第15話

 2時間ほど経ったので、俺はコレスコとシャイネを引きつれ、洞窟の中に足を踏み入れていた。


 のだが……。

 一歩目で、足が止まってしまった。


 洞窟に入るのに、松明を持ってくるのを忘れていた、というのを思いだしたのもあるのだが……。

 それ以上の衝撃の出来事が起こっていたからだ。


 なんと……!

 洞窟の中は、これでもかと明るかったんだ……!


 まるで朝日がさんさんと差す部屋のように、隅々まで見渡せる。

 それどころか奥につづく通路の果てまでもが、ハッキリと見通せる。


 俺に続いて洞窟に入ったヒロインコンビも、「えっ」と言葉を失い、立ち尽くしていた。


「え……? なんで……? メチャクチャ明るいんですけど……?

 どうして……? マジ、ありえないんですけど……?」


「こ……こんなにあかるいどうくつははじめてです!

 じつをもうしますと、わたしはくらいところがにがてなのですが……これならこわくないです!」


 俺は開いた口が塞がらない状態のまま、テュリスを見やる。


「なんや、ハトがハトサブレ喰らったみたいな顔して……。

 もしかして洞窟が明るいのが不思議なんか?

 『JRPG』で、光源が必要なのなんて今時ないやろ!

 難易度が『イージー』なんやったらなおさらやで!」


「や、やっぱり……これも『神ゲー』スキルによるものなのか……」


 すると背後から、驚愕が噴出した。


「うそうそ、うっそぉーーー!? これ、オッサンのゴミスキルの仕業なん!?

 光源の魔法ってすっごく難しくて、あーしだって少ししかできないのに、こんなに明るくするだなんて……!

 マジ、超ヤバくない!? オッサンのゴミスキル、神ってんじゃん!」


「やっぱり、おにいちゃんのおちからだったのですね!

 くらいどうくつをこんなにあかるくしてくださるだなんて、さすがです!」


 振り向くとヒロインコンビは、シュバッ! と音がしそうなほどの勢いで俺の元へと寄ってきた。

 頬を染め、すっかり心酔しきったような上目遣いを向けてきている。


 他人からこんな輝く目で見られたことがなかったので、なんだかくすぐったい。


「ま、まあ……俺のスキルがあれば、こんなもんだ。それよりも、先に進むぞ」


 「オッケー!」「はい!」と素直に頷き返すヒロインコンビ。

 洞窟を進みはじめると、さっそく物陰からこちらの様子を伺うゴブリンの姿が見えた。


 隠れているつもりのようだが、この明るさだと丸見えだ。


「おいテュリス、この光源を出していることはモンスターからは見えるのか?」


「うんにゃ。光源の恩恵を受けられるんは旦那のパーティメンバーだけやで」


「ってことはあのゴブリンからすると、今の俺たち、暗闇の中を明かりもナシに進んでいるパーティに見えるってことか」


「うぃ。そうやね」


 ちなみにではあるが、洞窟などの暗いところに生息しているゴブリンは夜目が効くので光源を必要としない。

 ああやって暗がりに潜んで、通りがかる冒険者に奇襲を仕掛けるんだ。


 先に入った小学生グループみたいに多数だと襲ってこないんだけど、俺たちにみたいな少数のパーティだと、近づいたら確実に襲われるだろう。


 俺はいいことを思いついて、ヒロインふたりと示し合わせる。

 剣を抜いて、さも見えていないような素振りでゴブリンに近づき、襲いかかってくる前にグサリとやると、


「ギャ……ア……!?」


 ゴブリンは「なんで隠れてるのがバレたんだ!?」みたいな表情で崩れ落ちる。

 この『逆不意討ち作戦』はかなり有効で、俺たちはゴブリンと交戦らしい交戦をせずに奥に進めた。


 進んでいると、奥から子供たちの悲鳴が聴こえてくる。

 急いで駆けつけてみると、そこは地獄絵図だった。


 広間のような場所でゴブリンの奇襲を受けた子供たちは、みな泣き叫んでいた。

 どうやら光源を失ってしまったようで、出口とはあらぬ方向に逃げ惑っている。


 ゴブリンたちは相手が暗闇にいるのをいいことに、ナイフなどの刃物ではなく棒で小突き回して遊んでいた。

 相手が弱い立場にいるとわかったら、徹底的にいたぶって痛めつけるがゴブリンなんだ。


 しかも相手は無抵抗状態なので、いいオモチャがいると噂が広まったのだろう。

 壁の小さな穴からゴブリンが次々と這い出てきており、すごい数になっていた。


 俺は通路から逃がさないように立ち塞がっていたゴブリンを一刀両断すると、子供たちに向かって叫ぶ。


「みんな、こっちだ! 俺の声がする方向に向かって走るんだ!」


 すると子供たちは一斉に、腫れあがった顔を向ける。

 暗闇なので俺の姿は見えておらず、泣きはらした瞳は茫洋としていた。


「こ、この声は……」


「オッサンだ! オッサンだ!」


「あとから洞窟に入ったオッサンが、助けにきてくれたんだ!」


「うわぁああああーーーーーーーーーーんっ! オッサーーーーーーーーンッ!」


 子供たちは涙を迸らせながら走ってくる。

 俺は背後にいる仲間たちに声をかけた。


「コレスコ、シャイネ! お前たちはここで、子供たちを保護してくれ!

 俺はゴブリンたち倒す!」


「オッケー! 任せといて!」「はい、おきをつけて、おにいちゃん!」


「おーい! ガキんちょ、こっちだよーっ!」「みなさん、こちらに来てください!」


 ヒロインコンビの声を背に、俺は部屋の中に向かって突撃する。

 逃げてくる子供たちにぶつからないように剣を振り、追撃するゴブリンたちを次々と葬った。


 子供たちがコレスコとシャイネと合流した時点で、子供たちにも『神ゲー』のスキルの恩恵が現れたようだ。

 みんな、奇跡を目の当たりにしたような表情をしている。


「えっ……? あ、あかるい……!?」


「す、すげーっ! こんなにあかるいなんて、まほうみたい!」


「このまじょのおねえちゃんのまほうだね!」


「へへーん、どーよ! あーしのこと、少しは見直した?

 って言いたいところだけど違うんだなぁ、まわりが明るいのはあそこにいるオッサンのスキルの力だよ!」


 しゃがみこんで子供たちに視線をあわせていたコレスコが、俺を指さす。

 すると子供たちは、さらに信じられないといった表情になった。


「う、うそだろ……? あんなダメなおとなのだいひょうみたいなオッサンが……」


「こんなに、すごいスキルを……?」


「たいまつがきえないくらいでいばってた、ペロドスせんせいとはおおちがいだ……」


「しかもペロドスせんせいのスキルは、うそっぱちだったし……」


「す……すげえや! すげえやオッサン!」


「おれたちもオッサンといっしょにたたかおうぜ!」


「そうだ! こんなにあかるいんだから、ゴブリンなんかこわくねぇぞ!」


「みんな、とつげきだーっ!」


「おおーっ!」


 子供たちも加勢してくれて、形勢は一気に逆転。

 ゴブリンたちは尻に帆をかけるような勢いで逃げ出した。

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