第6話 初クエスト(3)

 ミナミが呉武にとどめを刺そうとしたまさにそのとき、俺は背後から誰かがいる気配を察知する。


「ミナミ!!後ろだ!!」

「え……」


 だが、少し遅かった。ミナミが俺の声を聞き後ろを振り向くよりも早く後ろからボールのようなものがミナミの手首に直撃しミナミは麻酔銃を手から離してしまう。


「うっ……う……」

「ミナミちゃん!!」


 白井さんはすぐに怪我をしたミナミの方へと駆け寄る。


「大丈夫?ミナミちゃん?」

「だ、大丈夫……これぐらいどうってこと無いから。」


 ミナミは平気を装ってはいるが、さっきのボールの速度からしてかなりのダメージを受けているのは間違いない。


「へえ……結構タフだね君。」


 そう言って粗大ゴミの影から呉武と同じ制服を着た男が現れる。……呉武の仲間か?くそ、何てタイミングで現れるんだ……


「おお!!でかしたぞ。岸雄きしお!!」

「……なにやってるんですか先輩達。二人は眠らされてるし、先輩は……その髪どうしたんですか?」

「そ、そうだ……この女が、この女が、俺の自慢の頭を燃やしやがったんだ!!」


 呉武は白井さんの方を指さす。


「へえ……この女が……」


 岸雄とか言う男は呉武の話を聞くと白井さんとミナミがいる方に向かっていく。


「まずい……白井さん逃げて……!!きゃっ!!」

「ミナミ!!」

「……てめえは邪魔だ。」


 岸雄はミナミさんを容赦なく蹴り飛ばし白井さんの胸ぐらをつかみ呉武のいる方に無理矢理引っ張っていく。

 なんだよこいつ……呉武なんかよりも全然ぶっ飛んでるじゃねえか。

 

「は、離して……!!」

「……こいつどうします?呉武先輩。」

「そうだな……顔は悪くねえし、胸も結構あるからな。これはやりがいがありそうだな。ぐへへ……」

「ほんと、筋金入りの悪ですね。先輩は……」

「や、やめろ……」

 

 俺はなんとか呉武達を止めようと一矢報いろうとする。


「うるせえんだよてめえはよ!!」

「ぐほっ!!」


 だが、それもむなしく呉武によって一蹴されてしまった。


「……何ですこの弱そうな男は?」


 岸雄は呉武に訪ねる。


「ああ、こいつ?なんか自分のことを勇者だと思ってる頭のおかしい野郎だよ。」

「ふーん勇者ですか。それにしてもなんかこいつ重そうなもの背負ってますね。何が入ってるんでしょうかね?」

「……確かに気になるな。」

「だ、だめ、それだけは……」


 鎌瀬は容赦なく俺が背負ってる鞄の中を開ける。


「なんだこれ……剣?」

「……」

「ぶっは!!こいつ剣とか背負ってやんのうける!!」


 こっ、こいつ……いや、今はこんなあおりにいちいち反応している場合じゃない。今、白井さんとミナミを助けられるのは俺だけなんだ。俺が……俺が立ち上がらないと……

 

「なんだ、この剣?偽物じゃねえか……こんな刃じゃ野菜も切れねえよ……」

「さ……触らない方が良いですよ。その剣、勇者以外の人が触ると大変なことになるらしいんで。」


 こんなこと言っても無意味だってことは分かってる。でも、なんとかして、こいつらの動揺を誘わないと勝機が……


「おいおい……マジで言ってるのかよこいつ……さすがに引くわ……」

「ぐっ、ぐぐ……」


 く、屈辱的だ……。


「おっ!!いいこと思いついたぞ。この剣でお前の頭を思い切り殴れば、お前の中二病も治るんじゃあないか?」

「……はっ?」

「……それは良いアイデアですね先輩。」

「だろ!!じゃあ早速……」


 鎌瀬は大きく剣を振りかぶる。いくら刃が偽物とはいえこんな大きな剣で思いきり殴られたら……


「頭……ぶっ飛べやおら!!」


 ……死ぬ。


「……」


「……?」


「……ぎ」


「……ぎ?」


「ぎやあああああああああああああああ!!!!」

「!?!?!?」


 呉武の体に突然電流が走ったかのように閃光が走る。いや……これは、完全に感電している。


「ど、どうしたんですか先輩?」

「しびれ……びれ……」


 何がどうなってるんだ。あいつが剣を持って振りかぶった瞬間急に……まさか、剣を持ったら大変なことになるっていうのは本当に……!!


「な、なんなんだ一体……!?」


 岸雄もこの予想外の光景に動揺を隠しきれない。……今なら、いや、今しか無い!!俺は覚悟を決めて太助に突撃する。


「うおおおおおおおお!!!」

「ぐおっ!!」

 

 倒れている呉武に気をとられていたこともあって奇襲には成功した。だが、吹っ飛ばしただけで致命傷にはなっていない。


「ちっ……まさかこの俺がこんな奴に……!!」


 さて、こっからどうしようか……あの状態でも直接殴りかかったら絶対返り討ちにされる。なにか遠距離から攻撃出来るものは……俺は辺りを見渡す。何か……何か……。そして、俺の目にとまったのは……気絶している呉武の側に落ちているエクス・刈・バーンだった。


「てめえ……もう許さねえぞ!!」


 少しよろめきながらもすぐに立ち上がろうとしている。


「これでも……」

「……!?」

「これでも食らえ!!」


 俺はエクス・刈・バーンを太助に向かって投げつける。多少重量はあるが、この距離だったらあいつに届く……膝も床に着いてるからよけられることも無い。頭に直撃させれば気絶させられる……


「…………!!」


 投げた剣は……片手でキャッチされてしまった。


「……残念だったな。俺は中学時代野球の主将でなこの程度のスピードのものをキャッチするなんて造作でも無いさ。」


 ……予想外だ。まさか片手でキャッチされるなんてどんな動体視力してんだよ……。


「……どうやら今ので万策尽きたようだな。これで貴様も終わりだ。」


 ……いやそれは違う。


「……さっき言ったよなその剣に触ったら大変なことになるって……」

「……は、それってどういう……」

「呉武がどうしてああなったのかお前は分かってねえみたいだな。」

「……ま、まさか!?」

「俺の……勝ちだ!!」


 岸雄がエクス・刈・バーンをキャッチしたことにより剣は電気を発し岸雄は感電する。


 「ぐ……ぐああああああ!!!」


 剣から流れた電気を食らった岸雄は呉武と同じようにぐったりと倒れ込んでしまった。


「はあ……はあ……や、やった!!って感傷に浸ってる場合じゃない。白井さん!!ミナミ!!」

「……や、やしろ君……」

「し、白井さん!!だいじょうぶですか?」

「私は大丈夫……でも、ミナミちゃんが……」


 そうだ。ミナミ……!!あいつ、岸雄の野郎に蹴り飛ばされて……


「私が、どうかした?」


 そう心配していると俺の後ろからミナミがひょっこり現れる。


「うわ!!びっくりした……いや、そんなことよりミナミお前大丈夫なのか?」

「大丈夫。これくらい平気だって!!」

「いやでも……」

「大丈夫だって大げさだな。私体丈夫だか……いっ、痛たた……」


 ミナミはさっき岸雄にボールをぶつけられた手首を押さえている。


「もう!!全然大丈夫じゃないじゃないですか!!ちょっと手首見せてください。今、私の回復魔法で……」


 白井さんはカバンから包帯などを取り出して的確な応急処置を行う。どこが魔法なのかはよく分からないが……


「はい、これで終わりです。しばらくは安静にしててください。」

「ありがとう。白井さん。」

「いえ、私に出来ることといったたらこれぐらいですから……」


 俺はふと小学校時代のことを思い出す。俺がふざけていて学校の二階から落ちて怪我をしたとき、泣きじゃくる俺をなぐさめながら優しく手当てをしてくれたっけ……


「後、私に出来ることと言ったら早く治るよう女神様に祈ることだけです!!ああ、女神様……ミナミちゃんの怪我をお治しください……」

「あ、ああ……ほんとありがとう。ははは……」


 変わっちゃったな……白井さん。やっぱり俺が早くなんとかしないと。


「それにしてもいさむ、あんたほんとによくやってくれたよ!!あの状況で突撃する勇気もさることながら、最後に剣をあいつに投げつけたのも機転が利いててなかなかよかったぞ!!」

「いや別にそんな……大げさだって」

「そう謙遜けんそんしなさんな……本当にいさむはよくやってくれたよ。ねえ、まほちゃん」

「そうですよ。やしろ君


 褒められ慣れてないからかな……なんか照れくさい。でも、なんだかんだでうれしいなこういうの。


「じゃあ早く女神会に帰ろっか。なんか雨降ってきそうだし。」

「あ、ほんとだ。俺、傘とか持ってきてねえぞ……」

「急いで帰りましょ!!」





 俺達三人は雨が降る前に急いで帰ろうとしたが、結局間に合わず、雨にうたれながら帰る羽目になってしまった。


「おっ、無事に帰ってきたか三人とも。」


 女神会に戻ると未来さんが俺達を出迎えてくれた。


「とりあえず外は雨降ってるし話はギルドの中で……」


 俺達は未来さんに言われた通り急いで建物の中に入り成果を報告する。


「……で言われたとおり不良達ボコボコにして警察に連絡入れましたけど……本当にこれだけでよかったんですか?警察に説明とかするべきなんじゃ……」

「ああ、いいのいいの。ほんと大丈夫だから!!」


 なんかのり軽いけど本当に大丈夫なのか……


「なにはともあれ初クエスト成功おめでとう!!これからも女神様のために頑張ってくれたまえよ!!」

「あの……」

「ん?なんだ?」

「差し出がましいんですけどその……報酬とかってもらえたりはしませんかね?」

「ちょっといさむ!!」

「だって、俺らこんなに頑張ったんだぜ。報酬の一つぐらいもらったってばちは当たらないだろ。」

「ちゃっかりしてるないさむは……」

「報酬はもちろんあるぞ。」

「おお!!」

「報酬は……これだ。」


 そう言って未来さんが取り出したのは……水の入った2Lペットボトルだった。


「あの……これは?」

「これは、女神会の聖地『女神の泉』から採った『女神水』だ。」

「は、はあ……」

「疲労回復、体力向上、健康促進。それ以外にも様々な効能がある。ありがたーいお水なんだ。」


 ○素水かよ……


「……どうした?あんまりうれしそうじゃなさそうだが……」

「う、うれしいです。すごいうれしいです!!」


 ここでいらないと言えば背信者と思われかねない。不服だが受け入れるしかないな……


「じゃあ報酬も渡したことだし。時間も時間だ。今日はもう解散しようか。」


 はあ……やっと終わったか。今日は色々あって疲れたな……それにしても今日起きたあれは一体なんだったんだろう?俺は剣を持っててもなんともなかったのに鎌瀬や太助が持ったら突然電流が流れて……あれは、一体どういう仕組みなんだ……?……だめだ疲れて頭が回んない。とにかく早く帰って風呂にでも入ろう……そう思って俺はそそくさと帰ろうとした。

 

「あ、未来さん。ちょっと聞きたいことがあるんですけど。いいですか?」

「ん?別に構わないけど……どうかしたのかミナミ君?」

「私達がカツアゲ達を倒しに行ってる間にどこがに出かけたりしませんでしたか?洋服が若干濡れてますけど。」


 ミナミの言ったとおり未来さんの服は確かに濡れている。


「え、ああ、スーパーで買い物をしにいったな。ほら、そこの机に買い物袋が置いてあるだろ。」


 未来さんの言ったとおり机の上には大量のカップ麺が入った買い物袋が置いてある。袋には『スマイルマート』と書かれていた。


「私に言ってくだされば買い物ぐらいついでに行きましたのに……」

「いやあ、だってスマイルマートはまほ君たちが行った工場跡地とは逆方向だっただろ。ここら辺でナポリタン味のカップ麺売ってるのはスマイルマートだけだからな。」

「未来様お好きですもんねナポリタン味。」


 ナポリタン味のカップ麺って……なんだよそのややこしそうな味のカップ麺。


「で?それがどうかしたのか?」

「……いえ、ただなんとなく気になっただけですからあまり気にしないでください。」

「……そうか、ならいいんだが……」

「……?」





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