第2話

 君はとても優しい人だった。


 見て見ぬ振りができなくて、いつも人の分の不幸まで背負う人。

 人の気持ちが分かりすぎるから、人の分の悲しみまで背負う人。

 そうやって人の汚い感情ばかり背負ってしまって、感謝や喜びは上手く分からなくなってしまった人。

 安心できる場所が少なくて、いつもギリギリで生きている人。


 何を信じていいのか分からないこの世の中で、本当に君は優しかった。

 そして、強かった。

 それが悪かった。


 強いから、人一倍傷ついているのに、誰にも気取られずに笑えてしまう人で。

 「私は大丈夫」と言って周りの人を優先してしまって。

 どんなに深い傷を負っても、しっかり立ててしまう人なのだ。


 君がもっと器用だったら、弱いフリだって出来たのに。

 弱いフリが出来たら、こんなに人のために傷つかなくてよかったのに。

 優しくなかったら、強くなかったら、君は今頃どれだけ笑えていただろうか。


 僕が願うのは、いつも君じゃない君の姿だ。


 でも変わらないで、と願うところも勿論沢山ある。


 例えば、いきなり突拍子もないことを言うところとか、いつも僕の変な話に真剣に対応するところとか、フットワーク軽いところとか。

 飽きたらすぐ雑になるところも、寝起きの口が悪いところも、変わらないほうがきっといい。


 でも、君の願いを知ってしまった今。

 もっと器用で、見て見ぬふりが出来て、自分のことに精一杯になれて、もっともっと弱い君が、今の君をクスクス笑いながら生きているように思えてしまって、どうにもこうにも今の君が不憫に見えてしまって。


 君が君であることは、僕が君を留める理由と、君が君を突き落とす理由になってしまうなんて、僕にとって破り捨てたい真実でしかなかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

図書館だけは連れて行かない たはまら @tahamara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ