第13話 ギルド会議(2)
どういうことだ……未来さんは俺のことを勇者にして祭り上げたかったんじゃ無かったのか?それとも何か狙いがあるのか?俺は未来さんの顔を確認する。
「……」
未来さんの顔は一見、いつもと変わらないように見えるが、心の底に留めようとしているであろう焦りを隠しきれていない。
そうつまりこの顔は……知らないで買った顔だ!まじかよなにやってんだよ!!このままじゃ勇者の……いや、俺の印象が悪くなる一方じゃないか!!
その後も俺がモンスターとエンカウントしそれを倒すたびにモンスターの痛々しい断末魔が部屋中に響き渡る。
『いやだ死にたくない……死にたくない!!!!』
「……」
『くそ……勇者さえ……勇者さえいなけれ……ぐあああああ!!!』
「……」
その断末魔が聞こえるたびにみんなの雰囲気が悪くなっていく。こういうこともあり出来ればバトルも避けたいのだが、このゲーム異様にエンカウント率が高いうえに何故か『逃げる』のコマンドが無い。とんだクソゲーである。
そしてその後もこのゲームの勇者下げは終わらない。基本態度は悪いし、金持ちの家の依頼を受けた後、成功報酬として法外な額の金を請求し出すし、挙げ句の果てにはその悪行がばれると勇者の証を見せびらかせ警備兵を黙らせたりと勇者という立場を利用してやりたい放題やっている。
勇者のことを知るために始めたこのゲーム。なのに、このゲームの勇者の悪行三昧。みんな勇者に対する印象がかなり悪くなっている。
どうする。いっそこのままゲームを止めてしまおうか……いやこのまま止めても勇者の印象は悪いままだ。だったら勇者が名誉挽回する展開があることにかけた方が数段ましだ。このまま続けよう……
*
だが、そういった展開が一切無いまま物語の終盤。魔王城に乗り込んだときには誰もしゃべろうとはしなくなってしまった……
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
どうしてくれるんだよこの空気。すげー気まずいんだけど……だれかしゃべって……いや、しゃべる内容しだいじゃ余計空気悪くなるからやっぱ誰もしゃべらな……
「思ったんだけどさ……」
だが、そんな空気の中、歌川さんが口を開く。だ、大丈夫……なのか?
「……もしかしたらこの勇者は周りから言われて仕方なく勇者をやってるんじゃないかな?」
「
「本当は他にやりたいこととかあるけど王様やみんなに言われるがままに勇者にされて……だからこんなことやってるんじゃないかって思うんだ……」
「あ、ああ……」
歌川さんの言葉を聞きみんなうなだれてしまう。なんというか含みがあるような感じ……。
「そういえば、イサムちゃんもなんか勢いで勇者になっちゃったけど本当に大丈夫だったのかにゃ?」
「え?ああ……」
俺は猫山さんにそう聞かれる。
「……あのときは予言の勇者がやっと来たと思って舞い上がっちゃってましたけど、冷静に考えたらやしろ君の意思とか聞けてませんでしたよね……」
今度は白井さんにそう聞かれる。
「あっああ……そうだったかな……」
「やしろ君……聞かせてください。突然予言の勇者とか言われてその……迷惑だったとかそう思ってませんか?」
まさかこんな展開になるとは思っていなかった…… 確かに俺は流されるがままに勇者(?)にされてしまった。この世界で勇者とか笑いもの以外の何物でもない。それについて何も不満がないと言えば嘘になる。でも……
「……そんなことないよ。」
「で、でも……」
「ほんとだって。だから、そんなこといちいち気にしなくて大丈夫だから。ね?」
ミナミは言っていた。未来さんはなんとしても俺を勇者(?)に仕立て上げたいと……そして、おそらくそれが女神会の謎のかぎになのだと……だから、俺は勇者を止めるわけにはいかない。全ては女神会の秘密を暴くために……
「……そうですか。それならよかったです。」
「それを聞けて安心したにゃ。」
「そう、行ったからには頑張りなさいよ。ま、まあ私もサポートぐらいはしてあげないことも無いけど……」
俺の言葉を聞いてみんなはどこか安心した表情を浮かべている。もしかしたらみんなそのことがどこかずっと引っかかってたのかもしれない。
「……よし、じゃあ勇者としてサクッと魔王を倒しちまおうかな。」
俺は魔王城最深部に乗り込む。そこには魔王が鎮座していた。
『はっはっは、よく来たな勇者よ。唐突だが、お前に提案がある。』
ほんとに唐突だな。
『もし、私の仲間になるというのなら……世界の半分をお前にくれてやろう。』
出た。お決まりの展開。つーかこの台詞完全にアウトだスク○二の告発案件じゃねーか。……いや、それよりも、やっといい方向に流れてきたと思ったのにこれまでの展開から察するにこいつは『はい』といいかね……
『いいえ』
「……お?」
『そんな提案いいえ、いいえに決まってるだろ!!俺はお前に屈したりしない!!』
「おお……」
「おお!!よく言ったぞ勇者!!」
「それでこそ男にゃ!!」
「あんな魔王とっととやっつけちゃいなさい!!」
な、なんだ。なんか急に勇者らしい台詞が出てきたぞ……。ていうかこいつ、『はい』と『いいえ』以外にもしゃべれたのかよ。まあ、この際そんな
「よっしゃ行くぜ!!」
そして勇者は魔王との決戦に挑む。魔王は運任せの即死攻撃を多用し勇者を何度も殺しに来る。だが、そんなことはもうどうでもいい。やっと勇者の名誉を挽回するチャンスここを逃す手は無い。
その後俺は即死攻撃を何度も受けそのたびにコンテニューする。そして30分後……
「これで……終わりだ!!」
『524ダメージ!!魔王をやっつけた!!』
「よっしゃあああ!!」
「「「「やったー!!」」」」
ゲームを始めて3時間半。ついに、ついに魔王を倒すことが出来た。はっきり言ってクソゲーだったが、終わってみると感慨深いもんだ。
『やったー魔王を倒したぞ!!』
これで感動のエンディングに……
『これで世界は俺のものだ!!』
「……え?」
「え?」
「にゃ?」
「ふぇ!?」
「……」
「……あれ?」
『こうして、世界は勇者によって世界は支配されてしまった。魔王を倒せるほどの力を手に入れた勇者を誰も止めることは出来なかった。勇者も所詮は人の子。膨大な力を持った人はそれに飲まれてしまう運命なのだ……END』
「……終わったな。」
「……終わったわね。」
「……エンディングもなさそうだな。」
「……そうにゃんね。」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……二度とやらねーよ。こんなクソゲー。」
……ちなみにあの後このゲームを謀通販サイトで調べてみたところレビュー評価が星1だった(星5つ中)。俺も当然星1評価をつけた。
現実世界で勇者ごっこ~転生しない勇者(?)の物語~ 三村 @akaaosiro3824
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