【14/81π】面白い人、見つけちゃった
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本編: 『34話 海漁ギルドとの取引』
視点: マーシャ
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うふふん。うふふん。
楽し~ぃなぁ~。
「なんだよ、マーシャ。さっきからにやにやして」
「うふふ。なんだか楽しそうな場所見つけちゃったなぁ~って、思ってね」
デリアちゃんに水槽付き荷車を押してもらいながら、私は四十二区の小道を移動している。
今日はデリアちゃんのところにお泊まりする予定なんだぁ~。
あ~ぁ、残念。仕事がなければもう一度あのお店に顔を出したのになぁ。
日の出とともに帰らなきゃいけないなんて、ショックだよぅ。
「陽だまり亭を気に入ってくれたのは嬉しいんだけどね、マーシャ」
隣を歩くエステラが、私をジトッとした目で見てくる。
「あんまり迷惑をかけないでよ。あそこは、ボクの憩いの場所なんだから」
「も~ぅ、エステラひどーい。あんな楽しい場所を知ってたなら、どうしてもっと早く教えてくれなかったの? そうしたら、もっと早く入り浸れたのに!」
「そういう反応が目に見えていたからだよ」
エステラが、さっきヤシロ君に言ったのと同じ言葉を私にも言ってくる。
ふぅ~んっだ。エステラは独占欲が強いんだから~。
いいもん。エステラの知らないところで、ヤシロ君といっぱい仲良くなってやるもん。
あれあれ、それとも……?
「もしかして、ヤシロ君はエステラの『いい人』なのかにゃ~?」
「ふなっ!? んな、んばっ、んんなにをヴぁかなことを言っているんだい、君は!? そ、そんなことっ、あるわけないわけもなくもないわけがないっぽいじゃないか!」
「どっちか分かんなぁ~い☆」
面白いくらいに動揺してる。
ふふふ。エステラがこんな顔するなんて、ヤシロ君やるなぁ~。
「デリアちゃんは、ヤシロ君とは仲がいいの?」
「おう! 仲良しだぞ!」
「それって、デリアちゃんの『いい人』って意味で?」
「あぁ、ヤシロはいいヤツだぞ。この前もさ、あたいが甘い物を食べられなくて悲しい気持ちになってた時にさぁ~」
あらら。
こっちは見当はずれみたい。
まぁ、デリアちゃんにはまだちょっと早いのかもねぇ。
楽し気に、ヤシロ君とのことを話すデリアちゃんは、いつものように快活で、明け透けで、含むところなんか何もない声だった。
年齢の割に、ちょ~っと恋に疎過ぎるんじゃないのかね、君は。――な~んてお説教したくもなるけれど、でも――――
「そのままのデリアちゃんが大好き!」
「わぁ!? なんだよ、いきなり!? こら、抱きつくな! 冷たいから!」
「大好き大好き! デリアちゃん、だ~い好き!」
「だからやめろって! ビシャビシャじゃねぇかよぉ」
デリアちゃんに抱っこされ、勢いよく水槽に叩きこまれる。
……ちょっと、酷くない?
「ぷぁあ! ……もう! 海水ちょっと飲んだ!」
「マーシャは慣れてるから平気だろ」
平気だけどさぁ。
なんだか悲しくてほっぺたを膨らませていると、エステラが私の頭をぽんぽんと叩いてきた。
「仲がいいのはいいけれど、ほどほどにね」
ほどほどに。
海漁ギルドは大きなギルドで、そこのギルド長ともなれば相応の風格と生き様を求められる。
『ほどほどに』なんて生易しい表現をしてくれるのはエステラくらいだ。
だからこそ、ちょこっとくらい聞く耳を持ってあげてもいいかなって思う。
「うんうん。エステラに迷惑がかからない程度のほどほどにするね」
「……君は、まったく」
エステラは肩をすくめてみせる。
エステラだって、ほどほどにしなきゃいけないこと、いろいろあるんじゃないのかなぁ。
「エステラも、たまには羽目を外してみてもいいんじゃない? 年相応の女の子みたいにさ」
「な、なんのことを言っているのか、さっぱり理解しかねるね」
って言いながら、頬に薄く朱が差すエステラ。
うふふ。からかい甲斐があるなぁ。可愛いなぁ、私の仲良しさんたちは。
「今日、来てよかった~。噂のゴミ回収ギルドも見られたし、デリアちゃんの可愛い仕事着も見られたし、面白い男の子にも出会えたし、網の修繕を請け負ってくれる人も見つかったし!」
「それ、全部ヤシロが関係してることばっかりじゃないか」
「そうそう。ヤシロ君、いい子だねぇ、彼」
「だろ~? いいヤツなんだよ、ヤシロは」
なんでかデリアちゃんが胸を張る。
先に見つけたって誇りに思ってるのかな?
あのねぇ、デリアちゃん。
先とか後とかはどうでもいいんだよ?
重要なのは、『最終的に』誰のそばにいるかなんだよなぁ~、デリアちゃんにはまだちょ~っと分かんないかもしれないけどねぇ。
「マーシャ。ゴミ回収ギルドのことは行商ギルドから聞いたのかい?」
「そうそう。あからさまな、いや~っな言い方で圧をかけられてねぇ」
「行商ギルドが……か」
「あぁ、平気平気。そんな深刻な顔しなくても」
エステラが難しい顔をするから、私は頭をぽんぽんと撫でてあげる。
「ちょっ!? 濡れるじゃないか!」って、手を振り払うエステラ。ひど~い。慰めてあげてるのに。
「ちなみに、その『平気平気』の根拠を聞いても?」
エステラ的に、ゴミ回収ギルドと行商ギルドの衝突は大きな懸念事項みたいだね。
見た感じ、かなりヤシロ君に肩入れしているみたいだなぁ。
しょ~がないなぁ。いい情報を一つ教えてあげちゃおう。
「ウチのギルドに話を持ってきたのが支部のトップだったんだよね。だからたぶん、ヤシロ君の情報は支部止まり。でなきゃ、ギルド長から直々に話があるはずだし」
「え、支部が海漁ギルドに圧力をかけたのかい?」
「そうなの。ね~、ふざけてると思わない? 支部ごときが、生意気だよね。潰してやろうかな★」
「……マーシャ、笑顔が黒いよ」
だ~ってさぁ~。
すっごく嫌な感じだったんだもん。
「つまり、マーシャはあたいとヤシロの味方、ってことだよな?」
「私はいつだってデリアちゃんの味方だよ」
「よし! マーシャがいれば心強いな! ヤシロに教えてやろっと」
「デリア。マーシャはヤシロの味方だとは言っていないよ」
「え~、違うのかよぉ。ヤシロ、行商ギルドのヤツよりいいヤツだぞ?」
デリアちゃんは、どこまでもまっすぐなんだね。
ちょっと羨ましいな。真似をしたいとは、思わないけどね。
「まぁ、本人には内緒だけど、私は行商ギルドの言うがままになるつもりはないよ。ヤシロ君、面白そうだったし」
「それ、内緒にする必要あるのかい?」
「だって、無条件で守ってあげるほど、まだヤシロ君と仲良しじゃないもん☆」
私の独断で、ギルド全体をトラブルに巻き込みたくはないからね。
今はまだ、様子見。
「だったら、なぜわざわざ言葉にしたんだい? もしそれをボクがしゃべっちゃったらどうするのさ?」
「そうしたら、『エステラは海漁ギルドとの約束を反故にしてでも力になりたいほどヤシロ君にお熱なんだ』って目で見るかな~」
「絶対しゃべれない呪いをかけたね、マーシャ!?」
「しゃべってもいいよ~? ほらほら、すぐに伝えに行ってあげなよ~」
「絶対、ヤダ!」
くすくす。
エステラ、可~愛い~☆
「何か面白い進展があったら手紙を頂戴ね。すぐ駆けつけるから。脚ないけど」
「君に手紙を書いても、なかなか届かないじゃないか。遠海に出てることも多いんだし」
「それじゃあ、ハマグリ通信、する?」
「ハマグリ通信?」
「あっ、エステラ! やめた方がいいぞ。ハマグリ、めっちゃうるさいから」
「うるさいハマグリ? ……どういうこと?」
困惑するエステラに教えてあげる。
私がデリアちゃんと蜜に連絡を取っている方法を。
「ウチに可愛い可愛い鳥がいるの。名前はハマグリ」
「鳥なのに!?」
「その子、帰巣本能がとてつもなくて、窓から放てばその日のうちに私の元へ帰ってくるの」
「巣に、じゃなくて?」
「刷り込みした、親(代わり)の元へ、だよ」
ハマグリは私をママだと思ってて、すごく可愛いんだ~。
「私が、ハマグリと手紙を一緒に送るから、届いたら返事を書いてハマグリにくくりつけて飛ばしてくれればいいよ」
「マーシャからのアプローチしか出来ないじゃないか……」
そだねぇ。
でもだいたい、私からデリアちゃんに手紙送って返事をもらうってやり方だから……そう言えば、デリアちゃんから先に手紙来たことないかも…………なんか悲しい!
「デリアちゃんからお手紙来たことない! 返事もいっつも短いし!」
「ハマグリがうるさいから、すぐに書いてすぐ放ってるんだよ! すげぇ鳴くんだぞ、デカい声で!」
「なるほど。マーシャ、ボクは遠慮しておくよ」
もぅ、二人とも酷い。
私とお手紙のやり取りしたくないの!?
拗ねちゃうよ!
「短いって言うけど、ちゃんと近況を報告したろ?」
「うんうん。だから会いに来ちゃった」
行商ギルドから聞いたゴミ回収ギルド。
そして、デリアちゃんの新しい仕事。
どっちも興味深かった。
そして、そのどちらにも関与している――ううん、元凶と言ってもいい人物がいた。
それが、ヤシロ君。
ふふ……
面白い人、見つけちゃった。
彼がいれば、もっともっと面白いことが起こっちゃうかもね、この四十二区で。
ふふふ。楽しみだなぁ~。
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