8話『あのあじ』

その声は昔の父を思い出す

ハリのある声だった

好きな声だった


「お父さん!」

「久しぶりね、ハルトちゃん」


「大丈夫か!娘よ!」


砂埃の向こうから現れたのはいつもの丸い形をした父では無かった


ずっと待っていた


明るかった頃の

よく喋った頃の

私を一番見てくれた頃の


好きな父だった


「そうよ貴方よ貴方を待ってたの、あの頃齧ってから食べたくてタベタクテ……私の為に戻ってくれたのね」


「違うっ!」


いつの間にか父は私の前に立ち、女性に向けて剣を抜いていた


黒光りするそれは

剣と言うには大きすぎ

広すぎた

ただ丁寧に研がれた刃が光に照らされてキラキラと光かっている


「その殺意、あの時とそっくり」


カルラは体を支えて体を震わせた


「ダリア、私が戦っている間に逃げろ」


そう言うと父は女性との間を一瞬にして詰めた


けど……


父が負けた

一瞬のことだった、私が逃げる空きなど無かった

父が弱かった訳ではない

私の背丈程ある剣を片手に持ち

カレラに近づく速さは、目で追うので精一杯だった


ただ、女性の動きを見る事は出来なかった

気づけば父の剣は真っ二つに折れて矛先は床に刺さり、父は腹を貫かれていた


カレラは父の顔を見て言った


「今の速度にまだ反応できたのね、でも弱い、弱すぎるわ」


「あぁ……そのようだな」


それを聞くとカレラの口がパクリと裂け

父の顔を包むように

囲むように


父はこっちを見て口を開いた


「いままで済まなかったな娘よ……

ダリアよ      」


バクッ


声は聞こえなかった


だが父の口からその言葉が見えた


「ごちそうさま、いままで新鮮が一番とか思ってたけど違うようね

貴方も熟れたらどんな味になるのかしら

楽しみね」


そう言って彼女は砂埃の中に消えていった


残されたのは私と父の剣と


私の中に木魂す父の言葉だけ


父の言葉は……


プロローグ 『87523』 完

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