第14話 豪遊だにゃ!

「ダァーーーーーックショイ!」


「師匠~~? 風邪ですか~?」


「うーん、誰かに噂されてるのかにゃ?」


「わ~懐かしい~。まだそんなこと言う人がいるんですね~。ジェネレーションギャップだ~」


「うっ、うるさいにゃ! そんなことより酒だにゃ酒だにゃーーー!」


 ルービの街――ギルド直営酒場、バッカナール。ここで今日、伝説が生まれようとしていた。ローリエルは大量の金貨を弟子から取り上げ、地ビールを飲んで飲んで飲んで飲みまくっていたッッ! 底知れぬ勢いで飲酒を続けるローリエルに店主は戦慄せんりつ! 顔が青い!!


「え、ええっ!? お客さん、まだ飲むのかい!?」

「な~~~に言ってるにゃ!! まだ大瓶五十本しか開けてないにゃ!! 金ならあるからどんどん持ってくるにゃ~!!」


 本人はそう言っているが、床に転がっている瓶はすでに百本は超えているッッ!! 虚偽の報告ッ! 酔っ払いに数など数えられるワケがないッッ!!

 ローリエルの無茶苦茶な飲酒は、早速冒険者たちの話題となっていた。


「なんだあの女……化物か?」

「お前知らないのか? 絶酔のローリエルだよ。つい最近、勇者の仲間から外されたっていう……」

「とうとうこの街にも来ちまったのか……もうおしまいだぁ……」


 そんな会話が酒場中を飛び交っているが、当の本人はお構いなし! あぁ、人の金で飲む酒の、なんと極上な味わいか! ローリエルは天上にも上る心地でビールの喉越しを味わい尽くしていたッ!


「師匠~~いくらなんでも飲みすぎですよ~」


 グラシアが心配そうに呟くが、彼もすっかり酔いが廻っていた。頬は熱でもあるかのように上気して、上半身をテーブルに預けて突っ伏ている。まだビール大瓶の半分も開けていないのに、すっかり出来上がってしまっている。


「グラシア君、全然飲んでないにゃ! もっと飲まきゃダメにゃ!」


「師匠~~勘弁してくださいよ~~もう飲めませんよ~~」


 グラシアは酒に弱い体質というわけでもないが、しかしまだ成人したばかりである。豪快に酒をあおるような習慣は持ち合わせていなかったし、何より今日までの修行で蓄積した疲労もあって、眠くなってしまったのだ。うとうと……と、まぶたこするグラシアの尊顔そんがんはいしつつ、ローリエルは彼の肩を揺さぶった。


「グラシア君、目を覚ますにゃ! そしてもっと飲むにゃ! これも修行の一環なんだにゃ!」


「ええ~~これが修行~~? ただお酒を飲んでいるだけじゃないですか~~」


「そうとも限らないのにゃ。グラシア君にはこれから、最強のスキルを習得してもらうつもりだにゃ」


「それと飲酒が一体どう関係するっていうんですか~~?」


「それはおいおい説明するにゃ! まずは酒に溺れて溺れて溺れて溺れまくるがいいにゃ~!」


「も、モガァァァァァッ!!??」


 ローリエルはグラシアの首根っこを掴んで、その小さな口元にビールの瓶を押し付けた! 強引に注がれる酒ッ! 実際これは危険な行為であり、急性アルコール中毒の恐れがあるため絶対に真似してはいけないッ!

 グラシアは抵抗もできぬままビールを一気に飲み下し、そして再び机の上に突っ伏したッ!


「きゅ~~……すやぁ」


「あれ、もうダウンしちゃったにゃ。まぁ、最初はこんなもんかにゃぁ……ヘイ、マスター!」


 酒カスの蛮行ばんこうを固唾を飲んで見守っていた店長は、ビクッと肩を震わせた! 連れが倒れ、ようやく帰る気になったのかと淡い期待を寄せるが、それは幻想!


「ビール瓶十本追加で注文にゃ! あとお土産で持って帰るから、百本くらい外の荷車に積んどいてくれにゃ!」

「ひ、ひぃぃぃっ! もう勘弁してくれぇぇぇぇぇッ!!」


 その日、バッカナールから地ビールが消え――グラシアの財布からは、金貨千枚が消えたのだった。

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