第3話 古畑 ミナミ

 俺と古畑さんは近くの喫茶店に一緒に入った。彼女も俺と同じくなんらかの目的があって女神会に入ったと言っていたが、その目的って一体何だろう?


「ご注文はお決まりですか?」

「私はアイスコーヒーを一つ。……いさむ君は何か注文したいものとかある?」

「じゃあ、俺も同じやつを一つ。」

「アイスコーヒーをお二つですね、かしこまりました。」


 そう言うとウェイトレスさんはそそくさと厨房に向かっていった。


「それで……女神会に入った目的っていうのは?」


 俺は古畑さんに質問する。


「それを答える前に、まず私の自己紹介を改めてしないといけないわね。私の名前は古畑ミナミ、『探偵』よ。」

「た、探偵……?」


 探偵……小説や漫画とかではこれでもかというほどよく見るが、実際にこの目で見るのは初めてだ。


「でも、さっきは高校生だって言ってなかったっけ?」

「そう、だから『女子高生』兼『探偵』ってわけ。」


 『女子高生探偵』……そんな漫画みたいな女子高生が現実にもいる何て驚きだ……。


「そ、その探偵さんがどうして女神会に?」

「依頼されたのよ、女神会の動向を監視、報告してくれって……一ヶ月25万円で。」

「にっ……25万!?」


 一ヶ月25万て……25万なんて高校生が手に入れられる金額の範疇はんちゅう、限界突破してんのに、それを一ヶ月単位でもらえるってやばすぎだろ……


「そ、それって……マジなのか?」

「私も最初は何かのいたずらだと思ったよ。依頼書と一緒に入ってた前払い金の50万円分のお札を見るまではね。」

「は、はへー……」

「思ってたより薄かったわよ……。」


 俺はあまりの衝撃に気の抜けた声が出てしまった。50万……そんな大金を前払いでポンと払うのか普通。これは大分うさんくさい話になってきたぞ……


「いくら、大金もらえるからってさすがに危険なんじゃないか?あやしすぎるだろそんなの……」

「危険なんて覚悟の上よ。そんなのにびびってちゃ探偵なんて務まらないからね。今まで


 この子本当におれと同じ高校生なのか?


「それに、今回の依頼を受けたのはお金のためじゃないの。」

「え、違うの。じゃあ何でこんなことを……」

「……だって、気になるじゃない。あんな小規模な団体の監視や報告なんかで一ヶ月25万、前金50万なんて……これには絶対何か裏がある。探偵としての探究心がうずいてくる……うふふ。」


 古畑さんは喜悦の表情を浮かべている。彼女は生粋の探偵なんだろうな。

 

「それでね、いさむ君に一つお願いがあるの。」

「な、何でしょう……?」

「私の協力者になって、私と一緒に女神会の謎を暴いてほしいんだ。」


 ……協力者か。女神会がきな臭くなってきた以上、俺は当初の予定通り白井さんを女神回から解放しなければならない。そして女神会の悪事を暴くなら、俺一人で行動するよりも、二人のほうが絶対いいよな……。


「もちろん、ただで協力してくれとは言わないわ。依頼料の半分、月一で13万円でどう?」


 これは……断る理由が無いな!!!


「よろしく、頼むぜ。古畑さん!!」

「そう言ってくれると思ったよ。よろしくね。助手君!!」


 探偵の助手か……悪くない響きだな。


「あと私のことはミナミって呼んでほしい。堅苦しいのはあんま好きじゃ無いから。」


 女子を下の名前で呼ぶのか……なんか緊張するな……でも、童貞って思われるのもいやだし堂々としないとな。


「ああ分かった。それで……ミナミは『女子高生』兼『探偵』って言ってたけど具体的にはどういうことしてるんだ?」

「まあ、ホームページで依頼を受けたり……あと警察に協力して事件を解決の手伝いなんかもしてるんだ。」

「へー、すっげー!!」

「こう見えて私、この界隈じゃちょっとした有名人なんだよね。えへへ……」


 ミナミが得意げに笑っていると、突然後ろの席から怒鳴り声が聞こえてきた。


「おい、これは一体どういうことなんだ!!」

「申し訳ございません!!すぐに変わりの料理をお持ちします……」

「……その程度で許してもらえると思ってんのか!?こっちは料理に虫を入れられたんだぞ!?この落とし前どうやってつけてくれんだよ!!」


 ……どうやらクレーマーのおっさんが料理に虫が入っていたと文句を言っているようだ。巻き込まれるのもやっかいだし目立たないようにしておくか……と俺は思っていたんだが。


「……ちょっとあんた。」

「あん、なんだてめえは……?」


ミナミがクレーマーの前に出てしまった。おいおい、これまずいんじゃないか……。


「私、ここの喫茶店常連なんだけどさ、ここのお店はね衛生管理には人一倍気を使ってるのよ。料理の中に虫なんて入ってるわけがないわ。」

「なんだよこのクソガキが……適当なことぬかしてんじゃねえぞ!!」


 チンピラは完全に怒り狂っている。今からでミナミを止めに入った方がいいな……


「ミナミ、これ以上この人を刺激しない方が……」


 俺は忠告しようとするが南はそれに聞く耳をもたずそのまま話を続ける。


「このミートソーススパゲティの中に虫が入ってたんですよね?」

「だからそうだって言って……」

「だったらおかしいですね。」

「……は?」

「あなたはこのスパゲティを全部たいらげてる。つまり、虫はスパゲティの奥底にあったということ。なのに、この虫の表面はソースがついていない。まるで、食べ終わった後に虫を置いたみたいに……」

「な、なんだと!!」

「それにこの虫この時期にはいないはずの虫なんですけどね……」

「はん!!そんなわけねえだろ。だってこの虫は今日ベランダでとった……」

「ベランダでねえ……」

「あっ……」

「教えてくれてありがと。あなたがおまぬけさんで本当に助かったよ。」

「ち、違う……これはただの言い間違いだ。」


 チンピラはさっきと威勢の良さから打って変わって押され気味になってしまっている。


「まだ認めないの。だったら……」


 そう言うと南はチンピラに近づきチンピラのズボンのポケットに自分の手を突っ込む。


「小さいビニールのチャック袋……虫は多分この中に入ってたんでしょうね。」

「そんな証拠がどこに……」

「しかるべき場所で調べればちゃんと分かるわよこの袋に虫が入ってたかどうかぐらいわね。」

「う、うぐぐ……」


 チンピラは何も言い返せない。完全に論破されてしまったようだ。それにしてもこの洞察力……女子高生探偵を名乗ってるだけのことはある。


「調子にのんなよ……」

「ん?」

「調子に乗ってんじゃねえぞこのクソアマが!!」

「あ、危ない!!」


 チンピラは逆ギレして南に殴りかかろうとする。


「そう来ると、思ったよ……」


 そうミナミがつぶやくと『パン!!』というポップコーンがはじけたような音が鳴り響く。その音が聞こえたのとほぼ同時にクレーマーの動きは止まる。


「……ふへ…………ふにゃららら……」


 チンピラが古畑さんを殴る前に突然力が抜けたかのように倒れてしまった。一体何が起きたんだ……?パン!!って音は聞こえたけど……俺は古畑さんの方を見てみる。


「!?……み、ミナミさん……その、右手に持っているのは……」


 俺はそれを見たとき動揺を隠せなかった。ミナミが右手に持っていたもの……それは銃だった。


「ん?ああこれ?やだなあもう本物の銃なわけないじゃない。」

「そ、そうだよね……あ、焦った……」

「ただの象すら一秒で眠らせる即効性の麻酔銃だよ。」

「そっか麻酔銃か……だったら安心……出来るわけねえだろうが!!何つう危なっかしいもの持ってんだよ。」

「そりゃ、麻酔銃って探偵の必須アイテムだし……今時小学生だって携帯してるよ。」

「そんなわけねえだろ!!どんな小学生だよ!!っていうかどうすんだよこの人。ぐったりしちゃってるけど……」

「とりあえず警察の人呼んでおいたしまあ大丈夫でしょう。マスターお会計お願いね。」


 ミナミはマスターに会計を頼む。


「いやいや、お会計はいらないよ。また助けてもらっちゃったからね。」

「おっ!マスター、太っ腹!!」


 ……本当に大丈夫なのだろうか。

 




「はあ、ホントに……厄介ごとに巻き込まれるのは勘弁だよ……」

「あの程度のことでへこたれてたら探偵の助手なんて務まらないよ。」

「そう……なのか?」


 まあ確かに探偵は職業柄、トラブルに巻き込まれやすそうだが……さっきのはちょっと違わないか……


「キャー!!ひったくりよ。」


 どこからか女の人の悲鳴が聞こえ黒い服の男が俺達のそばを通り過ぎる。


「まかせて!!」

『パンッ!!』

「……」


 南はノータイムで何の躊躇ちゅうちょもなく麻酔銃を撃った。


「ありがとうございます……ホントなんとお礼を言えば……」

「別に良いですよお礼なんて……」


 そして、さらに歩いて数分後。気弱そうな男と厳つい男がもめている……いや、気弱そうな男が一方的に責められているのを目撃する。


「なあ、おっさん……どこに目つけて歩いてんだよ……!!」

「す、すみません……。」

「すみませんですんだら警察なんていらねえんだよ!!慰謝料として有り金全部おいてけや!!」

「ひ、ひええ……そんな……」

「グズグズしないでさっさと……」

『バシュッ!!』

「ふにゃん……ふにゃふにゃにゃ……」


 ……ミナミはまたしても麻酔銃を撃ち込む。


「さ、今のうちに逃げて!!」

「ひ、ひい……!!」


 男はお礼も言わずその場を猛ダッシュで立ち去った。

 ……それにしても、さっきから事件とかもめ事に巻き込まれてばっかりだぞ……もしかしてこの街って治安が悪いのか?そういえば聞いたことがある。近所の町にそこだけ極端に治安が悪い、アウトロー地帯があると……もしかして、ここがそうなのか……やばい、びびってたらなんかトイレ行きたくなってきた。


「あっ私、ちょっとコンビニ寄ってくけどいさむ君はどうする?」

「そうだな、俺もちょうどトイレ行きたかったし寄っていこうかな。」


 俺達はコンビニに入る。


「おら、早く金出しやがれおら!!」

「……」


 店に入ると、目出し帽をかぶり店員に包丁を突きつけている男がそこにいた。これは……コンビニ強盗だな。


「おいてめえら何見て……」

『パンッ!!』

「……ふにゃららら……」







「通報を受けて参りました。平原町(この街の名前)署の柳下香織やぎしたかおりです……ってやっぱり、あんたなのね……。」

「いやあ、いつも悪いね。カオリン。」

「誰が、カオリンよ!!はあ、何であんたはこういっつも……」

「ミナミ、この警察の人と知り合いなのか?」

「……ん?あなたもしかしてこの子の彼氏?」

「か、彼氏!?」


 俺は不意を突かれて思わず吹き出してしまった。


「悪いことは言わない、この子はやめておいた方がいいわよ。」

「え、なんで?」

「この子はね事件を引き寄せる疫病神なのよ!!」

「や、疫病神って……」

「ミナミはね三年前にこの街に引っ越してきたんだけどその年からこの街の事件数が倍以上になったの……」

「そんなの偶然じゃ……」

「偶然?起こる事件、起こる事件いっつも現場にこの子がいるのよ!!偶然なわけ無いわ……。」


 柳下刑事は震え上がっている。


「おかげでこっちは毎日のように事件が舞い込んできて忙しいったらありゃしない……私、今年で28なのに、ぐすっ……結婚相手探す暇も無いのよ!!」


 柳下刑事は泣き出してしまった。……彼女の目元をよく見ると薄らとクマができている。相当苦労してるんだろな……


「じゃあ、私はこのクソ強盗野郎を豚箱にぶち込みに行くから……疫病神!!今度事件起こしたらただじゃ置かないからなぁ!!」

「それは出来ない相談ね。だって私は生まれついての探偵……」

「××××××!!」


 柳下刑事は警察とは思えない罵声を吐き捨ててコンビニ強盗と共にその場を去った。


「じゃあ、事件も解決したし……帰ろうか助手君。」


 俺は、とんでもない奴の助手になってしまったかもしれないな……



 




















































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