恋する気持ちは平等っ!
のか
第1話
沈むベッドの上で、彼に抱かれているのがそれはもういとおしくて、いとおしくて。ぐっと抱かれた僕の胸が張り裂けるぐらい騒ぐ。
「はぁ、ふっ………………ねぇ、すきだよ……。」
「はあっ、はっ………………俺もお前が好きだ。」
認めてくれたのが嬉しかった。受け入れてくれたのが幸せだった。
キスを求めて身をよじらせると、何も言わなくとも分かってくれたみたいで、彼は唇を強引に押し付けた。
「んっ……………………………。」
薄暗い部屋の中で2人、お互いの気持ちを確かめあった。
少し前のこと。
「おはよう!」
「いっつもおめぇは遅いんだよ!早くいかねぇと学校、遅刻するぞ!……まったく、お前が朝起きられないのは昔から変わんねぇな。」
彼は、いつも文句を言いつつも、朝、家の前で僕を待っててくれることを知っている。
「うるさいなぁ、朝はゆっくりするのがいいのに。」
「休みの日にやれ!」
「は~い。」
こんな風に僕、東條要とうじょうかなめと幼なじみ、津島彼方つしまかなたは昔から一緒に学校に登校している。
「よっしゃ、じゃあ走るぞぉー!」
「何でお前は朝から元気がいいんだよっ……!」
と、彼方は言いながらも、走って付いてきてくれることを僕は知っている。彼方を引き離しながら、雲一つない空の下、高校の下駄箱まで走っていったのだ。
「おねがいしまーす。」
一時間目の古文の授業が始まる。僕は眠たくてうたた寝しそうだが、彼方は優等生なので手を上げて答えを発表していた。
「すごいな、彼方……。」
ぼそっと不意に呟いた言葉は誰にも聞かれていなかったようで安堵する。
僕は眠たさと彼方のことで頭がいっぱいなので、そんなことはしている余裕がない。もう一回言うが、手を上げて発表したくない、というわけではなく、する余裕がないのだ。それくらい眠たさと彼方……いや、彼方の方が上かな。彼方のことを考えていて、する余裕がないのだ。
「なんでそんなに彼方のことを?」って?
はっきり言うよ。僕は、彼方のことが好きだ。そ。俗に言う……BL?いや、まだラブラブはしてないか。まあ、そんなとこ。
自分が彼方に恋愛感情を抱いていると気づいたのは、高校に入ったばかりの頃。今、高3だから2年ちょっとの片想いだね。……この恋が実らないのは重々承知の上なんだが、僕は彼を諦められない。気づけば目で追ってるし、目が合うととんでもなく心臓が跳ねあがる。
でも分かってる。分かってるんだ。普通の人はちゃんと異性を好きになること。彼方が僕と一緒にいてくれるのも“幼なじみの親友”という立場で、ということは分かってる……だけど。彼と朝会うたび、彼が自信たっぷりに発表しているのを見るたび、視線がぶつかるたび。諦めようとしても、好きになる。ダメだと分かっていながらも。
「ああっ、もう!矛盾が苦しい!」
やべ、授業中……!と、とっさに口を押さえたが、もう休み時間だったようで、誰もこちらを見ていなかった。ふう……、命拾い…………っ!
「なに1人で顔真っ赤にして口押さえてんだよ。」
「っ………………!べ、別にー。っていうか、なんで、彼方、紙パックのイチゴミルク飲んでんの?!まだお昼休みじゃないよね?!」
うちの校則ではジュースを自販機に買いに行くのは昼休みと放課後だけと決まっている。
「お前バカか?もうとっくにお昼休みだぞ?」
「…………へ?」
なんとなんと僕はいつの間にか4時間ぶっ飛ばしていたらしい。
「マジか……。お前、ノート全く取ってねぇじゃん。」
「あ……。」
「お前、赤点だってのに……。……しょうがねぇ。俺が帰り、要ん家よって勉強教えにいくわ。」
「いいの!?やったー!ありがとう、彼方、大好き!」
「ばっ!?てめぇ、学校でこんなことすな!恥ずかしい!」
僕が彼方の首へ腕を回すと、彼方は身をよじった。
「え、じゃあ、今日、家でならいい?」
「そーゆー問題じゃねぇ!バカ!」
そういうじゃれあいをしながら、ふと、思う。僕は上手く笑えているのだろうか、と。男子同士だから急に抱きついても、変に思われないのは良い点なんだけど、“大好き”とか、“家でならいい?”という言葉を、彼方は本気では取ってくれないだろう。なぜなら、“男同士”だから。心の中では、とても、笑えない。
「へへ。じょーだんだよ、彼方。勉強、教えてくれてありがとう。あと、購買間に合うかな?焼きそばパン食べたい。彼方もついてきてよー!」
彼方、僕は上手く笑えている?そして、こんな僕を好きになってくれない?
「めんどくせぇけどしょうがねぇな。その代わり俺もクリームパン買うから、おごって。」
「ええ!やだよ!っていうか、クリームパン!?かわいー♥」
めんどくせぇと言われても、甘党な可愛い君も、
「はっ!?うるせえ、別にいいだろ!」
めっちゃ大好き。
「ねぇ彼方ぁ。早く帰ろー?」
そんなこんなで放課後、勉強を教えてもらうために、彼方と一緒に帰ろうとした、のに。
「わりい、要、ちょっと用事ができた。先、帰っててくれないか?」
「えぇー。……まさか、また女子に呼び出された?」
「……そのまさか、なんだ。」
彼は困ったような苦笑で返してくれたが、顔がほんのり赤くなっているのを僕は見てしまった。
「……そっか。じゃあ、先帰って待ってるわ。」
「……ごめんな。」
「ううん!ぜんっぜん!またな!」
本当は心が締め付けられるように痛かった。だから、早く学校を出たかった。
彼方は、モテる。無愛想だが、頭がいいし、スポーツが出来て、そのうえ、ルックスがいいというならば、そこぞの女子は振り向くのであろう。
彼方がもし、今日の告白を受け入れたら……。僕の恋は終わるのか……。こんなに想い続けてるんならコクれ、って思うんだけど、それで“親友”という立場を失ってしまうのは嫌だ。
ああ、僕、情けない。我ながら。そろそろコクるのか、現状維持か、決めないとな。もうあと半年とちょっとで卒業、だもんなぁ。
「そんで?告白、受け入れたの?」
僕の家で勉強している間に、さりげなく聞いてみた。
「受け入れねぇよ。ちゃんとごめんなさいした。だって話したこともない後輩、好きになれっかよ。」
相変わらず口が少し悪い彼方だが、断ったという話を聞いてとても安堵した。よ、良かったあ!
「っていうか、ここの問題、間違えてるぞ。ほら、ここ。」
「えっ!」
すぐさま間違えているところを確認する。
「あ、ほんとだ。ありがとう!かな………っ!」
感謝を伝えるため顔をばっ、と上げたところ、彼方の顔がめっちゃ近くにあってドキッとした。
「っ…………!」
みるみる僕の顔が赤くなるのが、見なくても分かるほど熱くなる。
「な、なんだよ……!」
彼方の顔も少し赤くなったので、恥ずかしくなったのか、顔を背け、離れてしまった。
「あ、いや、その……!えっと、コンビニ行ってくるっ!」
がっ、と立ち上がり、数歩歩くと、体がふらつき、
「わあっ……」
「あぶなっ!」
「っっっ…………………!!!」
壁に頭を打ってしまいそうになった時、彼方が後ろから僕の肩を支えてくれた。心臓が、バグる。これって……?!
二人ともバックハグをしたまま固まった。僕はまたまた顔が火照り、息が少し荒くなる。一方で、彼方は、冷静で息が落ち着いていた。顔は、見えないけど。
…………………もう少し、このままでいたいな。そう思った僕は肩に乗った彼方の手を、自分側に引いた。
「か、な………………め?」
背中に当たった彼方の胸がドクンとしたのが分かった。
「……彼方、あったかいね……。」
「っ…………………!」
僕がこんなことを言っても、彼方は嫌がったりしなかった。むしろ、
「要も、あったかいよ……?」
彼方のほうから、腕を絡めてきた。
ほんと、こういうとこ、好きなんだよな……。
結局、コンビニには行かずにそのまま解散となった。特に、彼方から疑問を問われることもなく。
「コクっても彼方は、あんな感じなのかな……?」
冷静すぎる彼方が、逆に怖かった。
《彼方の気持ち》
ピピピピピピピ、ピピピピピピピ。
朝6時にかけたアラームが鳴る。
「んっ………………。」
バシッ。止めようとするも、目覚まし時計があっちにとんでいく。
「ああ、もう!ちくしょー!」
ベッドから跳ね起き、目覚まし時計を取りに行く。
目覚まし時計をやっと止めると、昨日のことを思い出す。
「あぁ……。」
要に抱きついた……、いや、要が俺を引き寄せた……?
『……彼方、あったかいね……。』
「っ…………!」
要の温かさを思い出すだけで、昨日の夜から、おかしくなる。
「なんだよ、俺…………?」
なんて考えている暇はない。早く要を迎えにいって、いつも通り、文句を言わなければ。
「はあ。」
お昼休み。要は用事があるというので久しぶりに1人の昼休みだった。いつもと同じイチゴミルクの紙パックをくわえながら、人気ひとけのない渡り廊下を歩く。
「好きです!付き合ってくださいっ!」
校舎の裏から女子のハスキーな告白が聞こえてきた。最近、告白が流行っているのか……?すると、聞き覚えのある声が答えた。
「あの、すいません、お名前は…………?」
「かなめ………?」
驚き、悪いことだと分かっていながらも、隠れて覗いた。
すると、要が、評判のいい、可愛い女子からコクられていた。
「マジか……。」
要は頭をかいて、照れていた。俺はなぜか見ていられなくなり、その場を立ち去った。
「なんで………………?」
この“何で”の意味は2つあった。
何で、女子が苦手な要がコクられているのか。
何で、俺はそんなに要がコクられているのが気になるのか。
男子高校生なら、当たり前だろう。むしろ、要は遅いほうだ。たぶん、さっきのが要にとって初めての告白だよな?
OKしたんかな………?っていうか、なんでそんなこと俺が気にしなくちゃならないんだ?ただの親友だよな?うるさい心臓がさらに高鳴る。もう、おさまってくれよ………。じゃないと、ダメだって。俺、ヤバいって…………!
二段飛ばしで階段をのぼると、自販機のところにまた着いたので、紙パックをぐしゃっと潰し、ゴミ箱に投げ入れた。
「クソッ……………!」
壁に寄りかかってため息をつく。
もうこの時には、自分のキモチに気づいていたのかも、しれない。
………………………………………
放課後。
「要、帰ろーぜ。」
珍しく、彼方の方から誘いを受けた僕は、住宅街の中を2人で歩いていた。
「かなめ。」
「なぁに?」
沈黙を破ったのは、彼方だった。
「その、今日、要、コクられてたよな?」
「えっ?………………なんで、知ってるの?」
心当たりのある出来事にびくつく。
「いや、別に、いいんだけどさ。見ちゃってさ。悪い、勝手に。ただ、珍しいなーって。女子苦手だって言ってたのに。」
「苦手だけど…………名前も知らない隣のクラスの子で。…………どうやって断ればいいか迷った。」
「断ったんだ。」
「うん。」
「なんで?他に好きな人でもいんの?いなけりゃ、1回くらい付き合ってみりゃいいのに。」
その言葉に、とてもモヤモヤする。分かってるよ、彼方が僕のこと、親友としか思ってないことくらい………!
「…………好きな人、いるんだよ。」
「へえ、だれだれ?俺に教えて?」
苦しかった。もう、終わりにしたかった。
僕は、いつの間にか立ち止まっていた。
「要?どうした?」
今が、チャンスだ。そう思ったら、勝手に体が動いた。
「かなめ…………………っ!」
彼方が完全にこちらに体を向けたとき、彼のネクタイを引っ張り、そのまま彼の唇にキスをした。
目、つぶってるから、彼方の顔が見えないけど。たぶん君の顔は夕陽にあたって、綺麗なんだろうな。
…………………好きだよ?
そして唇を離す。彼方はキスする前の顔で固まっていた。笑いそうになる。
「彼方、好きだよ。親友はもうやめたい。恋人に、なって。」
言った。言ってしまった。2年間の想いを、受け取って……………。
「かなめ……………」
でも、彼からはそんな言葉しか出てこなかった。もう、この沈黙を我慢できない。
「ごめん、こんなこと急に言われても困るよね。ほんと、ごめん。」
「…………………。」
「帰るね。また明日。」
そう言って、走って、逃げた。
後悔、した。
《彼方の気持ち》
要が後ろで急に立ち止まる。
「要?どうした?」
要がうつむいた、と、思ったら。
「かなめ……………。」
急に小走りでこちらに向かってきて、ネクタイを引っ張っられる。
「っ…………………!」
そのまま、キスされた。要にファーストキスを奪われた。
え?待って、これどういうこと?本気?いや、冗談だよな………?冗談でキスなんか、するか?頭の中がぐるぐる回って気持ち悪い。でも、不思議と要の柔らかく、あたたかい唇は、気持ち良くて、離したくなかった。
要が唇を離して、彼のちょっと幼さが残った顔を見えたとき、なぜかトクンと胸が鳴った。
なあ、冗談と言ってくれ……………!
「彼方、好きだよ。親友はもうやめたい。恋人に、なって。」
「っ…………………!」
それは望んだ答えではなかった。
「かなめ……………」
その答えは、俺の心をかき乱す。理由なんて、あるはずないのに、胸が苦しいんだよ。
「ごめん、こんなこと急に言われても困るよね。ほんと、ごめん。」
我慢できないとばかりに、うつむかれる。
待って、本当は、行かないで、って言いたい…………!でも、なんで?そんなことを考えている間に、要は、
「帰るね。また明日。」
と、走って行ってしまった。その姿を見ることも、追うこともできずに。
次の日の朝。
“ごめん。今日学校休む。”
要からこんなLINEが来ていたので、心配になって、電話をかけた。が、何回かけ直しても出てくれなかった。もしかしたら、昨日のことが原因………?と思ったので、朝いつもより早く出て、要の家を訪ねた。
「要ねぇ、リビングに来て“お腹痛いから学校休む”って言ったっきり、部屋から出てきてないのよ。………彼方くんはもう学校行くのよね?ちょっと要に会ってほしいんだけど………時間無いわよね。」
「ああ、はい。すみません、もう行かなきゃです。なので、帰りに寄ってっても、いいですか?」
「ごめんねぇ、彼方くん。ほんとしっかりしてるわあ。」
「いえ。では、いってきます。」
「いってらっしゃあい。」
休み時間、要がいない。いつもへらへら笑っている、アイツが。昼休み、購買に走る要がいない。
「さびし…………。」
それに気づいてしまったのは、イチゴミルクを中庭で飲んでいるときだった。
『彼方、好きだよ。』
「ああ、もう!」
要は本気であんなことを言ったのか?というか、俺は要のことどう思ってるんだ……?ただの親友としてしか意識したことがないから、分からない。
『……彼方、あったかいね……。』
「……………っあ。」
思い出すだけで、顔が赤くなるのが分かる。そして、彼の温かさ、唇の感触。
俺、本当は……………。
ずっと前から、要が好きだった。
ほんとうは、ずっと前から…………。
『彼方くん!大好きだよ、ずっと一緒にいようね!』
幼稚園の時、言われた要からの言葉。ずっと覚えてた。これがあるだけで、俺は頑張れた。
「要を離したくない…………っ!」
今日は走って要ん家に行こう。そして昨日の告白の答えを。やっと、見つけたから。イチゴミルクのパックを握り潰し、
「待ってろよ、要。」
と、呟いた。
ピーンポーン
「はぁい、彼方くん。いらっしゃあい!お帰りなさい。」
「はい。…………要の部屋行ってもいいですか?」
「いいわよ!」
「お邪魔します。」
学校から、要ん家に来るまで、言うことを考えてなかったけど、要の部屋に行くまでの階段をのぼるたびに1つ、想いが溢れてくる。
「ふう。」
要の部屋の前で1回深呼吸。
そして………。
トントン。
「要、入るぞ。」
答えを待たずにドアを開ける。パーカー姿の要は、ベッドの上に座っていた。
「彼方、どうして…………っ!?」
要の言葉を遮って、抱きつく。
「要が学校に1日来ないだけで寂しかった。今日1日、気力が抜けた。1日だけなのに!それで分かった。バッグハグのとき、キスされたとき、好きって言われたとき…………。それよりももっと前から。本当は、本当は、要を失いたくなかった。離したくなかった。俺、要のことが………………要のことが……………。」
涙と想いが溢れる。ああ、なんで、こんなに溢れてたのに。気づかなかったんだろう。
ちゃんと要の目を見て。
「要のことが、好きだよ。」
要の瞳が揺れる。そして、俺の背中に手を回し、トンと優しくたたいてくれた。
「………………そんな素直な彼方、初めて見た。ありがとう。僕も大好きだよ。」
「………………っバカ。だって好きなんだよ。」
「そういう彼方もたまらなく好き。」
2人して目を合わせて、どちらからともなくキスする。そのキスは今までで一番長くて、途中で俺から舌を滑り込ませた。
「んっ!」
その瞬間、要の方から唇を離した。目で“ダメ?”と問うと、
「お母さんがいるから。」
と小声で訴えてきた。と、そのとき、下の階から、
「要!お母さん、用事が出来たから、家出るわよ!彼方くんのこと、ヨロシクね!」
という声が聞こえてきた。
「はーい!分かったあ!」
「じゃ、いい?」
またもや答えを待たずに、唇を押し付け、ベッドに押し倒す。 ベッドの上で目を泳がせる要になりふり構わず続ける。やっと唇を離し、俺が首にキスを始めたら、
「ほんと、彼方は、強引っ。」
と笑っていた。その言葉に、
「もう要に逃げられたくないからな。」
と答えると、また笑われた。
「もう、絶対に離さないからな。」
「はいはい。」
独り占め、してやる。
………………………………………
結局その日は、お母さんが帰ってくるまでイチャイチャしていた。
ほんと、彼方が強引すぎて。僕はずっと好き放題されっぱなしだった。……………今度は絶対、僕から!
でも、それくらい彼方が僕を愛してくれていることが分かって、嬉しかった。彼の温かさが、忘れられない。
実らないはずの恋が実って、現実味がないけど、嬉しい。
僕だって、彼方のこと、離さないから。
彼方に見合う相手になるね。
大好き。
卒業間近の3月。僕らは遊園地に来ていた。
「どれ乗る?どれ乗る?」
「朝からうるせぇな。時間はたっぷりあるんだから落ち着け。」
今までに何回かデートはしているけど、遊園地は初めてなので昨日は眠れなかったくらい、ワクワクしている。
「あ!あれ乗ろう!メリーゴーランド!」
「マジかよっ!…………まぁいいけど。」
ぐちぐち何か言っている彼方を引っ張り、メリーゴーランドに乗りこんだ。
その後、ジェットコースターだったり、スペースショット、リバーアドベンチャー、レーザーミッションなど、あれこれ2人で楽しんだ。
「疲れたぁーー!」
日が傾き始めた頃、僕たちは、あれ以外全制覇した。
「ほら、ソフトクリーム。バニラが好きだったよな?」
彼方が2つのソフトクリームを持っていた。1つを差し出し、微笑んでいる。
「あ、ありがとっ………………。」
付き合い始めて半年。まだ、不意打ちな優しさにドキドキする。
「美味しい!」
「そうだな…………。」
なんとなく上げた僕の瞳が捉えたのは、まだ乗っていないあれ。
「最後は、観覧車だね。」
「おう。」
ソフトクリームを全部食べ終わった後、僕たちは観覧車に向かった。
「やっぱりカップル観覧車だよね?」
「はあ?俺らみたいなカップル、誰が認めてくれんだよっ………!」
「…………………そうだよね。」
そう。BLはやっぱり、まだマンガの中の話という解釈の人が多くて、手を繋いで歩いていると変な目で見られる。カップル観覧車になんか乗ったら、スタッフさんに変な気を使わせてしまうだろう。
「要……?あ!ごめん!そんなつもりじゃ、なくて……………。ただ、理解が得られないだろうし……………。」
「分かってるよ、こっちこそごめん。やっぱり普通の観覧車、乗ろ?」
普通の観覧車に足を向けたとき、後ろにいた彼方に腕を引っ張られた。振り返ると、真剣な顔の彼方がいた。
「俺ら、カップルだよな?恥ずかしがらなくても、いいんじゃね?」
「え、彼方………?」
「変な目で見られても、俺がかばうから。俺が要を好きなのは変わらないからっ!」
大きな声で告白されて、結局、注目を浴びている僕たち。でも、僕は彼方のことしか見えてなかった。
「そう、だよね!僕たち、カップルだもんね!好き同士だもんね!」
そう言って、彼方に飛びつく。
「胸張って、行こう、彼方!」
「おう!」
この告白をカップル観覧車のスタッフさんも見ていたらしく、笑顔で通してくれた。
「僕たち2人だったら、何でも出来るよね。」
「ははっ、そうだな。」
2人して、景色を眺める。ハート型の観覧車が揺れる。
「………でも、2人でいられるのも、あと1週間なんだよね。」
卒業式を1週間後に控えた僕たちは、もう進路が決まっていた。僕は地元で就職、彼方は都会の大学で物理学を学ぶらしい。
「あのさ、要。」
「ん?」
「俺が大学卒業したら、結婚を前提に同棲しないか。」
急に言われた言葉に、驚きつつ、嬉しかった。だが、
「でも、日本では同性結婚は認められてないよ?」
これまた日本ではまだまだ理解されていないのだ。
「そう。でも、アメリカやイギリス、台湾とかでは、同性結婚が認められているんだ。」
「それって…………!」
「外国で、結婚しよう。」
その言葉に涙が溢れそうになった。僕のことを考えてそこまでしてくれるなんて。
「一応、これ。」
彼方のポケットから差し出されたのは、小さな箱。
「開けてみて。」
おそるおそる開けると、そこには。
「婚約指輪。はめてあげる。左手出して。」
僕が左手を差し出すと、その手に指輪をゆっくりはめてくれた。なんとピッタリ。
「綺麗だろ。………まあ、これで、生まれてからずっと貯めてるお年玉貯金がすっからかんになったんだけどな。」
キラキラ光るダイアモンド。僕と彼方が愛し合っている証。
「っふ……………ううっ。あぁー………………」
「ああ、ちょっと、泣くなよ!」
「あ、ありがとうぅー。好きだよぉー、大好きだよぉー。」
「そ、それは、分かったから。ほら、もうてっぺん着いちゃう。……………………………………おい、顔上げろ。」
くいっ、と顎を上げられ、軽く唇を押し付けられた。
「っ………………!」
それが離されると、彼方の顔がまたぼやけて見えた。
「要、愛してる。」
もう、そういうこと言わないでよ!……………涙腺緩んじゃったじゃん…………!
「ううあぁーー!」
「おい、またか。これ、どうすればいい?」
ぼろ泣きの僕を見て、あわてふためく彼方だったが、結局また向かい側の席に座り、話始めた。
「まぁ、でも急に外国とか言われても混乱するだろうし。地元で就職するんだろ?会社、4年で辞めますなんてできないだろうし。地元で籍入れずに同棲でもいいんだ。それに、要の親に言ってないだろ?俺と付き合ってること。俺も言ってねえし。だから……」
「………やるよ。」
「え?」
「全部やる。会社は4年で辞めてもいいって言ってくれるところ探す。僕の親にもちゃんと言う。もし反対されても、貯金して、絶対、彼方と外国で結婚する!」
どんなことよりも、彼方と離れる方が嫌だった。彼方と一生暮らしたい。その決意はもう、固まっていた。
「そっか。俺の親にも言わなくちゃな。…………要と外国で結婚生活。楽しみに大学4年間、頑張るから。」
「うん。指輪、ありがとう。あとさ…………」
涙をぬぐって続ける。
「僕も観覧車のてっぺんでやりたいことあったんだけど、サプライズ、知らなかったし。」
「当たり前だろ、サプライズなんだから。」
「そ。だから、てっぺん過ぎちゃったけど、僕からもいい?」
彼方の端正な顔を見つめながら、伝える。
「実らないはずの恋が、実って。僕と彼方、心から愛し合って、愛されて。本当に、なんて幸せものなんだろう。…………4年間離れちゃうけど、彼方が迎えに来てくれるの、待ってるから。」
「ん。ぜってー迎えにいくから。」
「……待ってる。あ!あとね………………!」
僕は彼方の隣に移動し、両手を広げる。
「はい!」
「……………は?」
「ハグして。急に彼方の温かさが欲しくなった。」
「っ……………!」
彼方の顔が赤くなり、視線が逸らされる。が、彼方はおそるおそるハグしてきた。…………ほんっと、可愛いんだから。
「離れたら、寂しいね…………。ううっ。ふっ…………っ。」
「ハグしたら、離したくなくなるだろっ………………。うあっ。ふっっ………。」
最後、降りるまでハグしたまま、2人で泣いていた。
夕日が前から当たっていて、彼方の顔が影になって見えづらかったけど、泣き顔も、離したくないくらい、綺麗だった。
《彼方の気持ち》
4月上旬。要と俺は、地元で一番大きい駅の構内にいた。今日、俺は大学がある街に引っ越す。
3週間前の卒業式の後。
みんなは校庭で写真を撮っていたり、卒アルにメッセージを書いていたり、告白していたり………と、ざわざわしている。俺たちは、まず、要のお母さんを呼んで、お話しした。
『俺たちは、付き合ってるんです!』
2人で手を繋ぎ、お願いした。
『僕はずっと前から彼方のこと、好きで。…………お母さん、黙っててごめん。』
『俺は、要が大切なんです。だから、4年後、大学卒業したら、外国で要と結婚したいんです。……………あの、俺、危なっかしい要を、ずっと守ります!幸せにして見せます!だから、』
腰を45度曲げる。
『お願いします!要を俺にください!』
そう要のお母さんにお願いすると、上から彼女の笑い声が聞こえた。
『ふふふ。彼方くん、頭を上げて。………急なことでまだ現実味がないんだけど、2人が幸せならいいんじゃない?私は要をあげるわ。彼方くんのお母さんには言ったの?………………佐知子さん!ちょっとこっち来て。』
彼女は、俺の母親を大声で呼んだ。
『どうされました?』
母親が小走りで駆けつける。そして、俺たちが手を繋いでいるのを見て、目を見張っていた。
その時、要が小声で、“さっきの彼方、かっこよかったから、今度は僕がお願いするよ。”と言ったので、うなずく。
『佐知子さん、僕、彼方のことがずっと好きで、今、付き合っているんです。彼方が大学卒業したら、外国で結婚したいんです。彼方は、自分で色々考えこんじゃうから………………。僕にも分けてほしいんです。僕が肩代わりしたいです。そして、一生笑わせます!彼方を、………………彼方を』
ゆっくり、要が頭を下げる。
『僕にくださいっ!!』
『………………要くん。』
母親にも伝わったみたいだ。要と俺の熱意が。要のお母さんも口をおさえて、顔を真っ赤にしていた。俺も……………めっちゃ嬉しいし、何か恥ずかしくて顔から火が出そう。頭を下げ続ける要を見ると、彼も耳を真っ赤にしていた。
『2人が好き同士で、歩みよって、成長できるなら、いいじゃないですか。要くん。頭を上げて。』
母親は目に涙を溜めて、微笑んでいた。頭を上げた要の表情にも、桜が咲いていた。
「…………い。おーい、彼方?どうしたの?」
3週間前に思いをはせていたら、ボーッとしていたらしい。
「目がどこも捉えてなかったよ?体調悪い?顔、赤いし。」
「………いや?全然、大丈夫。」
「ふーん。そ。………あ、新幹線、あと10分だよ!」
腕時計を覗くと、別れの時間は迫ってきていた。
改札までは2人で行ける。でも、改札を抜けたら………。
一瞬、時が止まってほしい、と考えてしまった。要と片時も離れたくない。でも、行かなきゃ。4年後に、大人になって、要を迎えに来れるように。
「じゃ、4年後に、迎えにくるから。」
「彼方、ちょっと待って!」
要が距離を詰めてくる。
「最後に、キスして。」
「え」
「4年会えないから!ほら!いいから、はや……………っ!」
要が言い終わるのを待たずに唇を重ねる。これが最後だと思うと涙が出てきそうだが、ここでは我慢したかった。我慢させて。俺のわがまま……………。
とても長いキスだった。離したくなかったが、要の唇が震えたのを感じたので、ゆっくり離すと、要の熱い吐息がかかった。最後まで、要は泣いてんのかよ。
「…………て。」
「え?」
「彼方、僕が泣いてるの、気にしないで、もう、行って……………。ごめん……。最後は泣かないって決めてたのに…………!」
そんな要を、可愛いと思ってしまった。もう、行けねぇじゃねえか。そんな要を置いていくことはもちろんできなかったので、震え泣く要を胸に抱いた。
「っ……………!彼方、新幹線、来ちゃう…………。」
「バカ、置いて行けっかよ。それに俺が足速いのは知ってんだろ。新幹線来てから走っても間に合うから。」
「ごめんっ……………。早く、泣き止むからぁー。………ううっ。」
「無理しなくていいから。思いっきり、泣いていいぞ。」
そんなことを悠長に言っていられる時間ではないのだが、俺の胸の中で震える要が、いとおしかった。
しばらくすると、胸を押し返す感触があったので、腕をほどく。彼方の頬には泣き跡があったけど、表情は緩んでいた。
「泣き止んだ?」
「ん。ありがと。ごめん、引き留めちゃって。じゃあ、またね。」
「………またな。」
背を向けて、改札に切符を通す。顔を押さえて。早歩きでずんずん、迷わずホームを目指す。
「かぁなたあああっ!」
アイツの、大声が後ろから聞こえる。
「あいしてるぅぅぅっ!ずっと、一緒だよぉぉぉ!」
そんなの、分かってるよ。思わず吹き出してしまう。でも振り返ると、声を出すと、バレるから。
要とお揃いの指輪がはまっている左手をさっとあげて、答える。
そして、また、歩き出した。
新幹線の指定席に座る。窓に映る俺の顔にも泣き跡があった。結局俺も泣いちゃったじゃねえか。
左手薬指についた指輪を眺め、そして外して箱に戻す。………俺、なくしっぽいからな。
新幹線が、動き出す。
またな。
次会ったら何しようか、要。
手を、俺が差し出すから。
手を、握り返して。
恋する気持ちは平等っ! のか @LIPLIPYuziroFan
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