第10話 四つの宝具そして四天王(2)
緊急クエストを受けてこの街にいるという四天王(?)を手分けして探すことになった。だがその四天王は何歳で性別が男か女かすらも分からないらしい。
「なんかとんでもないことになっちゃったな……」
「そうですね……でも、なげいてても何も始まりません。女神会のみんなで力を合わせればきっと見つかりますよ。だからがんばりましょう。全ては女神様のために!!」
「お、おう!!」
……まあ、それはそれとしてだ。俺は今白井さんと二人きりで街を歩いている。これは実質白井さんと二人でデートをしていると言っても過言では無い。こんな素晴らしいことが今までにあっただろうか……いや、ないな!!そう考えるとなんか緊張してきた。
「白井さんどこか行きたいとことかある?ちなみに俺は映画館とか……」
「商店街ですかね……この時間だとあのあたりは結構人集まりますから。」
「そ、そっか……そうだよな。」
「……?」
なに舞い上がってるんだ俺は……俺にとっては茶番でしかない四天王捜しも白井さんにとっては
でも、俺はそれでも……そうだとしても俺は白井さんと二人きりで街を歩けるだけで、それだけで俺は幸せだ……
そういうわけで俺達は商店街近辺を散策する。商店街中をまわるがレーダーの反応は特に変化は無い。
「レーダーの反応……変わらないですね。」
「変わらないな……」
未来さんによるとこのレーダーは宝具を持っている人が半径5km以内にいると『弱反応』、半径15m以内にいると『強反応』をする仕組みになっている。現在、レーダーは弱々しく点滅している。今のこの状態は弱反応らしい。
「場所変えたほうがいいかもしれないね。」
「そうだね……。」
俺達はとりあえず商店街の出口の方へ向かって歩く。
「そういえば、やしろ君。さっき行きたいところがあるみたいなこと言いかけてましたけど……」
「え、ああ……」
「どこでしたっけ?」
「え、ええっと……」
「ん?」
「え、映画館……」
「映画館?」
……冷静に考えてみて映画なんて見てたら四天王なんて探せないじゃないか……浮かれすぎなんだよ俺は……
「うーん、映画館は……今日平日だからあまり人いないと思いますけど……」
「そうか、そうだよね!!人いないよね。なんかほんとごめん変なこと言っちゃって……。」
白井さんはそもそも二人で一緒に映画を見るという発想すらないみたい
「でも、そっか映画館か……そういえばわたし映画館で映画見に行ったことないな……。」
「え、一度も!?」
「うん、一度も。別に何か理由があったわけじゃないですけど……しばらく待てば『木曜映画ショー』とかで放送されますし……わざわざ見に行かなくてもいいかなって思ってたんですよね。」
「ふーん。そういう人もいるんだな……」
「でも、最近は面白そうな映画たくさんあるし……映画館で見に行くのも悪くないかなって思うんですよね。」
映画を見に行きたい、か……あれ?これはもしかして誘うチャンスなんじゃないか?
「だったらさ……もしよかったら」
今しかない……言うタイミングは今しかない。
「今度暇なときにでもさ……」
「……ん?」
「俺と……映画見に……」
……そう俺が言いかけたまさにそのときだった。
『ビビビ!!ビビビビビビビ!!』
「な、何ですかこの音!?」
「う、うるさい……!!」
けたたましい音が商店街中に鳴り響く。そして人々の視線がこちらに集まる。
「ちょっとこれどうなって……って、もしかして!!」
俺は慌てて宝具レーダーを取り出す。確認してみると明らかに宝具レーダーから音が出ている。
「これどうやって止めるんだ!?」
「……こ……て!!」
白井さんは口で何か伝えようとするがよく聞こえない。時間が経つにつれて周りからの視線も集まり続ける。
「ああ、もう何だってこんな目に……!!」
*
その後、なんやかんやして宝具レーダーのアラームを止めることが出来た。
ついでに強反応になっても音が鳴らないように設定する。
「はあ、やっと止まってくれたよ……。でも、今のってもしかして……」
「……多分強反応ですね。」
「だよね……ということは、俺達さっき四天王の一人とすれ違ったってことだよね?」
まさか、本当に宝具が存在していたとは……いや、まだ分からない。未来さんが適当なタイミングでアラームが鳴るようレーダーにセットをしていたとも考えられる。というかそう考えるのが自然だ。
「でしたらここでのんびりしてる場合じゃありませんよ!!」
「……え?」
「早く追いかけるんですよ。まだこの近くに四天王がいるはずですから!!」
「ちょっと待って白井さん!!」
俺は白井さんの後について行く。しばらく走りまわっていると商店街の東口付近でレーダーが反応を示す。
「……見てください!!レーダーが反応してます!!」
「本当だ!!てことはここに宝具が……」
俺は反応が出た店の看板を見てみる。
「『喫茶きゃるーん(萌)』?メイド喫茶か……?」
喫茶店と言う割にすごいピンクの外装。そして、看板に描かれているメイドさんの萌え絵……間違いないな。
「この街にこんなオタオタした店があったなんて驚きだな……」
「早く乗り込みましょう!!レーダーが正しければこの中に四天王が!!」
「お、おう……そうだな。」
俺は白井さんに流されるようにメイド喫茶に入っていく。
「お帰りなさいませご主人様!!」
メイド喫茶なんて前に友人に猫耳喫茶に連れられてきたとき以来だな……なんというかこの雰囲気やっぱりなれない……
「二名様ですね……それではご案内いたします。」
俺達はメイドさんに席へ案内される。
「……」
「……」
俺は案内されて椅子に座ると周りの刺すような視線を感じとる。………冷静に考えてみてメイド喫茶に男女二人で入るなんて普通じゃない。みんな物珍しそうにこちらを見ている。
ああ、やばい来てまだ一分も経ってないのに帰りたくなってきた……だが、もし帰るとか言い出したら絶対にひんしゅくを買ってしまう。とりあえず我慢だ。ここは我慢するしかない……
まあ、せっかくメイド喫茶に来たんだから何か注文しようやっぱりここは定番の名前が長ったらしいオムライスを頼むべきだろうか?いや、オムライスなんて食べてたら晩飯が食べられなくなる……ここは値段も比較的安く量も少なめのミニパンケーキにしておこう。
「ご注文はお決まりでしょうかご主人様?」
「ええっとこのミニパンケーキを……」
俺は店にいたメイドさんを呼び出し注文しようとする。
「……あ、あ!!」
注文を受けに来たメイドさんは俺の顔を見てなぜか顔面蒼白になる。
「どうかしたんですかって……あっ!!え、な、なんで……」
メイドさんの名札を見て俺もすぐにはっとなった。」
「どうかしましたかやしろ君?」
「な、なんでもない。なんでもないですよね!!」
「そうです!!何でも何でもないでございますよ!!ほんとに!!」
「……?」
俺は……このメイドのことを知っている。彼女の名前は『五木ののか』。
俺が一週間前……白井さんに女神会に勧誘されたあの日。俺が告白してふられた女の子。それが、この目の前にいる『五木ののか』だ。
「ええっと、じゃあ私はこの『愛情も私の頭の中もふわふわオムライス』というのを一つ……」
なんで五木さんがこメイド喫茶でアルバイトしてるんだ!?こういうところでバイトする感じの子じゃ無い……。
いや、問題はそこじゃない。……気まずい。気まずすぎる。ただでさえふられたばっかでお互い顔合わせづらいっていうのに……まさかこんなところで会おうとは……
「あの……そちらのご、ご主人様は何になさいますか?」
そう言われて俺は思わず五木さんの顔を見る。五木さんの顔は明らかに引きつっている。今にも何かがぶち切れそうな感じだ。俺の気まずさはこのとき限界値を超えて未知の領域へと到達する。
「お、同じやつで……」
「……かしこまりました。」
五木さんはそそくさと逃げるように厨房へ向かっていった。
「ううん……いかにも怪しいって感じの人はいなさそうですね……」
「……うん。」
「レーダーは強反応のままですからこの店にいるのは間違いないみたいですけど。」
「……うん。」
「……大丈夫ですか?なんか心ここにあらずって感じですけど……」
「い、いや大丈夫、大丈夫だから……」
落ち着け、落ち着くんだ俺……白井さんに心配をかけさせるな。いつも通り、いつも通りに……
「お、お待たせしました。『愛情も私の頭の中もふわふわオムライス』です……」
「わあ、おいしそうだね。やしろ君!!」
「では、私はこれで……」
五木さんは足早にその場から立ち去ろうとする。
「ちょっと何やってんのよぉ……ののちゃん。」
「せ、先輩……。」
……がそれを別のメイドさんが止めに入る。
「ののちゃんはメイドさん何だからぁ。料理がおいしくなる魔法かけないとだめでしょぉ……」
「す、すみません……」
なんかすごい癖が強いメイドさんだなあ……
「ごめんなさいねぇ……この子まだ新入りだからぁ色々なれてなくてぇ……」
「は、はぁ……」
「さ、ののちゃん。オムライスがもっとおいしくなるようにぃ……魔法かけてくださあぃ!!」
「は、はい……」
五木さんはかなり動揺している。
「お、おいしくなあれ……」
「ちがーう!!もっと愛をこめて!!大好きなご主人様ために!!」
「……お、おいしくなーれ!!おいしくなーれ!!萌え萌えキュンキュンキューン!!」
五木さんの半ばやけくそになった愛の呪文が店中に響き渡った。
「…………」
きつい……ふられた女の子にこんなこと言われるのはすごいくるものがある……なんか涙が出てきそう……。メイド喫茶ででてくる感情じゃないよこれ……。
「はぁい、どうぞ召し上がってくださぁい。」
「召し上がってください……。」
俺は黙ってケチャップでハートマークが描かれたオムライスを食べる。
「どうですかぁ?おいしいですかぁ?」
「……おいしいです!!なんかいつも食べてるオムライスよりずっとおいしい気がします!!」
白井さんは楽しそうにそう言う。
「そうですかぁ。それはよかったですぅ……そちらのご主人様はいかがですかぁ?」
「……おいしいです」
「そうですかぁ。それはよかったですぅ。」
俺は……このオムライスの味を生涯忘れることは無い、いや、できないだろう……
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