第三章

第13話 ルービの街に到着だにゃ!

「や、やった……やっと到着したぞォォォォォォォ!!!」


 シャコナイトとの激闘から、三日後!

 ローリエルとグラシアはとうとうルービの街、正面門へと到着していたッ!!


「え、えらいにゃあ……! よく頑張ったにゃ……!」


 ローリエルは酒の積まれた荷車の上で、グラシアの努力を湛えている! 彼女の大きな瞳は感動の涙に潤んでおり、今にも零れ落ちそうだった。


「やったッ! やりましたよ師匠ッ! 僕もやればできるんだーー!!」


 グラシアの雄たけびが晴天に轟いた。その声と、ボロボロの格好を見た通行人たちは唖然とした表情を浮かべた。「一体どんな修行をしたらこうなるんだ?」とでも言いたげである。実際、グラシアの服装はどこも泥塗れで、黄昏たそがれ色の髪の毛はあっちゃこっちゃに跳ねまわっているという始末だった。

 しかし彼が成し遂げたのは、延々と荷車を引いただけである! 通行人が想像するような激闘など皆無ッッ!


(それでも、今のグラシア君にとっては立派な成長だにゃ)


 ただ四日間、ひたすら日が暮れるまで荷車を引き続ける苦行を乗り越えたグラシアの基礎体力は、確実に向上していた。特に下半身、腰回りの安定感がかなり変わった。いかなる戦闘を技術を修めるにしても、体を支える基盤、基礎を鍛えることは重要かつ基本である。

 ローリエルも自分なりにしっかり考えて、弟子の育成に取り組んでいるのだ。……どんな時も酒瓶を手放さないのだけは変わらないが。


「師匠ッ! 次は何をすればいいんでしょうか!」


 すでにクタクタに疲れ切っているだろうに、グラシアは額の汗を拭いながらキラキラと目を輝かせる。強くなるためなら――転じて、自分のいう事なら何でも訊いてしまうのだから可愛いものだとローリエルは思う。


「ふっふっふ……まぁそう焦るにゃ。今日はもう体を使う修行はなしにゃ!」

「ええっ!? でも、それじゃあ師匠!」

「そう心配するにゃ! なにも体を鍛えるだけが修行とは限らないってことにゃ!」


 そう言ってローリエルは眼前にそびえ立つ、正面門を見上げた。仰々ぎょうぎょうしい、まるで要塞ようさいのような石造りの門には、華々しくポップな看板がたくさん提げられていた。どれもが競うように自店舗の飲食品を広告しているようだが――なかでも目を惹くのは!


「ククク……グラシア君。ここルービの街がなんて呼ばれているか知ってるかにゃ?」

「えーと確か……冒険者と美味いビールの集う街……って、師匠、まさか!」

「にゃははは! そのまさかにゃ!」


 ローリエルは看板の中から「地ビール」の三文字を指し高らかに叫ぶッ!


「今日は美味い酒を飲んで飲んで飲んで飲んで飲みまくるにゃ!!」

「なるほど分かりました! ……ってそれ、ただ単に師匠が飲みたいだけじゃないですか!?」

「そんなことは無いにゃ! 郷に入っては郷に従えと言うにゃ! そうと決まったらさっさと突撃にゃァァァァァァァ!!」

「師匠!! 飲みすぎはダメですよッ!!」


 大量の酒瓶と共に検問けんもんへ突入する二人組を見た門番は、「なんか騒がしい連中が来ちゃったなぁ」とため息を吐いたのだった。

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