いつか迎えに行くその日まで

勝利だギューちゃん

第1話

「これ、私が作ったの。大事にしてね」


病気で入院している彼女から、渡された。

それは、ぬいぐるみ。

小さい猫のぬいぐるみだ。


「君がデザインしたぬいぐるみを、私が作る。

いつか、そんなお店を持とうね」

そう、約束していた。


しかし、神という物は時に残酷。

死は平等に与えるが、命は平等ではない。


そのぬいぐるみを、受け取った一週間後に、彼女は他界した。


「君は、叶えてね」

それが、最後の言葉だった。


結局、このぬいぐるみが、最初で最後の合作となった。


それ以来、僕は筆を折った・・・


特にやることもなく、だらだらと過ごしていた。


「・・・ごめん・・・君がいないと無理だ」

あのぬいぐるみに、声をかける。


当たり前だが、反応はない。


そらから、数年は経った頃。


夜中に何だか重たくなり、目が覚めた。

布団には、あのぬいぐるみがあった。


覆いかぶさるように・・・


「・・・落ちたのか・・・」


僕は、棚に戻そうと起き上がったとき、激しい揺れが起きた。


「うわー地震だ!!」


僕は慌てて、机の下に入った。

本棚が倒れたりして、もう散々な状態になった。


どのくらい、時間が経ったのか・・・


『やはり、私がいないと、駄目ね』

「えっ・・・、・・・さん?」

『上から見てたけど、私がいなくなってからの、君は格好悪いよ』

返す言葉がない。


『私の知っている君は、そんなんじゃない』

「でも・・・」

『でもはいい。いい?いつまでも、私にこだわっていたら、君はそこで終わってしまうよ』

なぜだろう・・・


「でも、さっきは『私がいないと駄目ね』って・・・」

『うん、でもね・・・』

「でも?」

『私が、死ななくても、いつかは共同作業はやめるつもりだったんだ』

「どうして?」

『若いころは、助け合った方がいい。でも、歳を重ねると個性が際立つから、二人三脚のひもは、外すつもりだったの』

「いつごろに?」

『30前には・・・』


30歳。

「男30にして立つ」と言うが・・・


『今日、私が君を助けたのは、まだ君にはやるべきことがあるわ。なので、私が死なせない。』

「いつまで・・・」

『君が、自分の人生に悔いはないと思ったときに、迎えに来るから。』


気が付いた時は、僕はベットにいた。

病院ではない。


自室のベットだ。


「夢か・・・」


そう思っていた。


すると、あのぬいぐるみが机の上にあった。

そして、明らかに彼女の筆跡で、こう書かれていた。


『おじいさんになるまで、迎えにはいかないからね。君にはそれだけの、時間が必要だから』


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いつか迎えに行くその日まで 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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