いいけど、会ってどうするんだよ」
するとその問いに答えたのは、オトモ妖精ではなく我が妹だった。
「はい、おにいちゃん。わたしがおつかえするゆうしゃさまとして、おにいちゃんをごしょうかいさせていただきます」
「なに、俺を勇者として!?」
「はい。なにかもんだいでもありますか?」
「いや、俺はもう勇者じゃないんだが……。シャイネも知ってるだろう。
俺が小学校を卒業したとき、勇者としての権限を剥奪されたのを」
「はい。だからこそおうさまにおにいちゃんをごしょうかいしたいんです!
おうさまにみとめられれば、おにいちゃんはまたゆうしゃさまになれます!
そのために、わたしはだいせいじょになったんです!」
熱っぽく語るシャイネに、俺は驚愕を覚えながらも、自然と目頭が熱くなるのを感じていた。
まさかこれほどまでに、俺を慕っていてくれただなんて……!
「なんや、この子のおかげで王様に会いにいく口実もできて、一気に問題解決やないか!
旦那にはもったいないくらいのええ妹やなぁ!
あとはこうやって、チラっと……」
妖精は言いながら、シャイネのワンピースの肩紐をずらす。
しかも、素早く両肩とも。
それは目にも止まらぬ速さなうえに、シャイネは見えていなかったので「きゃっ!?」と赤くなって肩紐を押えていた。
「す、すみませんおにいちゃん、はしたないところをおみせしてしまって……」
「惜しかったなぁ、あと少しで胸チラやったのに!
でもまあセクシャルが12歳やから、光渡しがあって見えへんのやけど……はぶうっ!?」
俺は反射的に、空中のテュリス掴み取り、握り締めていた。
「この野郎っ! 俺の妹になんてことするんだ!?」
すると妖精は「ギーヤー!?」とへんな悲鳴とともに、俺の手のなかで顔だけ出してもがいていた。
「な、なにすんねん! ワテはただ、さわやかなお色気を提供しようとしただけや!
ソシャゲのCMみたいに、平和なお茶の間を凍りつかせようとしただけやないか!」
「意味のわからんことを言うな! 俺にはなにしてもいいが、コイツらには手を出すな!
でないとこうだぞ!」
手にギュッと力を込めると、テュリスは石抱きの拷問にかけられたみたいに悶絶する。
「ギーヤー!? トムに捕まったジ○リーの気分っ!
ニギニギするのやめて! ニギニギするのやめて! もうせえへん! もうせえへんから!」
少しは懲りたようなので手を離してやると、テュリスは死にかけの蚊みたいにフラフラ離れていく。
「ゆ……勇者に握り潰されて死にかける妖精なんて、どんな『JRPG』探したっておれへんで……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
なんにしても俺の旅の目的地は、この『ガルフレンド王国』の中央にある王城に決まった。
しかし王都はここからだとかなり遠く、馬車でも何日もかかるだろう。
なので街道を進み、街や村に寄り道して宿を求めながら旅することになる。
ひとまず最初の中継点としては、マジハリの街の隣にある、『ポトポの街』。
途中、腹が減ったので休憩し、なにか食べるものがないか馬車の中を探す。
しかし馬車内にある収納箱には食べ物はなく、少しの装備品があるだけだった。
そしてその中にあった黒いロングコートを、コレスコがやたらと気に入っていた
「わぉ! このコートいいじゃん! 着てみなよ、オッサン!」
「これか? いやそれよりも、そっちにある鎖かたびらのほうが……」
「鎖かたびらなんてダサいって! それよりもこのコートのほうがずっといいよ!」
コレスコに半ば強引にコートを着せられてしまう。
テュリスはうんうんと頷いていた。
「やっぱり『JRPG』の主人公といえばコートやなぁ」
「いや、こんなペラペラのコートよりも、鎖かたびらのほうがずっと防御力が高いだろ」
「旦那はまだわかってへんのやなぁ。『JRPG』は見た目がすべてなんやで。
全身鎧で固めたような脳筋は、だいたいやられ役なんやからな」
全身鎧よりもコートのほうがいい?
テュリスの言う『JRPG』の理屈とやらは、いまだに俺にとっては意味不明だった。
「あっ、こっちにある剣もいいじゃん! オッサン、そんなやぼったい剣はやめて、こっちのにしなよ!」
さらにコレスコは、細身の曲刀のようなものを渡してくる。
鞘から抜いてみると、欠月のような美しい刀身が現れた。
「おお、ジャパニーズ『ポン
これ以上に『JRPG』の主人公にふさわしい武器はないでぇ!」
「いや、これの剣はたしかに綺麗だが、これは鑑賞用だろ?
こんな細身の剣じゃ、すぐに切れ味が悪くなって折れちまうだろ」
すると、クソデカい溜息が聞こえてきた。
「はぁ……。いい加減わかれや!
いまどきの『JRPG』に、武器の耐久度なんてあるわけないやろ!」
「武器の耐久度がない? それってもしかして、何度斬っても斬れ味が落ちないってことか?」
「そうや! ウソやと思うんやったら、あそこに見える石柱でも斬ってみいや!」
馬車の外に見える、石柱を示すテュリス。
俺は剣を持ったまま外にでて、石柱の元へと向かう。
石柱は巨木のような太さがあり、こんな細身の刀で斬りつけたら、間違いなく剣のほうが折れてしまうだろう。
完全にそう疑いつつも大上段に構え、思い切って振り下ろしてみたらなんと、
……シュパァーーーーーンッ!
陽光を受けた刀身は、閃光のような輝きを放ちながら、石柱を通り過ぎていった。
鋭い包丁で野菜でも切ったみたいな手ごたえ。
ほんの一拍の間の後、石柱は切り口から半分にずれ、
……ズドォォーーーーーンッ!
土煙を吹き上げながら、真っ二つになった。
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