私だけが知っている異世界グルメを伝えたい!
エフ太郎
第1話 ドラゴン肉のステーキ
1年ほど前のある日、私の部屋のクローゼットを開けると異世界へと繋がっていた。
その異世界は18・19世紀のヨーロッパといった様相で、古めかしい電灯(魔法灯と呼ぶべきだろうか)に魔法で動く路面電車(こちらも魔法車だろうか)が街を彩る。
その異世界のグルメについてお話しよう。
異世界の街の一角に小さなステーキ屋がある。店名は「みんなのステーキ屋」
ステーキ。日本でステーキと言えば牛肉だ。だが異世界は違う。
ドラゴン肉のステーキ。
地球上ではまずお目にかかれないようなアメリカンサイズもびっくりな分厚さ。辞書並みに分厚い。
私は流石に一番小さいサイズを頼む。
猫耳の生えた女性店員に注文を告げる。もちろんコスプレではない。彼女はそういう種族だ。これも異世界ならではの光景だ。
約10分後――
おお、きたきた
何度見ても本当に分厚いな。厚さ5cmはあるし、大きさもそこそこだ。
この肉の分厚さの理由はドラゴンの体長5~10mというその巨体に加えて、この世界の住民の体格にもある。
この店にも様々な人種が入り乱れ、身長3m越えも普通にいる。私と同じようなヒトでも男性なら身長2m越えが普通である。先ほどの女性店員も身長はだいたい1.7m
男性で身長1.75mの私はここでは充分チビだ。
だが悲しくはない、私が小さいおかげでこの分厚いステーキをさらに分厚いステーキとして味わえる。
ナイフとフォークで大きな肉を切り分ける。細部は違えど異世界にもナイフとフォークっぽいものはあるし、箸もある。収れん進化というやつだろうか。
10数回とナイフを引くとようやく切れた。
肉の赤身が露わになり、肉汁がプレートにあふれ出す。
ふぅ……。これだけでもなかなか骨が折れる作業だ。
切った肉をフォークで刺し直すが、かなり深く刺さないと抜けてしまいそうだ。
私は力を込めて、ぐっとフォークを刺し、口を大きく空ける。
まず一口。
あえて大きめに切っておいた肉は旨みを口いっぱいに広げてくる。噛めば噛むほど肉汁が溢れるが、大きな肉はいくら噛んでもまだ肉として旨みを口の中へ届けつづける。
しかも肉の旨み自体が濃い…。脂身は少なめで牛肉の様かと思えば、鯨の肉ぽい食感もある。
この異世界の料理に特有なのは濃い味付けを嫌うところだろう。この店にもステーキソースらしきものは置いていない。塩と胡椒ぐらいしかない。どこもそうだ。
たまにはそういう物を浸けて味わってみたくもあるが地球にない素材の味が口の中に広がると、異世界に来ていることを実感させてくれて、得も言えぬ満足感がある。
彼らが濃い味付けを嫌うのは宗教的な思想に近い理由からだ。食材、特に生物の肉は神から与えられたものであり、それに人間が不必要に味付けしてはならない。という考えらしい。もっともこれをどれほど意識するかは彼らの中でもまちまちである。
美味い美味いと何度か食べているのに新しさを感じながら無心で肉の味を堪能していると気づけば肉はもう半分になっていた。
郷に入っては郷に従えの精神で私は出された料理をそのまま食べる。
地球から何かを持ち込んだりはしない。
テーブルには異世界産の塩と胡椒。
少し胡椒を掛けるか――
こちらの世界の胡椒は山椒のような辛さや鼻を抜ける感じがある。
これが肉とよく合う。
ちょうど空腹も収まり、肉の旨みを単調に感じてきたところでこの爽快感は食欲をまた増幅させ、味や香りにも新たな刺激を生み出してくれる。
間々にセットで付いてきたスープを飲み、パンにはプレートに残る脂や肉汁を付けて食べる。
パンは硬めのものだが我々の世界とあまり相違ない。ただ、日本人としてどうしても白米が欲しくなってしまう。これだけ味の濃い肉がこの大きさだ。一体、お茶碗何杯あれば釣り合うのだろうか。
スープはドラゴンの骨から取ったダシがベース。骨を無駄にしないのも彼らの自然に対する敬意なのだろうか。
野菜と肉が溶け込んだ、甘みと旨みの調和が胃をに休息を与える。
再び私はフォークとナイフを動かす。
切るのは大変だが、切ること自体楽しみであり、達成感がある。
肉と胡椒の匂いがダメ押しのように私の鼻を刺激するとまた1口目のような食欲が湧き起こり、急ぐように口に運ぶ。
やはり噛んでも噛んでも肉の旨みが止まらない。
いつの間にかプレートは空になっていた。
ごちそうさまでした。
はち切れそうな腹をさすりながら心の中でそう呟く。
やはり流石に量が多いな。量に対してかなりお手頃ではあるが……。
パン・スープ付きドラゴン肉のステーキセット(Sサイズ)
私だけが知っている異世界グルメを伝えたい! エフ太郎 @chk74106
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