第2話 いさむ、勇者(?)になる。

 白井さんと再会した次の日、俺は白井さんに案内され女神会へとやってきた。


「あ、やしろ君!!ここですよ。ここ!!」

「これが……?」


 女神会があるのは、隣町の裏路地に隠れるようにひっそりとたたずむ建物のの中。ここに……ここに、白井さんをだましている奴らがいると思うと、それだけではらわたが煮えくりかえってくる。


「よっし、じゃあ……入るか。」


 俺は覚悟を決めて建物の中に入ろうとする。


「ああ、やしろ君ちょっと待って。」

「え、なんで?」

「今日は、新しい人がもう一人来ることになってるんだ。どうせならその人と一緒に歓迎したいからさ。」


 もう一人って……俺以外にもいるのかよ新入り。一体どんな物好きだろうか……


「……それって、私のことかしら。」


 そう言って現れたのは小柄でくせっ毛の女の子だった。 


「君は……?」

「始めまして。私は今日から女神会に入会することになった古畑ミナミ《ふるはたみなみ》。君もここの新人?」

「……まあ、そんなとこです。俺は社勇やしろいさむっていいます。どうぞ、よろしく。」

「こちらこそよろしくね。まあ、新入りどうし、仲良くしましょ。」


 古畑さんは右手を差し出す。俺もそれに応え右手を差し出し彼女と握手を交わした。


「じゃあ、二人揃ったことですし早速、中に入りましょ?」


 俺達は白井さんに促されるがまま倉庫の中に入る。

 俺は……こういう怪しい団体はたくさんの人が密集し、信者は全員白いシャツを着て、なんかよく分からない教義を行っているイメージがあったがここはまるで違っていた。


 まず、人が少ない。倉庫の中は俺達三人を除いてわずか三人しかいない。もう少し人がいるもんだと思っていたが……。

 次に服装がみんなバラバラだ。こういう宗教って信者全員が真っ白い服を着ているイメージがあったが、みんなラフな格好をしている。


「まほちゃん、この二人もしかして新入りか?」

「ええ、そうですよ。」


 ……なんか一人変な奴がいるが、まあそれについては後で話すとしよう。

 三つ目に信者(?)達はとくに教義のようなものを行っている様子は無い。この倉庫の中にはソファーにテレビにゲームなどが設備されていて三人はスマホをいじったり、ゲームをしたりお菓子を食べたり思い思いのことをしている。

 見てみた感じここは怪しい宗教団体というよりは何というか……ろくに活動をしていない自堕落な文化部という感じがする。思っていたのとちがくてなんだか拍子抜けしたというか、ほっとしたというか……そんな感情が入り乱れる。


「未来様。新入り二人、お連れしました。」

「お、ご苦労だったな、まほ君。」


 白井さんは大人びた雰囲気の女性に俺達のことを報告しに行く。もしかして、この人が白井さんの言う女神様……?


「始めましてお二人さん。ようこそ、ギルド『女神会』へ。私は女神様の代弁者でありこのギルドのギルドマスターの明日葉未来あしたばみらいだ。よろしく。」

「……ギルド?」


 ギルドってあれだよな。ゲームとかによくあるクエストとかを受注したりするやつ……よく分からないがこの人が女神会で一番偉いってことでいいんだよな……

 とにかくこのギルドマスター(?)が白井さんをだましている張本人であることには変わりない……俺はこいつから白井さんを取り戻す。これは、俺に課せられた使命……絶対に成し遂げてみせる。


「始めまして……その……未来様」

「別に未来さんでいいよ。そんな気構える必要はないって。」


 なんか思ったよりも軽い人だな……。


「あ、もしかして私が女神様だって思ってた?私は女神様じゃなくてただ代理を任されているだ。」


 司祭……確か神様に使えてる人のことだったよな。このひとがそれだっていうのか?とてもそんな風には見えないが……


「その……未来さん、私は今日から女神会に入会することになった古畑南って言います。高校二年生です。今後ともよろしくお願いします。」


 古畑さんは未来さんに丁寧に挨拶する。


「おう、よろしく、で、そっちの君は……?」


 今度は俺が自己紹介する番か……


「俺は社 勇って言います。古畑さんと同じ高校二年生です。よ、よろしくお願いします……。」


 多少おぼついてはいたがしっかりと挨拶は出来た……はずなのだが……


「……」


 俺の自己紹介を聞いた未来さんの様子がおかしい。動揺してる……?俺、何かまずいこと言ったか?


「あなた今なんて……?」

「いや、その……よろしくお願いしますって……」

「違う、名前ですよ、あなたの名前!!」

「え、ええっと……『やしろいさむ』ですけど……」

「漢字は?」

「名字は社会の『社』って書いて『やしろ』。名前は勇敢の『勇』で『いさむ』です。」

「これは……とんでもないことになったわね。」

「へ?」

「みんな集合して!!」

「分かったにゃ!!」

「ういーっす。」


 未来さんに呼びかけられ他の二人もこちらに集まってきた。


「これは、な……何でしょうか?」

「女神会を設立して早半年。ついに、ついにあらわれたわ……予言の勇者様が!!」

「予言の……」

「勇者!?」


 え……勇者?勇者って何?そう思っていると未来さんは一枚の古めかしい紙を取り出す。そこには何やらよく分からない文字が書かれている。


「『世界に混沌が舞い降りしとき、女神様の名の下に勇者が現れ、その混沌をなぎ払うであろう。』この予言書に書かれている勇者こそ、そこにいる、やしろ いさむだ!!」


 ……は?いきなり何言い出してんだこの人……俺が予言の勇者ってなんだよ?さすがに他の人達もドン引きして……


「すっ、すごいニャ!!本物の勇者ニャ!!」

「まさか、やしろ君が勇者だったなんて……」


 えっ、ええ……他の人達もそんな感じなのかよ……。


「……」


 なんか古畑さんもあきれて黙り込んじゃってるし……どうする?俺もこの二人に会わせるべきなのか……


「だっ……だまされませんよ!!」


 さっき、ソファーでくつろいでいた黒髪で短髪の女の子が異議を唱える。

 

「こんな貧相な体つきの人が勇者なわけないでしょ!!ていうか、前々から思ってましたけど予言の勇者って何なんですか?」


 短髪の女の子が俺の思ったことを全部言ってくれる。まあ、一個なんか余計なことを言っていたような気もするが……とにかくまともな子もちゃんといて助かった。


「なるほど……そこに目をつけるなんてさすが歌川君ね。」

「え?い、いやあ、それほどでもあるかなあ……えへへ。」


 あれ?なんか様子がおかしいぞ……


「でもね、彼が勇者だっていう証拠もちゃんとあるのよ。」

「本当ですかあ?」

「彼の名前はやしろ いさむ。漢字で書くと社 勇。」

「だから、なんなんですか……」

「『社 勇』、この漢字を並び替えて音読みにすると……」

「ええっとひっくり返すと『勇 社』になって……はっ!!ゆうしゃ!!『勇者』になる!!」


 なんだよそのクソみたいなアナグラム(並び替え)……


「なるほど……い、いやいや、いくら未来さんの言うこととはいえ、さすがにこれだけで納得はしませんよ……うん。」


 なんでこの程度のこじつけで気持ち揺れてるんだこの子は……しっかりしてくれよ……。


「さすがにこれだけじゃ納得してくれないか……仕方ないわね、まほ君、あれを持ってくれるかしら。」

「『あれ』、ですか……?」

「ああ、『あれ』だ。」

「……分かりました。」


 白井さんは未来さんの指示を受けて『物置』と書かれたドアの部屋に入る。そして部屋に入ってから一分もせずに白井さんが部屋から出てきた。


(な……なんだあれは!?)


 物置から出てきた白井さんが持ってきたのは岩にぶっ刺さったでかい剣……それを台車の上にのせて持ってくる。


「ええっと、これはなんでしょうか?」

「これは……勇者にしか抜くことが出来ない伝説の剣『エクス・刈・バーン』よ。」


 勇者にしか伝説の剣って……これまたとんでもないものが出てきたな。聞いててこっちが恥ずかしくなってくる。


「その……勇者にしか抜くことが出来ないって本当なんですか?試しに私が引き抜いてみようかな。なんて……」


 古畑さんは伝説の剣(?)に触ろうとする。


「触らないで!!」

「ひえっ!な、なんでです?」

「『エクス・刈・バーン』は勇者の剣であると同時に引き抜こうと剣に触れた人間に罰を与える呪いの剣でもある。この剣に生半可な人間が直接手で触れようものなら……死ぬわよ。」


 未来さんは鬼気迫る表情で古畑さんにそう言った。


「ん?じゃあこの剣、俺が触れるのもまずいんじゃないですか?」

「あなたは大丈夫よ。勇者だから。」

「えー……」


 周りのみんなが見守る中、俺は恐る恐る剣に触れてみる。……別に魂が奪われるような感じはしない。そしてゆっくりと剣を岩から引っこ抜く。


「……あ、抜けた。」


 剣は……軽く力を入れただけであっけないぐらいすぽっと抜けた。


「す、すごい……ニャ」

「未来様ですら引き抜けなかった『エクス・刈・バーン』を引っこ抜くなんて……やっぱりやしろ君は予言の勇者なんですね!!」


 いや、これどう考えても誰でも引き抜けるだろ……おそらくさっきのように呪いだなんだ言ってごまかして今まで誰にも剣に触らせないようにしてたなあの人明日葉未来……


「なるほどね……。」


 おっ!!ショートカットの子はさすがに気がついてくれたか……


「……認めるしかないわね、やしろいさむ、あんたは間違いなく予言の勇者よ。疑ってごめんなさい……。」


 ああ、やっぱりこの人もだめだったよ……


「さあ、みんな!!ここに勇者が誕生したことを盛大にたたえようじゃないか。せーの……」

「ゆ・う・しゃ!!ゆ・う・しゃ!!ゆ・う・しゃ!!」


 建物中に勇者コールが鳴り響く。端から見ればかなり頭のおかしいな光景だ。俺も実際そう思う。


「……え、ええっと……いやあ、それほどでもあるかな。ははは……」


 だが、正直……いやな感じはしない。いや、むしろ気分が良い。どんな形であれこんな風に女の子達に祭り上げられてうれしくない男など存在しないのだ。


「盛り上がってきたところで予定通り、新入り二人の歓迎会を始めるよ。みんな食事を持ってきて!!」

「あいあいさー!!」




 



 その後、俺達新入りの歓迎会は日が暮れるまで盛大に行われた。今まで生きてきてこんなに丁重に扱われることなんて今まであっただろうか……いや、ないな。今日は、最高な気分でぐっすりと眠れるような気がする。


「うれしそうだね。いさむ君。」

「べ、別にそんなことは……ないよ。」


 歓迎会が終了したその帰り道、古畑 南と一緒になった。


「ねえ、いさむ君……女神会のこと正直どう思う?」

「え、いや、どうって言われてもな……」

「大丈夫よ、別に彼女たちにチクろうとかそういうわけじゃ無いから。」

「ま……まあ、変わった人達ですよね。ははは……」


 今のは一体どういう意図の質問なんだ……


「……それにしても、いさむ君はどうして女神会に入ったの?」

「え?それは、その……」

「見た感じ、白井さんの紹介で入ったみたいだけど、なんとなくあなたはこういうの興味あるような人には思えないよね……」


 こ、こいつ……


「……な、何が言いたいんだよ。」

「何か理由があるんでしょ。私と同じで。」

「別に大した理由はな……ん?今、私と同じでって……」

「まあ、ここで立ち話するのもなんだし詳しいことは場所を変えて話しましょ……。」

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