現実世界で勇者ごっこ~転生しない勇者(?)の物語~

三村

第1話 異世界に行けば何か変わるかもしれない

 社 勇やしろいさむ。高校二年生の春、今日、俺は一世一代の大勝負に出ようとしている。


「どうしたの、やしろ君。突然、屋上なんかに呼び出したりして?」


 ここまで来るのに長い道のりだった。高校入学する際に、髪型を整えたり、トークスキルを磨いたり様々な努力をした。だが、俺の高校デビューは……失敗に終わった。それでも俺は諦めなかった。もてるために様々な研究をした。そして今日、俺は……この子に告白をする。


「ずっとあなたのことが好きでした。俺と……付き合ってもらえませんか?」


 数秒間の沈黙そしてすぐに彼女は口を開く。


「ごめんなさい……私、他に好きな人いるから……」


 彼女はそう言い残すと俺の目の前から消えていった。


「う、うわああああ!!」





「これで10連敗……くそ、今度こそ、今度こそいけると思ってたのに……」


 俺は、今、学校帰りでいつもの道を歩いている。その帰り道の途中、車がガンガン通る歩道橋を渡るのだが……俺はなんとなくその歩道橋の下を見る。歩道橋の下はいつも通りものすごい数の車が通っていた。


「異世界転生……」


 俺の脳裏にこの単語がよぎった。『異世界転生』何の変哲もない男が異世界に転生してチート能力を手に入れて無双してモテモテになるという話はあまりのも有名だ。


 チート能力うんぬんのことはともかくモテモテになれるというのは魅力的だ。俺みたいなさえない男も異世界にさえ行くことが出来れば意味も無くモテモテになれるに違いない。


 異世界に行く方法はおもに三つ、『召喚』と『転移』と『転生』だ。異世界召喚は読んで字のごとく異世界から召喚されること、異世界転移はなんの前兆も無く異世界に飛ばされることをさす。そして三つ目の異世界転生、これは現実世界で死んで転生し異世界で人生をやり直すことを言う。そして、ラノベの主人公が異世界転生することになる大体の原因はトラックにひかれることによる交通事故と相場決まっている。


 そして、この歩道橋の下も無数のトラックが行き来している。もし、ここから飛び降りてトラックにひかれたら……異世界に転生できるのではないか?その世界で俺はモテモテな第二の人生を送れるのではないか?


 俺はつばをゴクリと飲みもう一度、歩道橋の下をのぞき込む。やはり、歩道橋の下はものすごい数の車が通っている。俺は歩道橋の低い柵から身を乗り出して異世界に向かってダイブ!!


「やめてください!!」


 俺が異世界へダイブしようとした、まさにそのとき後ろから誰かが声をかけてくる。


「止めないでくれ!!俺は……異世界へ行くんだ。異世界へ行って人生をやり直すんだ!!モテモテヒャッハーなスローライフを送るんだ!!」

「よ、よくわかりませんけど……とにかく、早まらないでください!!一体何があったんです?私なんかでよかったら相談に乗りますよ?」

「うるさいな!!ほっといてくれよ……って、え?」

 

 俺は文句を言おうと後ろを振り向いた。そこにいたのは……


「か、かわいい……」

「え?」


 きれいな髪、瞳、顔立ちのした少女が俺の目の前にいた。はっきり言ってめちゃくちゃタイプだ。


「あれ?あなた……もしかして、やしろ君?」

「え、うん、そうだけど……どうして、俺の名前を……」

「私だよ、私。白井まほ、覚えてない?同じ小学校だった……」

「白井まほ……って、もしかして!!」





「そっか、好きな子に告白してふられちゃったんだ……それは、つらかったよね……」

「今度こそ絶対いけるって思ってたのに……思ってたのにさ……」


 俺は自分の目頭が熱くなってきていることが分かる。


「よしよし……泣かない、泣かない。そんな悲しそうな顔してたら幸せが逃げちゃいまいますよ。」


 白井まほは俺の頭をなでなでする。何だろうこのなでなで……すごく、すごく安心する。


 白井まほ……彼女は、俺と同じ小学校の同級生だ。そして、俺の初恋の相手である。もちろん片思いだったが……。中学生になる際、彼女は私立の中学に進学しそれ以降は会うこともなかったが、まさか俺のことを覚えててくれていたなんて……。


「大丈夫ですよ。そんなに落ち込まなくて……次はきっと、うまくいきますって。」

「し、白井さん……」


 ああ……癒やされる。白井さん、本当にきれいになったな……。まるで、女神様のように……。もしこんな子が恋人だったらきっと毎日が幸せなんだろうな……


「俺……このままじゃいけないことわかってるんだ。だから、色々、努力もした。でも、だめだったんだ。俺、もう、どうすればいいかわからねえんだよ……」

「『変わりたい』ですか……」


 白井さんがそう言ったとき。俺は一瞬いやな予感がした。このときは気のせいだと思っていた……いや、思いたかった。その予感は……すぐに的中する。


「それでしたら、こういうのに興味ありませんか?」


 白井さんはそう言うと俺に一枚のビラを手渡す。そのビラに書かれていたのは……


「『女神会』へのご案内……。」


 え、これってまさか……いやいや、そんなわけないよな。

 

「あの、白井さん……この『女神会』っていうのは一体なんでしょうか?」

「『女神会』……それは、女神様の名の下に選ばれし戦士達が集まる聖地。ここで私達は女神様のために強大な悪と戦っているんです!!」


 あれ、なんか流れ変わった?


「え、ええっと……これってもしかして、宗k……」

「さあ、やしろ君も女神会に入りましょう!!女神様はきっとあなたを祝福してくれます……」

「あ、いや……」


 や、やばい……まさか、白井さんが、あの白井さんがこんなやばい宗教にはまっていたなんて……。そんな、そんなことって……


「……変わりたいんですよね?」

「は、はい?」

「変わりたいんですよね!?」

「は、はい!!」

「だったら、女神会に入るべきです!!このまま、くすぶっていたら一生、変われませんよ!!それでもいいんですか!?」


 さっきまでの朗らか白井さんから打って変わってぐいぐいと迫ってくる。

 俺は信じられなかった。あの優しかった白井さんがこんな風になっているなんて……こんなの、こんなの絶対おかしい。

 俺は、小学校時代の白井さんのことを思い返す。消しゴムを貸してくれたこと、落としたハンカチを拾ってくれたこと……消しゴムを貸してくれたこと。あと、鉛筆を貸してくれたこと……優しかった彼女の記憶が次々に蘇る。

 俺は思った。白井さんは無理矢理、宗教勧誘してくるような子なんかじゃない。彼女は、きっとだまされているんだ。この『女神会』とかいう連中に……そうだとしたら俺が彼女のためにするべきことは……


「……分かった。俺、入るよ『女神会』に。」

「ふふ……そう言ってくれるって信じていました。じゃあ、早速ここにサインを……」


 俺が彼女のためにするべきこと、それは……『女神会』に潜入して奴らの悪事を暴くことだ。

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