【12/81π】ほんまかなわん
===
本編: 『31話 絶対安静』
視点: レジーナ
===
「まぁ、そう気ぃ落としなや」
ウチは、すっぽんぽん幼女連れ去り犯の嫌疑をかけられてうな垂れる彼の肩をぽんぽんと叩き、励ましの言葉をかけたる。
「街中の人からそーゆー目ぇで見られるやなんて、ある意味ご褒美やん?」
「その手を離せ、心が穢れる」
なんやのんな、失敬やなぁ。
人が折角、面白おかしゅうしたろか~思ぅてんのに。
「マグダさん、寝ちゃったみたいです」
鎮痛剤に、ほんのちょっと良ぅ効く睡眠薬を混ぜて飲ませたトラっ娘はんが、気持ちよさそうな寝息を立て始め、看病しとった店長はんは安堵の表情をのぞかせてはる。
ようやっと、顔から悲愴感が取れたようやね。
これが、この人の普段の顔なんやろうね。
多くの者を愛し、多くの者から愛されて生きてきはったんやろ。笑顔の端々に優しさがにじみ出てキラッキラ輝いとるわ。
あ~、眩し。直視できへんわ。
「あとは、傷口を綺麗にして、無理したり暴れたりせんように見張りつつ、決まった時間に薬飲ませたったらそのうち良ぅなるやろ」
「ありがとうございます、レジーナさん」
満面の笑顔でウチの両手を握り、至近距離からこれでもかとキラキラ笑顔を見せつけてくる。
なんやのん、ウチのこと浄化するつもりなん?
やめたげて、ウチまだピチピチギャルやし。まだ全然人生謳歌しとらんし。
「レジーナさんがいてくださって、本当によかったです」
やめぇや。
……感謝なんかされ慣れとらへんさかい、背中がこそばゆぅてかなわんわ。
「ほならウチはこれで」
こんな、あったかい陽だまりみたいな場所、ウチには居心地悪いわ。
さっさとお暇させてもらお……て、思ぅてんのに、店長はんが手ぇを離してくれへん。
「な、なんやろ? ウチの手ぇにぎにぎすんの、そないに気持ちえぇ?」
「え? どうでしょうか?」
ウチの言ぅたことを真に受けて、店長はんがウチの手ぇをにぎにぎし始める。
いやいや、そういうことやないやん。気持ちえぇワケあらへんやん?
考えたら分かるやん?
「本当ですね、すべすべで、とっても気持ちいいです」
気持ちえぇんかいな!?
ウソやん?
ウチそんなん思ぅたことないで? すべすべて。初めて言われたわ、そんなん。
「そういや、俺の故郷にはスベスベマンジュウガニってのがいてな」
「え、なんだい、その美味しそうな名前のカニ? 甘いのかい?」
あっちの二人は完全に面白がっとるな。
ウチが店長はんに捕まってから、ずっとにやにやしっぱなしや。
話しかけるでもなく、助けに来るわけでもなく、ウチの「そろそろ帰りたいな~」っちゅう空気を察していながら、敢えて無視しとる感じや、あれは。
えぇ加減にせな、しまいに怒るで、ホンマ。
……あぁ、アレかいな?
今朝のメンズ×メンズいじりの意趣返しかいな?
アホやなぁ、あんなんジョーダンに決まっとるのに。
赤髪はんのことは、一目見て別嬪な女の子やぁて分かっとったしやな。
ちゅーか、ウチが分かって言ぅてんのを、分かってのっかっとったんやろ、えぇ、どないなんや、そこの目つき悪男。いや、底意地も悪いし、性格も悪いみたいななぁ。
あっちこっち悪いところだらけやのに、えぇ人とか、……ホンマ、よぅ分からんわ、自分。
なんて呼んだろ?
すっぽんぽんはん、かな?
いや、幼女たんはぁはぁはん、か?
それならいっそ、すっぽんぽん幼女たんはぁはぁぺろぺろくんかくんかはん、でどないやろ? ……長っ!?
「で、ジネット。いつまで握ってるつもりだ?」
「へ?」
「おっぱいと違って、手なんかいつまでも握ってるもんじゃないだろ?」
「そっちもいつまでも握るものではないんだけれどね」
「確かに、揉んだり撫でたり揺らしてみたり結んだり開いたり手を打ったりするからなぁ」
「何を言っているのか分からないし一切理解するつもりはないけれど、うるさいよ、ヤシロ」
あぁ、せやな。
あん人の呼び名なんか一個しかあらへんわな。
「これから自分のこと、『おっぱいはん』って呼ぶわな」
「きゃうっ、だ、だめですよ、そんなことを口にされては!」
「ふなぁ!? そ、そそ、それは皮肉かい、レジーナ!?」
店長はんと赤髪はんが、自分の胸を押さえて身をかがめる。
いや、自分らぁのことやなかったんやけど……
「なんやこの店、おっぱいに過剰反応する人ばっかりなんやなぁ」
「まったく、困った連中だよ」
「「誰のせいですか!?」だよ!?」
「自分の胸に聞いてみろ! その凹と凸のおっぱいに!」
「ヤシロさんのせいです!」
「誰の胸が凹か!?」
自分の方が凹やっちゅう自覚があるんやね、赤髪はん。
よぅ自分のこと見えてはるわ。
けど困ったなぁ……
「『おっぱい』以外で、あの彼を言い表す言葉が思いつかへん」
「普通に名前で呼べばいいと思いますよ?」
えぇ~、そんなん、おもんないやん。
「あ、そうでした。レジーナさん!」
そう言ぅて、再び店長はんがウチの手ぇを握らはる。
あんた、好っきゃなぁ、ウチの手ぇ。
「もしよろしければ、ご一緒に食事などいかがですか?」
「いや、ウチ、
「そうおっしゃらずに。朝ご飯も、結局食べられませんでしたし」
「いや、あの……」
アカン、なんやろ。
ものっすごい圧を感じるわぁ……
かなんなぁ。普通、ここまであからさまな態度とったら「あぁさよけ、ほなもうえぇわ」言ぅて引き下がって、「もう二度と誘たるかい!」ってなるもんやのに。ちゅーかそもそも、ウチなんかを誘う人なんかおらんかったのにやな……
その笑顔、眩しいなぁ。
「もし、ご迷惑でなければ」
「いやまぁ、迷惑っちゅーこともあらへんけども……」
「でしたら是非! わたし、レジーナさんとお食事をご一緒したいです!」
なんでウチなんかと……
なんも面白いことあらへんで?
「ウチを食卓に呼んでも、おかずで大事なところ隠して『女体盛りー!』ってギャグしか出来へんで?」
「レジーナさん。……食べ物で遊んではダメですよ?」
怖っ!?
ちょっとした冗談やのに、めっちゃ怖い顔してはるやん!?
アカン。この人は怒らせたらアカン人や。覚えとこ。
「折角だから食ってけよ。どーせ碌なもん食ってないんだろ?」
「酷い決めつけやなぁ。これでも、食うに困らへんくらいの蓄えはあるんやで? ……まぁ、買いに行くのが億劫で、そこらへんに生えてる草とかで済ませることが多々あるんやけども」
「ジネット、肉を焼いてくれ! 無理やりにでも口にねじ込んでやる」
「分かりました。お手伝いします!」
いやいや、もっそい笑顔やけども店長はん、ねじ込む手伝いはそんな喜々として承諾せん方がえぇと思うで!?
「部外者のボクが言うのもなんだけれど、遠慮はしない方がいいよ。陽だまり亭のご飯は、ちょっと驚くほどに美味しいからね」
赤髪はんが言い、「確かに部外者が言うことじゃないな」とおっぱいはんがからかう。
「うるさいよ」と赤髪はんが反論すれば、それを見ていた店長はんがくすくすと肩を揺らす。
あぁ、なんや。かなわへんなぁ。
この店におるんは、手強い人ばっかりやわ。
こっちのこと、な~んでも見透かしとぉるようなおっぱいはんに、こっちの事情をぜ~んぶ知っとるっぽい赤髪はん。
そして何より……
「どうか、お礼をさせてください」
ず~っと、ウチの手ぇを握って離さへん、天然の人ったらしな店長はん。
あぁ、もう。えらい無邪気な笑顔でごっつい圧をかけてきはるわぁ。
こんなん、断れるわけあらへんやん。
……ウチ、誰かとご飯食べるやなんて、何年振りやろか?
前の街におったころかて、そんなこと、全然なかったのになぁ。
なんなんやろ、この人ら。
……変な人らやなぁ。
それから間もなく、ホンマあっちゅう間に食事の用意がされて、まだ真新しい食堂で遅めの昼ご飯兼、めっちゃ遅めの朝ご飯をいただいた。
ホンマ、人に見られながらご飯食べるやなんて、居心地悪いわぁ。
せやのに、なんでかなぁ。ここのご飯が無性に美味しく感じられて、ウチはめっちゃお代わりをしてしもたんやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます