第4話 初クエスト

 古畑南の助手になった次の日。この日も俺は女神会にやってきた。ミナミが昨日していた女神会の謎……これを聞いてからいても経ってもいられなくなった。一刻も早くその謎を暴き白井さんの正気を取り戻さなくてはならない……そんなことを思いながら俺は女神会のドアを開く。


「お、ちょうど良いところに来てくれた勇者君。」


 出迎えてくれたのは明日葉未来。女神会のギルドマスター(?)だ。


「あ、勇者様が来たにゃ。」

「……来たわね勇者。」


 俺以外の他のメンバーはすでに全員揃っている。


「あの、出来れば勇者呼びは止めてほしいですけど。普通に名字とか名前とかで呼んでほしいんですけど……」

「そうか……では、勇者やしろ。」

「いや、そういうことじゃなくて……」

「今日は君と南ちゃんにクエストについて説明したくてね。」

「クエスト……?」


 ミナミは首をかしげている。クエストという言葉にピンときていない感じだ。ゲームとかあまりやらない感じだろうか。まあ、やってる俺からしても、なんで現実世界でそんな単語が出てくるのかわけが分からないが……


「クエストっていうのは、まあ、依頼って言えばわかりやすいかな。女神会はね。平原町の人達の悩み事を解決する慈善活動を行っているのよ。」

「へー……」


 なるほど、だから女神会なのね……。つまり、女神会はRPGでいうところの冒険者ギルドの形式をとっているってことだ。


「なんか私が普段やってることとあんまり変わらないね。」

「まあ、確かに。」


 ミナミはそう俺にボソッと耳打ちした。


「そして、今日は新入り二人にやってほしいクエストがある。」


 そう言って未来さんは一枚の紙を俺達に手渡した。そこにはでかでかとヤンキーの顔写真が貼られていてその写真の上に『WANTED』と殴り書きがされている。漫画とかでよく見る『お尋ね者リスト』に似ている。


「この写真の男の名前は呉武林蔵ごぶりんぞう17歳で魔物高校に通っている学生だ。」


 魔物高校か……確かここら辺で一番ぶっ飛んでるヤンキー高校だったな。隣町の住んでる俺ですらその噂を何度か聞いたことがある。


「こいつは最近、不良仲間と一緒に小さい子供や年寄りを脅して金銭を奪い取っているの。」

「うえー、ひどいことするな……」

「今回新入りの二人にはこいつを捕まえに行ってほしいんだ。」

「捕まえに行く……?俺達が……!?」


 突拍子も無いことを言われて俺は少し困惑するが、すぐに頭の中を整理し話を進める。

 

「こういうのは警察に任せた方が良いんじゃないですか……?」

「この街は治安が良いとは言えない……国の警察もこんな子悪党にまで首が回らないんだろう。」


 俺は思わずミナミの方を振り向く。ミナミは頭にクエスチョンマークを浮かべたような表情で俺のことを見返してきた。自分のせいだとは微塵みじんも思っていないようだ。


「まあ、勇者がやるクエストにしては少しちんけなものかもしれないがこういうことの積み重ねがこの街の平和につながっていく。大義をなすためには小さなことの積み重ねが大事なのよ。」

「ほ、ほう……」


 ……急ににすごいもっともらしいことを言うものだから思わず納得してしまった。


「もちろん、引き受けてくれるな。勇者いさむ」


 確かに未来さんの言うことはもっともではある。だが、それを引き受けるかどうかは話が別だ。もし、これがきっかけで魔物高校に目をつけられでもしたら……


「……やりましょう。」

「へ?」

「やろうよ。いさむ君!!女神様のためにも悪党を野放しにしておくわけにはいかないよ!!」

「ええ、でもな……」


 俺が苦言を漏らすとミナミは俺の耳元に小声でささやく。


「彼女も言ってたでしょ積み重ねが大事だって、それは探偵も同じ、こういうことの積み重ねが彼女達との信用につながっていくのよ。信用を得られれば女神会のことだって調べやすくなるでしょ。」


 ……そうだ。本来の目的を忘れていた。俺の目的は女神会の真相を暴くことだ。たかが不良の報復ごときにびびっていたら話にならないよな。


「そうだな……やろう!!この街の平和のために!!」

「よし、そうと決まれば早速奴らがいるアジトにレッツゴー!!」

「おー!!」 

「ああ、待って待って!!」


 俺達が勢いのままに建物から出ようとするのを未来さんが引き留める。


「勇者やしろ!!忘れ物してるわよ。」

「忘れ物?」

「ほら、これよこれ。」

「!?」


 未来さんが取り出したのは昨日俺が引っこ抜いたでっかい剣『エクス・刈・バーン』だった。


「え、これを持って行くんですか……?」

「……当たり前でしょ。勇者なんだから。」

「冗談、ですよね……」

「え、なんで冗談だと思うの?」

「……」

「……」

「……い、いやいやおかしいでしょ!!こんな武器持って街中歩いてたら、職質されるでしょ!!ていうか最悪捕まりますよ!!」


 まあ、銃を常に携帯しているやべえ奴もすぐそばにいるけど……


「なんで、勇者が剣を持ってるだけで捕まらなくちゃいけないのよ?」

「な、何でって……」

「そうですよ。勇者が剣を持ち歩かないなんておかしいですよ。やしろ君」

「そうニャ、剣を持ってない勇者なんて、ピクルスの入ってないハンバーガーみたいなものにゃ。」


 なんで、俺の方がおかしいみたいな雰囲気になってんだ?何で誰も突っ込まないの!?

 

「そ、それは違うわよ!!」


 よかった。やっと突っ込んでくれた……


「モ○バーガーにはピクルス入ってないでしょ!!」

「……」

「……」

「……ん?」


 ……いや違う……そこじゃない……そこじゃないよ歌川さん……。


「まあでも、いくら勇者だからって、剣を隠さないで持ち歩くのは目立つしあまりよくないんじゃない?もし呉武って人のところに向かってる途中で彼の仲間に目撃されでもしたら……」


 ミナミがようやく助け船を出してくれた。


「確かに……逃げられる可能性があるわね。じゃあ、そこにあるギターケース(空)に『エクス・刈・バーン』を入れてきなさい。」


 ……なんでこんなところにギターケース(空)が都合よく置いてあるんだよ……まあでも、この大きさだったら剣ぐらい入りそうだな。

 俺が思ったとおりエクス・刈・バーンがギターケースにちょうど良い感じに収まった。


「よし、じゃあ改めて……悪党退治にいってらっしゃあい!!」

「おお!!」

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