第12話 ギルド会議(1)

「よし、今日も全員集まっているな!!」


 今日も今日とて俺は女神会に来ている。


「三日前、勇者やしろと白井君のおかげで四天王が誰かを特定することが出来た。」


 そう言って未来さんはホワイトボードに例の癖の強いメイドの写真を貼りだした。


「彼女の名前は間谷静またにしず真莉愛学園高等部まりあがくえんこうとうぶの三年生だ。」

「真莉愛学園って……あのお嬢様学校の?」

「そうだ。そして間谷静またにしずは親が大企業の社長という本物のお嬢様だ。」


 なるほど、あんな高級車で出迎えされてたからただ者じゃないとは思っていたがまさかお嬢様だったとは……


「そういうこともあってガードもかなり堅い移動は常に車を使ってる。そうじゃないときも常にボディガードが側にいる。フリーなときといったらバイトをしているときか学校に行ってるときぐらいだ。」

「じゃあ、宝具を奪うチャンスはメイド喫茶でバイトをしているときだけってことですか……」

「……そう思って私も昨日と一昨日でメイド喫茶に行ってみたんだが、どういうわけかレーダーが強反応にならなかったんだ。」

「……え?」

「まあ、普通に考えて大切な宝具を常に携帯しているとは考えにくいからな。おそらく三日前は何かしらの事情でたまたま宝具を持ち出していたってことだろう。」

「じゃあ、宝具は今どこに……」

「それについては今調査中だ。もう少し待っていてくれ。」

 

 なんか、話を聞けば聞くほど未来さんと例のメイドさんが結託しているとは思えないな……


「まあそれについてはいったん置いといてだ、実は今日の本題は四天王と宝具のことじゃないんだ。」

「え、そうなんですか?じゃあ今日は一体何を……」

「それは……」

「それは?」

「……第四回!!女神会定例会議ぃ!!」

「「「いえええい!!」」」

「「……へ?」」


 突然の謎テンションに俺とミナミは困惑する。


「そういえば新入りの二人はまだ参加したことが無かったニャンね。女神会では女神会定例会議っていう定期的に女神会をよりよくするための会議を行ってるのにゃ。」

「へー、そんなことやってるのか……」


 なんかちょっと面白そうだな。


「というわけで第四回定例会議を始めたいと思う。何か意見がある人はいないか?」


 未来さんは俺達に何か意見はあるかと問いかける。


「……」

「……」

「……」


 だが、誰も意見しようとする様子はない。この感じ……なんか既視感があるな。文化祭の出し物を決めるときに誰も意見出さないで静まりかえる感じ……


「……うん、いつも通りだな。」

「い、いつも通りですか……」

「まあ、別に不満とかがあるわけじゃないし……」

「意見とかないにゃ。」


 猫山さんも歌川さんも意見を出す気があまりなさそうだ。

 

「まあ、こうなるだろうと思って今日はテーマを持ってきたぞ。」

「テーマですか?」

「そのテーマはずばり『勇者』だ。」

「勇者?」

「ああ、せっかく勇者がこの女神会に来てくれたんだからな。改めて勇者について理解を深めておくべきだと考えたんだ。」


 ……俺が勇者じゃないということはいったん置いておくとして、確かにテーマがある分には無いよりかはいくらかしゃべりやすい。


「まずはみんなが勇者についてどのくらい理解しているか聞いておきたい。」


「……実は私ゲームとかあまりやらないので勇者様がどういう方なのかあまりわかっていないんです。魔王を倒す人っだてことはなんとなく分かるんですけど……。」

「私もそんな感じかな。」


 白井さんとミナミはそう言う。


「みゃあはゲームは結構やるけどほとんど格闘ゲームでRPG系は小学生のときに少しやってたぐらいにゃ。」

「私はここにあるゲームしかやったことないな。」


 俺はテレビが置いてある方に目を向ける。置いてあるソフトは『鉄脚』、『大激闘スポーツブラザーズ』、『ストレートハンターⅤ』などなど……半分以上が格闘ゲームだ。恐らく猫山さんの私物だろう。


「…………最後に勇者本人はどうだ?」

「だから本人じゃ……ごほん、まあ俺はRPGとか結構やってますけど、いざ『勇者って何?』って聞かれたら『魔王を倒す人』ぐらいしか答えられないですね。」

「勇者なのにわかんないのか?」

「だから勇者じゃn……いやまあ、ついこの間までは勇者じゃなかったですし……」

「……でもどうする?誰も勇者について詳しくないんじゃ議論なんてできなんじゃない?」

「ふふふ、心配なさんな。こうなることもあろうかと実はこんなものを持ってきたぞ。」


 ミナミさんはそう言って一つのゲームソフトを俺達に見せる。


「これを実際にやってみて勇者がどういうものなのか考えていこうと思うんだ。」

「『勇者日記』……聞いたことないタイトルですけど大丈夫なんですか?」

「うーん……まあでも、勇者がどういう者なのか知るにはこれ以上無いタイトルだろ。」


 まあ、『勇者日記』って言うぐらいだから勇者に重点を置いているのは間違いないだろう。


「まあ、とにかくやってみよ。」


 そういうわけで俺はこのゲームのディスクを挿入しゲームを起動させる。ちなみに操作は一番RPGになれている俺がすることになった。

 

 ゲームを起動してすぐに猫山さんはある違和感に気がつく。


「な、なんにゃこの低画質?OS2レベル……いや、OS2の方がまだましなレベルにゃ。これほんとにOS4のゲームなのかにゃ?」

「ええっと……パッケージにはOS4のゲームって書いてありますけど……」

「これは……クソゲーの匂いがプンプンするな。」

「ま、まあ……今回の目的は勇者がどういうものか知るのがメインだし最悪クソゲーでも問題無いでしょ。」


 やる方からしたら結構問題なんだけどな……。


 オープニングが終わるとすぐ城の中で王様らしき人がおそらく主人公の勇者であろう人と会話しているシーンに切り替わる。


『よく来てくれた勇者よ。唐突にすまないが魔王を倒しに行ってはくれまいか』


 本当に唐突だな……


 ここでRPGでお決まりの『はい、いいえ』の選択肢が出てくる。まあどちらを選んでも魔王を倒しに行く羽目になることは分かっているがとりあえず『いいえ』を押してみる。


『おお、そうか倒しに行ってくれるか。』


 何でそうなんだよ。選択肢意味ねえじゃねえか。


 こうして王様に魔王討伐の命を受けた後。勇者は街にほっぽり出される。

 俺はまずお決まり通りに人の家に入りアイテムがないか探索する。


「なんか、さも当然のように人の家の壺を割って行くな……これやってること強盗じゃん。」


 ゲーム初心者のミナミはそう言う。


「そうしないと、アイテムが手に入らないんだよ……」

「まあ、人の部屋に勝手に入って壺を割るのは勇者のお決まりみたいなものだからにゃ。」


 そう、この手のRPGで壺を割ってアイテム回収するのはお決まり。そして住民もそれに対して何も突っ込まないのもお決まり……


「でも、なんか家の人がすごい怒ってるよ。」

「……え?」


 ……ミナミが言っているとおり壺を割った家の人が低画質のグラフィックでもはっきりとわかるぐらいすごい剣幕で怒っているのがわかる。


『ちょっと勝手に人の家に入ってくるだけでも犯罪なのに家の壺まで割ろうとするなんてどういう神経してるんですか!?』


 家の人はそう勇者に訴えかけてくる。


『……』


 だが、勇者はそれに対して何も答えようとはしない。


『ちょっと黙り込んでないでなんとか言いなさいよ!!』

『……はい/いいえ』


 ここでまさかの選択肢。いやこの質問で『はい』か『いいえ』はおかしいだろ……とりあえず俺ははいを押してみる。


『何が『はい』だ。なめてのかてめえ!!ああ、もういい!!つまみ出してやる二度と来るんじゃねえぞ!!』


 そう言われて勇者は部屋から追い出されしまった。


「……なんだこれ?」


 この展開……現実的に考えて見れば当然と言えば当然なのだが、ゲームとしては少しおかしいんじゃないか?


「未来さん……このゲームほんとに大丈夫なんですか?なんか様子がおかしいというか……」

「ま、まあ……こういうことだってあるんじゃないかな……ほら、ゼヌダの伝説とかにこういう展開あったじゃん。」


 確かにゼヌダの伝説で人の家のつぼを割って怒られるっていうのがあったような気がするが……まあ、あんまり細かいこと気にしてもしょうがないか。





 その後、俺こと勇者は必要最低限のアイテムを買いそろえ、魔王城へ向かうために街の外に出る。


『ピロリロリン』


 早速俺はモンスターとエンカウントする。


「あ、このモンスターは知ってます。確かスライムですよね?」


 白井さんが言ったとおり序盤の雑魚モンスターの定番スライムが現れる。

 早速俺は経験値を確保するためにそのスライムに攻撃を仕掛ける。勇者がもっさりとした動きでスライムに剣を振るう。ダメージ数は3。こんなダメージでもスライムを倒すぐらいなら充分だろう。続いてスライムの攻撃。そのダメージは1ダメージ。勇者のHPは14ある。これなら問題無く倒せそうだ。


「よし、これでとどめ……」


 俺がスライムにとどめの一撃を食らわせようとする。だが……


『いやだ!!』


 ……突然スライムがボイスつきでしゃべり始める。


『なんでだよ……何でこんなことになっちゃったんだよ!!僕はただ、僕は全うに生きてきただけなのに……こんなのって……こんなのって……』


 ……スライムは完全に戦意喪失している。こんなことを言われてはとても攻撃なんて出来ない。


『いやだああああ!!』


 だが、ときすでに遅し。スライムの断末魔を無視し勇者は剣を振りかざしとどめを刺す。


「……え?」

「……」

「……」


 それを見た俺を含めた女神会の面々はただただ、ドン引きしている。 


 ……俺はこのとき確信した。このゲームは……普通のRPGなんかじゃない。『アンチ勇者RPG』だ。

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