第7話 歌川 無月
初クエストをクリアしたその晩ミナミから連絡がきた。
「もしもし、いさむ。夜遅くごめんね。」
「ああ、この時間ならいつも起きてるから別に大丈夫だけど……どうかしたのか?」
「今日のことで気になることとか色々話しておこうと思ってさ。」
気になることか、それってもしかして……
「気になることって……あの剣のことか?」
「おっ!!さすが助手。話が早いね。」
「あの剣のことは俺も気になってたからな……勇者以外の人間が触れるととんでもないことになる剣……他の人に剣を触らせない口実かと思ってたけど、まさか本当に勇者の剣だったなんて……」
「いさむ!!」
「わ、わるい、冗談だから冗談……」
「はあ、じゃあ気を取り直して……何故、あの剣はいさむ以外の人が触ると感電するのか……ってことだけど私にこれじゃないかなっていうのが一個あるんだよね。」
「それは一体……?」
「……誰かが遠くからずっと見てたんだよ私達のことを。そして、いさむ以外の誰かがあの剣を触ったら、その誰かがスイッチを入れて電気を流した。」
……なんというか、単純すぎて、『ああ!!なるほど!!』とはならないが、すごくしっくり来る推理ではある。
「まあ、ありそうではあるよな。それでその誰かっていうのは……」
「当然、明日葉未来よ。」
まあ、そうなるよな……。
「……でも、未来さんは俺達が行った工場跡とは反対方向にあるスーパーに行ってたんじゃ……」
「あの買い物袋は事前に用意してたものよ。その証拠にあの袋は全く濡れてなかった。」
「濡れてなかった?」
「ええ、私達が女神会に戻ってきたとき彼女の服や髪は濡れていたにも関わらずね……」
服や髪が濡れてたということは傘を差してなかったということだ。なのに買い物袋が濡れてないっていうのは矛盾してる……。つまり未来さんはあのとき買い物には行っていなかった。あの買い物袋はあらかじめ用意していたものってことだ。
「まあでもこれはあくまで未来さんが買い物に行ったと偽ってどこか別の場所に行っていたという証拠でしかない。工場跡地に行ったかまでは、推測の域を出ないんだよねえこれが……」
それでも、根拠としては充分だ。
「……もし、ミナミの言ったとおりだったとして、なんで、未来さんはここまで……」
「……どうしても、イサムを勇者にしたてあげたいってことなんでしょうね。」
*
学校帰り、今日も今日とて俺は女神会へと向かっていた。昨日ミナミが言ってたことも気になるし……とにかく未来さんに色々話を聞いておきたい……ん?あそこにいるのは……
「ほ、本当ですか!?おばあちゃんが事故に巻き込まれたって?」
「ああ、そうなんだ!!だから急いでおじさんの車に乗って病院に行こう!!」
目撃したのは女神会のメンバー、
「でも、やっぱり怪しいです。本当におばあちゃんは事故に遭ったんですか?もしかして私をだますための嘘じゃ……」
まあさすがにだまされないよなこんな子供だまし……
「ほ、本当だって!!俺を信じてくれ!!ね……」
「そ、そこまで言うんだったら本当なんでしょうね……分かりました。あなたについて行きます。」
おいおい、まじかよ……こんなん信じるか普通。仕方ない。さすがに黙って見過ごすわけにもいかないよな。
「おい、そこのおっさんちょっと待て。」
「だ、誰だ……お前は?」
「あっ、あんた……用があるなら後にして!!今はおばあちゃんが大変でそれどころじゃないの!!」
「……歌川さん、おばあさんに連絡して。」
「でも、今おばあちゃんは……」
「いいから早く。」
「わっ、分かった。」
歌川さんは急いで電話をかける。
「もしもし!!おばあちゃん!?……『どうしたの?』って、おばあちゃん事故に遭ったんじゃ……え?家でヨガをやってる?」
「……やっぱりな。」
「くっ、クソ……!!」
「あっ、こら待て!!」
おっさんは歌川さんがお母さんが無事だと分かるやいなや全速力で逃げ出す。
だが、建物の角を曲がろうとしたとき何かにぶつかっておっさんが勢いよくふっ飛ばされる。
「痛っててて……って、け、警察!?」
おっさんがぶつかった相手は警察の制服を着た女性。そしてその女性に俺は見覚えがある。
「柳下さん!!」
「お前は確か疫病神の彼氏……」
「そのおっさん誘拐犯です!!捕まえてください!!」
「は!?誘拐犯?」
「くっそ、どけ!!このばば……」
「誰がばばあだ……おら!!」
「ぐおっ!!」
柳下さんの容赦ないボディブローがおじさんに撃ち込まれる。
「今日はさ……徹夜で何時間も仕事しててその帰りだったんだ。だから、すっごく疲れてるんだよ。なのに……なのにてめえは……余計な手間かけさせんじゃねえぞ!!」
「ひええっ!!ごめんなさいごめんなさい……!!」
その後、歌川さんをさらおうとしたおっさんはそのまま柳下さんの車に乗せられ連行されていった。彼女は去り際、俺達に向かって舌打ちをしたようにも見えたが、まあ、気のせいだろう。
「それにしても見ず知らずの人間が、親族が事故にあったから一緒に着いてきてくれって言いに来るとか……どう考えても不自然だろ。今時小学生でもだまされないぞ。」
「べっ、別に、だまされてなんかないし……。分かってたし……。」
嘘つけ、完全に信じ込んでただろ……。
「ま、まあそれはそれとしてよ、あんたも女神会に向かってる途中でしょ?よかったら、一緒に女神会まで行かない?」
「まあ、別に構わないけど……なんで?」
「な、何よ……別に一人で女神会に行くのが怖いとかそういうわけじゃないから……」
まあ、そりゃそうだよな……誘拐犯にさらわれそうになったんだから
俺達は一緒に女神会へ向かうことになった。その途中歌川さんの携帯がピロリロリンと音が鳴った。
「ん、メールか?確認しておいた方がいいんじゃないか?」
「そうね、じゃあ……」
歌川さんはメールを確認する。
「あっ!!」
「……どうかしたのか?」
「見て見てこれ!!なんか全く身に覚えが無いけど一千万円当たっちゃった!!」
歌川さんが満面の笑みで自分のスマホを見せてくる。
「…………」
「……なによ。そんな目で見てもあなたにはあげないからね。」
「それ、詐欺だから。」
「え、えええ……!!」
間違いないこの子……アホの子だ。
*
その後、特に何も起きることなく俺達は女神会に着いたのだが……
「定休日……?」
女神会の入り口の扉には定休日と書かれた張り紙が貼られていた。
「そういえば、さっきメール確認してたとき未来さんからのメールが来てたような……」
俺は、慌ててメールを確認してみる。そこには確かに『明日(今日のこと)は用事があるので女神会はお休みします!!』と書かれていた。
「やっべー、昨日は疲れててちゃんとメール見れてなかった……」
「私も……」
歌川さんはその日ずっと部屋でゴロゴロしてたような気もするけどそれはまあいいとして、どうしようか……今日は未来さんにいろいろ聞こうと思ってたのに……
「はー、まあしょうがないか……帰ろ。」
歌川さんはそのまま自分の家に帰ろうとする。……が、歌川さんは突然足を止める。
「……どうした?」
「…………ねえ、あんた。その……駅まで一緒に着いてきてくれないかな?」
「え、なんで?」
「なんでって……なんでもよ……」
「……どこ駅?」
「……美空駅。」
俺がここに来るときに使ってる駅とは反対方向の駅か……正直面倒くさいが、さっきあんな目に遭ったばっかりだしな……一人で帰らせるのはさすがに心配だ……アホだし。
「そうだな。俺もちょうどそっちに用事があるから一緒に行くか……」
「ほ、ほんとに!!」
「……あ、ああ……」
「……あ、いやまあ、用事があるならちょうどいいわ一緒に行きましょ。」
そういうわけで俺は美空駅まで歌川さんを送っていくことになった。
「……」
「……」
……なんか話すこととか特に無いな。……この際だし歌川さんからも女神会のこと聞いておくか。
「ねえ、歌川さん。歌川さんはどうして女神会に入ったの?」
「……何でそんなこと話さなきゃいけないのよ。」
「別にいいだろ。それぐらい話してくれたってさ……」
「……半年ぐらい前にね。ここら辺歩いてたらチンピラに絡まれちゃったんだよね。で、そのときにまほさんに助けてもらったんだ。」
「白井さんが……?どうやって?」
「火属性魔法」
「あー、はいはい……」
「それでその後、女神会に誘われたんだ。魔王を倒すために一緒に戦ってほしいって……」
魔王を倒す。そういえば、白井さん俺を誘うときもそんなこと言ってたな。
「私も最初は半信半疑だったんだけど……」
最初から『半信』してたのかよ……
「だけど実際に女神会にいって未来さんと話してるうちに気づかされたんだよ。この世界は今、魔王に侵略されつつあるってことに!!」
「おっ……おお……」
「だけど、ほとんどの人はそのことに気づいてない……だから私が、いや私達が戦わなくちゃいけないんだって思ったんだ!!世界を救うために!!」
どうやら未来さんに完全に言いくるめられてるみたいだ……。ああ、もどかしい……突っ込めないことが本当にもどこしい。
「それにさ……それに、私あんなふうに頼られたの初めてだったからさ。なんかうれしかったんだよね。」
頼られるのがうれしいか……その気持ちはまあ、分からないでもない……かな。
そうこうしているうちに俺達は目的地である美空駅へと着いた。
結局、女神会に関する重要なことは特に聞き出せなかったな……まあ、歌川さんのことを色々知れただけでもよしとするか。
「じゃあね。今日はその……ありがとうね。」
「……」
俺は歌川さんのありがとうという言葉に少し驚いた。
「……ああ、また明日な。」
「うん、また明日。」
歌川さんは駅前の長い横断歩道を渡り向こう側の駅に向かう。
「……あいたっ!!」
だが、渡る途中に歌川さんは横断歩道に落ちていた缶を踏んづけて転んでしまった。
「おいおいアホの子でドジっ子って……この先この街で生きていけるのか?」
そんな俺の不安は……すぐに的中してしまう。
俺はなんとなしに右の方を見ると……とんでもない速度で車が歌川さんがいる場所に突っ込んでくる。
「歌川さん危ない!!」
「えっ、なに勇者君?……ってちょちょちょ待って!!」
俺は腰を抜かしている歌川さんを抱きかかえて横断歩道を渡りきる。
「か……間一髪だったな。」
車は信号が青だったにもかかわらず速度を緩めることも無く横断歩道を通り過ぎていった。もしあのまま歌川さんが横断歩道にいたらあやうく異世界転生してしまうところだっただろう……
「あっ……あの、勇者君……」
「あっ、お、おおお、ご、ごめん……」
俺は慌てて抱きかかえている歌川さんを下ろす。歌川さんはゆっくりと立ち上がりそして……
「だまされないから……」
「……?」
「だ、だまされないからなあああ……!!!」
歌川さんは顔を真っ赤にして逃げ帰るように駅まで走って行った。
「お、おいだまされないって一体何がだよ……おい!!」
何なんだよ、一体……
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