第5話 初クエスト(2)

 なんだかんだあったがカツアゲ退治へと出発した俺達。行く先は四丁目の人目につかないところにある廃工場前。鎌瀬はこの時間その場所で仲間とたむろしていることが多いらしい。


「……それにしても何でまほちゃんまで一緒に?」


 ミナミが言っているとおりなぜか新入りではない白井さんまで一緒についてきている。


「未来様がいくら勇者様がいるとはいえ新入り二人に任せるのは不安だからってことで……もしかして迷惑でしたか?」

「いや、そういうわけじゃないけどさ……」


 ……大丈夫なのか。白井さん。戦闘とか出来る感じじゃ無さそうけど……


「まあ、今回のクエスト……まほちゃんの助っ人が無くてもすぐに終わっちゃうと思うけどね。」


 ……まーた、麻酔銃ぶっ放す気だよこの人……まあ、そうしてもらったほうが俺的にも助かるけどな。


「そうですよね!なんたってこちらにはやしろ君が……勇者様がいらっしゃるんですから!!」


 ……あれ?もしかして俺、期待されてるのか?ていうか、これってもしかして白井さんに良いところを見せるチャンスなんじゃないか?


「なあ、ミナミちょっと話があるんだけどいいか?」

「え、別に良いけど……。」


 俺とミナミは白井さんに話を聞かれないように場所を移動する。



「……麻酔銃を撃つのを控えてほしい?」

「ああ、勇者なんだって言われた手前、何もしないで終わりっていうのはかっこつかないだろ。だから、昨日みたいにすぐに麻酔銃をすぐ撃つのは控えてほしいなって……」

「……なるほどね。まほちゃんにいいところを見せたいってわけだ。」

「え、いや、そういうわけじゃなくて……」

「なに慌ててんの。助手君がまほちゃんのことが好きなことぐらい分かってるって。」

「え、な、なんで?」

「探偵の観察力をなめないほうがいいよ。」


 まじかよ、俺そんな白井さんのことじろじろ見てたのか……今後は気をつけないと。


「でもさ、助手君、私の助けなしで大丈夫なの?」

「大丈夫って……?」

「相手はここ周辺の町で一番ぶっ飛んでるヤンキー校の生徒でしょ。あんたそんな奴に喧嘩で勝てるの?見た感じ喧嘩とかしたことなさそうだけど。」

「……したことは……あるよ。」

「小学校のときとかでしょ。」

「……うん。」

「じゃあ、だめじゃん……」


 やっべえそうだよ……何いきったこと言ってるんだよ俺、ただ勇者だなんだ言われて祭り上げられてるだけで、別に特別な能力に目覚めたとかじゃないんだ……もし、現役ヤンキーとやり合おうものなら一撃でKOされるだろ絶対……。


「助手君。まさか本気で自分のこと勇者だって……」

「い、いやそんなわけないだろ!!」

「ほんとしっかりしてよ……ただでさえあの空間にいるの疲れるのに助手君までまともじゃ無くなったらと思うと……ああ、胃が痛くなる……」


 確かにあの空間でまともなのは自分だけって言うのは想像しただけでもきついな…… 


「あの、お話し終わりましたか?」


 白井さんがひょっこり現れる。


「ああ、ごめんごめん……今、終わったところだから……」

「では、早く行きましょう。やしろ君の活躍をいち早くこの目で見たいですし!!」

「し、白井さん……」

 

 無謀だってことは分かってる、分かってはいるが、それでも俺は……白井さんに良いとこを見せたい。


「……まあ、脳死で撃つのは止めておいてあげるわ……でも、危ないと思ったらすぐに撃つからね。」

「ミ、ミナミ……」

「いいとこ見せてやりなさいよ。」

 






「……いたいた、あの人ですよ。あの人。」

「なるほど、いかにも小悪党って感じね……」


 廃工場前には手配書の写真の男、呉武が仲間二人とだべっている。


「……どうにかしてこっそりと近づけないかな……」


 廃工場前には不法投棄されている粗大ゴミがたくさんあり。それに隠れながら進めば呉武に気がつかれずに近づけるかもしれない。


「何言ってるんですか。やしろ君。勇者がそんな姑息なことをするべきではいけません。ここは正々堂々正面から向かうべきですよ。」

「そ、そうだよね……!!」

「……まあ、そんなでかいギターケース担ぎながらこっそり近づくのは無理だし正面から行くしか無いわね。」


 ミナミは若干あきれたような口調でそう言う。

 俺達はこっそり近づくのを諦めて正々堂々正面から彼らの所にいく。


「……誰だお前ら?」

「!!あなたの悪行もそこまでです!!ここにいる勇者やしろいさむが女神様の名の下にあなたを断罪します!!」

「ちょっちょっと……!!白井さん?」

「……ぷっ!!聞いたかお前ら!!勇者だってよこいつ!!」

「ゆっ、ゆうしゃ、ゆうしゃって……ぶふふ……」


 は、恥ずかしい……こんな恥ずかしい思いしたの小学生のときランドセル忘れて学校に行ったとき以来だ……顔が真っ赤に燃え上がっていることが自分でも分かる。


「……何がおかしいんですか?」

「何がって……なにもかもだよ!!なんだよ勇者って!!ガキじゃあるまいし!!」


 本当に……その通りなんだよな……


「っていうか君よく見たらかわいいね……ねえ俺達と一緒に遊ばない?」


 呉武はそう言って白井さんの方に近づいていく。


「おい、白井さん近づくんじゃ……」


 俺がそう言いかけたとき白井さんは持っていた鞄からスプレー缶のようなものを取り出す。


「あ?なんだこれ……」


 呉武がそういった瞬間。スプレー缶から勢いよく炎が噴出される。……炎?


「ぎ……ぎおやああああああ!!!!」

「燃えてる……兄貴の頭が……」

「お、おい早く消火器もってこい!!」

「は……はい!!」


 呉武の仲間はすぐに消火器を持って行き、呉武の頭の火を消火する。


「か、髪が……俺が二時間近くかけてセットした髪が……」


 彼の自慢のツンツン頭は今の火事で更地になってしまった。


「あ、あの……白井さん?その手に持ってるものは何でしょうか……?」

「火属性魔法です。」

「………………はあ?」

「火属性魔法です。最下級のですけど。」

「……うーん?」

「私、回復魔法がメインですけど、攻撃魔法も何個か使えるんです、今のはメメラって言って……」


 ……やばい、色々とやばい……言ってることも、やってることもやばい……ほんとに……やばい。


「お前ら、よくも兄貴の自慢の頭を……ゆ、許さねえぞ!!」

「はい?」

「ひっ!!」


 呉武の仲間Aはさっきの白井さんの魔法(?)を見て完全にびびってしまている。


「おい、後輩……お前こんな女にびびってんじゃねえよ。」

「す、すみません……兄貴。」


 呉武の仲間Bは若干動揺こそしてはいるが戦意喪失はしていないようだ。


「おい、クソ女。てめえ、ちょっと調子に乗りすぎなんじゃないか?」


 呉武の仲間Bは白井さんをにらみつけながら近づいてくる。


「もう一度……」


 白井さんはかばんからまた火属性魔法(?)を取り出そうとする。

 だが、取り出そうとした瞬間、呉武の仲間Bは白井さんの手首を思いっきりつかむ。


「きゃっ!!」

「その危ないおもちゃは没収だ。」

 

 そして、手首をつかんでいない方の手で火属性魔法を取り上げる。


「さすがっす先輩!!」

「さっきはよくも呉武の頭を燃やしてくれたなあ……この落とし前どうやってつけてくれんだ……」

「……」

「何とか言えよ……」

「……おい、あんた!!」

「あ?なんだ、勇者君?」

「ゆ、勇者は関係ないだろ!!白井さんに乱暴してじゃねえよ!!か弱い女の子に手を出して恥ずかしくないのか!!」

「やしろ君……」

「か弱いって……いきなり人の頭燃やしてくる女のどこがか弱いんだ。あ!?」

「……まあ、それはそれとしてだ。」

「ごまかしてんじゃねえぞ!!」

「と、とにかく、白井さんに乱暴するやつを見過ごすわけにはいかん!!俺が相手になってやる……!!」

「へえ、言うじゃねえか。」


 来た……今こそ白井さんに良いとこ見せるチャンスだ。白井さんも俺のことを期待の目で見てくれている。今なら誰にも負ける気がしない。


「いくぞ!!うおおお…………ぐほっ!!」

「……」

「……」


 一瞬だった。俺がBに正義の鉄拳を食らわせようとしたが、Bはそれをひらりとかわし、返しのハラパンを受けてしました。


「ぐっ、ゲホッ……」


 痛い……めちゃくちゃ痛い。痛すぎて立ち上がれない。


「……よ、弱い。想像してた三倍は弱かったぞ……」

「ぐっ……まだだ。まだやれ……ぐあっ!!」


 俺は立ち上がろうとするがダメ押しのキックが飛んでくる。


「……ったく、とんだへぼ勇者様だなあ……さあて、今度はてめえの番だぞクソ女!!」

「きゃっ……」

「や、やめろ!!」


 Bの振るった拳が白井さんにめがけて…… 


「…………」

「…………ん?」

「……兄貴?」

「……ふにゃん。」


 Bは突然、気が抜けたように倒れる。この倒れ方は……


「お、おいそこのくせっ毛のお前!!兄貴に一体何をした?」

「なにって……麻酔銃撃っただけですけど?」

「ま、麻酔銃って……れれれ…………。」

「……あなたも寝てなさい。」


 ミナミは有無も言わせずAに麻酔銃を撃つ。


「わ、悪い……ミナミ。」

「いいって、どうせこうなるんだろうなっ思ってたからさ。」

「……面目ない」

「残りはそこでうずくまってるあんただけね。」


 そう言ってミナミは呉武に銃口を向ける。


「な、なんなんだよお前ら……銃に、火炎放射器って……意味分かんねえよ!!」


 これは、勝ち確定だ……そう俺達は思っていた。後ろから誰かが迫ってくる気配に気がつくまでは……






 

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